出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2018/01/04 21:21:09」(JST)
IUPAC命名法による物質名 | |
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IUPAC名
(1R,2R)-rel-2-[(dimethylamino)methyl]- 1-(3-methoxyphenyl)cyclohexanol
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臨床データ | |
胎児危険度分類 |
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法的規制 |
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投与方法 | 経口, 直腸, 舌下, 頬粘膜, 鼻腔内 |
薬物動態データ | |
生物学的利用能 | 68–72%(反復投与で増加) |
血漿タンパク結合 | 20% |
代謝 |
CYP2D6による脱メチル化 |
半減期 | 5-7時間 |
排泄 | 腎臓 |
識別 | |
CAS番号 |
27203-92-5 |
ATCコード | N02AX02 (WHO) |
PubChem | CID: 33741 |
DrugBank | APRD00028 |
ChemSpider | 31105 |
KEGG | D08623 |
化学的データ | |
化学式 | C16H25NO2 |
分子量 | 263.4 g/mol |
SMILES
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トラマドール(tramadol)は、オピオイド系の鎮痛剤の1つである。1996年のWHO方式がん疼痛治療法の3段階中の2段階目で用いられる弱オピオイドである。トラマドールには主な2つの機序があり、μオピオイド受容体(英語版)の部分的なアゴニストとしての作用と、セロトニン・ノルアドレナリンの再取り込み阻害作用とを併せ持つ。
モルヒネの10分の1の鎮痛効力があるとされ、これと比較すると比較的安全で乱用性は低いとみなされているが、それでも乱用や身体依存は起こりうるし、通常の治療用量でまれに起こる副作用はオピオイド鎮痛薬に共通した、抑うつ、昏睡、頻脈、心血管崩壊、発作、呼吸停止といったものである[1]。致命的な中毒は過剰投与や他の薬剤やアルコールとの併用に関連する[1]。現在は経口薬・坐薬・静注・皮下注・筋注・徐放剤・合剤など、幅広い方法で使用できる。
肝臓で主としてCYP2D6により代謝され、またCYP3A4やグルクロン酸抱合も行われる。日本の劇薬である。アメリカでは2014年より、規制物質法におけるスケジュールIVに指定されており各国でも様々な規制がある。
1996年のWHO方式がん疼痛治療法では、疼痛コントロールの第2段階薬(弱オピオイド)に位置づけされる鎮痛薬。モルヒネなどの強オピオイド鎮痛薬に変更する場合には、トラマドールの定時投与量の1/5用量がモルヒネの初回投与量の目安となる。
欧州神経学会のEFNSの神経障害性疼痛薬物治療ガイドライン[いつ?]では、トラマドールは有痛性多発性神経障害(糖尿病性神経障害、抗がん剤による末梢神経障害など)ではエビデンスレベルA、帯状疱疹後神経痛ではレベルBで推奨されており、治療においても第2選択となっている。
非がん性の慢性疼痛では3か月以上使用するための証拠はほとんどない[1]。
状況、重症度、そして体重・年齢などによって処方は変化する。
一般に高齢者・肝機能が低下した人では作用が増強され、作用時間は延長する。トラマドールとその主な代謝産物の代謝時間は数倍に延長する。従って、1回投与量を減らし、かつ/または、投与間隔を空けるべきである。
1962年に、西ドイツのグリューネンタール社の化学者Kurt Flickが合成に成功した。1977年には、ドイツで中枢性の経口鎮痛剤として販売開始される。1994年アメリカで経口薬が発売され、翌年英国でも発売された。後に広く流通し、世界100ヶ国以上で販売されるようになる。
2008年、アメリカ合衆国のLabopharm社がデュアル・マトリックス・デリバリー・システムを応用し、速放部分と徐放部分を併せ持つ製剤を開発、アメリカ食品医薬品局(FDA)は2008年12月31日付けで製造・販売を承認した。
1966年に日本の興和から「クリスピンコーワ注1号」の名称で導入・開発が始まる。1978年3月10日に販売を開始した。日本では2003年にはがん性・術後の鎮痛薬として承認された。2010年7月に、軽度から中等度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛が承認され、また経口薬「トラマールカプセル」が発売された。2011年4月「トラムセット」(トラマドール・アセトアミノフェンの合剤)が製造承認され、適応は非オピオイド鎮痛薬によって治療困難な非癌性慢性疼痛、抜歯後疼痛となった。
2013年には、天然から初めて、アフリカ原産のアカネ科の薬用植物 Nauclea latifolia の根の皮からラセミ体として発見されたと報告された[2][3][4]。しかしこれは、後の研究でトラマドールを過剰投与された家畜の排泄物を植物が吸収したものであったことが明らかになった[5]。
ヨーロッパの緩和ケアセンターではよく使われているオピオイド系鎮痛薬の1つである。
臨床においては、癌性疼痛や術後痛などの軽~中程度の疼痛の緩和を目的に、経口・注射薬の形で使用される。変形性関節症の患者には、NSAIDやCOX-2阻害剤等と併用して症状の軽減にあたる。呼吸抑制作用や便秘・嘔吐などの副作用が少ないとされ、消化管運動抑制作用やオッディ括約筋の収縮作用も弱いので、消化管のがん患者の使用に適している。
オピオイド受容体に直接作用するほか、セロトニン・ノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、下行性疼痛抑制系を賦活し、神経因性疼痛への鎮痛効果を発揮する特異なオピオイドである。μ受容体に対しては中等度の親和性を持つが、κ、δ受容体にはほとんど親和性を持たない。μ受容体に対する親和性は、コデインの1/10、モルヒネの1/6000となっている。
