アカラシア
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アカラシア |
分類及び外部参照情報 |
進行したアカラシアの胸部X線写真。黒色の矢印で示された陰影のラインが拡張した食道である。
|
ICD-10 |
K22.0 |
ICD-9 |
530.0 |
OMIM |
200400 |
DiseasesDB |
72 |
MedlinePlus |
000267 |
eMedicine |
radio/6 med/16 |
MeSH |
C06.405.117.119.500.432 |
プロジェクト:病気/Portal:医学と医療 |
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アカラシア(英: achalasia)もしくは食道アカラシア(しょくどうアカラシア、英: esophageal achalasia)は、食道の機能障害の一種である。食道噴門部の開閉障害もしくは食道蠕動運動の障害(あるいはその両方)により、飲食物の食道通過が困難となる疾患である。
少なくとも、1970年代初頭までには医学的に認知され、日本国内において名称の統一が行われているが、原因等について解明されていない点が多く、現在に至っても、根本的な治療方法はない。動物実験等により、迷走神経に障害を生じると発症することが分かっている(日本消化器外科学会雑誌. 1978;11(8):589-94、他)が、人間において原因と迷走神経の損傷の程度、アカラシアの症状との因果関係までは明らかになっていない。
目次
- 1 症状
- 2 診断方法
- 3 治療法
- 3.1 薬物療法
- 3.2 内視鏡下バルーン拡張術
- 3.3 腹腔鏡下手術
- 3.4 内視鏡的筋層切開術
- 4 補足
- 5 脚注
症状[編集]
アカラシアに特徴的な症状は以下のようなものが挙げられる。
- 食物が食道を通過しないことが原因のため、嘔吐物に胃液は含まれておらず、食物は咀嚼したままの形状で吐き出され、悪臭もない。また、口臭の悪化も伴わない。逆流性胃腸炎等との違いは、この点で明確に判断することが出来る。
- 食道に飲食物が通過しにくくなるため、背筋が圧迫されるという解釈が一般的であるが、末梢神経系の疾患が併発している事による筋肉の凝り、という解釈もある。これも逆流性胃腸炎等との違いである。
- 末梢神経もしくは中枢神経の障害が原因と考えられる場合に、軽度の症状が現れる場合がある(日本消化器病学会では「進行性の神経筋疾患」を原因とする嚥下障害を疑う場合に見られる症状、という見解がある)。
- その他
- 幼少期から、食事中に食べ物がつかえて、背伸びや飲水等で障害を取り除いた経験がある人は、発症率が高いといわれている。アカラシア発症者のほとんどは同様の経験をしており、一般的な確率と有意な差があると言われている。
- 飲料でさえも食道の通過障害を生じる場合が多く、重度の場合は、吐き出してしまう、もしくは窒息する場合もある。
- 一時的に症状が緩和して良くなったと思って油断していると、再び重い症状に襲われることを繰り返し、徐々に悪化することが多いと言われる。
- 「補足」にある原因及び病症の知識不足によって、初期で発見されることは少なく、初期の症状がどの様なものであるかは正確に把握されていない。
- 敢えて、初期の対策を考えるとすると、原因が心身のストレス(過労、病気、手術等)の蓄積によるものと推定されるため、十分な休息をとり、生活習慣を改めることが病状の悪化を最小限に食い止める上で有効である可能性がある。
診断方法[編集]
食道造影による典型的なアカラシアの像。鳥をひっくり返したように見えることから「鳥のくちばし状」と呼ばれる。
アカラシアが疑われる場合、「症状」にある内容の問診の他、一般的に以下のような診断方法がとられる。
- 食道内・口腔内pH検査
- アカラシアは胃液の逆流がないのが特徴であり、外形的な症状に反し、食道内及び口腔内pHは正常値になる。
- 食道内視鏡検査
- アカラシアは運動障害であるため、初期~中期の段階では、内視鏡で異常が見られないのが特徴である。症状が重度となると、食道の拡張、異常蛇行が生じ、更に悪化すると潰瘍、腫瘍、食道癌の併発が見られる。
- 食道造影(消化管透視)
- 希釈したバリウムが食道を通過する様子を観察することにより、症状を判断する。典型的には噴門部が狭窄し、それよりも口側の食道が拡張し、「鳥のくちばし状」を呈する。ただし、初期の症状では液体の通過障害が見えにくい場合もあり、診断が難しい。
- 食道内圧測定
- カテーテルを食道内に入れて内圧を測定することで、下部食道括約筋の弛緩不全による下部食道括約筋圧の上昇や食道蠕動波の消失を確認する。
治療法[編集]
薬物療法[編集]
初期で発見されることが少ないため、初期の症状に有効な治療法は確立されていない。敢えて考えられる治療法としては、
