出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2012/10/25 01:58:24」(JST)
筋肉(きんにく、英: muscle)は、動物の持つ組織のひとつで、収縮することにより力を発生させる、代表的な運動器官である[1]。動物の運動は、筋肉によってもたらされる。ただし、細部に於ける繊毛や鞭毛による運動等、若干の例外はある。
また、食用に供する食肉は主に筋肉であり、脊髄動物の骨格筋は湿重量の約20%をタンパク質が占め[1]、主にこれを栄養として摂取するために食される[2]。肉と言えば一般に筋肉を意味する。
中医学では肌肉とも言われる。
目次
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腔腸動物以上の動物は筋肉を持つ[1]。
骨格を持つ動物の筋肉は、その配置から大別すると骨格に付随して身体を構成し、姿勢制御に貢献する骨格筋と、骨格に直接付属せず、身体構成・姿勢制御に直接関わらない内臓筋に分けることができる。しかしこの分類方法は便宜的な分類であり、もっとも良く用いられる分類方法である組織学的分類によれば、多核の横紋筋、単核の平滑筋、心筋に分けることができる[1]。また、意識して動かすことができるかという点で随意筋(骨格筋のみ)と不随意筋(心筋・平滑筋)に分けられる。
この他にも、筋肉は見た目の色から赤筋(赤色筋) (red muscle, typeI) と白筋(白色筋) (red muscle, typeII) の2種にも分類される。これは含有するミオグロビンやミトコンドリアの量に左右され、多くミトコンドリアが活発なものが赤く、少なく不活発なものが白く見える[3][4] 。白筋は脊椎動物の骨格筋に多く、収縮の筋原繊維が発達しているため素早く縮むことができるため、速筋 (fast muscle) とも呼ばれる[4]。速筋の筋肉繊維は、運動速度や発揮する力によってさらにIIa, IIx, IIbの3種類[5] に分けられる[6]。赤筋は脂肪や炭水化物を消費する酵素が豊富で[6]ゆっくりした運動を持続的に行うのに適し、心臓や呼吸に関する器官の筋肉を構成する[3]。エネルギーは白筋が酸素を必要としない解糖系を用いるのに対し、赤筋は酸化的リン酸化反応から得ている[3]。
骨格筋 (skeletal muscle) は、関節など骨格の可動部を動かす筋肉である[7]。脊椎動物では両端が腱を介して骨と繋がった形で配置され、昆虫やエビなどの節足動物ではクチクラ(角皮)を動かすために使われる[7]。関節に関してその筋肉が収縮すると曲がるものを屈筋、伸ばすものを伸筋と言う。その他は回転筋・索引筋・括約筋などに分類される[7]。随意筋であるが、体躯の姿勢制御や反射などでは無意識に動く。体重比で成人男性の42%、同女性の36%を占める[8]。哺乳動物の骨格筋の密度は1.06kg/lであり、脂肪よりも約15%重い[9][10]。
平滑筋 (smooth musle) は、横紋が無い筋肉であり、脊椎動物では心臓を除く内臓および血管を構成する筋肉である。無脊椎動物の身体を構成する筋肉はほとんどが平滑筋である[11]。収縮する速度は遅く数十秒かかる場合もあるが、一方で伸び縮みする率は大きく、その状態を保持する能力に優れる[11]。自律神経系から運動の促進・抑制双方の制御を受けている[11]。
心筋の特徴として、動作に必要な神経繊維が通常の神経繊維ではなく、特殊心筋と呼ばれる筋群によって興奮が伝達される。従って、肉眼的には神経繊維は存在しない。
筋肉の機能は、神経の制御を受けながら収縮する事と、その収縮度合いを測定しフィードバックすることである。ここでは主な構成要素を、骨格筋を例にして解説し、後に心筋と平滑筋の違いを述べる。
