エポエチンベータ
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エリスロポエチン(erythropoietin; EPO、英語発音: /iˌriθrouˈpɔiətn/ イリスロウポイァトゥン)とは、赤血球の産生を促進するホルモン。肝臓でも生成されるが、主に腎臓で生成される。9割が腎臓で産生されているとも言われる。このため慢性腎不全になると、エリスロポエチンが必要なだけ得られなくなるため、貧血が起こる。腎臓のどこで産生されているのかは最近まで定かでなく、傍糸球体装置や近位尿細管、血管内皮細胞など諸説存在していたが、近年トランスジェニックマウスの解析から尿細管間質細胞と明らかにされた。分子量は約34000、165個のアミノ酸から構成されている。 血液中のエリスロポエチンは、貧血、赤血球増加症などの鑑別診断に用いられる。
医薬品としては、エポエチンアルファ(商品名エスポー)、エポエチンベータ(商品名エポジン)といった遺伝子組換えによるエリスロポエチン製剤があり、腎性貧血に用いられる。日本では保険適応上、腎性貧血にのみ用いられているが、欧米では各種悪性疾患にともなう貧血などにも用いられている。
赤血球の増加効果に着目し、かなり以前から持久力を高める目的で自転車競技やサッカー等のドーピングに使用されているとの指摘がある。しかし元々体内に存在する自然物質でその使用の判別が難しい為、ヘマトクリット(血液中に占める血球の容積率)、ヘモグロビン、網状赤血球数などを用いてドーピングのスクリーニングを行っているケースが多い。スクリーニング検査による疑い例は、尿を材料として電気泳動法によって遺伝子組換えエリスロポエチンを検出している。
調節機構
エリスロポエチンは、腎臓の尿細管間質細胞で産生されている。エリスロポエチンの産生は、血液中の酸素分圧によって調節されている。エリスロポエチンの転写調節機構はいくつか報告されているが、低酸素応答性の転写因子であるHIF (hypoxia inducible factors)が代表的なものである。HIFは酸素濃度が高いときには分解され、低酸素のときには核内に移行してエリスロポエチンの転写を促進する。 つまり、慢性的な低酸素状態となった時にエリスロポエチンの産生が促進されるのである。したがって、貧血などでもエリスロポエチンの産生は促進される。
エリスロポエチンは赤血球上のエリスロポエチンレセプター(EpoR)に結合し、JAK2カスケードを活性化する。このEpoRは多くの骨髄細胞、白血球、末梢・中枢神経に発現しており、Epoに結合することで細胞内のシグナル伝達に関わっている。
分子構造
分子式 |
C809H1301N229O229S5 |
分子量 |
18,235.96 |
配列構造 |
APPRLICDSRVLERYLLEAKEAENITTGCA EHCSLNENITVPDTKVNFYAWKRMEVGQQA VEVWQGLALLSEAVLRGQALLVNSSQPWEP LQLHVDKAVSGKRSKTTLLRALGAQKEAIS PPDAASAAPLRTITADTFRKLFRVYSMFLR GKLKLYTGEACRTGDR
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実際には、24, 38, 83番目の太字の3つのN(アスパラギン)残基にはN結合型糖鎖が、126番目の斜体字のS(セリン)残基にはO結合型糖鎖が付加しており、分子量は遙かに大きい。また、糖鎖を除去するとエリスロポエチンの活性はなくなる。さらに7と161番目のC(システイン)残基間と29と33番目のシステイン残基間にはジスルフィド結合が形成されている。
内分泌器:ホルモン(ペプチドホルモン、ステロイドホルモン) |
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視床下部 - 脳下垂体 |
視床下部
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GnRH - TRH - ドーパミン - CRH - GHRH - ソマトスタチン - ORX - MCH - MRH - MIH
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脳下垂体後葉
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バソプレッシン - OXT
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脳下垂体中葉
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インテルメジン
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脳下垂体前葉
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αサブユニット糖タンパク質ホルモン(FSH - LH - TSH) - GH - PRL - POMC(ACTH - MSH - エンドルフィン - リポトロピン)
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副腎 |
副腎髄質
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副腎髄質ホルモン(アドレナリン - ノルアドレナリン - ドーパミン)
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副腎皮質
