出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/12/24 10:47:51」(JST)
ヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:HPV)はパピローマウイルス科に属するウイルスの一つ。ヒト乳頭腫ウイルス(ヒトにゅうとうしゅウイルス)とも言われる。パピローマまたは乳頭腫と呼ばれるいぼを形成することから名付けられた。一部の型のウイルスに対してはヒトパピローマウイルスワクチンが開発されている。
環状構造の二本鎖DNAウイルス。全世界的に古くから存在していた。現在では100種類以上の型が報告されている。正20面体のカプシドで覆われており、遺伝子サイズは種類により異なるがだいたい約8,000塩基ほどで、8から9のオープンリーディングフレーム(ORF:蛋白をコードしていると推定される遺伝子。しかしその遺伝子産物は同定されていない)を含んでいる。欧米の子宮頸癌でよく発見される16型HPVの場合、初期遺伝子 (E1,E2,E4,E5,E6,E7) と後期遺伝子(L1とL2)というORFを持っている。その中で特にE6とE7が発癌に関与していると考えられている。
E6はがん抑制遺伝子であるp53と結合し分解することで発癌に寄与している。E6はそれ以外にもhTERTの再活性化やPDZドメインを持つたんぱく質を分解することで発癌に寄与している。E7はp53と同様がん抑制遺伝子であるpRbと結合、分解・不活化することでpRbと結合している転写因子であるE2Fを遊離し活性化することで発がんに寄与している。それ以外にもE7はcdk阻害因子であるp21、p27と相互作用することで発癌に寄与している。
それ以外のウイルスがコードするタンパク質ではE1はDNAヘリカーゼ活性を有し、E2と結合することでウイルスゲノムの複製に関与している。E2はE1と同様ウイルスゲノムの複製に関与するが、ウイルス遺伝子の発現調節に関わるLCR (Long Control Region) 上に結合ドメインがあり、初期遺伝子の発現調節(特にE6、E7)に関わっている。E4はサイトケラチンのネットワーク崩壊、E5はEGFRの活性化などが報告されているが、これらのウイルスタンパクの明確な機能は明らかにされていない。L1とL2はキャプシドタンパクでL1のみでVLPを形成できることが知られている。後半に記述しているGardacilやCervarixなどはいくつかの型のL1をもとに作製したワクチンである。L2はキャプシド形成に補助的に働いていることが知られている。
通常、ウイルスは自己の複製を促すため感染細胞の増殖能を上げるために分化を抑制することが多いが、HPVのゲノム複製は分化依存的に行われる。そのため、単層培養系ではウイルスのライフサイクルを再現することが出来ず、純培養が不可能なウイルスである。
HPVは現在までに100種類以上存在が確認され、発見順に番号がつけられている。
HPVは接触感染で皮膚や粘膜の微小な傷から侵入し、扁平上皮基底部の細胞に感染する。感染HPV は血中に侵入しないのでウイルス血症を起こさない。また感染した細胞を破壊せずウイルス粒子を大量に放出させることもない。このため抗原提示細胞の活性化や抗原認識の過程が回避され、免疫が誘導されにくい[2]。
HPV 感染の70%が1年以内に消失し、約90%が2年以内に消失する。しかし上記のメカニズムによって、一生涯有効な免疫記憶が形成されないため、自然感染後の抗体産生が十分でなく、同じHPV型への感染が何度も起こると考えられている [3]。
HPVが血液感染するかどうかは、2014年7月現在、判明していない。
一般に上皮に対する親和性が強く、それぞれ種類によって生じてくる疾患は異なっている。