骨格筋を構成する細胞単位。筋芽細胞の融合によって生じる、細長く大きな巨大多核細胞である。骨格筋が発生し分化する過程で、単核の筋原細胞同士が融合してつくられる[12]。
横紋筋の筋繊維中に存在する収縮性の構造体で、細胞内器官。直径約1μmの円筒状をしており、骨格筋では筋肉の長方向に沿って多くの筋原繊維が並行に並んでいる。微細な構造は、多くのサルコメアが厚さ2~8nmのZ膜(Z線)と呼ばれる隔膜で仕切られながら10nm間隔で連結している。横紋筋の縞模様はこの並びが見えている[13]。ミオフィブリル、筋フィラメント、ミオフィラメントとも呼ばれる[13]。
筋原繊維の最小構成単位。これが縦につながったものが筋原繊維である。個々のサルコメアは、ATP存在下で収縮が起こる。骨格筋の縞は、このサルコメアのアクチンフィラメントとミオシンフィラメントが並行に一部分が重なっている配列に由来する。筋小胞体から放出されたカルシウムイオンによりアクチンフィラメントがミオシンフィラメントな間に滑り込み筋肉が収縮する。したがって、そのときにはサルコメア全体の長さはアクチンフィラメントが滑り込んだ分だけ小さくなる。
サルコメアには、中央部に密度が高いA帯と、両側に密度が低いI帯がある。A帯は約1.5μm長のミオシンフィラメントで構成され、Z膜に接続したアクチンフィラメントがA帯に入り込んでいない部分がI帯である[13]。両フィラメントは、中心にあるミオシンフィラメントを六角形状にアクチンフィラメントが取り囲んだ断面構造を持つ。ミオシンフィラメント同士の中心間距離は40~50nm、取り囲むアクチンフィラメントまでの距離は約15nmである[13]。
筋繊維はアデノシン三リン酸 (ATP) を使い、フィラメント同士がお互い重なり合うように引き付け合い収縮する[1]。
筋肉は、神経からの刺激で収縮を行っている。神経と筋肉は、神経筋接合部というシナプスの一種を介して刺激の伝達を行っている。神経末端からは、アセチルコリンが放出され、筋肉の側にあるアセチルコリン受容体に結合し、筋線維の細胞膜を脱分極させる。これがT管系を伝わって筋全体に広がり、T管系に接する筋小胞体からカルシウムが放出される。このカルシウムをシグナルとして、アクチン繊維とミオシン繊維の間の滑り運動が起こるのである。
筋繊維は本来積極的に伸展する能力は無く、弛緩したときに伸展するのは、骨格筋の場合、対立筋の働きによる外的な作用による。運動後の筋肉の疲労は、解糖系の最終生成物である乳酸によってもたらされるとの説があるが、医学的根拠は無い。
心筋は、普通心筋と特殊心筋に分類される、特殊心筋としては、洞結節、房結節、ヒス束等が挙げられる。特殊心筋の働きは、心筋の統合された収縮を目的とした、興奮の伝達である。普通心筋は、骨格筋と同じように横紋があるが、骨格筋ほど整然と並んでは居ない。
平滑筋を構成する細胞は紡錘形状で単一の核を持つ[11]。アクチンフィラメントを大量に持ち、ミオシンフィラメントは少量が不規則に分散している。細胞の形状はデスミン中間径フィラメントが存在して保たれる[11]。収縮にはカルシウムイオンによって制御されるが、小胞体があまり発達していないため、細胞膜にあるくびれの外側にイオンを溜め込んでいると考えられる[11]。
詳細は「神経筋接合部」および「興奮収縮連関」を参照
大脳に発する運動指令は、小脳において修飾されたのち、遠心性の運動神経を介して、活動電位として伝えられ、運動神経と筋肉の連接部である神経筋接合部に至る。
