出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/09/13 01:21:37」(JST)
皮膚筋炎 | |
---|---|
分類及び外部参照情報 | |
皮膚筋炎患者の膝関節X線写真
|
|
ICD-10 | M33.0-M33.1 |
ICD-9 | 710.3 |
DiseasesDB | 10343 |
MedlinePlus | 000839 |
eMedicine | med/2608 derm/98 |
MeSH | D003882 |
プロジェクト:病気/Portal:医学と医療 | |
テンプレートを表示 |
皮膚筋炎(ひふきんえん、Dermatomyositis; DM)は自己免疫疾患の一種である。慢性疾患であり、膠原病の1つとして分類されている。横紋筋が冒される特発性炎症性筋疾患の一つであり、他には多発筋炎(PM)がある。両者は皮膚症状の有無によって区別されるが、そもそも基本的に疾患が異なるとする考えもある。他の膠原病においてもしばしば本症と同様の筋炎の臨床および病理所見が伴うことがある。なお、略称のDMは糖尿病と共通しており、また糖尿病のほうが有名であるため、うかつに略称で話すと勘違いされる可能性がある。
年間発病率は100万人あたり2~10人という比較的まれな疾患である。他の膠原病の例に漏れず女性の発病率が高く、約2.5倍かかりやすいとされる。発症年齢のピークは5~15歳と40~50歳の二極性を示している。男性の場合は難治で、かつ悪性腫瘍合併例の可能性が高い。
皮膚筋炎や多発性筋炎を含む特発性炎症性ミオパチーはOlsenとWartmannによって以下のように分類されている。
病型 | 名称 | 臨床・病理学的所見 | 関連自己抗体 |
---|---|---|---|
I型 | 多発性筋炎 | 筋線維の壊死、CD8陽性T細胞・マクロファージの浸潤 | 抗Jo-1抗体など |
II型 | 皮膚筋炎 | ヘリオトロープ疹などの典型的な皮膚症状を伴う、筋線維束周囲の萎縮、CD4陽性T細胞・B細胞の浸潤 | 抗Mi-2抗体など |
III型 | 筋症状のない皮膚筋炎 | 典型的な皮膚症状のみで筋症状を伴わない。急性間質性肺炎を合併 | 抗CADM-140抗体 |
IV型 | 小児の皮膚筋炎 | 血管炎・皮下石灰化を合併 | 抗Mi-2抗体など |
V型 | 悪性腫瘍に合併する筋炎 | 治療反応性不良 | 抗TIF1γ抗体 |
VI型 | 他の膠原病に合併する筋炎 | SLE、強皮症に合併 | 抗U1/U2RNP抗体、他の膠原病の自己抗体 |
VII型 | 封入体筋炎 | 進行性、治療抵抗性で高齢者に好発。筋細胞内の空胞、線維状封入体が存在 | 自己抗体陰性 |
詳しいことはわかっていないが、自己免疫による筋障害であると想定されている。橋本病、バセドウ病や他の膠原病など自己免疫疾患に伴って発症すること、自己抗体を伴うことがあることがその理由とされている。PMの筋病理による所見では筋線維は塩基性に染まり、中心核、多核化、筋径の大小不同、間質の脂肪化、線維化がみられ血管病変の近くの筋では凝固壊死が認められる。炎症細胞浸潤は皆無に近いものから高度のものまで様々で同一例でも時期、部位、筋束の違いによって様々である。血管周囲にと横紋筋周囲にリンパ球主体の細胞浸潤、特にCD8T細胞の浸潤があり、CD8T細胞はマクロファージに伴って筋線維に侵入する。CD8T細胞近傍にはCD4T細胞があり浸潤細胞は主に細胞障害性T細胞(CTL)でパーフォリンとグランザイムにより標的筋細胞を破壊する。CTLはHLAに向けられていると考えられている。封入体筋炎でも封入体が確認できない場合は同様の所見となることがある。DMの病理像は筋束に沿った筋委縮(筋線維束周辺委縮)が特徴的とされPMとは病因異なるという仮説も存在する。DMでは血管周囲の浸潤細胞はCD4T細胞とB細胞が主体である。筋膜に補体の細胞膜障害性複合体(MAC)が沈着しており微小血管炎(ミクロアンギオパチー)の機序など液性免疫が関係すると考えられている。このように多発性筋炎と皮膚筋炎の病態が異なるという仮説があるいっぽうで、ANCA関連血管炎による筋炎では筋線維束周辺委縮が認められないこと、CD4T細胞によるBリンパ球の活性化はろ胞中心で起るという免疫学の知見から病理像で両者を区別することは不可能であり、同一スペクトラムに位置すると考えるべきであるという意見も存在する。