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副腎皮質ホルモン(アルドステロン - コルチゾール - DHEA)
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甲状腺 |
甲状腺
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甲状腺ホルモン(T3 - T4 - カルシトニン)
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副甲状腺
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PTH
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生殖腺 |
精巣
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テストステロン - AMH - インヒビン
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卵巣
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エストラジオール - プロゲステロン - インヒビン/アクチビン - リラキシン(妊娠時)
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その他の内分泌器 |
膵臓
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グルカゴン - インスリン - ソマトスタチン
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松果体
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メラトニン
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内分泌器でない器官 |
胎盤:hCG - HPL - エストロゲン - プロゲステロン - 腎臓:レニン - EPO - カルシトリオール - プロスタグランジン - 心臓:ANP - BNP - ET - 胃:ガストリン - グレリン - 十二指腸:CCK - GIP - セクレチン - モチリン - VIP - 回腸:エンテログルカゴン - 脂肪組織:レプチン - アディポネクチン - レジスチン - 胸腺:サイモシン - サイモポイエチン - サイムリン - STF - THF - 肝臓:IGFs(IGF-1 - IGF-2) - 耳下腺:バロチン - 末梢神経系:CGRP - P物質
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誘導タンパク質 |
NGF - BDNF - NT-3
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UpToDate Contents
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Japanese Journal
- Industrial Info. 遺伝子組換えエリスロポエチン製剤(エポジン注)の開発の歴史
- 鈴木 正司,斎藤 明,下条 文武,西沢 良記,秋澤 忠男,富野 康日己,椿原 美治,秋葉 隆,平方 秀樹,渡邊 有三,川西 秀樹,別所 正美,大橋 靖雄
- 日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy 41(4), 251-254, 2008-04-28
- … 血液透析導入患者の腎性貧血治療における目標Hb値と生命予後の関係を検討する目的で,エポジン注特定使用成績調査が実施されている.今回,2007年6月までにデータが収集された症例について,導入時の患者背景および導入3か月後の貧血治療状況を検討した.その結果,導入時にはすでに循環器系疾患の既往歴および合併症を有した症例が多いこと,導入時の平均Hb値は欧米に比べ極めて低値であることが判明した. …
- NAID 10021274421
Related Links
- エポジン注アンプル1500,エポエチン ベータ(遺伝子組換え)注射液.
- エポジン注シリンジ6000,エポエチン ベータ(遺伝子組換え)キット.
Related Pictures
Japan Pharmaceutical Reference
薬効分類名
販売名
エポジン注シリンジ750
組成
成分・含有量:有効成分:1シリンジ(0.5mL)中
- エポエチン ベータ(遺伝子組換え)注2):750国際単位(IU)
成分・含有量:添加物:1シリンジ(0.5mL)中
- L‐塩酸ヒスチジン 0.675mg
ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール 0.250mg
等張化剤(塩化ナトリウム)、pH調整剤(リン酸水素ナトリウム水和物、水酸化ナトリウム、希塩酸注3))
- 注2)本剤は、チャイニーズハムスター卵巣細胞を用いて製造される。
- 注3)必要に応じて添加
禁忌
- 本剤又は他のエリスロポエチン製剤・ダルベポエチン アルファ製剤に過敏症の患者
効能または効果
透析施行中の腎性貧血
透析導入前の腎性貧血
未熟児貧血
透析施行中の腎性貧血
