出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/09/06 18:29:15」(JST)
脳: 扁桃体 | |
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ヒトの脳における扁桃体の位置。赤い所が扁桃体。
左は側面からみた図。右は正面から見た図。 ヒトの脳を下方から見た図。赤い所が扁桃体。
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名称 | |
日本語 | 扁桃体 |
英語 | Amygdala |
ラテン語 | corpus amygdaloideum |
略号 | Amg |
画像 | |
アナトモグラフィー | 三次元CG |
Digital Anatomist | 下方 下方 |
関連情報 | |
IBVD | 体積(面積) |
Brede Database | 階層関係、座標情報 |
NeuroNames | 関連情報一覧 |
MeSH | Amygdala |
グレイの解剖学 | 書籍中の説明(英語) |
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扁桃体(へんとうたい、英: Amygdala)はアーモンド形の神経細胞の集まりで、ヒトを含む高等脊椎動物の側頭葉内側の奥に存在する[1]。扁桃体は情動反応の処理と記憶において主要な役割を持つことが示されており、大脳辺縁系の一部であると考えられている[2]。 扁桃核(へんとうかく)とも言う。
扁桃体と呼ばれる領域は、異なる機能的特徴を持った複数の神経核を含んでいる。このような神経核の中に、基底外側複合体、内側核、中心核、皮質核がある。基底外側複合体はさらに、外側核、基底核、副基底核に分けられる[2][3]。
解剖学的には、扁桃体[4]、特に中心核と内側核[5] 大脳基底核の一部と考えられている。
扁桃体から、視床下部に対しては交感神経系の重要な活性化信号を、視床網様体核に対しては反射亢進の信号を、三叉神経と顔面神経には恐怖の表情表現の信号を、腹側被蓋野、青斑核と外背側被蓋核にはドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの放出の信号が出されている[3]。
皮質核は嗅覚とフェロモンの処理に関わっている。皮質核は嗅球と嗅皮質から入力を受けている。扁桃体の外側部は残りの基底外側核と中心核、内側核に信号を送っており、感覚系から入力を受けている。中心核、内側核は基底外側複合体からの主な出力先であり、ラットやネコにおいて情動の喚起 (emotional arousal) に関係している[3][6]。
ヒトを含む高等脊椎動物において、扁桃体は情動的な出来事に関連付けられる記憶の形成と貯蔵における主要な役割を担う。恐怖条件づけの際、感覚情報は扁桃体の基底外側複合体、特に外側核へと送られ、そこで刺激の記憶と関連付けられる。刺激と予測される嫌悪的な出来事との連合は、持続的な興奮性シナプス後電位によりシナプス応答性を上げる長期増強を介して行われる[2]。
外側核のシナプス応答に刷り込まれている情動的経験の記憶が、扁桃体の中心核との接続を介して恐怖行動を引き起こす。中心核は、硬直 (freezing) や呼吸と脈拍の増加、ストレスホルモンの放出などの多くの恐怖行動の産生に関係している。扁桃体の損傷は情動的応答の古典的条件づけの一種である恐怖条件づけの、獲得と発現の両方に障害を起こす[2]。
扁桃体は正の条件づけにも関連している。直観的には正の刺激と負の刺激には、異なる神経細胞が応答しているように考えられる。しかし実際には、このような異なる神経細胞の集団が明確な解剖学的核を形成しているわけではない[7]。扁桃体の異なる核は正の条件づけにおいて異なる機能を担っている[8]。
扁桃体は記憶固定 (memory consolidation) の調節にも関わっている。学習される出来事の後に、その出来事の長期記憶が即座に形成されるわけではない。むしろその出来事に関する情報は、記憶固定と呼ばれる処理によって長期的な貯蔵庫にゆっくりと同化され、半永久的な状態へと変化し、生涯に渡って保たれる。
