出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/03/19 00:28:27」(JST)
この項目では、コレステロール低下薬について記述しています。アミノ酸については「スタチン (アミノ酸)」をご覧ください。 |
スタチン (Statin)、またはHMG-CoA還元酵素阻害薬は、HMG-CoA還元酵素の働きを阻害することによって、血液中のコレステロール値を低下させる薬物の総称である。
1973年に日本の遠藤章らによって最初のスタチンであるメバスタチンが発見されて以来、様々な種類のスタチンが開発され、高コレステロール血症の治療薬として世界各国で使用されている。近年の大規模臨床試験により、スタチンは高脂血症患者での心筋梗塞や脳血管障害の発症リスクを低下させる効果があることが明らかにされている。
目次
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1971年、三共(現:第一三共)の発酵研究所に所属(当時)していた遠藤章のグループは、HMG-CoA還元酵素を阻害する物質の研究を開始した。HMG-CoA還元酵素はメバロン酸の合成に必要な酵素であり、メバロン酸は菌類の細胞膜・細胞骨格構成成分の重要な素材であることから、自己防衛手段としてこの酵素を阻害する物質を持つ微生物が存在するのではないかと彼らは考えたのである[1]。1973年、6,000種に及ぶ微生物を検索した結果、遠藤らはアオカビの一種 (Penicillium citrinum) から最初のHMG-CoA還元酵素阻害薬であるメバスタチンを発見した[2]。彼らはメバスタチンの構造やHMG-CoA還元酵素を阻害するメカニズムについて解析すると共に、実際に血中のコレステロール値を低下させることができるかどうか、動物実験による検討を行った。ラット・マウスなど齧歯類では再現性のあるデータを得られなかったものの、ニワトリやイヌ、そしてより人間に近いサルでは血中コレステロール値は20-50%程度低下し、メバスタチンの効果を実証することに成功した[3][4]。
ヒトの脂質異常症患者や健康なボランティアを対象にした小規模試験においてもメバスタチンの有効性が示され、1979年に日本国内での臨床試験が開始された。しかし、長期高濃度投与実験を行っていたイヌで副作用が発生したことを受け、臨床試験は1年余りで中止となった[1]。一方、メバスタチンの効果に関心を寄せていたアメリカの大手製薬企業・メルク(MSD)社は、遠藤からサンプルやデータの提供を受けながら独自に研究開発を進めた結果、コウジカビの一種 (Aspergillus terreus) から新たなスタチンであるロバスタチンを分離することに成功した[1]。その後の臨床試験で、ロバスタチンは安全性が比較的高く、メバスタチンと同程度のコレステロール低下作用を持つことが示された[5]。1987年、アメリカ食品医薬品局(FDA)から医薬品としての認可を受け、ロバスタチンは製品化された最初のスタチンとなった[6]。
高コレステロール血症は(心血管障害・脳血管障害を導く)動脈硬化症の主要なリスク要因の一つと考えられている[7]。スタチンの発見は、高コレステロール血症と関連疾患の予防、および基礎研究に多大な進歩をもたらした。遠藤と共同研究を行い、コレステロールの代謝・作用機序を解明したアメリカのマイケル・ブラウンとジョーゼフ・ゴールドスタインの2名に、1985年度のノーベル生理学・医学賞が贈られている。遠藤もまた「スタチンの発見と開発」における一連の業績により、2006年の日本国際賞、さらに2008年には「アメリカのノーベル医学生理学賞」とも言われるラスカー賞(臨床医学研究部門)を受賞した[8]。日本では、東海大学内科助教授(当時)中谷矩章、京都大学老年科教授(当時)北徹、金沢大学内科助教授(当時)馬渕宏らにより、1989年にプラバスタチン(商品名メバロチン)が製品化された。
ロスバスタチンの基本特許満了伴い、国内では2011年11月に後発品が発売されたが、先発企業が有する結晶形の特許回避が困難であり、大型製品であるにも関わらず、わずか5社(うち2社は同一のもの)のみであった。
体内に吸収されたスタチンは、主に肝臓に分布する。スタチンはメバロン酸経路の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素の働きを阻害することで、肝臓でのコレステロール生合成を低下させる。その結果、コレステロール恒常性維持のため肝臓でのLDL受容体発現が上昇し、血液から肝臓へのLDLコレステロールの取り込みが促進される[9]。LDLは一般に「悪玉コレステロール」と呼ばれ、血管壁にアテロームを形成して動脈硬化症の原因となる。コレステロール生合成の抑制が持続することにより、血液中へのVLDL(主にコレステロールとトリグリセリドからなるリポ蛋白)分泌も低下するため、血漿トリグリセリド値も低下する。
