出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/05/16 06:47:44」(JST)
IUPAC命名法による物質名 | |
---|---|
pyridine-4-carbohydrazide | |
臨床データ | |
胎児危険度分類 | C |
法的規制 | 医師の処方によってのみ可能 |
投与方法 | 経口、筋注、静注 |
薬物動態的データ | |
血漿タンパク結合 | きわめて低い (0-10%) |
代謝 | 肝; CYP450: 2C19, 3A4インヒビター |
半減期 | 0.5-1.6時間 (fast acetylators), 2-5時間 (slow acetylators) |
排泄 | 尿(主経路)、便 |
識別 | |
CAS登録番号 | 54-85-3 |
ATCコード | J04AC01 |
PubChem | CID 3767 |
DrugBank | APRD01055 |
ChemSpider | 3635 |
KEGG | D00346 |
化学的データ | |
化学式 | C6H7N3O |
分子量 | 137.139 g/mol |
イソニアジド(英語:isoniazid、イソニコチン酸ヒドラジド、INHなどとも称される)は結核の予防や治療の第一選択薬である有機化合物である。モノアミンオキシダーゼ阻害剤として1912年に初めて発見されて以来、はじめは抗うつ薬として使用されたが、副作用のために利用されなくなった。1951年になって、イソニアジドが結核に対して効果を持つことが明らかになった。イソニアジドは耐性が急速に出現するので、単独で治療に用いられることはない。
イソニアジドが最初に合成されたのは20世紀の初頭であるが、[1]その抗結核作用が初めて報告されたのは1950年代初頭のことで、3社の製薬会社がその特許を取ろうとして不成功に終わった[2] (最も熱心だったロシュ社は1952年に独自にイソニアジドを開発しリミフォン (Rimifon)として販売した)。イソニアジドの導入により、はじめて結核は無理なく治療できるものとみなされるようになった。
イソニアジドは、錠剤、シロップ、および注射剤(筋注および静注)のかたちで投薬することができる。イソニアジドは世界中で入手が可能で、手の届く価格であり、一般に耐性が高い。
イソニアジドは、4-メチルピリジンを酸化してできるイソニコチン酸を、エステル化したのちヒドラジンと反応させて合成する。 [3]また、4-シアノピリジンを塩基加水分解してアミドを生成させ、それからアミノ基部分をヒドラジンで置換することによって合成しても得られる(下図)。
イソニアジドはプロドラッグであり、細菌のカタラーゼによって活性化される必要がある。[4] イソニアジドは、イソニコチン酸アシルとNADHとをカップリングするカタラーゼの一種、KatGによって活性化され、イソニコチン酸アシル-NADH複合体を形成する。この複合体は、InhAの名称で知られるケトエノイルレダクターゼと強固に結びつくことで、天然のエノイル-AcpM基質を阻害し、脂肪酸合成酵素のはたらきも阻害する。この過程によって、マイコバクテリウム属の細胞壁に必要なミコール酸の生合成が阻害される。 イソニアジドに対するKatGのはたらきにより、一連の活性酸素種が生成する。そのひとつである一酸化窒素は、[5]他の抗菌薬プロドラッグであるPA824の作用にも重要な役割を果たしていることが報告されている。[6]
イソニアジドは、活発に分裂しているマイコバクテリウム属に対しては殺菌的に作用するが、分裂が遅いと静菌的に作用する。 イソニアジドはP450システムを阻害する。
イソニアジドは、血清内、脳脊髄液内、乾酪病変内で治療濃度に達する。イソニアジドは肝臓でアセチル化を経て代謝される。アセチル化にかかわる酵素には2つの形質があるため、患者によっては他の患者よりも薬を速く代謝することがある。 したがって、半減期は二峰性の確率分布をとることになり、米国人の場合だと1時間と3時間のところにピークが生じる。代謝物は尿に排出される。腎不全の場合でも、投薬量はふつう調整する必要はない。
イソニアジドの、成人に対する一般的な投与量は、1日あたり5mg/kgである(最大1日投与量は300mg)。処方が間歇的である場合(週に2回ないし3回)は、投与量は15mg/kg(最大1日投与量は900mg)である。薬剤のクリアランス(上記のアセチル化による)が遅い患者には、毒性の発現を抑えるために投与量を減らす必要があることがある。児童に対して望ましいとされる投与量は、1日あたり8-12mg/kgである。[7]
有害作用には、蕁麻疹、肝機能検査値の異常、肝炎、鉄芽球性貧血、末梢神経障害、弱い中枢神経系作用、薬剤相互作用によるフェニトインやジスルフィラムの体内濃度の上昇、緩和しにくい癲癇発作(癲癇重積発作)が含まれる。