日本ではトラマドールはカプセル[6]、注射剤[7]、アセトアミノフェンとの配合剤[8]で使用される。健康成人男性にトラマドールを単回経口投与したとき、投与量にかかわらず、トラマドール(±)-TRAMは速やかに吸収され、(±)-TRAMの血漿中濃度はそれぞれ投与後約1~2時間および約1時間に最高血中濃度に達した後、約5~5.5時間および約3時間の半減期で低下する。トラマドールの薬物動態は用量比例性を示す。また(±)-TRAMは、速やかに活性代謝物O-脱メチルトラマドール(±)-M1に代謝され、(±)-M1の血漿中濃度は、投与後約2時間に最高血中濃度に達した後、約6.5時間の半減期で低下。血漿中(±)-TRAMおよび(±)-M1の各鏡像異性体の(+)-体および(-)-体の血漿中濃度推移および薬物動態パラメータはおよそ類似する。
トラマドールは主に肝臓でCYP2D6により活性代謝物(±)-M1に代謝される。この活性代謝物はμ受容体に対する親和性が約200倍強くなっているため、弱-中程度のがん性疼痛コントロールにも適用できるとされる。その他の主な代謝経路は、肝臓でのCYP3A4によるN-脱メチル化、グルクロン酸抱合および硫酸抱合である。半減時間は5–7時間となっているが、肝機能や腎機能が低下している患者では、半減期がおよそ2.5倍まで増加する。活性代謝物の「mono-O-demethyl-tramadol:(M1、M2、M3、M4、M5)」は尿とともに排泄される。代謝物は以下を参照。
通常の治療用量でまれに起こる副作用はオピオイド鎮痛薬に共通した、乱用、身体依存、抑うつ、昏睡、頻脈、心血管崩壊、発作、特に呼吸機能が低下した者では呼吸停止といったものである[1]。致命的な中毒は過剰投与や他の薬剤やアルコールとの併用に関連する[1]。
他の副作用には、便秘・悪心・眠気・頭痛・倦怠感など、オピオイド系の副作用との違いは少ない。しかし、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込み阻害の作用もあるため、副作用がさらに強化される可能性を伴っている。特に頻繁に遭遇するものは以下の通りである。
人によって副作用の幅が大きく、使用しても副作用がまったく出ない場合もある一方、使用後に強い吐き気や倦怠感、不整脈などの循環器の副作用が出る場合もある。
モルヒネ等の強オピオイドに変更する際に、副作用の程度の観察から大まかな投与量の試算を割り出そうとする場合、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込み阻害作用が存在すること、オピオイド受容体を介しての鎮痛作用よりもSNRIの様な下降性疼痛抑制系の鎮痛作用が長く作用することを考慮する必要がある。
トラマドールの禁忌は以下の通りである。
日本では、重篤な呼吸抑制・頭部傷害や脳の病変などで意識混濁の恐れがある場合や、過敏症等の症状がある患者には基本的に原則禁止となっている。なお、肝障害・モルヒネの反復投与・痙攣・胆道疾患などのある患者には慎重投与となっている。
イミプラミンなどの主要な抗うつ薬と比較すると、約2桁弱いがセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用がある。そのため、MAO阻害剤やSSRIなどと併用すると、中枢神経のセロトニンが蓄積され、セロトニン症候群を引き起こす恐れがある。このことから、MAO阻害剤を投与中の患者、および投与中止後14日以内の患者には投与しないこと。また、本剤投与中止後にMAO阻害剤の投与を開始する場合には、2日か3日間程度の間隔を空けることが望ましい、とされる。
トラマドールのアメリカ食品医薬品局 (FDA)・胎児危険度分類はカテゴリー「C」である。これは、動物実験では胎児への有害作用が証明されているが、その薬物の潜在的な利益によって、潜在的なリスクがあるにもかかわらず妊婦への使用が正当化されることがありうることを意味する。
しかし、トラマドールは胎盤関門を通過し、新生児に痙攣発作、身体的依存および退薬症候、ならびに胎児死亡および死産が報告されている。また、動物実験で、トラマドールは器官形成、骨化および出生児の生存に影響を及ぼすことが報告されている。
推奨された用量の範囲でも継続的な使用により、身体依存が形成されうる[1]。
2013年にイギリスの1971年薬物乱用法のクラスCに、2014年にアメリカでは規制物質法のスケジュールIVへと再分類された。他に、国内規制がある国は、モーリシャスで2000年より、オーストラリアでは2001年、イランでは2007年より、スェーデン、ベネズエラ、ウクライナでは2008年、2009年にエジプトで、他にヨルダンとサウジアラビアである。[1]。
モルヒネと比較して乱用性は低いとみなされているが、乱用は起こりうる[1]。アジアと西アジアなどで医療目的でない乱用が報告されている[1]。
経口薬・坐薬・静注・皮下注・筋注・徐放剤・合剤など、幅広い方法で使用できる。
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リンク元 | 「WHO方式癌疼痛治療」「セロトニン症候群」「アセトアミノフェン」「ワントラム」「トラムセット配合」 |
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コデイン | デキストロプロポキシフェンa) |
ジヒドロコデイン | ||
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トラマドールb) | ||
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モルヒネ | メサドンa) |
ヒドロモルフォンa) | ||
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感度84%, 特異度97%
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