出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2012/10/30 12:19:16」(JST)
脳: 大脳辺縁系 | |
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辺縁系
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名称 | |
日本語 | 大脳辺縁系 |
英語 | limbic system |
関連情報 | |
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大脳辺縁系(だいのうへんえんけい、英: limbic system)は人間の脳で情動の表出、意欲、そして記憶や自律神経活動に関与している複数の構造物の総称である。limbicの語源のラテン語であるlimbusは、edge すなわち「辺縁」の意である。
目次
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フランスの内科医であるブローカ(Paul Broca)は1878年に、上部脳回を包み込んでいる大脳の一部(脳回)を大脳辺縁葉"le grande lobe limbique"と呼称した。
しかし、この部位に情動に関与する機能が想定されるようになったのは1937年に、アメリカの神経解剖学者であるパペッツ(またはペーペッツ、James Papez)が情動に関する彼の解剖学的モデルを提示してからである。パペッツは「帯状回が興奮すると、海馬体、乳頭体、視床前核を経て帯状回に刺激が戻る」という神経回路を想定し、この回路が持続的に興奮することで情動が生まれるのではないか、と考えた。このモデルはのちに、必ずしも正しくないと考えられるようになっているが、現在でも古典的な「パペッツの情動回路 Papez circuit」として知られている。
パペッツの理論はマクレーン(Paul D.MacLean)[1]により、より広い領域に対する、現在の概念に近い「大脳辺縁系」に対して拡張された。大脳辺縁系という概念はその後もNauta、Heimerなどによって拡張されている。
大脳辺縁系の領域は文献により異なる。そのため、ここでは理解の便のために、一般的に大脳辺縁系の一部を構成していると考えられている部位と、その周辺構造を記載する。辺縁系のうち、重要かつ機能の解明されてきている特異な構造として扁桃体と海馬体が挙げられる。(なお、海馬体とは海馬、海馬台、そして歯状回の総称である。)
大まかに見て大脳辺縁系は、大脳の表面からは見えない大脳の辺縁皮質とその下の核、そしてそれらを繋いでいる線維連絡から成り立っている。
辺縁皮質の主要な部位は大脳のうちの古い部分である原皮質と古皮質から成り、ほぼ発生学的な「嗅脳」に相当する。こうした言葉に対応して、(人における)大脳皮質の表層部は「新皮質」と呼ばれる。おおまかな古皮質・原皮質、その他の辺縁皮質の対応は以下のようになっている。
古皮質 Paleocortex:梨状前野、扁桃体周囲野
原皮質 (原始皮質)Archiocortex:海馬体
その他の辺縁皮質(これは中間皮質と呼ばれる。):帯状回、海馬傍回、鈎
さらに、場合によっては以下のような皮質の部位も辺縁系に包含される。
これに対して、辺縁系に含まれる皮質下の核には、扁桃体、中隔核、視床下部、視床の前核などが含まれる。視床下部は辺縁系に含まないこともあり、この場合には、辺縁系が視床下部の上位中枢と見なされる。
これらをつなぐ線維連絡として、脳弓、脳弓交連などがある。
大脳辺縁系は、内分泌系と自律神経系に影響を与えることで機能している。大脳辺縁系は、側座核といわれる構造と相互に結合しており、これは一般に大脳の快楽中枢として知られている部位である。側座核は性的刺激、そしてある種の違法薬物によって引き起こされる「ハイ」な感覚と関連している。こうした反応は、辺縁系からのドーパミン作動性線維の投射によって強い修飾を受けている。金属電極を側座核に挿入したラットは、この部位への電気刺激を引き起こすレバーを押し続け、食物や水の摂取をせずに最終的には疲労によって死んでしまうことが知られている。
進化論的には、大脳辺縁系は脳の最も古い部位の一つであり、嗅葉olfactory lobesと関連している。魚類ではすでに辺縁系を見ることができる。動物が高等になるほど新皮質の占める割合が大きくなるのに対して、辺縁系の発達にはあまり差がなくなる。これは辺縁系が動物に共通な機能に関係しているからである。
