出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/01/21 23:03:48」(JST)
IUPAC命名法による物質名 | |
---|---|
(±)-1-フェニルプロパン-2-アミン | |
臨床データ | |
胎児危険度分類 | C (アメリカ) |
法的規制 | DEA スケジュールII(アメリカ) クラスB(イギリス) |
投与方法 | 経口、静脈内投与、気化、吸入、坐剤 |
薬物動態的データ | |
生物学的利用能 | 4 L/kg; low binding to plasma proteins (20%) |
代謝 | 肝臓 |
半減期 | 10–13時間 |
排泄 | 腎臓; significant portion unaltered |
識別 | |
CAS登録番号 | 300-62-9 |
ATCコード | N06BA01 |
PubChem | CID 3007 |
DrugBank | APRD00480 |
KEGG | D07445 |
化学的データ | |
化学式 | C9H13N |
分子量 | 135.2084 |
アンフェタミン (Amphetamine, Alpha-methylphenethylamine) とは、合成覚醒剤の一種である。食欲低下や体重抑制、およびナルコレプシーや注意欠陥多動性障害 (ADHD) などの治療に用いられる。能率向上や娯楽目的での濫用は、ほとんどの国で違法とされる。
密造と濫用がヨーロッパ諸国で横行し、主にフェニルプロパノールアミンから合成した硫酸アンフェタミンの形で出回っている。さらに、アメリカ合衆国、イギリス、オーストラリア、カナダなどの国々ではナルコレプシーやADHDの治療に用いられるため、処方されたアンフェタミンが横流しされ、高校や大学で最も頻繁に濫用される薬剤の1つとなっている。
急性中毒による症状として、精神病、失見当識、一時的な統合失調症様症状、攻撃性の増加、妄想、開口障害、下痢、動悸、不整脈、失神、異常高熱症、および痙攣を起こし昏睡に至る反射亢進が挙げられる。アンフェタミンは常用すると耐性を生じやすく、望む効果を得るために用量を増すなどして習慣性を生じやすい。アンフェタミン依存症となった患者には、不穏状態、不安、うつ、不眠、自殺衝動といった症状があらわれる。尿検査によってアンフェタミンの存在が確認できる患者には、入院が必要とされることもある。支持治療が重要である。熱中症を起こした際には冷却毛布が有効である。ロラゼパムやジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系の精神安定剤によって不安感が抑えられる場合がある。ハロペリドール(抗精神病薬の一種)は運動量亢進や妄想に対し効果を示す。併発する高血圧や不整脈にも対処しなければならない。
1887年(明治20年)、ルーマニアの化学者ラザル・エデレアーヌ (英: Lazăr Edeleanu) がベルリン大学で初めて合成した。アンフェタミンは光学異性体を持ち、レボアンフェタミン(L体)とデキストロアンフェタミン(D体)に光学分割することができる。アンフェタミンは多くの向精神薬の母体骨格であり、MDMA (エクスタシー)やメタンフェタミン(N-メチル誘導体)などを含む化合物群を構成する。アンフェタミン自体はフェネチルアミンの誘導体である。
古くは硫酸 rac-アンフェタミン(rac- はラセミ体であることを示す)として合成されていた。アメリカでは rac-アンフェタミンを主成分とする製剤はもはや製造されていない。今日では大部分が硫酸デキストロアンフェタミン(英: Dextroamphetamine)の形で用いられている。注意欠陥障害にはアデラル (英: Adderall®) 、デキセドリン(英: Dexedrine®)もしくはそのジェネリック品がしばしば用いられ、これには rac-アンフェタミンと D-アンフェタミンが硫酸塩とサッカラートの形で、D体とL体が 3:1 の比になるように含まれている。
ユートマー(英: Eutomer, 活性の高い方の光学異性体を指す)であるデキストロアンフェタミンはモノアミン神経伝達物質のノルアドレナリンおよびドーパミンの放出促進と再取り込み阻害によって中枢神経に作用する。セロトニンには影響しない。放出促進の過程では、小胞モノアミン輸送体 VMAT2 に対する活性の発現が特に重要な役割を果たす.[1]。
