出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/10/24 11:26:34」(JST)
渡辺淳一の小説については「麻酔 (小説)」をご覧ください。 |
麻酔(ますい、痲酔とも)とは、薬物などによって人為的に疼痛をはじめとする感覚をなくすことである。これにより、手術を受けることができ、また、耐え難い苦痛を取り除くことができる。麻酔は通常、局所の感覚のみを失わせる局所麻酔と全身に作用する全身麻酔がある。
主に医療で治療などにおける患者・動物の苦痛を軽減させると同時に、筋の緊張を抑える目的で用いられる。薬物を用いる場合、体質によっては使うと危険な場合(アナフィラキシーなど)があり注意を要する。国にもよるがかつては阿片やモルヒネなどの麻薬が用いられたこともあり、これらを使用した患者や取り扱いを行なう者に依存症が発生することもあった。現在使われている麻酔薬はこういった危険が少ないものが増えてきているが、これらも使い過ぎるのはやはり危険である。麻酔薬を睡眠薬と混同している人も多いが基本的に別物である。
一般にはあまり知られていないが、上記、狭義の麻酔に加えて、手術中の生命維持を行う医療も麻酔に含まれている。このことは、麻酔医療は、痛みや意識を取るという狭い意味での麻酔に加えて、生命維持に必要な、呼吸管理、循環管理、体液管理、中枢神経管理を手術中にリアルタイムで病態治療を行ってゆく。したがって、術前・術中・術後の生命維持の総合医学として高度に専門的な知識と実践が要求され、きわめて専門的な知識が必要とされるため、医師、歯科医師においても別に研修を積む必要がある。
診療科として「麻酔科」を名乗るには、厚生労働大臣の麻酔科標榜医許可を取る必要がある(医療法第70条2項、及び医療法施行規則第42条の4に基づく)。ただし麻酔科標榜医制度の適用は、医師に限られる。
麻酔薬を局部に作用させ末梢神経の活動を抑える。投与法、遮断部位によって表面麻酔、浸潤麻酔、周囲浸潤麻酔、伝達麻酔に分けられる。
静脈注射ないしガスの吸入によって中枢神経に薬物を作用させる。多くの全身麻酔では中枢神経系の機能を抑制したり、大脳新皮質を解離させたりして意識を可逆的に失わせるが、NLA(英語 Neurolept anaesthesia の略)では意識を保った麻酔も可能である。筋弛緩を伴う吸入麻酔の際は人工呼吸器が必須であり、気化器と一体になった麻酔装置(麻酔器)が用いられる。
薬物を用いない麻酔として催眠術が長い歴史を持っている[要出典]。このほか、低体温法、電気麻酔や針麻酔というものも存在する。日本では江戸時代には既に氷を用いた低体温法が存在したという。針麻酔は、一般には1958年上海市第一人民病院で行われた扁桃腺摘出手術を嚆矢とし、過去に類似の麻酔法があったとの説もあるが明確な記録がない[1]。1972年の米中国交回復時のニクソン大統領訪中のニュースとともに針麻酔が報道され世界に知られるようになった[2]。
先史時代には薬草による麻酔が利用されていた。アヘンと大麻の二つが最も重要な薬草として利用されていた。それらは経口で摂取するか、燃やしてその煙を吸い込むことで利用された。アルコールもまた利用された(血管を拡張させる作用の存在は知られていなかった)。南アメリカではチョウセンアサガオから抽出されたスコポラミンがコカのように用いられた。インカ文明ではコカと酒を麻酔に使用した穿頭術が行われていた。中世ヨーロッパでは用意された多くのマンドレークがヒヨス(ヒヨスチアミン)のように用いられようと試された。中国では後漢末期、華佗が「麻沸散」という麻酔を使い、手術を行ったと『三國志』に記録されている。麻沸散の成分は不明だが、これも大麻を使ったものではないかといわれている。
日本においては、江戸時代に外科医であった華岡青洲が曼陀羅華の実(チョウセンアサガオ)、草烏頭(トリカブト)、当帰(トウキ)などの6種類の薬草に麻酔効果があることを発見し、実母の於継と妻の加恵の実験協力と犠牲の上に全身麻酔薬「通仙散」を完成させた[3]。文化元年(1804年)10月13日、華岡青洲は経口の通仙散を用いた全身麻酔下での手術により、大和国宇智郡五條村の藍屋勘の乳癌摘出に成功している[3]。はっきりした記録が残っているものでは世界最初の麻酔手術である[4]。
