出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/11/28 20:34:28」(JST)
IUPAC命名法による物質名 | |
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IUPAC名
(RS)-4-hydroxy-3-(3-oxo-1-phenylbutyl)-
2H-chromen-2-one |
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臨床データ | |
胎児危険度分類 |
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法的規制 |
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投与方法 | 経口 |
薬物動態データ | |
生物学的利用能 | 100% |
血漿タンパク結合 | 99.5 |
代謝 | Hepatic: CYP2C9, 2C19, 2C8, 2C18, 1A2 and 3A4 |
半減期 | 2.5 日 |
排泄 | 腎臓(92%) |
識別 | |
CAS番号 (MeSH) |
81-81-2 |
ATCコード | B01AA03 (WHO) |
PubChem | CID: 6691 |
DrugBank | APRD00341 |
KEGG | D08682 |
化学的データ | |
化学式 | C19H16O4 |
分子量 | 308.33 |
ワルファリン(Warfarin)は、抗凝固剤の1つ。殺鼠剤としても用いる。ワルファリンカリウムが医薬品として使われ、商品名はワーファリン。投与方法は経口(内服)のみである。
血栓塞栓症の治療及び予防。心臓弁膜症に対する機械弁を用いた弁置換術後や心房細動が原因となる脳塞栓症予防、あるいは深部静脈血栓症による肺塞栓症予防のために、また抗リン脂質抗体症候群での血栓症予防のためにしばしば処方される(抗リン脂質抗体症候群での投与については副作用・禁忌の節を参照)。
欧州および日本ではワルファリンによる抗凝固療法の効果を、トロンボテスト測定により凝固活性(%)あるいはINR値をモニターする方法が普及していた。現在では世界的にプロトロンビン時間のINR値を用いることが各ガイドラインで推奨されている。服用から効果発現までに12-24時間かかり[1]、さらにプロトロンビン時間[PT]あるいはトロンボテスト[TT]によるINR値が安定するには3-4日は必要である。このため脳塞栓症や肺塞栓症の急性期、あるいは播種性血管内凝固で緊急に凝固系の抑制を必要とする際には効果が期待できない。このような場合にはヘパリンを経静脈投与する。ただし脳塞栓症などで早期離床を目的としたり慢性期治療に早めに移行したいときに、急性期のうちからヘパリン投与と並行してワルファリンの内服を開始することはある。また、ワルファリンを服用している場合は、抗血小板療法と違って上記のような効果判定のための血液検査を定期的に実施する必要がある。また抗血小板剤との違いは、抗血小板剤は動脈での血栓予防が主であり、静脈系を含めた血栓予防にはワルファリンを用いなくてはならないことである。
血液凝固因子のうち第II因子(プロトロンビン)、第VII因子、第IX因子、第X因子の生合成は肝臓で行われ、ビタミンKが関与している。ワルファリンは、ビタミンKエポキシドレダクターゼのC1サブユニット(VKORC1)に結合能を持つことにより、ビタミンKと競合阻害する。これにより前述の凝固因子らの生合成を抑制し(総量で30 - 50%低下し、生物活性も10 - 40%低下する)、その結果として血液の凝固を妨げる。ワルファリンの抗凝固作用は第II因子(プロトロンビン)の活性低下によるところが大きいと考えられている。効果は凝固因子の生合成に依るため実際の効果発現に3 - 4日かかり、内服中止しても4 - 5日効果が継続する。
トロンボテストで、10% - 20%、あるいはPT−INRが1.6 - 3.0になるように調整していく。維持量としては2 - 6mg/日であることが多い。目標とするINRは疾患、患者によって異なる。高度な抗凝固効果としはINR2.0 - 3.0、軽度の抗凝固効果としてはINR1.6 - 2.4と考えられている。例えば心房細動で抗凝固療法が必要と考えられる患者に対しても70歳未満ならば高度の抗凝固効果を期待した投与を行い、70歳以上ならば軽度の抗凝固効果を期待した投与を行う。70歳未満で抗凝固療法が必要な患者ではINRが2.0を下回った時点で血栓ができても仕方がないと状態と考える。INR2.0 - 3.0は常に確実に2.0を超えるようにという意味であり、INR1.6 - 2.4は基本的には2.0を上回るように投与するという意味である。実際に心房細動ではINR2.0未満になると急激に血栓症発症の危険性が高まるという報告がある。しかし、ワルファリンの投与量と効果は単純な相関関係ではないため、管理は簡単ではない。
