出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/11/12 21:52:08」(JST)
静脈血栓塞栓症のデータ | |
ICD-10 | I26.9 |
統計 | |
世界の患者数 | |
日本の年間症例数 | 約4,000例 (2000年) |
学会 | |
日本 | 日本宇宙航空環境医学会 肺塞栓症研究会 |
世界 | |
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静脈血栓塞栓症(じょうみゃくけっせんそくせんしょう)は、肺血栓塞栓症(Pulmonary embolism:PE)と深部静脈血栓症(Deep vein thrombosis:DVT)を併せた疾患概念である。
飛行機内などで長時間同じ姿勢を取り続けて発症することがよく知られており、俗にエコノミークラス症候群あるいはロングフライト血栓症とも呼ばれる。
下肢や上腕その他の静脈(大腿静脈など)に血栓(血のかたまり)が生ずる疾患。原因としては脱水、感染、旅行・長期臥床・手術などによる血流鬱滞、抗リン脂質抗体症候群などがある。この血栓が血流に乗って肺へ流れ肺動脈が詰まると、肺塞栓症となる。肺動脈が詰まるとその先の肺胞には血液が流れず、ガス交換ができなくなる。その結果、換気血流不均衡が生じ動脈血中の酸素分圧が急激に低下、呼吸困難をきたす。また肺の血管抵抗が上昇して全身の血液循環に支障をきたす。軽度であれば胸やけや発熱程度で治まるが、最悪の場合は死亡する。
静脈血の鬱帯(うったい)や血液凝固の亢進が原因となる。血流鬱滞(血液の流れが滞ること)の原因としては長時間同じ姿勢で居続けることや鬱血(うっけつ)性心不全、下肢静脈瘤の存在が挙げられる。血液凝固の亢進(血が固まりやすくなること)は様々な病態において生じるが例えば脱水、がん、手術、エストロゲン製剤の使用などが挙げられる。また疾患としては抗リン脂質抗体症候群、プロテインC欠損症、プロテインS欠損症、アンチトロンビンIII欠損症などの血栓性素因、ベーチェット病などを含む血管炎症候群などが原因となる。[1]
特に湿度が20%以下になって乾燥している飛行機、とりわけ座席の狭いエコノミークラス席で発病する確率が高いと思われているためにエコノミークラス症候群と呼ばれるがファーストクラスやビジネスクラス、さらに列車やバスなどでも発生の可能性はある。タクシー運転手や長距離トラック運転手の発症も報告されている。長時間同じ体勢でいることが問題といわれる。
2002年に日本人サッカー選手の高原直泰が旅客機での移動に際してエコノミークラスより格段に広いビジネスクラスを利用して発病したこともあり、エコノミークラス以外なら安全ということではない。このため旅行者血栓症とも言われるが、日本旅行医学会はバスなどでの発生はまれだとしてロングフライト血栓症に改称することを提唱している。
なお高原選手の2006年のワールドカップドイツ大会の代表選出に関連して、ドイツへの移動に際しては高原選手のみは日本サッカー協会からファーストクラスがあてがわれた(ジーコ監督以下他のスタッフはビジネスクラスを利用)。
2004年の新潟県中越地震では、自動車の中で避難生活を送る人たちの中にエコノミークラス症候群の疑いで死亡するケースが相次いだ。
なお日本国外では、犠牲者の遺族が航空会社を提訴するなど社会問題にもなっている国もある。
日本での年間症例数は約4,000例(2000年)と推計され、増加傾向である。
欧米に多く、日本では少ない。人種別では黒人に多く、黄色人種に少ない。高齢者に発症しやすい。
静脈血栓塞栓症は突然死をきたす重篤な疾患である。そのため発症する前に予防することが非常に重要である。一般的に推奨されている予防法を示す。
日本では2004年に肺血栓塞栓予防管理料(保険点数305)が保険収載された。日本では初めての「予防」の保険適応である。
まず臨床症状から本症を疑うことが重要である。同様の症状では虚血性心疾患を疑うのが通常であるが、常に本症を念頭に置く必要がある。
確定診断には画像検査が用いられる。画像検査で肺血流の不自然な欠損や血栓の存在が証明できれば診断は確定する。従来は肺血流シンチグラムがgold standardとされてきたが1990年代の後半に造影CTの優位性を証明した論文が発表され、流れが変わった。2003年に発表されたBritish Thoracic Societyのガイドラインでは診断にD-ダイマー測定と造影CTを用いることが推奨されている。
急性肺血栓塞栓症では一刻も早い治療が必要であり、速やかに診断をつけなければならない。日本では欧米に比べCTの普及率が高いため、造影CTによる診断は現実的で有用であると思われる。しかしながら2005年現在でも実地医療における診断法は未だ確立されているとは言い難い。一方、欧米では深部静脈血栓症/肺血栓塞栓症の除外診断法がガイドライン化されておりD-ダイマー測定によるスクリーニングが簡便性、コスト、患者負担という側面で普及している(その後確定診断としてCTなどの画像診断が用いられる)。