米国メルク社より尖圭コンジローマと子宮頸癌の原因ウイルスであるHPV6 、11、16、18型のワクチン「商品名GARDASIL(ガーダシル)」が開発され、2006年6月にアメリカ食品医薬品局で承認された。WHO世界保健機関から品質や安全性の基準など満たすワクチンとして認定されている。 米国でのHPV未感染女性を対象にした、ガーダシルを用いた4つの大規模臨床試験の結果を総合すると、前癌状態であるCIN2、CIN3、AISに対し、99%の発症予防効果があった[4][5]。
次いで英国グラクソ・スミスクライン社よりHPV16、18型のワクチン「商品名Cervarix(サーバリックス)」が開発され、2007年5月に10歳~45歳の女性用としてオーストラリアの医薬品審査当局で承認された。なお、有効性認可はないがHPV31、45型などの他の腫瘍性HPV型に対しても予防効果も示唆されている。
日本では2007年9月にグラクソ・スミスクライン社がサーバリックスの承認を申請し、2009年10月に承認された。次いで2007年12月に萬有製薬(現メルク社日本法人MSD社)がガーダシルの承認を申請した。欧米ではHPV 16型と18型の割合が多い(約70 - 80%)のに対し、日本では割合がやや低い(約60 - 70%)ので欧米より有効性が低い可能性がある。
HPVワクチンはあくまでも予防ワクチンであり、治療ワクチンではない[6]。しかし、抗体陽性であるがウイルスDNA陰性(過去の感染が排除された証拠)の女性においては、ブースター効果によって抗体価が増幅され、その結果、同じ型のHPVのその後の感染は防がれる[7]。CIN治療ワクチンは現在治験中である [8]。
すでにHPVに感染した人に対しては無効であり既感染者への接種はスティミュレーションによる悪化[要出典]を危惧する学者[誰?]もいる。26歳以上の女性に安全・有効であるかの検証は現在進行しているところであるが、臨床試験の中間報告ではHPV抗体価の10倍以上の上昇と、従来の接種対象年齢と変わらぬ安全性が示されている[7]。
注意しなければならないのは、本ワクチンは子宮頸癌等の定期健診を不要にするものではないことである。 ガーダシルなら6、11、16、18型、サーバリックスなら16、18型以外が原因になる癌(子宮頸癌では20 - 30%)には効果が認定されていない。ワクチン接種時点での既感染ウイルスにも無効である。WHOなど世界の多くの機関・団体で、ワクチン接種に加えて接種後の定期健診が重要だとしている。
2013年4月よりHPVワクチンは定期接種となった。しかしその後、ワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛が見られたとして、厚生労働省は、定期接種の中止は行わないものの積極的な接種勧奨を差し控えるよう、2013年6月14日、自治体向けに勧告した [9]。
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ベセスダシステム | 推定病変 | 用語説明 | 日母分類 |
NILM | 非腫瘍性病変, 炎症 | 陰性 | I/II |
ASC-US | 軽度扁平上皮内病変(LSIL)疑い | 意義不明異型扁平上皮 | II/IIIa |
ASC-H | 高度扁平上皮内病変(HSIL)疑い | 高度病変を除外できない異型扁平上皮 | III/IIIb |
LSIL | HPV感染, 軽度異形成 | 軽度扁平上皮内病変 | IIIa |
HSIL | 中等度異形成, 高度異形成, 上皮内癌 | 高度扁平上皮内病変 | IIIa, IIIb, IV |
SCC | 扁平上皮癌(微小浸潤含む) | 扁平上皮癌 | V |
AGC | 腺異形成, 腺系病変疑い | 異型腺細胞 | III |