ワルファリンは治療効果をモニタリングしながら投与すれば大量出血を起こす可能性はきわめて低い。高齢者の皮下出血などは、治療域のINR範囲ならば忌避すべき副作用とは考えないのが一般的である。出血がなくともINRが4.0を超えた場合は2日間程度投与を中止した後再検査を行う。また、例えば、拮抗薬であるビタミンKを投与すると6時間ほどでINRは減少するが、拮抗効果が持続するためあまり好まれない。万が一大量出血が起こってしまったら、新鮮凍結血漿(FFP)を投与し凝固因子を補う。
入院中では5mg/日にて投与を開始し、3日目にINRを測定し、それ以後の投与を決定する医師が多いが、その時点ですでにINRが治療域を超えてしまうこともあり、維持量が決まるまでは24時間ごとに測定することが望ましい。しかし、具体的なINRに基づいた投与量の設定方法の基準が無く、医師の経験に基づいて投与量が決定されているため、INRの測定頻度も医師によってさまざまとなっている。このため、日本人用の投与開始ノモグラムの作成が強く望まれているが、個々の患者の個人差を総括して作成する必要があり、近年まで成功していなかった。最近、日本人用のノモグラムが報告され始めており[2]、これらノモグラムの第三者による検証が望まれる。上記のようにワルファリンは効果発現に時間がかかるため、INRが上昇を始めるまでは効果発現が速いヘパリンを点滴静注することがある。疾患によって投与量が異なるが再灌流療法後ならばKN1Aなど500mlの輸液にヘパリンを体重(Kg)×12×24単位を目安に20ml/hrで投与するという簡便な方法が知られている。ヘパリンの効果判定にはAPTTが施設基準上限値の1.5 - 2.5倍内であることとされている。
血液凝固系に関する検査方法において、国際血栓止血学会の科学標準化委員会におけるトロンボプラスチン製剤の標準化により、動物あるいはヒト由来原材料を利用したPT測定のINR表記が普及してきている。PT測定による単位としてのINR表記であり、PT-INR測定法という検査方法ではないことに留意すべきである。また、INR (International Normalized Ratio) という単位をInhibition Ratioと間違った記述で報告されている日本での論文があるので、決して間違ってはいけない。
一方、日本、北欧やオーストリアなどの欧州では、トロンボテスト[3]によるワルファリンのモニタリングが検査法として利用されている。その理由は、ワルファリンをモニタリングする検査薬の測定精度という観点で、トロンボテストの方がPT測定法よりも、ワルファリン投与によって生ずるビタミンK依存性凝固タンパク質(第II因子、第VII因子、第X因子)を正確に測定できるというアッセイ原理になっているからである。PT測定は、第II因子、第VII因子、第X因子だけではなく、フィブリノゲン(第I因子)の検査値(健常人200 - 400mg/dL)および第V因子の検査値やその影響を含めた凝固活性としてINRに影響を及ぼすことを考慮する必要がある。なお、トロンボテストは、PT検査の欠点を補った改良された定量性の高い血液凝固検査法である。
(引用)家庭の医学(第13版)時事通信社 細田瑳一ら監修[要検証 – ノート]
PT-INRとTT(%)の関係は一般的に以下となる。
ワルファリンは多くの医薬品との併用によって、その作用が増強あるいは減弱する薬物相互作用の有ることが知られている。例えば、三環系抗鬱剤と併用すると効果が増すことがあり、副腎皮質ホルモン剤と併用すると効果が減ることがある。よってワルファリンを服用している人は医師、歯科医師、薬剤師などに、必ずその旨を伝える必要が有る。
納豆、クロレラ、青汁などのビタミンKの多い食品を取るとワルファリンの効果は弱まる。ワルファリン代謝に影響を与えるブコロームを併用することで、効果が増強・安定することがある。副作用ともいえるが、これを利用してワルファリン処方量を減量することもある。しかし、解熱鎮痛剤であるブコロームを長期間服用することになるため、胃潰瘍や腎不全などのリスクが上昇する可能性があると考えられ、本来、患者に対して説明が必要となる療法であろう[要出典]。
催奇形性が指摘されており、妊婦に対しての投与は禁忌である。抗リン脂質抗体症候群は妊娠可能年齢の女性に多く見られ、習慣性流産を主な症状とするが、妊娠を望む場合はワルファリン投与を中止し、分娩時まで低用量アスピリン[4]経口投与またはヘパリンの経皮投与あるいはその併用などに変更する必要がある[5][6]。
