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脳死(のうし、英: brain death)とは、ヒトの脳幹を含めた脳すべての機能が不可逆的に回復不可能な段階まで低下して回復不能と認められた状態のことである。ただし国によって定義は異なり、大半の国々は大脳と脳幹の機能低下に注目した「全脳死」を脳死としているが、イギリスでは脳幹のみの機能低下を条件とする「脳幹死」を採用している。日本では、脳死を「個体死」とする旨を法律に明記していない。
古来、人間の死とは心停止であることが自明のことであったため、医学的に厳密に定義することはさほど重要ではなかった。一般に、脳、心臓、肺すべての機能が停止した場合(三徴候説)と考えられており、医師が死亡確認の際に呼吸、脈拍、対光反射の消失を確認することはこれに由来している。順序としては一般に
という過程を辿ることになる。
しかし医療技術の発達により、脳の心肺機能を制御する能力が喪失していても(そのため自発呼吸も消失していても)、人工呼吸器により呼吸と循環が保たれた状態が出現することとなった。すなわち、
これらが一定の手順によって確認された状態が脳死である。脳死は、心肺機能に致命的な損傷はないが、頭部にのみ(例えば何らかの事故を原因として)強い衝撃を受けた場合やくも膜下出血等の脳の病気が原因で発生することが多い。
脳死に近似した状態は、人工呼吸器が開発・実用化された1950年代頃に現れるようになり、当時は「超昏睡」や「不可逆昏睡」などと呼ばれた。本来、脳死に陥った患者は随意運動ができず、何も感じず、近いうちに(あるいは人工呼吸器を外せば)確実に心停止するとされる状態の筈であるが、ラザロ徴候など脳死者の中には、自発的に身体を動かすことがあるなど[1]、それを否定するような現象の報告例も見られることや、呼吸があり心臓が動いている、体温が維持されることなどから、一般人にとって脳死を人の死とすることに根強い抵抗が存在する。日本においては臓器提供時を除き、脳死を個体死とすることは法律上いまだ認められていない。国や宗教によって賛否はさまざまである。
脳細胞は高度な機能を支える分、エネルギー消費量が多いため、酸素不足に弱く、心肺停止により脳への酸素の供給が絶たれると直ぐに死滅し始める。 まず数分の内に人間の知的な精神活動を支えている大脳皮質の脳細胞の大部分が死滅する。この時点で外部刺激に対して意味のある応答を返せなくなる失外套症候群になり、社会復帰は絶望的となる。 次に、十数分で脳機能の大半が廃絶し、回復不能となる。この段階では生命維持すら困難になる。
日本では、脳の機能は完全に解明されておらず脳死とされる状態においても脳としての機能が恒久的に消失した状態にあるということを完全に証明することが出来ない、また仮に脳機能が完全に消失していたとしても、無機物にも魂が宿っているともされてきた日本の文化として、脳機能の消失だけを以って直接的に人間としての死でもあると断定的に結びつけることには無理があると主張された。しかし、実際には欧米でも一般人は日本と同じように脳死という新しい観念を受け入れるのには相当の抵抗を示し、臨床的脳死(後述)の状態でありながらちゃんと呼吸をしている患者の延命措置を停止には多くの遺族が日本と同じように反対する事例は多い[2]。また臓器などの摘出に関しても、「欧米と違い」日本人は特別な文化的執着があると論じられているが、例えばイギリスで病院が死亡した幼児の臓器を後の検死のために親に無断で摘出・保存していたことが発覚し、一大スキャンダルとなり、複数の親が臓器を病院側から取り戻した後、遺体を掘り起こし、取り戻した臓器と合わせて葬式と埋葬をやり直すまでの事態に発展している[3]。しかし、脳死を合理的で科学優先の欧米文化の観念とし、これを感情的・霊的文化を有する日本文化となじまないとの日本文化論が、脳死および臓器移植に対する反対論として長らく日本では展開された。一方で一般人の生死観に関わらず臓器移植が早急に普及した欧米では、移植においてはあくまで本人による生前のドナー合意(及び遺族からの合意)が確認される時のみとの立場が徹底されため、このような一般人の心情を文化論に昇華させて臓器移植に反対するという論争が起こった。