- 通常、成人にはエポエチンベータ(遺伝子組換え)として、投与初期は、1回3000国際単位を週3回、できるだけ緩徐に静脈内投与する。
貧血改善効果が得られた後は、維持量として、1回1500国際単位を週2?3回、あるいは1回3000国際単位を週2回投与する。なお、いずれの場合も貧血の程度、年齢等により適宜増減するが、維持量での最高投与量は、1回3000国際単位、週3回投与とする。貧血改善効果の目標値はヘモグロビン濃度で10g/dL(ヘマトクリット値で30%)前後とする。
透析導入前の腎性貧血
- 通常、成人にはエポエチンベータ(遺伝子組換え)として、投与初期は、1回6000国際単位を週1回、できるだけ緩徐に静脈内投与する。貧血改善効果が得られた後は、維持量として、患者の貧血の程度、年齢等により、1週あたり6000国際単位以下の範囲で適宜調整する。貧血改善効果の目標値はヘモグロビン濃度で10g/dL(ヘマトクリット値で30%)前後とする。
未熟児貧血
- 通常、未熟児にはエポエチンベータ(遺伝子組換え)として、1回200国際単位/kgを週2回皮下投与する。
ただし、未熟児早期貧血期を脱し、ヘモグロビン濃度が10g/dL(ヘマトクリット値で30%)前後で臨床症状が安定したと考えられる場合は投与を中止すること。
なお、貧血症状の程度により適宜増減する。
未熟児貧血
- 増量については、出生体重、在胎期間を考慮し、貧血によると考えられる臨床症状、合併症、急激なヘモグロビン濃度の低下等に十分留意して慎重に判断すること。(「その他の注意」及び「臨床成績3.」の項参照)
慎重投与
- 心筋梗塞、肺梗塞、脳梗塞等の患者、又はそれらの既往歴を有し血栓塞栓症を起こすおそれのある患者[本剤投与により血液粘稠度が上昇するとの報告があり、血栓塞栓症を増悪あるいは誘発するおそれがあるので観察を十分に行うこと。]
- 高血圧症の患者[本剤投与により血圧上昇を認める場合があり、また、高血圧性脳症があらわれることがある。]
- 薬物過敏症の既往歴のある患者
- アレルギー素因のある患者
- 脳室内出血及び脳実質内出血を有する未熟児[本剤投与により脳内出血を増悪する可能性がある。]
重大な副作用
ショック、アナフィラキシー様症状
- ショック、アナフィラキシー様症状(蕁麻疹、呼吸困難、口唇浮腫、咽頭浮腫等)を起こすことがあるので、観察を十分に行い異常が認められた場合には、投与を中止し、適切な処置を行うこと。
高血圧性脳症、脳出血
- 急激な血圧上昇により、頭痛・意識障害・痙攣等を示す高血圧性脳症、高血圧性脳出血があらわれる場合があるので、血圧等の推移に十分注意しながら投与すること。
心筋梗塞、肺梗塞、脳梗塞
- 心筋梗塞、肺梗塞、脳梗塞があらわれることがあるので、観察を十分に行い異常が認められた場合には、投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
肝機能障害、黄疸
- AST(GOT)、ALT(GPT)、γ‐GTPの上昇等を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い異常が認められた場合には、投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
赤芽球癆
- 抗エリスロポエチン抗体産生を伴う赤芽球癆があらわれることがあるので、その場合は投与を中止し、適切な処置を行うこと。
薬効薬理
赤血球増加作用
- 正常ラット、マウスにおいて網状赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値、赤血球数の用量依存的な増加が認められた15,16)。
- 各種腎性貧血モデル動物(5/6腎摘ラット17)、慢性腎炎ラット18)、腎不全イヌ19))において赤血球増加による著明な貧血改善効果が認められた。
- 本剤とヒト尿由来エリスロポエチンの造血効果を、正常ラット及び5/6腎摘ラットを用いて比較したとき、両者間に有意な差は認められなかった16)。
- 本剤をマウスに連日静脈内投与したとき、骨髄と脾臓における赤芽球コロニー形成細胞(CFU‐E)数が有意に増加した。CFU‐E数(骨髄)の増加のピークは2日目にみられたのに対し、網状赤血球の増加のピークは5日目にみられた20)。
作用機序
- ヒト由来の天然エリスロポエチンと基本的に差異のない構造を有する糖蛋白質性の造血因子で、骨髄中の赤芽球系前駆細胞に働き、赤血球への分化と増殖を促すと考えられている。
- マウスの骨髄細胞を本剤存在下で培養し、コロニー形成能を測定した結果、CFU‐Eをはじめとして赤芽球バースト形成細胞(BFU‐E)、巨核球系前駆細胞(CFU‐Meg)にも作用したが、顆粒球マクロファージ系前駆細胞(CFU‐GM)には全く作用しなかった(in vitro)16)。
有効成分に関する理化学的知見
一般名
- エポエチン ベータ(遺伝子組換え)
(Epoetin Beta(Genetical Recombination))(JAN)
本 質
- ヒト肝細胞のmRNAに由来するヒトエリスロポエチンcDNAの発現により、チャイニーズハムスター卵巣細胞で産生される165個のアミノ酸残基(C809H1301N229O240S5;分子量:18,235.70)からなる糖蛋白質(分子量:約30,000)
★リンクテーブル★
[★]
商品
[★]
- 英
- epoetin
- 商
- エスポー、エポジン、ミルセラ
- 関
- エポエチンアルファ
他に分類されない代謝性医薬品
[★]
- 英
- epoetin beta
- 商
- エポジン、ミルセラ
- 関
- エリスロポエチン