運動神経の果てである神経終末(シナプス前末端)に活動電位が伝わると、ここに分布する電位依存性Caチャネルを開口させて、Ca電流を生じる。これによるCa濃度上昇はACh放出を惹起させ、ここで放出されたAChは、シナプス間隙を拡散して、筋肉側で神経終末と結合している終板に達する。終板にはAChのニコチン受容体があり、これにAChが結合することでNa、K、Caが流入して、いわゆる終板電位 (EPP)を発生させる。これは、筋鞘を介して筋線維全体に伝播されたのち、横行小管 (T管)を介して筋線維の中に入って筋小胞体へ至り、筋小胞体からCa2+の放出を引き起こす。これにより細胞内Ca2+濃度が増加し、トロポニンとCa2+が結合し、トロポニンにアロステリックな変化が生じる。この変化によりトロポミオシンが動き、ミオシンの作用部位が露出する。これによりミオシンとアクチンが反応して相対的な滑りを起こし、筋収縮が引き起こされる[1]。一方、Ca2+は、筋小胞体膜上のCa-ATPaseによって回収され、これによってCa濃度が正常値まで低下するとトロポニンとCa2+の結合が解除され、連鎖的に筋収縮は終了する。
なお、原生動物の組織内にもアクチンやミオシンがフィラメント状に存在している[1]。
脊髄動物の骨格筋には、湿潤重量で約20%のタンパク質が含まれ、これを筋タンパク質または筋肉タンパク質という。筋タンパク質の半分は細胞組織である細胞膜・ミトコンドリア・小胞体・細胞核などと、酵素タンパク質が占める。あとの半分は筋原繊維をつくる構造タンパク質であり、アクチン・ミオシンと調整タンパク質・骨格タンパク質などがある[2]。
すべての筋肉は沿軸中胚葉から発生している。沿軸中胚葉は胎児の体躯に沿い、体節ごとに分かれている。これは主に3つがあり、脊髄を形成する硬節、皮膚を形成する皮膚分節、筋肉を形成する神経節である。この中で神経節は上下の節に分かれており、それぞれ軸上と軸下の筋肉へとなる。ヒトの場合、上分節は脊柱起立筋と椎間筋肉の一部にしかならない。手足を含むその他の筋肉は全て下分節から発達する[14]。
発生の期間、筋原繊維(筋前駆細胞)は脊椎に関連する筋肉へなるものと、その他の全筋肉を構成するため一度移動して体に取り込まれるものとに分かれる。通常では、側板中胚葉でつくられた筋原繊維がまず外郭を構成する結合組織を作る。そして筋原繊維は化学的な刺激に従いながら、それぞれ適切な場所で骨格筋を形成し始める[14]。
数値は David 1977 から[15]。
動物 | 筋肉 | 直径(μm) |
---|---|---|
キンギョ | 赤筋繊維 | 36.0 |
(同) | 白筋繊維 | 49.4 |
アフリカツメガエル | 脚筋 | 169.0 |
カワラバト | 胸筋 | 26.8 |
トガリネズミ | 横隔膜 | 18.0 |
ハツカネズミ | ふくらはぎ(腓筋) | 60.8 |
ラット | 長指伸筋 | 85.0 |
(同) | 横隔膜 | 34.0 |
モルモット | 横隔膜 | 25.0 |
ネコ | 横隔膜 | 30.0 |
ブタ | 横隔膜 | 60.0 |
ヒト | 横隔膜 | 34.0 |
(同) | 肋間筋 | 50.4 |
(同) | 三角筋 | 54.2 |
数値は Prosesser 1973 から[16]。
動物 | 筋肉 | 筋力(N/cm2) |
---|---|---|
カキ | 貝柱 | 117.7 |
ラット | 指伸筋 | 29.4 |
ロブスター | 遅下制筋 | 27.5 |
ナマケモノ | 横隔膜 | 20.6 |
カエル | 縫工筋 | 19.6 |
ネコ | tenuissimus muscle | 13.7 |
イヌ | 気管平滑筋 | 7.8 |
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