AIS | 上皮内腺癌 | 上皮内腺癌 | IV |
adenocarcinoma | 腺癌 | 腺癌 | V |
other | その他のがん | その他の悪性腫瘍 | V |
子宮頸癌 | 0期(上皮内癌) | 上皮内癌 | ・円錐切除(挙児希望) ・円錐切除or単純子宮全摘術(挙児希望なし) | ||
I期 子宮頚部に限局 |
Ia期 微小浸潤癌 |
Ia1期 | (微小浸潤癌) 病理組織 間質浸潤 深さ3mm以内 幅7mmを超えない |
・円錐切除(挙児希望) ・単純子宮全摘術(挙児希望なし) | |
Ia2期 | (微小浸潤癌) 病理組織 間質浸潤 深さ3-5mm以内 幅7mmを超えない |
・(準)広汎子宮全摘術+骨盤リンパ節郭清術 ・広汎子宮全摘術 | |||
Ib期 | Ib1期 | 4cm以下 | ・広汎子宮全摘術 | ||
Ib2期 | 4cmを超える | ・広汎子宮全摘術 ・放射線療法 ・同時科学放射線療法 | |||
II期 頸部を超えて進展かつ 骨盤壁or膣壁下1/3に達しない |
IIa期 | 膣壁浸潤のみ | ・広汎子宮全摘術 ・放射線療法 ・同時科学放射線療法 | ||
IIb期 | 子宮傍組織浸潤のみ | ・広汎子宮全摘術 ・放射線療法 ・同時科学放射線療法 | |||
III期 骨盤壁に達するor 膣壁浸潤下1/3 |
IIIa期 | 膣壁浸潤下1/3 | ・放射線療法 ・同時科学放射線療法 | ||
IIIb期 | 骨盤壁に達する | ・放射線療法 ・同時科学放射線療法 | |||
IV期 膀胱,直腸の粘膜へ浸潤or 小骨盤を超えて進展 |
IVa期 | 膀胱,直腸の粘膜へ浸潤 | ・放射線療法 ・同時科学放射線療法 | ||
IVb期 | 小骨盤を超えて進展 | ・放射線療法 ・化学療法 |
進行期 | 外部照射(Gy) | 腔内照射(Gy/ 回,A点線量) | ||
全骨盤 | 中央遮蔽 | |||
Ⅰ | 0 | 45~50 | '29/5 | |
Ⅱ | 小 | 0 | 45~50 | '29/5 |
大 | 20 | 30 | '23/4 | |
Ⅲ | 小~中 | 20~30 | 20~30 | '23/4 |
大 | 30~40 | 20~25 | '15/3~20/4 | |
ⅣA | 30~50 | 10~20 | '15/3~20/4 |
病期 | 症例数 | 5年相対生存率 |
I期 | 1137 | 92.1% |
II期 | 447 | 69.8% |
III期 | 428 | 48.9% |
IV期 | 151 | 17.2% |
胎内感染 | 分娩時感染 | 母乳時感染 | ||||
経胎盤感染 | 上行性感染 | 経胎盤感染 | 産道感染 | 母乳感染 | ||
ウイルス | 風疹ウイルス | ○ | × | × | × | × |
サイトメガロウイルス | ○ | × | × | △ | △ | |
ヒトパルボウイルスB19 | ○ | × | × | × | × | |
水痘・帯状疱疹ウイルス | △ | × | × | ○ | × | |
単純ヘルペスウイルス | △ | △ | × | ○ | × | |
B型肝炎ウイルス | △ | × | △ | ○ | × | |
C型肝炎ウイルス | △ | × | △ | ○ | × | |
成人T細胞白血病ウイルス1型 | △ | × | × | × | ○ | |
ヒト免疫不全ウイルス | △ | △ | △ | ○ | △ | |
細菌 | 梅毒トレポネーマ | ○ | × | × | △ | × |
淋菌 | × | × | × | ○ | × | |
B群連鎖球菌 | × | × | × | ○ | × | |