- 漢方薬(芍薬甘草湯、等)の経口投与
- ビタミンB12製剤の経口投与(1.5mg/日 程度以上の大量投与で初期の末梢神経障害の回復に効果)
- カルシウム拮抗薬の投与(血圧降下作用があるため、低血圧の患者や日常生活を送る患者には向かない)
等の内科的治療がある。症状が完全回復したという報告はなく、悪化の程度を抑制するために投与を続ける必要性があると言われている。
内視鏡下バルーン拡張術[編集]
中程度の症状には、バルーンを用いて、食道を拡張することによって通過障害を取り除く。効果は一時的であり、根本的な治療とは言えない。
腹腔鏡下手術[編集]
重度の症状の場合は、腹腔鏡を用いた外科手術による方法が一般的である。「Heller筋層切開術」と呼ばれる方法で食道の筋肉を開いて通過障害を取り除き、「Dor噴門形成術」と呼ばれる方法で、噴門部からの胃液の逆流を抑制する(食道は胃液を保護する粘膜がないため、噴門部が開いたままだと食道炎、食道癌を併発する)。多い病院では年間20例ほどの手術が行われており、外科的治療法としては確立していると考えられる。
内視鏡的筋層切開術[編集]
新しい根治的治療として経口内視鏡的筋層切開術(POEM:per‐oral endoscopic myotomy)が発案され、低侵襲治療として注目を浴びている。POEMでは腹腔鏡手術と異なり、体表に傷がつかないことが外科手術治療との大きな違いである。[1][2]
補足[編集]
日本における発症率は10万人に1人程度とされているが、潜在的な発症率はもう少し高いと考えられる。実際、アカラシアの分野は消化器内科よりも消化器外科で発達しており、症状から消化器内科で診察される場合がほとんどであるが、症状が特定されない、もしくは誤診されたまま症状が悪化し、食道癌等になってしまうことによって、アカラシアという初期の原因が見過ごされているケースが少なくないと言われる。
日本人と比べて欧米人の方が発症率が高く、一般的に、食生活の違いが原因ではないかと推察されている。日本においてアカラシアの発症件数が増えているとの報告もあるらしいが、これも日本人の食生活が欧米化していることが原因ではないかという推察の根拠の一つとなっている。
脚注[編集]
- ^ POEM for esophageal achalasia,Inoue H et al,Endoscopy 2010; 42(4): 265-271 DOI: 10.1055
- ^ 食道アカラシアに対する経口内視鏡的筋層切開術(POEM)の臨床,日本臨床68巻9号page1749-1752 (2010.09)
UpToDate Contents
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Japanese Journal
- P2-9-6 食道アカラシア合併妊娠の1例(Group81 合併症妊娠(症例)1,一般演題,第63回日本産科婦人科学会学術講演会)
- 齋藤 心,細谷 好則,宇井 崇,田中 亨,佐田 尚宏,安田 是和
- 日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association 72(1), 54-57, 2011-01-25
- NAID 10028120216
Related Links
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★リンクテーブル★
[★]
- 35歳の女性。摂食早期の満腹感と心窩部痛を主訴に来院した。6か月前から摂食早期の満腹感を自覚し、特に脂っぽいものを食べると心窩部痛が出現するため受診した。便通異常はない。既往歴に特記すべきことはない。身長 158cm、体重 46kg(6か月間で3kgの体重減少)。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球 408万、Hb 12.8g/dL、Ht 39%、白血球 5,300、血小板 20万。血液生化学所見:アルブミン 4.1g/dL、総ビリルビン 0.8mg/dL、AST 21U/L、 ALT19U/L、LD 194U/L(基準 120~245)、ALP 145U/L(基準 115~359)、γ-GT 14U/L(基準 8~50)、アミラーゼ 89U/L(基準 37~160)、尿素窒素 15mg/dL、クレアチニン 0.7mg/dL、尿酸 3.9mg/dL、血糖 88mg/dL、HbA1c 5.6%(基準 4.6~6.2)、総コレステロール 176mg/dL、トリグリセリド 91mg/dL、Na 140mEq/L、K 4.3mEq/L、Cl 101mEq/L。上部消化管内視鏡検査および腹部超音波検査に異常を認めない。
- 最も考えられるのはどれか。
[正答]