末梢神経障害と中枢神経系作用はイソニアジドの使用と関連付けられており、ピリドキシン(ビタミンB6)の枯渇によるものであるが、投与量が5mg/kgの場合にはあまり生じない。神経障害が珍しくないような状態(糖尿病、尿毒症、アルコール中毒、栄養障害、HIVに感染しているなど)にある人たちや、妊娠している女性、痙攣発作を起こすことのある人は、1日あたり10-50mgのピリドキシンをイソニアジドと共に投与されることがある。
肝毒性は、吐き気、嘔吐、腹痛、食欲など、患者の状況をつぶさに記録することで避けることが可能である。イソニアジドは肝臓で、おもにアセチル化と脱ヒドラジン化によって代謝され不活化される。N-アセチルヒドラジンの代謝物は、イソニアジドによる治療を受けている患者にみられる肝毒性症状と関係していると考えられている。アセチル化の速さは遺伝的に決定付けられる。ネグロイドとコーカソイドではおよそ50%が代謝の遅い体質 (slow inactivator, slow acetylator)であり、アジア人とイヌイットでは大半が代謝の速い体質 (rapid inactivator, fast acetylator)である。[脚注 1]代謝が速い人々では、薬の半減期は1-2時間であるが、代謝の遅い人々では2-5時間を要する。
排出は、大雑把に言って腎機能とは関係が見られないが、肝臓病によって半減期が延長することがありうる。アセチル化の割合がイソニアジドの効果を有意に変化させるという報告はまだ成されていない。しかし、薬のアセチル化が遅い場合、長期的に薬を投与されることで血中濃度がより高くなることが考えられ、毒性発現の危険性も増すことになる。イソニアジドとその代謝物は、24時間以内に全排出量の75-95%が尿中に排出される。少量は唾液、痰、大便にも排出される。イソニアジドは血液透析や腹膜透析で除去される。[8]
頭痛、集中力の低下、記憶力の低下、うつ症状はいずれもイソニアジドの服用と関連があるとされている。これらの副作用の頻度は不明であり、イソニアジドとこれらの症状との関係もはっきりとは確認されていない。むしろ、患者も医療関係者もすべて、自殺念慮や自殺行為のような重大な副作用が起きうることを頭に入れておくべきである。 [9][10][11]
イソニアジドとリファンピシンとを併用する治療で、ホルモン療法による出産調整の効果が減弱することがある。
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ヒドラ錠「オーツカ」50mg
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C
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肝細胞傷害型 | 肝壊死型 | 中心帯壊死(zone 3) | 四塩化炭素,アセトアミノフェン,ハロタン |
中間帯壊死(zone 2) | フロセミド | ||
周辺帯壊死(zone 1) | リン,硫酸鉄 | ||
肝炎型 | イソニアジド,メチルドパ,ケトコナゾール | ||
肝線維症型 | メトトレキサート,塩化ビニル,ビタミンA | ||
脂肪肝型 | 小滴性 | テトラサイクリン,バルプロ酸,リン | |
大滴性 | エタノール,メトトレキサート | ||
リン脂質症 | アミオダロン,DH剤 | ||
胆汁うっ滞型 | hepatocanalicular | クロルプロマジン,エリスロマイシンエストレート | |
canalicular | C-17アルキル化ステロイド,経口避妊薬,シクロスポリンA | ||
ductular | ベノキサプロフェン | ||
血管障害型 | 肝静脈血栓 | 経口避妊薬,抗腫瘍薬 | |
門脈血栓 | 経口避妊薬 | ||
静脈閉塞性疾患 | 蛋白同化ステロイド,経口避妊薬,抗腫瘍薬 | ||
肝紫斑病 | 蛋白同化ステロイド,経口避妊薬,トロトラスト,アザチオプリン,ファロイジン,塩化ビニル | ||
肉芽腫形成型 | アロプリノール,カルバマゼピン | ||
腫瘍形成型 | 限局性結節性過形成 | 経口避妊薬 | |
腺腫 | 経口避妊薬,蛋白同化ステロイド | ||
癌腫 | 経口避妊薬,蛋白同化ステロイド,トロトラスト,塩化ビニル | ||
血管肉腫 | トロトラスト,塩化ビニル,蛋白同化ステロイド |
表 DDW-J 2004薬物性肝障害ワークショップのスコアリング(肝臓 2005; 46: 85-90より引用) | |||||
肝細胞障害型 | 胆汁うっ滞または混合型 | スコア | |||
1. 発症までの期間 | 初回投与 | 再投与 | 初回投与 | 再投与 | |
a.投与中の発症の場合 投与開始からの日数 |
5~90日 | 1~15日 | 5~90日 | 1~90日 | 2 |
<5日、>90日 | >15日 | <5日、>90日 | >90日 | 1 | |
b.投与中止後の 発症の場合 投与中止後の日数 |