記憶固定の際、その記憶には調節 (modulation) が起きる。特に学習される出来事の後の情動の喚起は、その出来事の記憶を強める影響を起こす。学習される出来事の後の情動の喚起が強いほど、その人の持つ出来事の記憶の保持が強化される。マウスが何かを学習した後すぐにストレスホルモンを導入し2日後にテストすると、記憶の保持が強化されているという実験が示されている[1]。
ジェームス・マゴー (James McGaugh) の研究室を含む多くの研究室で示されている通り、扁桃体、特にその基底外側核は出来事の記憶の強化に対する情動の喚起の効果に関係している。この様な研究室では動物に様々な学習課題を訓練し、訓練後の扁桃体への薬物の注射が後の課題の保持に影響を及ぼすことを示している。このような課題には、ラットに弱い電気刺激と実験装置の特定区画との関連付けを学習させる、抑制性回避学習のような基本的な古典的条件づけ課題の他に、水から逃げるようにラットをプラットフォームへと泳がせる、空間または手がかり水迷路課題のようなより複雑な課題がある。もし、扁桃体を活性化するような薬物が扁桃体に注射されれば、動物はその課題の訓練のよりすぐれた記憶を得る[9]。一方、もし扁桃体を不活性化するような薬物が注射されれば、動物の課題における記憶は阻害されるだろう。
扁桃体の損傷によって恐怖条件づけなどに障害は起きるものの、扁桃体が記憶固定の調節に重要であるにも関わらず、扁桃体が無くても学習は成立する[10]。
ヒトにおける研究からの証拠から、扁桃体はヒトでも同様の役割を担っていることが示唆されている。情報を符号化している際の扁桃体の活動量はその情報の保持と相関している。
霊長類の初期の研究により扁桃体の機能の説明がなされ、後の研究の基礎となった。1888年に行われたもので、(扁桃体を含む) 側頭葉を損傷させたアカゲザルが社会的、情動的な障害を顕著に受けたという研究が存在する[11]。ハインリヒ・クリューヴァー (Heinrich Klüver) とポール・ビューシー (Paul Bucy) は後にこの観察された事実を拡張し、側頭葉前方の大きな損傷が、様々な対象に対する過剰反応、情動の低下 (hypoemotionality)、恐怖の喪失、異常性欲、口唇傾向 (hyperorality : 不適切な対象を口に運ぼうとする状態) などを含む目立った変化を引き起こすことを示した。また、あるサルは見慣れた物体を認知することが出来なくなり、生物、無生物に対して無差別に近づくようになったり、実験者への恐怖を示さなくなるなどの現象を示した。このような行動障害は、後に彼らにちなんでクリューヴァー・ビューシー症候群 (Kluver-Bucy syndrome) と名付けられた[12]。側頭葉は多くの脳構造を取り囲むように存在するため、特定の症状に特異的に関係する脳構造を同定することは困難であったが、後の研究は扁桃体に集中した。1970年には、扁桃体に損傷を起こした母ザルはその子供に対する母性的行動が減少し、しばしば物理的な虐待や育児放棄を行うことが示されている[13]。1981年に、電波による全扁桃体の選択的な損傷がクリューヴァー・ビューシー症候群を引き起こすことが発見された[14]。
核磁気共鳴画像法などの脳イメージング手法の発達により、神経科学者はヒトの脳の扁桃体に関する重要な発見を行ってきた。データから得られる一般的な結論として、扁桃体が精神状態に重要な役割を持ち、多くの精神疾患に関係していることが示されている。2003年の研究から、境界性パーソナリティ障害の患者は対照群の参加者に比べて、感情の表情表現に対して左扁桃体の有意な活動の増加が示されている。また、何人かの境界性パーソナリティ障害の患者は (特定の感情を表現していない) 中立の表情を分類することが困難であるか、恐怖表情をしていると回答した[15]。2006年の研究では、患者が恐怖表情や恐ろしい場面に直面した際に扁桃体の過剰な活動が見られることが示された。また、より重症な社会恐怖の患者ほど、扁桃体の反応が大きいことも示されている[16]。同様に、うつ病の患者は全ての顔の表情、特に恐ろしい表情を処理する際に過剰な左扁桃体の活動を示す。興味深いことに、このような過剰な活動は患者が抗うつ薬を服用すると正常化する[17]。これらの結果とは対照的に、双極性障害に対して扁桃体は異なった関連の仕方を示す。2003年の研究では、成人および青年期の双極性障害の患者では、扁桃体と海馬の体積が有意に小さくなっている[18]。また、多くの研究で扁桃体と自閉症との関係に焦点を当てている[19]。