※国試ナビ4※ [114A043]←[国試_114]→[114A045]
[★]
- 次の文を読み、10~12の問いに答えよ。
- 68歳の男性。嚥下障害を主訴に来院した。
- 現病歴 : 6か月前から胸骨後部の不快感を自覚していた。1か月前、食事中に肉片がつかえたがお茶を飲んで通過した。その後、固形物が頻回につかえるようになった。最近1か月で5kgの体重減少がみられた。
- 既往歴 : 特記すべきことはない。
- 生活歴 : 飲酒:日本酒2合/日、40年間。喫煙:30本/日、40年間。
- 現症 : 身長162cm、体重47kg。左側の頚部と鎖骨上窩とにリンパ節を触知する。
- 検査所見 : 血液所見:赤血球280万、Hb9.5g/dl、白血球7,900。血清生化学所見:総蛋白5.8g/dl、アルブミン3.2g/dl、AST18単位(基準40以下)、ALT16単位(基準35以下)。入院後の食道造影写真(別冊No.4)を別に示す。
[正答]
※国試ナビ4※ [097C010]←[国試_097]→[097C012]
[★]
- 81歳の男性。嚥下困難を主訴に来院した。1か月前から嚥下困難を自覚しており、2週間前から食事摂取が困難となったため受診した。前立腺癌でホルモン療法を受けている。身長 160cm、体重 56kg。体温 36.1℃。脈拍 72/分、整。血圧 136/88mmHg。呼吸数 14/分。甲状腺の腫大を認めない。頸部リンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。上部消化管内視鏡像(別冊No. 17)を別に示す。
- 考えられるのはどれか。
[正答]
※国試ナビ4※ [113A043]←[国試_113]→[113A045]
[★]
- 55歳の男性。嚥下障害を主訴に来院した。3か月前から食事の時につかえる感じが出現し、1か月前から固型物のつかえ感が顕在化してきた。水を大量に飲んで流しこむ状態で、この3か月で体重が5kg減少した。横臥すると数時間前に食べたものが口腔内に逆流してくる。逆流内容物は食物残渣のみで、血液の混入はなく、酸味もない。食道造影写真を以下に示す。
[正答]
※国試ナビ4※ [097A022]←[国試_097]→[097A024]
[★]
- 40歳の女性。嚥下困難と嘔吐とを主訴に来院した。35歳を過ぎたころから前胸部に食物のつかえを感じるようになった。1年前から食物がつかえたときにお茶で流し込むことが月に2回程度あった。最近、食後に嘔吐するようになったため受診した。吐物はほとんど飲み込んだ食物であり体重減少はない。上部消化管造影像(別冊No. 2)を別に示す。
- 考えられるのはどれか。
[正答]
※国試ナビ4※ [109F019]←[国試_109]→[109F021]
[★]
- 55歳の男性。嚥下困難と嘔吐とを主訴に来院した。2か月前から食物のつかえ感を自覚した。5日前から固形物をとると嘔吐し、水分のみが摂取可能となった。喫煙は30本/日を35年間。身長168cm、体重55kg。眼瞼結膜に貧血を認める。食道内視鏡写真を以下に示す。
- 診断はどれか。
[正答]
※国試ナビ4※ [102D029]←[国試_102]→[102D031]
[★]
- 75歳の男性。健康診査の上部消化管造影で異常を指摘され来院した。
- 高血圧と慢性気管支炎とに対して外来治療中であった。上部消化管造影写真と食道内視鏡写真とを以下に示す。考えられるのはどれか。
[正答]
※国試ナビ4※ [098A023]←[国試_098]→[098A025]
[★]
[正答]
※国試ナビ4※ [100G090]←[国試_100]→[100G092]
[★]
- 疾患と術後早期に起こり得る合併症の組合せで正しいのはどれか。 2つ選べ。
[正答]
※国試ナビ4※ [105A017]←[国試_105]→[105A019]
[★]
- 出生直後から泡沫状の唾液排出と呼吸困難とをきたすのはどれか。
[正答]
※国試ナビ4※ [098H031]←[国試_098]→[098H033]
[★]
[正答]
※国試ナビ4※ [111D015]←[国試_111]→[111D017]
[★]
- 食道狭窄に対して内視鏡的ステント留置の適応となるのはどれか。
[正答]
※国試ナビ4※ [111G017]←[国試_111]→[111G019]
[★]
- バリウムによる上部消化管造影が禁忌となるのはどれか。
[正答]
※国試ナビ4※ [102G021]←[国試_102]→[102G023]
[★]
[正答]
※国試ナビ4※ [104C010]←[国試_104]→[104C012]
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※国試ナビ4※ [103B029]←[国試_103]→[103B031]