スタチンの投与によってみられる副作用には、腹痛・発疹・倦怠感などのほかに、重篤なものとして横紋筋融解症・末梢神経障害・ミオパシー・肝機能障害・血小板減少などがある。このうち横紋筋融解症は急激な腎障害を伴うことがあるため、投与時にはクレアチンキナーゼやミオグロビンなど筋原酵素の動態に注意を払う必要がある。
また、脂質降下薬の一種であるフィブラート系薬剤とスタチンを併用すると、横紋筋融解症の発生リスクが高まることが知られており、これら2剤の併用は原則禁忌とされている。2001年にはセリバスタチンとゲムフィブロジル製剤を併用した症例で高頻度に横紋筋融解症が発生することが報告され、セリバスタチン製剤の自主回収が行われた[10]。
メバスタチン(製品化されず)の発見以降、8種類のスタチンが日本および海外の製薬会社から医薬品として販売されている。
スタチン | 主な商品名 | 製薬会社 | 備考 |
---|---|---|---|
ロスバスタチン(Rosuvastatin) | クレストール | 塩野義製薬/アストラゼネカ | - |
ピタバスタチン | リバロ | 興和創薬 | - |
アトルバスタチン(Atorvastatin) | リピトール | ファイザー/アステラス製薬 | - |
セリバスタチン | バイコール(Baycol)/セルタ | バイエル/武田薬品工業 | 副作用のため2001年以降各国で回収対象 |
フルバスタチン | ローコール | ノバルティスファーマ/田辺三菱製薬 | - |
シンバスタチン(Simvastatin) | リポバス(Zocor) | メルク(MSD)/万有製薬(現:MSD) | - |
プラバスタチン(Pravastatin) | メバロチン(Pravachol) | 第一三共/ブリストル・マイヤーズ スクイブ | 製品化は1989年、後発医薬品あり |
ロバスタチン | メバコール | メルク(MSD) | 初めて製品化されたスタチン(1987年) |
メバスタチン | (未製品化) | - | 最初に発見されたスタチン(1973年) |
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メバロチン錠5
家族性高コレステロール血症
頻度不明
頻度不明
頻度不明
頻度不明
頻度不明
頻度不明
頻度不明
水又はメタノールに溶けやすく、エタノール(99.5)にやや溶けやすい。
吸湿性である。
リンク元 | 「乳糖水和物」「HMG-CoA還元酵素阻害薬」「高脂血症用剤」「メタケイ酸アルミン酸マグネシウム」「プラバスタチン」 |
CYP 代謝による 分類 |
薬物 | 商品名 | 性質1) | CYP代謝 2) |
代謝物の活性 3) |
排泄形態 3) |
bioavailability (%) 3) |
尿中排泄 (%) 2) |
半減期 (hr) 2) | |
定性 | 定量(LogP) | |||||||||
非代謝型 | プラバスタチン | メバロチン | 水溶性 | -0.47 | ほとんどなし | ー | 未変化体 | 18 | 20 | 1ー2 |
ロスバスタチン | クレストール | 水溶性 | ー 5) | 未変化体 5) | 29 | 10 5) | 15~19 5) | |||
ピタバスタチン | リバロ | 脂溶性 | 1.49 | ー | 未変化体 | 60 | <2 | 11 | ||
代謝型 | フルバスタチン | ローコール | 脂溶性 | 1.73 | CYP2C9 | なし | 代謝物 | 10-35 | <6 | 1.2 |
シンバスタチン | リポバス | 脂溶性 | 4.4 | CYP3A4 | あり | 代謝物 | <5 | 13 | 1ー2 | |
アトルバスタチン | リピトール | 脂溶性 | 1.53 | CYP3A4 | あり | (データ無し) | 12 | 2 | 14 | |
1)Prog Med, 18:957-962,1998. 2)Heart, 85:259-264,2001. 3)PHarmacol Ther, 80:1-34 改変 4)興和(株)社内資料 5)添付文書 |
CYP | 代謝されるスタチン | 代謝される薬物 | 強く阻害する薬物 |
CYP2C9 | フルバスタチン | ワーファリン ジクロフェナク フェニトイン |
サルファ剤 ST合剤 |
CYP3A4 | シンバスタチン セリバスタチン アトルバスタチン |
ニフェジピン シクロスポリン ジルチアゼム など多数 |
エリスロマイシン シメチジン イトラコナゾール ベラパミル |
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