2004年と2006年の研究において、正常な参加者に対して恐怖表情や異なる人種の顔の画像を呈示した際、その呈示が無意識的であったとしても、扁桃体の活動を増加させることが示されている[20][21]。
最近の研究から、脳内で嚢胞を形成する寄生生物、特にトキソプラズマは、しばしばその巣を扁桃体に形成することが示唆されている。このことは、どのようにしてある種の寄生生物が宿主の行動に変化を与えたり、パラノイアなどの障害を引き起こすのかを解明する手がかりになる[22]。
扁桃体の位置をさまざまな角度から眺めた動画。赤い所が扁桃体。
ヒトの脳を前方やや下方から見た図。扁桃体は暗い赤色で示された領域の先端にあるアーモンド形の領域である。視床、脳弓、乳頭体、淡蒼球、被殻、尾状核、海馬、などが図示されている。
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A. | 特徴的症状:以下のうち2つ以上が1ヶ月以上の存在 |
(1) 妄想 | |
(2) 幻覚 | |
(3) 解体した会話 | |
(4) ひどく解体したまたは緊張病性の行動 | |
(5) 陰性症状:感情平板化、思考貧困、意欲欠如 | |
B. | 社会的または職業的機能の低下 |
C. | 期間:少なくとも6ヶ月間存在 |
D. | 失調感覚障害(統合失調感情障害)と気分障害を除外 |
E. | 物質や一般身体疾患の除外 |
F. | 広汎性発達障害との関係:自閉性障害や 他の広汎性発達障害の既往歴がある場合、 顕著な幻覚や妄想が少なくとも1ヶ月存在すること |
(a) | 考想化声 thought echo、考想吹込 thought insertion、思考奪取 thought withdrawal、考想伝播 thought broadcasting | いずれか1つ |
(b) | させられ体験 delusion of control、身体的被影響体験 delusion of influence、妄想知覚 delusional perception | |
(c) | 注釈幻声、会話形式の幻聴 auditory hallucination | |
(d) | 宗教的・政治的な身分や超人的な力や能力といった、文化的に不適切で実現不可能なことがらについての持続的な妄想(たとえば天候をコントロールできるとか、別世界の宇宙人と交信しているといったもの)。 | |
(e) | 持続的な幻覚が、感傷的内容を持たない浮動性あるいは部分的な妄想や支配観念に伴って継続的に(数週から数ヶ月)現れる。 | いずれか2つ |
(f) | 思考の流れに途絶や挿入があり(思考途絶)、その結果まとまりのない話しかたをしたり(連合弛緩)、言語新作が見られたりする。 | |
(g) | 興奮、常同姿勢、蝋屈症、拒絶症、緘黙、昏迷などの緊張病性行動 catatonic behavior。 | |
(h) | 著しい無気力、会話の貧困、情動的反応の鈍麻や不適切さのような、社会的引きこもりや、社会的能力の低下をもたらす陰性症状。 | |
(i) | 関心喪失、目的欠如、無為、自分のことだけに没頭する態度、社会的引きこもりなど、個人的行動の質的変化。 |
[★] 扁桃体、amygdala。amygdaloid nucleus
扁桃 | 表面 | 深部 | 特徴 |
咽頭扁桃 | 多列線毛上皮 非角化重層扁平上皮 |
薄い皮膜で境界 | 重層するヒダを有し、基部に混合線が開口 |
口蓋扁桃 | 非角化重層扁平上皮 |
被膜で境界 | 上皮が10-12個陥入して陰窩を形成 |
舌扁桃 | 非角化重層扁平上皮 |
被膜で境界 | 個々の扁桃は1個の陰窩を有する |
Henry Gray (1825-1861). Anatomy of the Human Body. 1918.
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