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※国試ナビ4※ [100G085]←[国試_100]→[100G087]
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※国試ナビ4※ [096G102]←[国試_096]→[096G104]
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※国試ナビ4※ [100G098]←[国試_100]→[100G100]
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※国試ナビ4※ [096G082]←[国試_096]→[096G084]
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[正答]
※国試ナビ4※ [098G075]←[国試_098]→[098G077]
[★]
- 英
- lower esophageal sphincter, LES
- 関
- 上部食道括約筋、食道括約筋、食道
LES圧
LESS圧低下の原因
臨床関連
[★]
- 同
- 食道内圧モニター、食道内圧検査 measurement of esophageal intraluminal pressure、食道内圧測定検査
- 関
- 食道内圧
Fig 286-3
- 食道には二箇所の内圧が高い部位がある(UES/LES)。
- 強皮症:中部~下部食道における食道の収縮力が低下。蠕動が中部~下部食道で非常に減弱。LES圧も低下 ← 平滑筋の減少
- アカラシア:中部~下部食道における食道の収縮力が低下。LES圧は上昇。 ← 弛緩を伝達する神経情報が到達しない。
- びまん性食道痙攣:中部~下部食道で、嚥下に伴う長時間の収縮がみられる。
- 喉頭麻痺:喉頭(の蠕動運動が減弱)~UES(が弛緩したまま)~上部食道(の蠕動運動あ減弱)
[★]
- 使い分けされているのか調査中
消化器外科
Dor手術
- YN.A16
- 腹腔鏡下にHeller筋層切開術と噴門形成術(Dor手術)を組み合わせて施行する
循環器外科
- 英
- Dor approach, Dor operation
参考
- 末期心筋症に劇的な効果 「ドール手術」すでに15例 広がった左心室縫い縮める 鎌倉の病院でこの一年間
- http://www.cvi.or.jp/suma/koho1/koho1_7.html
- 検討進む移植までのつなぎ治療 寝たきり患者にも社会復帰の可能性
- http://www.cvi.or.jp/suma/koho2/koho2_12.html
[★]
- 英
- achalasia、cardiospasm
- 関
- 無弛緩症、アカラシア、特発性食道拡張、アカラジア、食道アカラシア、巨大食道症、食道無弛緩症
[★]
- 英
- achalasia
- 関
- 噴門痙攣、アカラシア、特発性食道拡張、アカラジア、食道アカラシア
[★]
- 英
- laparoscopic operation for esophageal achalasia
[★]
- 英
- thoracoscopic operation for achalasia
[★]
- 英
- achalasia
- 同
- (国試)食道アカラシア esophageal achalasia, 噴門無弛緩症
- 関
- ヒルシュスプルング病 Hirschsprung's disease
[show details]
- first aid step1 2006 p.273
概念
- 食道平滑筋層内アウエルバッハ神経叢細胞の変性・消失によって、下部食道括約筋の弛緩不全や食道蠕動が消失することによる食物の通過障害や、食道の異常拡張を呈する機能的疾患
- 食道下端1-4cm辺りの狭窄(機能的開大欠如)とその口側食道の異常拡大を来す。
- 食道の拡大幅は3-4cmが多く、著しいものは6-10cmに達する
疫学
- 発症は稀で。10万人に1-2人
- 男女ほぼ同頻度,
- 年齢は20-50歳代(20-40歳ともいわれる(IMD.841))
- 新生児期から症状が出ることもあり、また症状は7-8歳ごろから出現することが多い(QB.O-171)。
病型 HIM chapter 286
- 特発性アカラシア:多くのアカラシアが特発性に分類される
- 二次性アカラシア:胃癌の食道への浸潤、リンパ腫、シャーガス病、ある種のウイルス感染、好酸球性胃腸炎、神経変性疾患
分類
形状
拡張度
- I度 :最大横径3.5cm
- II度 :3.5~6.0cm
- III度:6.0cm以上
内圧測定(IMD)
- A型:嚥下による食道の陽性波が認められるもの。
- B型:嚥下による食道の陽性波が認められないもの。
病理
- 食道固有筋層内のアウエルバッハ神経叢の神経節細胞の減少・消失