19世紀における有効な麻酔薬の開発は、リスターによる消毒の技術とともに、手術の成功の鍵の一つとなった。ヘンリー・ヒックマンは1820年代に二酸化炭素を用いた実験を行った。ジョセフ・プリーストリーによって分離された亜酸化窒素(笑気ガス)の麻酔作用は1795年にトマス・ベドーズの助手である、イギリスの化学者ハンフリー・デービーにより証明され、1800年に論文として発表された。しかし、初期には亜酸化窒素の医学的な用途は限られており、その主な役割は娯楽であった。1844年12月、アメリカ合衆国の歯科医師であるホーレス・ウェルズは抜歯を無痛で行うために亜酸化窒素を使用した。翌1845年、彼はマサチューセッツ総合病院で公開デモを行ったが、失敗を犯し、患者に大きな痛みを感じさせた。この失敗のために彼はすべての支援を失った。
歯科医師であるウィリアム・クラークは1842年1月、1540年に発見されていた硫酸エーテル(ジエチルエーテル)の抽出を行った。同年3月、ジョージア州のDanielsvilleにおいてクロフォード・ロングが最初に麻酔を手術で用いた。少年の首にある嚢胞をとる手術であった。しかし、彼は後になるまでこの情報を発表しなかった。
1846年10月16日、歯科医師であるウィリアム・T・G・モートンはマサチューセッツ総合病院に招待され、硫酸エーテルを麻酔として用いた最初の公開手術を行った。首から腫瘍を切除する手術であった。
モートンがLetheonと名づけ、アメリカ合衆国での特許をとった化合物を彼は秘密にしようと努力したが、それにもかかわらず、1846年末までにはこの発見と化合物の性質に関するニュースはヨーロッパに広まった。ロバート・リストン、エルンスト・ディーフェンバッハ、ニコライ・ピロゴフ、ジェームズ・サイムなどの評価の高い外科医たちはジエチルエーテルを用いた手術を試みるようになった。
クロロホルムもジエチルエーテルと並んで急速に発達した。クロロホルムはジエチルエーテルと異なり手術室では常温で引火せず、また、麻酔導入にはジエチルエーテルより扱いやすいと考えられていた。クロロホルムは1831年に発見され、有機化合物に関する幅広い研究の中で、1847年にクロロホルムの有効性が発見され、ジェームズ・シンプソンが無痛分娩に成功した。クロロホルムの使用は広がり、1853年、ジョン・スノーがレオポルド王子出生時にヴィクトリア女王にそれを与えた時に国王の認可を受けた。しかし、クロロホルム麻酔は重篤な心毒性、不整脈を引き起こし、死者が相次いだため、まったく用いられなくなった。
その後、導入麻酔薬と維持麻酔薬は別のものを使用する麻酔法が主流となり、ジエチルエーテルは維持麻酔薬として最も優れているとされた。しかし手術室の電子化にともない、ジエチルエーテルの引火性が問題となり、先進国では使用されなくなった。ただ今でもその優れた特性から、発展途上国では維持麻酔薬として頻用されている。
最初の有効な局所麻酔薬はコカインであった。1859年に分離されたコカインは眼科医であるカール・コラー(en)によって1884年に用いられたのが最初である。その前までは、医師は塩と氷を混ぜたもので冷たさによる麻痺を得るなどしており、これは限られた場合でしか使えないものだった。この感覚脱失はエーテルやクロロエチンのスプレーでも引き起こせた。
コカインはすぐにプロカイン(1905年)、オイカイン(1900年)、ストバイン(1904年)、リドカイン(1943年)などの多くの安全な派生物に置き換えられた。
オピオイドはラコヴィセアヌ=ピテスティによって最初に使用され、1901年に発表された。
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抗利尿ホルモン : 約 57,000 件 バソプレシン : 約 19,000 件 バゾプレシン : 約 9,010 件 バソプレッシン : 約 7,590 件 バゾプレッシン : 約 4,160 件
en
arginine vasopressin : 約 7,090 件 vasopressin : 約 9,170 件 antidiuretic hormone : 約 7,410 件
抗利尿作用 | 集合管上皮細胞 | V2R |
血管平滑筋収縮(昇圧作用) | 血管内皮 | V1R |
分泌促進 | 分泌抑制 | |
血漿浸透圧・循環血液量 | 出血→血圧低下、循環血液量減少 | 水負荷→血漿浸透圧低下、循環血液量増加 |
水制限→循環血液量減少、血漿浸透圧上昇 | 等張液負荷→循環血液量増加 | |
高張食塩水負荷→血漿浸透圧上昇 | ||