血栓の除去と循環動態の改善を目的とした治療が行われる。
薬物を用いて血液を固まりにくくする治療法。ヘパリン(注射)、ワルファリン(内服)などの抗凝固薬が用いられる。血栓の増大や再発を防ぎ、生命予後を改善する。禁忌例(出血が命に関わる場合)を除きほぼ全例に行われる。ヘパリンは可能であれば低分子量ヘパリンを用いるべきである。低分子量ヘパリンは長期投与に堪え、腫瘍患者にも投与が可能である[2]。
副作用として出血、血小板減少症(ヘパリン)などがある。血栓を急速に溶かす効果はないため、重篤な肺血栓塞栓症には他の治療法が併用される。
薬物を用いて血栓を溶かす治療法。ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)などの血栓溶解剤が用いられる。血栓を早期に溶解させ、循環動態を改善させる。速やかな改善効果が得られる反面、重篤な出血を引き起こす危険性もあるため投与は重症例に限られるのが一般的である。特に妊婦には慎重な投与が求められる[2]。
なお、モンテプラーゼ(遺伝子組換えt-PA)について2005年7月25日より不安定な血行動態を伴う急性肺塞栓症に限り健康保険適用が認可された。
血管内治療法とは、血管内カテーテルを用いて薬剤を注入したり血栓を除去する治療法。血栓溶解療法が不可能な場合(命に関わる出血が予想される場合)や、大量の血栓を早急に除去する必要がある場合に行われる。高度な技術を必要とするため、実施可能施設が限られる。以下のような治療が行われている。
手術で血栓を除去する方法。急激かつ広範囲の肺塞栓により生命の危機に瀕している場合は、救命のため一刻の予断なく緊急手術となる。また薬物療法が効かず病状が悪化する場合も手術が検討される。
死亡率は10~30%と報告されている。死亡例の多くが発症直後の突然死である。治療が奏効すれば生命予後は良好であるが症状消失後も再発のおそれがあり、抗凝固療法を続ける必要がある(特に抗リン脂質抗体症候群では終生に及ぶ)。再発した場合はさらに死亡率が高く寝たきり、入院、高齢、閉塞性肺疾患、悪性疾患等がその危険因子となる[8]。
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圧痕性浮腫 | 非圧痕性浮腫 | ||
pitting edema | nonpitting edema | ||
病態 | 水のみが間質に貯留 圧痕を残す |
水分+血漿由来物質の蓄積(ムコ多糖、蛋白質)・炎症細胞の浸潤 圧痕を残さない | |
疾患 | fast edema | slow edema | 甲状腺機能低下症 局所性炎症(蜂窩織炎、虫さされ) 強皮症 |
低アルブミン血症 | 心不全 腎不全 |
症状 | 長谷川ら (n=224) |
肺塞栓症研究会 (n=579) |
呼吸困難 | 171(76%) | 399/551(72%) |
胸痛 | 107(48%) | 233/536(43%) |
発熱 | 50(22%) | 55/531(10%) |
失神 | 43(19%) | 120/538(22%) |
咳嗽 | 35(16%) | 59/529(11%) |
喘鳴 | 32(14%) | 記載なし |
冷汗 | 19(8%) | 130/527(25%) |
血痰 | 記載なし | 30/529(6%) |
動悸 | 記載なし | 113/525(22%) |
皮膚 | 網状皮斑、浅在性血栓性静脈炎、爪下線状出血、足潰瘍、皮膚遠位部虚血、皮膚梗塞、blue-toe syndrome |
神経系 | 一過性脳虚血、脳卒中、多発梗塞性認知症、舞踏病、横断性脊髄炎、脳症、片頭痛、pseudotumor cerebri、脳静脈血栓 |
心臓 | 狭心症、心筋梗塞、冠状動脈症、心弁膜症疣贅、心臓内血栓 |
肺 | 肺塞栓、肺高血圧 |
血液 | 血小板減少、溶血性貧血 |
消化器 | Budd-Chiari syndrome、肝梗塞 |
腎臓 | 糸球体血栓、腎不全、高血圧の亢進、腎動脈血栓、腎静脈血栓 |
産科系 | 胎児喪失、子宮内胎児発育遅延、HELLP症候群、羊水過少 |
眼科 | 網膜静脈閉塞、網膜動脈閉塞、血管閉塞性網膜症、虚血性視神経症 |
内分泌 | 副腎不全 |
筋骨格系 | 阻血性壊死(?) |
疾患名 | 患者数 | |
静脈疾患 | 深部静脈血栓症 | 221 |
皮下血栓性静脈炎 | 205 | |
上大静脈閉塞 | 122 | |
下大静脈閉塞 | 93 | |
脳静脈洞血栓症 | 30 | |
バッド・キアリ症候群 | 17 | |
その他の静脈閉塞 | 24 | |
動脈疾患 | 肺動脈閉塞/肺動脈瘤 | 36 |
動脈瘤 | 17 | |
四肢動脈閉塞/四肢動脈瘤 | 45 | |
その他の動脈閉塞/動脈瘤 | 42 | |
右室血栓症 | 2 |
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