出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/04/09 20:32:05」(JST)
クワシオルコル(クワシオルコールあるいはクワシオコアとも表記する。英語・仏語:kwashiorkor, 独語:Kwashiorkor)は栄養失調の一形態。原因はいくつか考えられているが、一般にはタンパク質の摂取量が十分でないためにおきるとされている。大部分の症例は1歳から4歳の小児に見られるが、より年長の児童や成人でも見られることがある。ジャマイカの小児科医シシリー・D.ウィリアムズ(Cicely D. Williams)が、1935年に医学雑誌『ランセット』に投稿した記事のなかでこの語を用い、専門用語として認知されるようになった。[1]
授乳期の乳児は、成長に不可欠なある種のアミノ酸を母乳から得ている。乳児が乳離れして離乳食を摂るようになったとき、その食物に含まれる栄養分がデンプンや炭水化物中心でタンパク質に乏しければ、子どもがクワシオルコルを発症する可能性がある。このような摂食状態は、デンプン質に富んだ野菜を主な食物とする地域や、飢饉に見舞われた地域でよく見られる。
「クワシオルコル」の名称は、ガーナの海岸部で使用されるガ語に由来する。直訳すると「上の子・下の子」または「一番目・二番目」という意味になり、実際には「受け入れられなくなった子供」をさす表現である。このことは、クワシオルコルの生じる原因が、弟や妹が生まれたために子供が乳離れさせられたことが多いことを反映している。一説には、ガーナのアシャンティ人の言葉で「赤い子供」を指すともいい、罹患した小児の皮膚が皮膚炎で赤くなることによるとされる。
栄養不良の児童のクワシオルコルの診断基準は足の浮腫である。他の所見には、腹部の膨張、脂肪性浸潤物による肝臓の肥大、細い毛髪、歯の脱落、肌の脱色および皮膚炎が挙げられる。クワシオルコルの児童は、しばしば過敏症や食思不振を呈する。[2]また生育不振、下痢、体重の減少も見られるが、体重の減少は、マラスムスほどは激しくない。血中インスリン濃度は維持される。[3]
腹部の膨張は、一般に二つの原因に帰せられる。ひとつは腹水の貯留のためで、これは全身に及ぶ細胞内グルタチオンの欠乏の結果としておきたシステイニルロイコトリエン(LTC4やLTE4)の産生の増加により、毛細血管の浸透性が亢進するためにおきる。また同時に、栄養失調によって血漿タンパク質が減少し、その結果膠質浸透圧の減少とそれに伴う毛細血管壁の浸透性の亢進がもたらされるとも考えられている。ふたつめの原因は、脂肪肝のために肝臓が肥大することであると考えられている。この脂肪の蓄積は、脂質を肝臓から全身に輸送するアポリポタンパク質の欠乏によって生じる。
クワシオルコルの患者は、ジフテリアや腸チフスなどの疾病に対するワクチン接種を受けても抗体を作ることができない。[4]一般的に、クワシオルコルは食餌にカロリー源とタンパク質を加えることで対処することができる。しかし、この疾患は患児の心身の発達に長期にわたって影響を及ぼすことがあり、また症状が激しい場合は死亡することもありうる。
クワシオルコルの発症要因にはさまざまな解説があり、いまだ議論が続けられている[5]。タンパク質の欠乏と同時にカロリーや微量栄養素も不足することで発症するということは既に認められているが、発症の主たる要素ではないかもしれない。鉄、葉酸、ヨウ素、セレン、ビタミンCなどの栄養素、とりわけ抗酸化にかかわるもののうちのひとつが欠乏することが病態に影響すると考えられる。生体内で重要な抗酸化物質のうちクワシオルコルの患児で減少しているものには、グルタチオン、アルブミン、ビタミンE、多不飽和脂肪酸(ポリエン脂肪酸)などがある。したがって、基本的な栄養素ないし抗酸化物質が不足している小児が病気や毒物などの外的ストレスにさらされると、クワシオルコルにかかる可能性が高くなる。
栄養についての知識が不足していることも要因のひとつとなりうる。コーネル大学の国際栄養プログラムの主導教授、マイケル・ラザム(Michael Latham)博士が示した例には、子供にキャッサバを食べさせていた親たちで、クワシオルコルによる浮腫のために子供が栄養失調であることを認められず、食餌中にタンパク質が足りないにもかかわらず栄養がじゅうぶん行き届いていると主張していたものがある。