大脳辺縁系機能が刺激されている人は、記憶の保持と想起が助けられる。例えば、辺縁系は嗅覚機能と強い関係があるので、記憶の形成される際にコーヒーやピーナッツバターなどの(あるいは、プルーストの言うプティット・マドレーヌでも良かろうが、)容易に認識されるような芳香が存在すると、そうした記憶と芳香は結合される。そのため、同じ匂いは記憶の蘇りを促進することになる。つまり、テスト勉強中にコーヒーを淹れていたならば、テストの合間にコーヒーを飲むことによって、テストに必要な情報を思い出すことがより容易になるかもしれない。
古典的な辺縁系障害の病態に、クリューバー・ビューシー症候群がある。これは実験動物の、扁桃体を含む両側側頭葉の切除により観察される症候群であり、精神盲、口唇傾向、性行動の亢進、情動反応の低下などが見られる。そのほかにも、統合失調症やパニック障害、各種の認知症など、さまざまな疾患の病態生理に大脳辺縁系が深く関わっていることがわかってきている。
主に英語版の翻訳による。英語版の参考文献も参照。
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視床核 | 入力 | 出力 | 関連している機能 | |||
1 | 視床前核 | AP | 乳頭体 | 帯状回 | 大脳辺縁系の一部 | |
前背側核 | A | |||||
前腹側核 | AV | |||||
前内側核 | AM | |||||
2 | 視床内側核 | M | 視床核 | 視床下部・前頭葉 | 情動の体験・情動の具現 | |
3 | 視床外側核 | LT | ||||
背側外側核 | LD | 帯状回? | 帯状回? | 情動の発現 | ||
後外側核 | LP | 頭頂葉の連合野? | 頭頂葉の連合野? | 高等な精神作用と関連 | ||
前腹側核 | VA | 淡蒼球 | 前頭葉運動前野 | 運動系と関連 | ||
外側腹側核 | VL | 小脳歯状核 | 前頭葉運動野・運動前野 | 運動系と関連 | ||
後外側腹側核 | VPL | 体性感覚(下肢~上肢) | 頭頂葉の感覚野 | |||
後内側腹側核 | VPM | 体性感覚(頭部) | 頭頂葉の感覚野 | |||
4 | 視床後核 | 上丘、側頭葉、頭頂葉、後頭葉 | 側頭葉、頭頂葉、後頭葉 | 視覚、聴覚、体性感覚 |
名称 |
陰部大腿神経大腿枝 |
外側大腿皮神経 |
大腿神経前皮枝 |
閉鎖神経皮枝 |
伏在神経 |
浅腓骨神経 |
深腓骨神経 |
上殿皮神経 |
中殿皮神経 |
下殿皮神経 |
後大腿皮枝の枝 |
後大腿皮神経の終末枝 |
内側腓腹皮神経 |
外側腓腹皮神経 |
腓腹神経 |
外側足背皮神経 |
臓器 | 栄養血管 | 機能血管 | ||
動脈 | 静脈 | 動脈 | 静脈 | |
食道 | ||||
胃 | ||||
小腸 | 上腸間膜動脈 | 上腸間膜静脈→門脈 | ||
大腸 | 上・下腸間膜動脈 | 上・下腸間膜静脈→門脈 | ||
肝臓 | 固有肝動脈 | 肝静脈→下大静脈 | ||
胆嚢 | 胆嚢動脈 | 胆嚢静脈 | ||
膵臓 | ||||
気管 | ||||
肺 | 気管支動脈 | 気管支静脈 | 肺静脈 | 肺動脈幹→肺動脈 |
腎臓 | ||||
尿管 | ||||
膀胱 | ||||
脾臓 | 脾動脈 | 脾静脈 | ||
精巣 | 精巣動脈 | 蔓状静脈叢 | ||
卵巣 | 卵巣動脈 | 蔓状静脈叢→卵巣静脈 |
伝達物質 | 局在 | |
A15 | ドーパミン | 嗅球の糸球体周囲細胞 |
A14 | 視床下部前部 | |
A13 | 不確帯 | |
A12 | 弓状核(漏斗核) | |
A11 | 視床下部後部 | |
A10 | 中脳腹側被蓋野 | |
A9 | 黒質緻密部 | |
A8 | 赤核後核 |
ドーパミン作動性ニューロン : 約 76,100 件 ドパミン作動性ニューロン : 約 10,300 件
優位半球 | 劣位半球 | |
左 | 右 | |
側頭葉 | 感覚性失語、Wernicke失語、同名性上1/4半盲 | |
頭頂葉 | 対側の感覚 | |
ゲルストマン症候群(手指失認、左右識別障害、失算、失書) | 半側空間無視、病態失認、自己身体失認など | |
前頭葉 | 対側の運動麻痺、眼球運動(対側への追視)障害、運動性失語、知的及び精神的高次機能障害など | |
後頭葉 | 対側の同名半盲、両側後頭葉の障害ではアントン症候群 | |
小脳 | 筋共同運動障害、運動・平衡障害に関係し、運動失調を呈する。測定異常、反復拮抗運動障害、筋緊張低下、運動過多、歩行異常、異常姿勢、発語障害、眼振など |
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