出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/06/28 16:05:15」(JST)
グラム陰性菌(グラムいんせいきん、英: Gram-negative bacteria)とはグラム染色においてクリスタルバイオレットによる染色が脱色される細菌の総称[1]。グラム陽性菌ではクリスタルバイオレットは脱色されない。グラム染色試験では対比染色として通常はサフラニン (en:safranin) がクリスタルバイオレットの後に加えられ、全てのグラム陰性菌は赤あるいは桃色に染色される。
かつてグラム陰性の真正細菌には、グラキリクテスGracilicutesというラテン語の分類名が与えられ、門相当として扱われた。命名はグラム陰性菌の薄い細胞壁にちなんでおり、ラテン語のgracilisグラキリス(細い、貧弱な)とcutisクティス(皮膚)の合成語であった。
グラム陰性菌の特徴は下記のとおりである。
例外として古細菌の存在がある。古細菌も細菌と同様にグラム染色が行われ、多くは陰性である。しかし細胞壁の構造は大きく異なっており、そもそも外膜やペプチドグリカン層自体が欠如している。その他、膜や鞭毛の構造も異なる。
プロテオバクテリアはグラム陰性菌の主要なグループであり、大腸菌 (Escherichia coli)、サルモネラ、腸内細菌科、シュードモナス、モラクセラ、ヘリコバクター、ステノトロフォモナ、ブデロビブリオ、酢酸菌、レジオネラ、そしてWolbachiaなどのα-プロテオバクテリアが含まれる。他の代表的なグラム陰性菌のグループとしてシアノバクテリア、スピロヘータ、緑色硫黄細菌、バクテロイデスが含まれる。
グラム陰性菌は真正細菌の系統の大部分を占める。代表的なグラム陽性菌であるフィルミクテス門と放線菌門、一部の種がグラム陽性に染まるクロロフレクサス門とデイノコックス・テルムス門を除けば、ほとんど全ての真正細菌がグラム陰性に染まると言っても過言ではない。ただし、ドメイン真正細菌の中でフィルミクテス門と放線菌門は2番目と3番目に大きな門なので、記載種数はややグラム陽性菌の方が多い。
医学関係のグラム陰性の球菌は性行為感染症(淋菌)、髄膜炎(髄膜炎菌)、呼吸器症状(カタラリス菌)を引き起こす3種が含まれる。
医学関係のグラム陰性の桿菌は多数存在する。主に呼吸器系の障害を引き起こす桿菌としてインフルエンザ菌、肺炎桿菌 (en:Klebsiella pneumoniae)、レジオネラ・ニューモフィラ (en:Legionella pneumophila)、緑膿菌などがあり、泌尿器系に障害を引き起こす桿菌として大腸菌、ミラビリス変形菌 (en:Proteus mirabilis)、Enterobacter cloacae、セラチア菌 (en:Serratia marcescens)などがあり、消化器系に障害を引き起こすヘリコバクター・ピロリ、ゲルトネル菌 (en:Salmonella enteritidis)、チフス菌 (en:Salmonella typhi)などがある。
グラム陰性菌は病院の集中治療室のおいて菌血症を引き起こし、二次的に髄膜炎や人工呼吸器が関与した肺炎を引き起こすAcinetobacter baumaniiと関連がある。
グラム陰性菌の病原性には、細胞壁のある種の成分が関与している[1]。
グラム陰性菌の膜の外葉は脂質部位が内毒素として機能する複雑なリポ多糖類 (LPS) により構成されている。 循環系に内毒素が侵入した場合、発熱、呼吸促拍、低血圧を引き起こす。エンドトキシンショックを引き起こすと死亡することがある。ヒトではLPSはサイトカイン産生、免疫系の活性化による先天性免疫反応 (en:innate immune response) を引き起こす。炎症はサイトカイン産生による通常の反応であり、宿主にとって害となり得る。
グラム陰性菌の特徴の1つである外膜は、細胞壁の内膜(ペプチドグリカン)に作用する抗生物質、色素、洗剤から細菌を保護している。 このためグラム陰性菌はリゾチームやペニシリンに対する抵抗性を有する。 一方、EDTAを伴うリゾチーム、抗生物質のアンピシリンなどは病原性を持つグラム陰性菌の外膜に対抗するために発展した。クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、ナリジクス酸も有効である。
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