クワシオルコルの発症の重要な要因のひとつに、アフラトキシンによる中毒がある。アフラトキシンはカビ毒の一種で、カビの生えた食べ物を摂ると一緒に摂取され、肝臓のチトクロムP450によって代謝を受けエポキシ化されて、肝細胞のDNAを損傷する。血清タンパクの多く、とりわけアルブミンは肝臓で産生されるため、クワシオルコルの症状はこれで容易に説明できる。クワシオルコルの大部分がカビの生育に向いた温暖で湿潤な気候の地域で発生していることや、乾燥した地域では栄養失調に関する疾患といえばマラスムスのほうが頻度が高いことは注目すべきであろう。そうすると、患者を治療するうえで「タンパク質は同化作用のみを目的として補給するべきであり、異化作用に対しては炭水化物と脂肪とで賄うべきである」という結論に至ることができる。タンパク質の異化経路には肝臓で行われる尿素回路が含まれるが、既に損傷している肝臓にタンパクを補給すると、尿素回路が機能しきれずに肝機能が破綻し、肝不全を引き起こして死に至ることもありうるからである。
栄養失調による疾患には、ほかにマラスムスや悪液質(カヘキシー)がある。後者は原因となる疾病があることが多い。
ウィキメディア・コモンズには、クワシオルコルに関連するカテゴリがあります。 |
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国試過去問 | 「098G070」 |
リンク元 | 「低体温」「脂肪肝」「タンパク質・エネルギー栄養障害」「低タンパク栄養失調症」「マラスムス」 |
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C
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中枢神経系 | 心臓血管系 | 呼吸器 | 腎臓&内分泌 | 神経筋肉 | |
軽度 35-32.2℃ |
・中枢神経系の代謝の直線的な抑制(linear depression) ・健忘 ・感情鈍麻 ・判断の誤り ・不適応な行動 |
・頻脈の後に次第に徐脈 ・心周期の延長 ・血管収縮 ・心拍出量の増加 ・血圧の上昇 |
・頻呼吸、そして進行性の毎分換気量の減少 ・酸素消費量の減少 ・気管支漏 ・気管支攣縮 |
・利尿 ・カテコラミン、副腎ステロイド、T3(トリヨードサイロニン)・T4(サイロキシン)の増加 (血中濃度のことと思う) ・戦慄による代謝の増加 |
・基礎代謝(basal metabolism)の80%減少 ・increased preshivering muscle tone, then fatiguing |
中等度 32.2-28.0℃ |
・EEGの異常 ・意識レベルの進行的な低下(progressive depression) ・瞳孔散大 ・逆説的脱衣(paradoxical undressing) ・幻視 |
・脈拍数と心拍出量の進行性の減少 ・心房や心室の不整脈の増加 ・低体温を示唆するECG(J波) |
・低換気 ・体温8℃低下するごとに二酸化炭素消費量が50%減少する ・防護的気道反射(protective airway reflexes)の消失 |
・腎血流量50%増加 ・腎自己調整能は保たれる ・インスリン作用の低下 |
・反射低下 ・戦慄による熱産生の減少 ・固縮 |
重度 <28℃ |
・脳血管の自己調節能の喪失 ・脳血流量の減少 ・昏睡 ・眼反射(ocular reflex)の喪失 ・EEGの進行的な低下(decrease) |
・血圧、心拍数、および心拍出量の進行性の減少 ・リエントリー性のリズム異常(dysthythmia) ・心室細動の最大リスク ・心停止 |
・肺鬱血と肺水腫 ・酸素消費量75%減少 ・無呼吸 |
・心拍出量低下に伴う腎血流量の減少 ・極度の乏尿 ・(体温の?)変温性 |
・不動 ・神経伝導速度の低下 ・末梢の反射消失 ・角膜反射、または眼球頭反射(頭位変換眼球反射)の消失 |
重症度 | 体温 | 臨床症状 |
軽度 | 32-35℃ | 錯乱、寒気、蒼白、ふるえ、頻脈 |
中等度 | 28-31.8℃ | 嗜眠、震えの減少または消失、徐脈、呼吸数減少 |
重度 | <28℃ | 睡気または昏睡、ふるえの欠如、浮腫状の皮膚、散大し固定した瞳孔、徐脈、低血圧、乏尿 |
重篤 | <25℃ | 呼吸停止、心停止 |
==参考==liver disease - wiki en
タンパク質・エネルギー栄養障害 : 29 件 蛋白・熱量不足栄養障害 : 15 件 蛋白熱量栄養不良 : 15 件
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