皮膚筋炎の名の通り、皮膚と筋に典型的な症状が見られる。最近では、筋症状がほとんど見られないにもかかわらず特徴的な皮膚症状がある、筋症状を伴わない皮膚筋炎という疾患概念も加えられている。
ヘリオトロープ疹('heliotrope eyelids' or 'heliotrope rash')とゴットロン徴候(Gottron's papule)と呼ばれる典型的な紅斑が見られる。ヘリオトロープ疹は上眼瞼(まぶた)に見られる浮腫性紅斑をいう。
Gottron徴候は手指関節背側面(手の甲側)の角質増殖、落屑や皮膚萎縮を伴う紫紅色の角化性紅斑を指す。
一方、手指先端指腹の裂溝を伴う角質化はmechanic's hand(逆Gottron徴候)と呼ばれる。この兆候は間質性肺炎合併と相関する。
また、手足の伸側には、多形皮膚萎縮症poikilodermaといって、色素沈着、脱失、萎縮が混在した局面を呈することがある。 爪郭の血管拡張・点状出血もみられることがある。
体幹の皮膚症状としては、前胸部紅斑(Vネック徴候)、頸部から肩・上腕にかけての紅斑(ショール徴候)、掻破による線状皮膚炎(linear streaks)、むち打ち様皮膚炎(flagellate erythema)などを認めることがある。
筋力の低下が見られる。体幹に近い骨格筋が対称的に冒される。
通常、朝起きたとき体を起こしづらいというのが最初の症状である。このときは、これが病気であるということを認識することは少なく、いつもより疲れやすいくらいに感じるものである。しだいに筋力低下は進行し、重いものを持ち上げられなくなったり、普通に軽いものも持ち上げられなくなり、歩行することも困難となって、ついには起き上がることもできない寝たきりの状態となる。
全身倦怠感が見られる。発熱はあまりない。
筋が冒されることから、筋の異常を調べる検査が主に行われる。また、他の膠原病と同様自己抗体の検査もされる。
筋炎特異自己抗体(MSA)と他の膠原病でも見出される筋炎関連自己抗体(MAA)が知られている。MSAの出現率は20~25%程度であり、抗体の種類によって臨床症状が異なると考えられている。MSAで最も有名なのがアミノアシルtRNA合成酵素に対する自己抗体、抗ARS抗体である。
抗ARS抗体の代表格は抗Jo-1抗体であり、これらの抗体は抗ARS抗体症候群(筋炎、間質性肺炎、レイノー症候群、発熱、機械工の手)を起こすと考えられている。間質性肺炎はNSIPが多く、早期併発を特徴とする。代表的抗体を以下に示す。
自己抗体 | 対応抗原 | 特徴 |
---|---|---|
抗Jo-1抗体 | ヒスチジルtRNA合成酵素 | 検出率25%、筋炎>間質性肺炎 |
抗EJ抗体 | グリシルtRNA合成酵素 | 間質性肺炎>筋炎 |
抗PL-7抗体 | スレオニルtRNA合成酵素 | SScとのオーバーラップが高率 |
抗PL-12抗体 | アラニルtRNA合成酵素 | 筋症状乏しい |
抗KS抗体 | アスパラギニルtRNA合成酵素 | |
抗OJ抗体 | イソロイシルtRNA合成酵素 | |
抗Zo抗体 | フェニルアラニルtRNA合成酵素 | |
抗Ha抗体 | チロシルtRNA合成酵素 |
抗Jo-1抗体以外の測定は免疫沈降法で行われており専門的な技術が必要である。保険収録もされていないため日常の臨床で抗Jo-1抗体以外を測定するのは困難である。但し、ARSの対応抗原細胞質に存在するため、抗核抗体のスクリーニング検査で細胞質が染色される(cytoplasmic pattern)ことから予測が可能である。