- 下部食道括約筋(LES)は外見的に正常。筋層の肥厚などは認められない。 → 器質性疾患は否定的
病因
- 環境の変化、精神的ストレスが誘因となって比較的急激に発症し慢性に経過し、軽快~増悪を反復、感情の乱れの強いときに増悪傾向
- 冷たい飲食物の摂取、急いで摂食する場合でも誘発される
病態
- 食道括約筋の弛緩不全や食道蠕動の消失は次の様に説明される。
- 1. 下部食道括約筋(噴門部括約筋)におけるアウエルバッハ神経叢の神経節細胞の減少・消失による蠕動の伝達とそれによる食道下端部開大が起こらない
- 2. VIPや一酸化窒素合成酵素を含む抑制性ニューロンの消失。進行期にはコリン作動性ニューロンも影響を受ける。(HIM chapter 286)
比較
アカラシア
|
下部食道括約筋(噴門部括約筋)のアウエルバッハ神経叢の神経節細胞が減少
|
ヒルシュスプルング病
|
腸管内神経節細胞(肛門側腸管の壁内神経節細胞(アウエルバッハ神経叢、マイスナー神経叢))の欠如
|
症状
- 自覚症状が生じる段階ではすでに食道は異常拡張を呈している(IMD)
- 嚥下障害(食道内に食物の停滞・逆流)、悪心・嘔吐、前胸部痛、体重減少、誤嚥
-
- 固形物・流動物の両方で嚥下障害が生じる ← 固形物のみだったら、器質的な変性による閉塞が考えられる。
- 胸腔内圧を上昇させる手技(ex. Valsalva maneuver)は食道の食物を胃に通過させるのに有効な手技である
- 体位変換や就寝時に起こりやすい
- 嘔吐 → 嘔吐物の気道への吸引 → 咳嗽、呼吸困難、喘鳴 → 誤嚥性肺炎
- 3. 胸部不快感・胸痛:胸骨下に疼痛、圧迫感、狭窄感など ← 食道炎の合併は10%
- 4. 体重減少:十分な摂食ができないため。慢性期におこりうる。
検査
X線造影
- 1. 胸部X線写真:食道陰影の出現、胃泡の消失
- 2. 食道X線造影(上部消化管造影):
- 下部食道の辺縁平滑な狭窄(鳥のくちばし様) (barium swallow:bird beak)、食道内腔の拡張像(椎体より大)。
- 造影剤は食道内に停留(健常者では数秒間、食道アカラシアの患者では1時間程度)
- 食道の逆蠕動、攣縮、胃内流出の遅延などが認められる(IMD)
- (1) 嚥下時に陽性波消失(遠位食道の蠕動波の消失) ← 食塊の移動させるように上部から下部に向かって食道内圧の上昇が移動していく。
- (2) 噴門陰性波消失(下部食道括約筋弛緩(LES弛緩)の欠如)
- (3) LES圧の上昇
- (1) 内視鏡スコープの噴門部通過には問題はない → 器質的疾患ではないから
- (2) 食物残渣の存在、食道内腔の拡張、慢性例では食道炎、食道癌の合併
- コリン作動性薬物を投与すると食道壁の痙攣や異常蠕動運動が生じ、食道内圧が上昇
- 試験施行の結果、胸痛を来しうるため、食道内圧検査を行うのが一般的(IMD)
- CCKは括約筋の圧力を低下させるが、アカラシアではCCKは神経伝達抑制作用が失われる(HIM chapter 286)
診察
鑑別疾患
IMD
- 2. 二次的な、あるいは他の食道蠕動運動障害を示す疾患
DIF改変
治療
精神的ケア
薬物療法
- 抗コリン薬
- 亜硝酸薬:ニトログリセリン、硝酸イソソルビド。 副作用あり
- カルシウム拮抗薬:ニフェジピン。 副作用有り
- sildenafil:cGMPを増加させ症状の軽減をもたらす → cGMPの増加はLES圧を減少させ、嚥下に伴うLESの弛緩を増強する
- ボツリヌス毒素:コリン作動性ニューロンの神経終末からのコリン放出を抑制する。6ヶ月で60%の患者の症状を緩和できる。老人の一時的な症状緩和や高リスク患者に有用である。ただし、反復利用により食道の線維化を来しうる。
下部食道括約筋拡張術バルーン
- 標準的治療
- バルーン拡張術:有効率70%前後。繰り返して行う。合併症は出血や穿孔である。
ヘラー法(Heller method, 粘膜外筋切開法)
- 腹腔鏡下でHeller筋層切開術+噴門形成術(Dor手術)を施行
-
- A surgical procedure for achalasia performed by dividing the circular muscles of the oesophagogastric junction. Using an abdominal approach a longitudinal incision is made through the lower oesophageal and upper gastric muscle wall exposing the mucosa. The procedure may be combined with a Nissen to prevent the complication of post-procedure reflux.