薬物 | プロスタグランジンE2 | フェニトイン |
モルフィン | アルコール | |
ニコチン | 心房性Na利尿ペプチド | |
β受容体作動薬 | α受容体作動薬 | |
アンジオテンシンII | ||
麻酔薬 | ||
低酸素症 | ||
高炭酸ガス血症 | ||
ビンクリスチン | ||
シクロホスファミド | ||
クロフィブレート | ||
カルバマゼピン | ||
バルビツール酸系薬 | ||
アセチルコリン | ||
ヒスタミン | ||
メトクロプラミド | ||
環境など | 立位・失神、疼痛、陽圧呼吸、遠心力 | 寒冷、陰圧呼吸、水中、臥位 |
中枢神経系 | 心臓血管系 | 呼吸器 | 腎臓&内分泌 | 神経筋肉 | |
軽度 35-32.2℃ |
・中枢神経系の代謝の直線的な抑制(linear depression) ・健忘 ・感情鈍麻 ・判断の誤り ・不適応な行動 |
・頻脈の後に次第に徐脈 ・心周期の延長 ・血管収縮 ・心拍出量の増加 ・血圧の上昇 |
・頻呼吸、そして進行性の毎分換気量の減少 ・酸素消費量の減少 ・気管支漏 ・気管支攣縮 |
・利尿 ・カテコラミン、副腎ステロイド、T3(トリヨードサイロニン)・T4(サイロキシン)の増加 (血中濃度のことと思う) ・戦慄による代謝の増加 |
・基礎代謝(basal metabolism)の80%減少 ・increased preshivering muscle tone, then fatiguing |
中等度 32.2-28.0℃ |
・EEGの異常 ・意識レベルの進行的な低下(progressive depression) ・瞳孔散大 ・逆説的脱衣(paradoxical undressing) ・幻視 |
・脈拍数と心拍出量の進行性の減少 ・心房や心室の不整脈の増加 ・低体温を示唆するECG(J波) |
・低換気 ・体温8℃低下するごとに二酸化炭素消費量が50%減少する ・防護的気道反射(protective airway reflexes)の消失 |
・腎血流量50%増加 ・腎自己調整能は保たれる ・インスリン作用の低下 |
・反射低下 ・戦慄による熱産生の減少 ・固縮 |
重度 <28℃ |
・脳血管の自己調節能の喪失 ・脳血流量の減少 ・昏睡 ・眼反射(ocular reflex)の喪失 ・EEGの進行的な低下(decrease) |
・血圧、心拍数、および心拍出量の進行性の減少 ・リエントリー性のリズム異常(dysthythmia) ・心室細動の最大リスク ・心停止 |
・肺鬱血と肺水腫 ・酸素消費量75%減少 ・無呼吸 |
・心拍出量低下に伴う腎血流量の減少 ・極度の乏尿 ・(体温の?)変温性 |
・不動 ・神経伝導速度の低下 ・末梢の反射消失 ・角膜反射、または眼球頭反射(頭位変換眼球反射)の消失 |
重症度 | 体温 | 臨床症状 |
軽度 | 32-35℃ | 錯乱、寒気、蒼白、ふるえ、頻脈 |
中等度 | 28-31.8℃ | 嗜眠、震えの減少または消失、徐脈、呼吸数減少 |
重度 | <28℃ | 睡気または昏睡、ふるえの欠如、浮腫状の皮膚、散大し固定した瞳孔、徐脈、低血圧、乏尿 |
重篤 | <25℃ | 呼吸停止、心停止 |
分類 | 投与経路 | 薬剤名 | 脳血流 | 脳代謝量 |
麻酔薬 | 静脈 (静脈麻酔薬) |
プロポフォール | ↓↓ | ↓ |
バルビツレート | ↓ | ↓ | ||
ミダゾラム | ↓ | ↓ | ||
ケタミン | ↑↑ | ↑ | ||
吸入 (吸入麻酔薬) |
亜酸化窒素 | ↑ | ↑ | |
セボフルラン | ↑ | ↓ | ||
イソフルラン | ↑ | ↓ | ||
ハロタン | ↑↑ | ↓ | ||
鎮痛薬 | 静脈 | フェンタニル | ↓ | ↓ |
レミフェンタニル | ↓ | ↓ |
分類 | 薬剤名 | 脳血流 | 脳酸素消費量 |
吸入麻酔薬 | 亜酸化窒素 | ↑↑ | ↑ |
ハロタン | ↑↑ | ↑ | |
イソフルラン | ↑ | ↓↓ | |
セボフルラン | →↑ | ↓↓ | |
静脈麻酔薬 | チオペンタール | ↓↓ | ↓↓ |
プロポフォール | ↓↓ | ↓ | |
フェンタニル | → | → | |
ケタミン | ↑↑ | ↑ |
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