MAAとして有名である。1986年にReevesらによって同定された。筋炎患者の約5%で検出される。SRPは7SL-RNAと6種類のポリペプチドからなる低分子リボ核タンパクであり、タンパク質のN末端シグナル配列を認識し細胞外輸送にかかわる。抗SRP抗体はDM皮疹のないPMで検出され、悪性腫瘍や他の膠原病の併発は少なく、典型的PMと関連すると考えられている。抗ARS抗体症候群陽性とは異なり、間質性肺炎、多発関節炎、レイノー現象などの筋外症状はの合併頻度は少ない。近年はステロイド抵抗性、再燃性が特徴的であり、しばしば免疫抑制剤併用を余儀なくされる。筋生検では炎症細胞浸潤が認められないのが特徴的とされている。リツキシマブの有効性の報告もある。亜急性の経過で重篤化、呼吸、嚥下、心筋障害などを起こす。SRLで検査は可能であり、近年定量法の開発もされた。PM以外の膠原病でも認められる。
ヘリオトロープ疹、ゴットロン徴候など皮膚筋炎の皮膚症状があるにもかかわらず筋炎所見を認めないAmyopathic Dermatomyositis(ADM)に特異的な抗体である。ADMは筋力低下は認められないが筋電図検査などでは筋原性変化などが認められるもの(clinically ADM;CADM)をここでは指す。その対応抗原はmelanoma differentiation-associatated gene 5(MDA5)またはinterferon-induced helicase C domain containing 1(IFIH1)であることが判明している。急速進行性間質性肺炎を高率に併発する。
悪性腫瘍合併DMのマーカー抗体と考えられている。DM以外の膠原病では殆ど検出されず悪性腫瘍合併のDMにおいては50%以上で陽性となる。後に対応抗原がtranscriptional intermediary factor 1-gamma(TIF1-γ)であることが明らかになった。TIF1-γはTGF-βのシグナル伝達の強度に関与するといわれている。
DMの1割で陽性となる特異的な抗体である。抗Mi-2抗体陽性DMではステロイドが著効するといわれている。
強皮症と多発性筋炎など重複症候群で認められる抗体である。ステロイドが著効するといわれている。
混合性結合組織病で認められる。
1977年に発表されたボアンとピーターの診断基準を用いることが多い。
皮膚筋炎の診断には5は必須項目であり、その上で1〜4のうち3〜4項目で確定、2項目で疑いが強い、1項目で可能性ありとなる。近年は抗Jo-1抗体、抗Mi-2抗体、抗SRP抗体のいずれかひとつが陽性という項目を診断基準に加えるべきであるという提案もされている。
基本的にはステロイドを中心として免疫抑制剤を組み合わせて投与する。ステロイドは最も一般的かつ有効な治療法であり、通常1日3回に分割して投与する。効果が薄ければステロイドパルス療法が試みられる。しかし副作用が強く、特に間質性肺炎が問題となる。免疫抑制剤としてはシクロフォスファミド,サイクロスポリン,メトトレキサートやアザチオプリンが用いられる。筋症状による筋力低下が著しい場合はリハビリテーションも並行して行われる。 リツキシマブ[1] も有望である。 免疫グロブリン静脈注射療法(intravenous immunoglobulin; IVIg)も行われている。
死亡原因としては悪性腫瘍や肺炎、感染症が多く、これらを合併した場合は生命予後が非常に悪い。悪性腫瘍を合併しなければ予後はよく、5年生存率は90%、10年生存率は80%である。約20年後の長期予後に関しては治療が早期になされていれば、約8割以上が通常の肉体作業やスポーツに耐えられる健康状態に回復できるという報告もある。本症は再発率が6割とする報告もあり、再発ないし病態の持続に留意する必要がある。
ウィキメディア・コモンズには、皮膚筋炎に関連するカテゴリがあります。 |
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
国試過去問 | 「097D054」「097I036」「100A049」「100B050」「092B076」 |
リンク元 | 「100Cases 33」「100Cases 14」「自己免疫性肝炎」「歩行」「針筋電図」 |
拡張検索 | 「多発筋炎・皮膚筋炎」 |
関連記事 | 「炎」「多発」「筋炎」 |
D
※国試ナビ4※ [097D053]←[国試_097]→[097D055]