出血している患者、出血の可能性の有る患者(内臓腫瘍、消化管の憩室炎、大腸炎、亜急性細菌性心内膜炎、重症高血圧症、重症糖尿病等)の他、中枢神経系に受傷(手術を含む)して日の浅い患者では脳・脳幹出血等の危険が有るので禁忌である[1]。重篤な肝障害や腎障害を持つ患者、メナテトレノン(英語版)やイグラチモドを服用中の患者にも禁忌とされている。
その他に重大な副作用として、脳出血等の臓器内出血、粘膜出血、皮下出血、皮膚壊死、肝機能障害、黄疸が挙げられている[1]。
ワルファリンは、医薬品としてだけでなく、殺鼠剤(ネズミ取りの薬剤)として使われることがある。摂取したネズミは、網膜内の内出血で視力低下するため明るいところに出てくるといわれる。最終的には腹腔内の内出血で死亡する。しかし、クマネズミなどでは一部の肝臓の解毒機能の優れた、耐性を持つ個体は生存できる。これが繁殖し、「ワルファリン抵抗性ネズミ」、NHKによる命名で一般化した呼称「スーパーラット」となり問題となる[7]。
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X線結晶解析の結果に拠るとワルファリンは、4-ヒドロキシクマリンと側鎖のケトンがヘミケタールを形成している形と解離している形の2つの構造間で互変異性の状態で存在する[8]。しかし、抗凝固薬として側鎖にケト基の無い4-ヒドロキシクマリン誘導体が多く存在する(フェンプロクモン(英語版)等)事実は、抗凝固作用を発揮する為には非ヘミケタール型となる必要が有る事を示している[9]。
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1920年代に北米で牛が内出血を起こし、出血が止まらず死亡する病気が発生した。1921年にカナダの獣医病理学者フランク・スコフィールドが、その原因が腐敗したスイートクローバーを餌として与えた事が原因と突き止め、1929年にはノースダコタの獣医L.M.ロデリック博士がトロンビン不足によって病気が発生する事を突き止めた。しかし、腐敗したスイートクローバーがなぜこの病気を引き起こしたのかは1940年まで謎であった。1933年にウィスコンシン大学マディソン校のカール・パウル・リンク(en:Karl Paul Link)の研究室でその原因と目される物質が単離された。これがクマリンが腐敗によって変化したジクロマロール(英語版)であり、件の病気の原因物質がこれである事が確定したのは1940年のことであった。
ジクロマロールは1941年に齧歯類の駆除剤として市販され、1948年にその効果を高めるために改良されたのがワルファリンであった。
1951年、アメリカ陸軍でワルファリンを服用して自殺を試みた者がビタミンKの投与で一命を取り留める事件が発生した。この一件でワルファリンは毒物としてだけでなく抗凝固剤として病気の治療にも使える事が分かり、1954年に治療用の医薬品として承認された。この処方が行われた当時の著名人として1955年に心臓発作を起こしたドワイト・D・アイゼンハワー大統領が挙げられる。ワルファリンの抗凝固剤としての機序が解明されたのは1978年の事であった。
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初回投与量を1日1回経口投与した後、数日間かけて血液凝固能検査で目標治療域に入るように用量調節し、維持投与量を決定する。
ワルファリンに対する感受性には個体差が大きく、同一個人でも変化することがあるため、定期的に血液凝固能検査を行い、維持投与量を必要に応じて調節すること。
抗凝固効果の発現を急ぐ場合には、初回投与時ヘパリン等の併用を考慮する。
成人における初回投与量は、ワルファリンカリウムとして、通常1〜5mg 1日1回である。
小児における維持投与量(mg/kg/日)の目安を以下に示す。
12ヵ月未満:0.16mg/kg/日
1歳以上15歳未満:0.04〜0.10mg/kg/日
水に極めて溶けやすく、エタノール(95)に溶けやすい。
水酸化ナトリウム試液に溶ける。
1.0gを水100mLに溶かした液のpHは7.2〜8.3である。
光によって淡黄色となる。
水溶液(1→10)は旋光性を示さない。
リンク元 | 「乳糖水和物」「血液凝固阻止剤」 |
関連記事 | 「ワルファリン」「リン」「k」「Kd」「K」 |
発疹、紅斑、蕁麻疹、皮膚炎、発熱
ワルファリン | ヘパリン | |
投与方法 | 経口可能 | 注射のみ |
in vitro | 有効 | 有効 |
in vivo | 有効 | 無効 |
その他 | 遅行性(12~36時間有する) | ヘパリナーゼ(肝臓)で分解 |
持続性(2~5日有効) |
近位尿細管 | 70% |
遠位尿細管 | 20% |
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