強い効果を持つ覚醒剤である。アメリカでは ADHD やナルコレプシーの治療に用いられる最も一般的な薬剤であり、特定の条件下での肥満に対する体重減少薬としても認可されている。軍隊のみにおいてはパイロットに対して疲労抑制剤として、また警戒態勢や注意力の持続が要求される任務につく際に与えられることが多い。望まれる効果は主に D-アンフェタミンによってもたらされ、L-アンフェタミンはこれらの作用が失われたあとに吐き気などの副作用を現す。
実験医療には1920年(大正9年)代から使用され始めた。世界のほとんどの国々では、1920年代後期にベンゼドリン (英: Benzedrine®) が導入された。いくつかの国家で軍隊、特に空軍で、疲労を抑え警戒態勢を持続させるため整備士の間で用いられた。濫用が報告されてから数十年後、アメリカ食品医薬品局(FDA)は1959年(昭和34年)にベンゼドリン吸入機を禁止してアンフェタミンの処方を制限したが、不法な使用が広まっていった。
日本では、ゼドリン®の商標で、武田薬品工業からアンフェタミン製剤が発売されていたが、現在では発売が中止されている。
日本以外の国々では、メチルフェニデート(リタリン®、コンサータ®など)と共に、アンフェタミンは注意欠陥障害(ADHD)の標準的な治療薬である。ADHD に対する有益な効果として、衝動の抑制力や集中力の増加、感覚器への過剰刺激や被刺激性の減少などが挙げられる。これらの効果は特に幼い子供に対しては時として劇的である。ADHD の治療薬・アデラルは4種のアンフェタミン塩からなり、アデラルXRは同じ塩の徐放性製剤版である。適切な用量を守って使えば食欲減退などの副作用は時間と共に軽くなっていく。しかしながらメチルフェニデートよりも体内に残留する時間が長く、食欲や睡眠に関する副作用は重い傾向がある。
また、ナルコレプシーなどの睡眠障害の治療薬としても標準的な薬剤であるが、やはり日本では認可されていない。一般的に、習慣性や身体依存を生じさせること無く、長期間にわたって効果を得ることができる。さらに、難治性の抗うつ治療に用いられることがある。
減量用途での利用を現在も認可している国もあるが、アメリカなどでは時代遅れで危険だと考えられている。
アンフェタミンやメタンフェタミンは心臓に与える負担が大きいため、循環器系を非常に酷使するスポーツの選手は普通使わない。事実、1960年(昭和35年)のローマオリンピックで、アンフェタミンを投与されたデンマークの自転車選手が競技後に死亡して以降、ドーピング防止策が進められるようになり、1974年(昭和49年)にアンフェタミンは禁止薬物に指定された。
過去、アメリカ空軍はデキストロアンフェタミン - Dextroamphetamine(アデラル - Adderall、デキセドリン - Dexedrine®)をパイロットの刺激薬として使い、"go-pills" と呼んでいた。しかし、近年のモダフィニルなどアンパキン系薬剤の発展により、デキストロアンフェタミンによる妄想症や不快感を生じさせることなく警戒能力を維持することが可能になった。作戦後には、パイロットが眠れるようにするため "no-go pill" と呼ばれる抗不安薬かつ睡眠導入剤(ゾルピデムまたはベンゾジアゼピン系の睡眠薬であるテマゼパム - Temazepam、オキサゼパム - Oxazepam) を与えた。
アンフェタミンは長距離トラックの運転手、建設業関係の労働者、工場作業員など、労働時間が長かったり不定期になりがちなシフト勤務者や、単調な反復作業を行う者の間でも広く使われている。このためアンフェタミンは時に「レッドネック・ドラッグ (redneck drug)」と呼ばれる(レッドネックとは「首筋が赤く日焼けしている白人労働者」に対する蔑称)。ホワイトカラーや学生もまた、長時間に及ぶ過密なスケジュールの間注意力を持続させるため、あるいは学習能力を向上させるためにアンフェタミンを使うことがある。タイでは缶詰工場の労働者に対し生産性を上げる目的で強制的にアンフェタミンを投与した事例が報告されている[2]。
1960年代から70年代のイギリスにおいても普及しており、モッズ文化において重要な役割を果たした。後にはパンクスによって夜通し踊り続けるために使われた。ビートルズも、デビュー前にハンブルクのクラブで夜通し演奏するためにアンフェタミンを服用していた。また、晩年の力道山も衰えた力を隠すために服用していたことが田鶴浜弘(プロレス記者)の口から語られている(田鶴浜弘は間違えて、「アフェミン」と言っていた)。なお、数学者のエルデシュはアンフェタミンを常用しており、服用を止めた時は研究がはかどらなかったという。