15日以内 | 15日以内 | 30日以内 | 30日以内 | 1 |
>15日 | >15日 | >30日 | >30日 | 0 | |
2. 経過 | ALTのピーク値と正常上限との差 | ALPのピーク値と正常上限との差 | |||
投与中止後のデータ | 8日以内に50%以上の減少 | (該当なし) | 3 | ||
30日以内に50%以上の減少 | 180日以内に50%以上の減少 | 2 | |||
(該当なし) | 180日以内に50%未満の減少 | 1 | |||
不明または30日以内に50%未満の減少 | 不変、上昇、不明 | 0 | |||
30日後も50%未満の減少か再上昇 | (該当なし) | -2 | |||
投与続行および不明 | 0 | ||||
3. 危険因子 | 肝細胞障害型 | 胆汁うっ滞または混合型 | |||
飲酒あり | 飲酒または妊娠あり | 1 | |||
飲酒なし | 飲酒、妊娠なし | 0 | |||
4. 薬物以外の原因の有無2) | カテゴリー1、2がすべて除外 | 2 | |||
カテゴリー1で6項目すべて除外 | 1 | ||||
カテゴリー1で4つか5つが除外 | 0 | ||||
カテゴリー1の除外が3つ以下 | -2 | ||||
薬物以外の原因が濃厚 | -3 | ||||
5. 過去の肝障害の報告 | 過去の報告あり、もしくは添付文書に記載 | 1 | |||
なし | 0 | ||||
6.好酸球増多(6%以上) | あり | 1 | |||
なし | 0 | ||||
7. DLST | 陽性 | 2 | |||
擬陽性 | 1 | ||||
陰性および未施行 | 0 | ||||
8.偶然の再投与が行われた時の反応 | 肝細胞障害型 | 胆汁うっ滞または混合型 | |||
単独再投与 | ALT倍増 | ALP(T.Bil)倍増 | 3 | ||
初回肝障害時の併用薬と共に再投与 | ALT倍増 | ALP(T.Bil)倍増 | 1 | ||
偶然の再投与なし、または判断不能 | 0 | ||||
1) 薬物投与前に発症した場合は「関係なし」、発症までの経過が不明の場合は「記載不十分」 と判断して、スコアリングの対象としない。 投与中の発症か、投与中止後の発症化により、a またはb どちらかのスコアを使用する。 2) カテゴリー1:HAV、 HBV、 HCV、 胆道疾患(US)、アルコール、ショック肝 カテゴリー 2:CMV、 EBV. ウイルスはIgM HA 抗体、HBs 抗原、HCV 抗体、IgM CMV 抗体、IgM EB VCA 抗体で判断する。 判定基準:総スコア 2点以下:可能性が低い 3、4点:可能性あり 5点以上:可能性が高い |
-薬剤性肝障害
薬剤名等 | 臨床症状・措置方法 | 機序・危険因子 |
レセルピン製剤 | 脳内ドパミンが減少し本剤の作用が減弱するおそれ | 脳内のドパミンを減少させてパーキンソン症状を悪化させる。 |
テトラベナジン | ||
血圧降下剤(メチルドパ水和物、レセルピン、節遮断剤等) | 血圧降下剤の作用を増強することがある | 機序は不明であるが、レボドパに血圧降下作用があるためと考えられている。 |
抗精神病薬(フェノチアジン系薬剤 (クロルプロマジン等) 、 ブチロフェノン系薬剤 (ハロペリドール等)、ペロスピロン等 | 本剤の作用が減弱することがある | これらの薬剤によりドパミン受容体が遮断される。 |
全身麻酔剤(ハロタン等) | 不整脈を起こすことがある | ハロタン等は交感神経のα、βレセプターの感受性を高める。一方、レボドパとの併用ではレボドパから転換したドパミンがα、βレセプターに作用して、不整脈を起こす可能性がある。 |
ピリドキシン | 末梢での本剤の脱炭酸化を促進するため、本剤の作用が減弱することがある | ピリドキシンはレボドパ脱炭酸酵素の補酵素であり、併用によりレボドパの末梢での脱炭酸化を促進し、レボドパの脳内作用部位への到達量を減少させると考えられる。 |
抗コリン剤、アマンタジン塩酸塩、ブロモクリプチンメシル酸塩 | 精神神経系の副作用が増強することがある | 併用によりレボドパの効果増加につながるが、同時に精神神経系の副作用が増強される可能性もある。 |
NMDA受容体拮抗剤(メマンチン塩酸塩等) | 本剤の作用を増強するおそれ | これらの薬剤により、ドパミン遊離が促進する可能性がある。 |
パパベリン塩酸塩 | 本剤の作用が減弱するおそれ | パパベリン塩酸塩が線条体にあるドパミンレセプターをブロックする可能性がある。 |
鉄剤 | 本剤の作用が減弱するおそれ | キレートを形成し、本剤の吸収が減少するとの報告がある。 |
イソニアジド | 本剤の作用が減弱するおそれ | 機序は不明であるが、イソニアジドによりドパ脱炭酸酵素が阻害されると考えられている。 |
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