- http://www.surgeryrevision.co.uk/10.htm
ウェンデル法(Wendel method, 下部食道・噴門部全層切開縫合法)
ジラール変法(Girard method, 噴門形成法)
下部食道筋層切除+胃底部縫着術
フォロー
- 粘膜病変の発生(食道炎、食道癌)の有無を上部消化管造影・内視鏡などで定期的に経過観察(1年ごと)
国試
[★]
- 英
- esophagus (Z)
- 関
- 消化器系
解剖
- 正中面付近を下行してくるが、横隔膜近傍で左側に寄り、背面で胸大動脈と交叉する。
- L10椎体の高さで、食道裂孔を食道神経叢と共に通過して腹腔に入る
部位区分
- SSUR.456
生理的狭窄部 (KL.283, KH. 139)
- 第1狭窄部位:輪状軟骨狭窄部:cricopharyngeal constriction
- 切歯から15cm
- 食道の上端で、咽頭に連なる部位
- 下咽頭収縮筋が食道を囲み、輪状軟骨に付き、この筋の緊張によると考えられる
- 第2狭窄部位:大動脈狭窄部:bronchoaortic constriction
- 切歯から25cm
- 食道の中部で、大動脈弓と左気管支が交叉し、それによって圧される。つまり大動脈弓の
- 第3狭窄部位:横隔膜狭窄部:diaphragmatic constriction
運動 (SP.720)
組織
- 食道腺は粘膜筋板の下に存在する。 ← 粘膜下組織に腺があるのは食道の固有食道腺と十二指腸のブルンネル腺だけ
- 食道は横隔膜より上位では漿膜がなく、癌が周囲に浸潤しやすい
食道の上皮と上皮下の組織
|
|
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層構造
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1
|
2
|
3
|
4
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5
|
6
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器官
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単層扁平上皮
|
単層立方上皮
|
単層円柱上皮
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角化重層扁平上皮
|
非角化重層扁平上皮
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上皮表層の構成細胞
|
粘膜固有層
|
腺の構成細胞
|
粘膜筋板
|
粘膜下組織 (大抵、粗結合組織)
|
筋層
|
漿膜(結合組織+単層扁平上皮) 外膜(結合組織のみ)
|
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|
|
食道
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|
|
|
|
○
|
|
食道噴門腺 (咽頭付近と胃付近に局在)、粘液腺
|
粘液細胞 (スムーズに食べ物を流す)
|
縱層 (縦走筋のみ)
|
固有食道腺(粘液腺、管状胞状、ペプシノーゲン、リゾチーム)
|
内輪筋層 外縱筋層 (食道上1/3:骨格筋、食道中1/3:骨格筋、平滑筋、食道下1/3:平滑筋)
|
外膜(横隔膜まで) 漿膜
|
臨床関連
- 食事の通過障害は生理的狭窄部でおこりやすい。特に第1狭窄部で異物が見られる (KH.141)
- 生理的狭窄部は癌の好発部位であり、第2,第3狭窄部位に多い (KH.141)
[★]
- 英
- street, meatus
- 関
- 管、街路、街角
[★]
- 英
- chalasia
- 関
- 食道カラシア