分子輸送体を開口チャネルとすることによってノルアドレナリンとドーパミンのストアを神経終末から開放する。また、シナプス小胞からセロトニンのストアを開放する。メチルフェニデートと同様、アンフェタミンはドーパミンおよびノルアドレナリンに対応するモノアミン輸送体を阻害することにより、それらの再循環を妨げる。これは再取り込み阻害作用と呼ばれ、結果としてシナプスへのドーパミン、ノルアドレナリンの蓄積を導く。
これらの複合作用によってシナプス中の神経伝達物質の濃度は急速に増加し、ニューロンにおいて対応する受容体への神経インパルスの伝達を促進する。
短期的生理学的効果には食欲減退、持久力や身体能力の向上、性欲・性感の増加、不随意運動、発汗量の増加、活動亢進、神経過敏、吐き気、掻痒感、できもの・油肌、頻脈、不整脈、血圧の上昇、頭痛が挙げられる。効果が消えたあとに疲労感が現れることもしばしばある。過量はクロルプロマジンによって処置することができるとされる。
長期的(習慣的)服用、または過量による効果として振戦、不穏状態、睡眠の時間帯の変動、肌荒れ、反射亢進、過呼吸、消化器系の狭小化、免疫系の弱体化などがみられることがある。興奮期のあとに疲労・抑うつ状態が現れることもある。長期にわたって使用すると、勃起不全、心臓の障害、脳卒中、肝臓・腎臓・肺への損傷が起こることがある。吸入すると鼻腔の内部がただれることもある。
また中枢興奮作用を有する。
短期的心理的効果としては、注意力の亢進、多幸感、集中力の増加、早口、他者への信頼感の増大、社交性の向上、眼振、幻覚、服用後のレム睡眠の消失が起こりうる。
長期的心理的効果には不眠、統合失調症に類似した精神状態、攻撃性の増加(統合失調症には付随しない)、離脱症状を伴う習慣性の獲得や依存症の発症、被刺激性の増加、錯乱、パニックが挙げられる。慢性的に、あるいはかなりの長期にわたって服用すると「アンフェタミン精神病 (英: amphetamine psychosis)」に陥り、妄想とパラノイアが起こるが、処方された用量を守れば可能性は低い。アンフェタミンは心理的習慣性が非常に強く、慢性的な服用によって極めて速やかに耐性が獲得される。アンフェタミンからの退薬は心理学的には厳しくはないが、不快な経験を伴う(パラノイア、抑うつ、呼吸困難、神経不安、胃の蠕動・胃痛、嗜眠など)。そのため常用者は頻繁に退薬に失敗するが、これが耐性の獲得や依存症への陥りやすさを物語っている。
耐性がすぐに獲得されるため望みの効果を得るのに必要な量は増加していく。多くの常用者は退薬中により多量のアンフェタミンを摂取してしまうサイクルを繰り返す。これは非常に危険な状態であり、退薬を助けるために他の薬剤が用いられることもある。
日本では、アンフェタミン(フェニルアミノプロパン)は覚せい剤取締法で覚せい剤に指定されている。現在、医療用途として正規に認められたアンフェタミン製剤はなく、不法な所持、使用により10年以下の懲役に処せられる。
イギリスではアンフェタミンは1971年薬物誤用法およびそれ以降の法改正によりでクラスBの薬物に指定されている。不法所持により5年以下の禁固(注射器を用いた場合は7年以下の禁固)および上限の設定されていない罰金に処せられる[3]。
アメリカではアンフェタミンとメタンフェタミンは規制物質法でスケジュールII薬物・中枢神経刺激薬に分類されている。スケジュールIIに分類されるのは、濫用の危険性が高く、現在医療用途に厳しい制限のもとで用いられており、重篤な生理学的・心理的依存性をもたらす危険性が高い薬物である。
国際的には向精神薬条約で付表IIに指定されている[4]。
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
パーヒューザミン注
国試過去問 | 「096G072」 |
リンク元 | 「アドレナリン受容体」「先天異常」「催奇形因子」「薬物濫用」「セロトニン症候群」 |
拡張検索 | 「アンフェタミン関連障害」「ヒドロキシアンフェタミン」「アンフェタミン精神病」 |
C
※国試ナビ4※ [096G071]←[国試_096]→[096G073]
受容体 | 反応 | 例外 |
α受容体 | 興奮 | 小腸運動:抑制 |
β受容体 | 抑制 | 心臓 :興奮 |
受容体 | 作動薬 | 遮断薬 | 存在部位 | 作用 | |||||
α | α1 | A≧NA>ISP | [直接作用] ノルアドレナリン アドレナリン ドーパミン [間接作用] チラミン [直接・間接作用] エフェドリン アンフェタミン メタンフェタミン |
メトキサミン フェニレフリン |
フェノキシベンザミン フェントラミン |
プラゾシン タムスロシン |
血管平滑筋 | 収縮 | |