真菌 | カンジダ・アルビカンス | × | × | × | ○ | × |
原虫 | トキソプラズマ | ○ | × | × | × | × |
クラミジア | クラミジア・トラコマチス | × | × | × | ○ | × |
病原体 | 疾患 | 感染経路 | 問題となる感染時期 | 母体 | 胎児 | |
ウイルス | 風疹ウイルス | 先天性風疹症候群 | 経胎盤感染 | 妊娠12週未満。18週未満は軽微 | 初感染妊婦 | |
サイトメガロウイルス | 巨細胞封入体症 | 経胎盤感染 | 妊娠前半 | 初感染妊婦。感冒様症状 | 小頭症、脳内石灰化、精神遅滞、網脈絡膜炎、感音性難聴、貧血、黄疸、出血斑、低体重児、肝脾腫 | |
ヒトパルボウイルスB19 | 経胎盤感染 | 妊娠20週未満 | 伝染性紅斑 | 非免疫性胎児水腫、胎児死亡 | ||
水痘・帯状疱疹ウイルス | 先天性水痘症候群 | 産道感染 | 妊娠20週未満 | 初感染妊婦 | 精神遅滞、網脈絡膜炎、皮膚瘢痕、四肢低形成、低出生体重児 | |
単純ヘルペスウイルス | 新生児ヘルペス | 産道感染 | ~ | 中枢神経:小頭症、眼:脈絡網膜炎、角結膜炎、皮膚:水疱疹 | ||
B型肝炎ウイルス | 産道感染 | ~ | 無症候キャリアー化 | |||
C型肝炎ウイルス | 産道感染 | ~ | ||||
成人T細胞白血病ウイルス1型 | 母乳感染 | ~ | ||||
ヒト免疫不全ウイルス | HIV感染症 | 産道感染 | ~ | HIV感染症 | HIV感染症 | |
細菌 | 梅毒トレポネーマ | 先天梅毒 | 経胎盤感染 | 妊娠14週以降 | 梅毒 | 水頭症、難聴、老人様顔貌、鼻炎、粘膜斑(梅毒性天疱瘡)、黄疸、貧血、点状出血、パロー仮性麻痺、肝脾腫、骨軟骨炎 晩発性梅毒、ハッチンソン三徴 |
淋菌 | 淋疾 | 産道感染 | ~ | 産科合併症(流産・早産、前期破水、絨毛膜羊膜炎、子宮内膜炎) | 化膿性結膜炎(膿漏眼) | |
B群連鎖球菌 | B群連鎖球菌感染症 | 産道感染 | ~ | 常在菌 | 髄膜炎 | |
真菌 | カンジダ・アルビカンス | 産道感染 | ~ | 常在菌。カンジダ膣炎 | 口腔内カンジダ症 | |
原虫 | トキソプラズマ | 先天性トキソプラズマ症 | 経胎盤感染 | 妊娠中後期 | 初感染妊婦。無症状 | 脳室拡大、小頭症、脳内石灰化、髄膜炎、精神遅滞、脳性麻痺、けいれん、網脈絡膜炎、黄疸、発疹、貧血、リンパ節腫脹、肝脾腫、低出生体重児 |
クラミジア | クラミジア・トラコマチス | 産道感染 | ~ | 無症状。早産・流産 | 新生児結膜炎、新生児肺炎 |
部位 | 悪性腫瘍 | ||
咽頭 | 咽頭癌 | ||
上咽頭 | 上咽頭癌 | ||
中咽頭 | 中咽頭癌 | ||
下咽頭 | 下咽頭癌 | ||
喉頭 | 喉頭癌 | ||
口腔 | 口腔癌 | ||
副鼻腔 | 副鼻腔癌:耳鼻咽喉科悪性腫瘍の12%を占める。好発年齢は60-80。男女比=3:2 |
9歳以上の女性に、1回0.5mLを合計3回、筋肉内に注射する。通常、2回目は初回接種の2ヵ月後、3回目は6ヵ月後に同様の用法で接種する
呼吸器粘膜の局所感染 | ライノウイルス |
アデノウイルス | |
コロナウイルス | |
RSウイルス | |
インフルエンザウイルス | |
全身感染 | ムンプスウイルス |
麻疹ウイルス | |
風疹ウイルス | |
ハンタウイルス | |
水痘・帯状疱疹ウイルス | |
ラッサウイルス | |
天然痘ウイルス |
目(order, -virales), 科(family, -viridae), 亜科(subfamily, -virinae), 属(genus, -virus), 種(species)
.