A
※国試ナビ4※ [097I035]←[国試_097]→[097I037]
C
※国試ナビ4※ [100A048]←[国試_100]→[100A050]
E
※国試ナビ4※ [100B049]←[国試_100]→[100B051]
AIH | 自己抗体 | HCV感染 | |||
抗核抗体 | 抗平滑筋抗体 | 抗LKM-1抗体 | 抗SLA抗体 | ||
ANA | ASMA | ||||
I型 | + | + | - | - | - |
IIa型 | - | - | + | - | - |
IIb型 | - | - | + | - | + |
III型 | - | - | - | + | - |
IV型 | - | + | - | - | - |
1. 血中自己抗体(特に抗核抗体、抗平滑筋抗体など)が陽性。 |
2. 血清γグロブリン値またはIgGの上昇 (2g/dl以上)。 |
3. 持続性または反復性の血清トランスアミナーゼ値の異常。 |
4. 肝炎ウィルスマーカーは原則として陰性。 |
5. 組織学的には肝細胞壊死所見およびpiecemeal necrosisに伴う慢性肝炎あるいは肝硬変であり、しばしば著明な形質細胞浸潤を認める。時に急性肝炎像を呈する。 |
註 * 本邦ではHLA-DR4陽性症例が多い ** 本邦ではC型肝炎ウィルス血症を伴う自己免疫性肝炎がある。 *** C型肝炎ウィルス感染が明らかな症例では、インターフェロン治療が奏功する例もある。 |
痙性片麻痺歩行 | hemiplegic gait | 錐体路障害 | 脳血管障害 変形頚椎症 多発性硬化症 頸髄ミエロパチー | |
ぶん回し歩行 | ||||
円弧歩行 | ||||
痙性対麻痺歩行 | spastic paraplegic gait | 両大脳半球・脳幹・脊髄側索における両側錐体路障害 | 家族性痙性対麻痺 脳性小児麻痺(Little病) HTLV-I associated myelopathty | |
はさみ歩行 | scissor gait | |||
パーキンソン歩行 | parkinsonian gait | 錐体外路障害 | パーキンソン病 | |
小刻み歩行 | short-stepped gait | パーキンソン症候群 | ||
失調歩行 | 小脳性運動失調・前庭性運動失調 | 小脳障害 前庭神経障害 |
OPCA LCCA Wernicke脳症 | |
酩酊様歩行 | ||||
脊髄後索性 | 深部感覚障害による空間見当識障害(位置覚・振動覚) | 脊髄癆 亜急性脊髄連合変性症 Friedreich失調症 多発性神経炎 | ||
踵打歩行 | ||||
鶏歩 | steppage gait | 下位運動ニューロン(腓骨神経麻痺で生じる下腿筋の筋力低下) | Charcot-Marie-Tooth病 腓骨神経麻痺 ポリオ 糖尿病 | |
動揺性歩行 | waddling gait | 肢体筋の障害 | Duchenne型筋ジストロフィー 多発筋炎 Kugelberg-Welander病 | |
トレンデレンブルグ歩行 | Trendelenburg gait | |||
アヒル様歩行 | ||||
間欠性跛行 | intermittent claudication | 下肢動脈の血流障害 下肢神経の障害 |
筋電図 | 振幅 | 持続時間 | 波形 | ||
安静時異常 | 線維性電位 | 20-200uV | 1-5msec | 2-3相波 | 筋萎縮性側索硬化症 |
線維束電位 | 2-4mV | 5-20msec | 2-3相波 | 筋萎縮性側索硬化症、脊髄根障害 | |
陽性鋭波 | 100uV-1mV | 10-100msec | |||
随意収縮時 | 神経原性 | 1mV以下 | 2-3msec以下 | 筋萎縮性側索硬化症、球脊髄性筋萎縮症、末梢神経炎、Charcot-marie-Tooth病 | |
筋原性 | 3mV以上 | 10msec以上 | 進行性筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー、多発性筋炎 |
.