腸平滑筋 | 弛緩 | ||||||||
膀胱括約筋 | 収縮 | ||||||||
肝臓 | グリコーゲン分解 | ||||||||
α2 | A≧NA>ISP | クロニジン グアンファシン グアナベンズ メチルドパ |
ヨヒンビン | NA作動性神経終末 | NAの放出抑制 | ||||
血管平滑筋 | 収縮 | ||||||||
膵臓β細胞 | インスリン分泌抑制 | ||||||||
β | β1 | ISP>A=NA | イソプロテレノール | ドブタミン | [第一世代]:ISA有 ピンドロール [第二世代]:ISA無 プロプラノロール [第三世代]:β1特異的 アテノロール ビソプロロール [第四世代]:有用な特性 カルベジロール |
心臓 | 心拍数↑ 心収縮↑ 心伝導速度↑ | ||
腎臓(傍糸球体細胞) | レニン分泌促進 | ||||||||
β2 | ISP>A>NA | サルブタモール テルブタリン リトドリン |
骨格筋血管 気管支 胃腸 尿路 子宮平滑筋 |
弛緩 | |||||
肝臓、骨格筋 | グリコーゲン分解 | ||||||||
膵臓β細胞? | インスリン分泌促進? | ||||||||
β3 | ISP=NA>A | 脂肪組織 | 脂肪分解促進 |
妊娠区分 | 妊娠初期 | |||||||||||||||
胎齢 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | ||
妊娠週数 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
妊娠月数 | 第1月 | 第2月 | 第3月 | 第4月 | ||||||||||||
器官原基形成 |
催奇形因子 | 先天異常 | |
感染因子 | 風疹 | 白内障,緑内障,心臓異常,聾,歯異常 |
サイトメガロウイルス | 小頭症,盲目,精神発達遅滞,胎児死亡 | |
単純ヘルペスウイルス | 小眼球症,小頭症,網膜異形成 | |
水痘ウイルス | 肢低形成,精神発達遅滞,筋萎縮 | |
HIV | 小頭症,発育遅延 | |
トキソプラズマ症 | 水頭症,大脳実質石灰化,小眼球症 | |
梅毒 | 精神発達遅滞,聾 | |
物理的因子 | X線 | 小頭症,脊椎裂,口蓋裂,四肢の異常 |
高熱 | 無脳症 | |
化学的因子 | サリドマイド | 四肢の異常,心臓異常 |
アミノプテリン | 無脳症,水頭症,唇裂と口蓋裂 | |
ジフェニルヒダントイン(フェニトイン) | 胎児性ヒダントイン症候群:顔面異常,精神発達遅滞 | |
バルプロ酸 | 神経管異常,心,頭蓋顔面,肢異常 | |
トリメタジオン | 口蓋裂,心臓異常,泌尿生殖器と骨格の異常 | |
リチウム | 心臓異常 | |
アンフェタミン | 唇裂と口蓋裂,心臓異常 | |
ワルファリン | 軟骨形成不全,小預症 | |
ACE阻害薬 | 発育遅延,胎児死亡 | |
コカイン | 発育遅延,小頭症,行動異常,腹壁破裂 | |
アルコール | 胎児性アルコール症候群,短眼険裂,上顎骨発育不全,心臓,異常,精神発達遅滞 | |
イソトレチノイン(ビタミンA) | ビタミンA胚子病:小さい異常な形をした耳,下顎骨発育不全,口蓋裂,心臓異常 | |
有機水銀 | 脳性麻痺類似の神経症状 | |
鉛 | 発育遅延,神経学的障害 | |
ホルモン | 男性化ホルモン(工チステロン,ノル工チステロン) | 女性生殖器男性化:陰唇の癒着,陰核肥大 |
ジエチルスチルベストロール(DES) | 子宮,卵管,および腟上部の異常;腟癌;精巣異常 | |
母親の糖尿病 | さまざまな種類の異常;心臓と神経管の異常が最も一般的 |
精神依存 | 身体依存 | |
コカイン、アンフェタミン類(アンフェタミン、メチルフェタミン)、大麻 | ○ | |
麻薬(モルヒネ、ヘロイン、コデイン)、バルビツール酸系(フェノバルビタール、チオペンタール)、アルコール | ○ | ○ |
トリプトファン、アンフェタミン、コカイン、MDMA、LSD、レボドパ、カルビドパ、トラマドール、ペンタゾシン、メペリジン、SSRI、SNRI、TCA、MAO阻害薬、リネゾリド、5-HT3阻害薬(オンダンセトロン、グラニセトロン)、メトクロプラミド(プリンペラン)、バルプロ酸、カルバマゼピン、シブトラミン(やせ薬)、シクロベンザプリン(中枢性筋弛緩)デキストロメルファン、(メジコン)、ブスピロン(5-HT1A阻害薬、抗不安薬)、トリプタン製剤、エルゴタミン、フェンタニル、リチウム
感度84%, 特異度97%
.