診察・検査結果などから、明らかに脳死であろうと判断された状態を臨床的脳死と呼ぶ。
しかし、臓器移植などの目的で脳死を法的に示す必要のある場合は手順に則った脳死判定が行われる。このような目的がないときに脳死判定をすることはできない。なぜなら、判定基準は呼吸器を外して自発呼吸を確認するなど患者の状態をさらに悪化させるリスクのある検査項目も含まれるためである。
なお、日本における法的な脳死の定義については「臓器の移植に関する法律」第6条の規定による。同法による臓器移植による脳死判断の初適応は1999年2月28日である。
すなわち、日本において法的に脳死と認められるのは、臓器提供のために法的脳死判定を行った場合のみに限られ、臨床的に脳死状態とされても、それは法的には脳死とは見なされない。よって厳密には臨床的脳死という状態は法的には人の生死に関して意味がない。
初期の脳死判定では、脳死判定基準の違反によるものと考えられる事例が発生している。日本国内で1例目である脳死患者がメスを入れられた際に心拍数と血圧が上がり[4]激しい手足の動きが発生した。
このことから、明らかに脳死でもない人間から、臓器を摘出するために故意に死亡させたことになり、日本弁護士連合会及び一部の人権団体から、殺人罪・業務上過失致死傷罪であるとの指摘がなされている[5][6]。
以下は日本脳神経外科学会による脳死判定基準である[7]。
脳死判定は移植に関係のない、脳死判定の経験のある2名以上の医師で行う。6時間後に2回目の判定を行う。なお、脳死判定に先立って臨床的脳死判定する場合は1~4を確認する。
2回目の判定が終了した時刻を死亡時刻とする。
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法的脳死判定の項目 | 具体的検査方法 | 脳内の検査部位と結果 | 参考 |
1.深い昏睡 | 顔面への疼痛刺激(ピンで刺激を与えるか、まゆげの下あたりを強く押す) | 脳幹(三叉神経):痛みに対して反応しない 大脳:痛みを感じない |
まゆ毛の下には三叉神経が通っていて、強く押すとかなり痛みます。 JCS=300, GCS=E1V1M1 |
2.瞳孔の散大と固定 | 瞳孔に光をあてて観察 | 脳幹:瞳孔が直径4mm以上で、外からの刺激に変化がない | 正常時には、瞳孔は副交感神経と交感神経のバランス調整によって大きくなったり、小さくなったりします。 |
3.脳幹反射の消失 | のどの刺激(気管内チューブにカテーテルを入れる | 咳こまない=咳反射がない | 脳幹に存在する第2~第12脳神経全てをチェックできます。 (第1脳神経は嗅神経で脳幹にはありません) 咳反射、角膜反射、前庭反射、対光反応、咽頭反射、眼球頭反射、毛様脊髄反射 ※ 自発運動、除脳硬直、除皮質硬直、痙攣があれば除外 |
角膜を綿で刺激 | まばたきしない=角膜反射がない | ||
耳の中に冷たい水を入れる | 眼が動かない=前庭反射がない | ||
瞳孔に光をあてる | 瞳孔が小さくならない=対光反応がない | ||
のどの奥を刺激する | 吐き出すような反応がない=咽頭反射がない | ||
顔を左右に振る | 眼球が動かない=眼球頭反射がない(人形の目現象) | ||
痛みを与える | 瞳孔が大きくならない=毛様脊髄反射がない | ||
4.平坦な脳波 | 脳波の検出 | 大脳:機能を電気的に最も精度高く測定して脳波が検出されない | 正常時には神経細胞の情報伝達は電位の変化(脳波)によって表される |
5.自発呼吸の停止 | 無呼吸テスト (人工呼吸器をはずして一定時間経過観察) |
脳幹:(呼吸中枢):自力で呼吸できない | 正常時には、脳幹が呼吸や血圧の調整を行っています。 |
6.6時間以上経過した後の 同じ一連の検査 (2回目) | 上記5種類の検査 | 状態が変化せず不可逆的(二度と戻らない状態)であることの確認 | 絶対に過誤をおこさない為の確認です |
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