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腸内細菌(ちょうないさいきん)とは、ヒトや動物の腸の内部に生息している細菌のこと。
ヒトをはじめ哺乳動物は、母親の胎内にいる間は、基本的に他の微生物が存在しない無菌の状態にある。生後3-4時間後には、外の環境と接触することによって、あるものは食餌を介して、あるものは母親などの近親者との接触で、あるものは出産時に産道で感染することによって、さまざまな経路で微生物が感染し、その微生物の一部は体表面、口腔内、消化管内、鼻腔内、泌尿生殖器などに定着して、その部位における常在性の微生物になる。一部の原生動物や古細菌を除き、その多くは真正細菌である。一般には常在細菌と総称されることが多い。このうち消化管の下部にあたる、腸管内の常在細菌が腸内細菌である。
ヒトの腸内には一人当たり100種類以上、100兆個以上の腸内細菌が生息しており、糞便のうち、約半分が腸内細菌またはその死骸であると言われている。宿主であるヒトや動物が摂取した栄養分の一部を利用して生活し、他の種類の腸内細菌との間で数のバランスを保ちながら、一種の生態系(腸内細菌叢、腸内常在微生物叢、腸内フローラ)を形成している。腸内細菌の種類と数は、動物種や個体差、消化管の部位、年齢、食事の内容や体調によって違いが見られるが、その大部分は偏性嫌気性菌であり腸球菌など培養可能な種類は全体の一部であり、VNCの種類も多数存在する。なお、その名称から腸内細菌の代表のように考えられている大腸菌は、全体の0.1%にも満たない。
腸内環境は嫌気性であり、腸内細菌の99%以上が嫌気性生物である偏性嫌気性菌に属している。これらの腸内細菌の代謝反応は還元反応が主体であり、また種々の分解反応が特徴的となっている[1]。嫌気呼吸の種類には、嫌気的解糖、硝酸塩呼吸、硫酸塩呼吸、炭酸塩呼吸などがあり、基質を還元することによって代謝に必要な電子を得ており、例えば、硝酸塩から亜硝酸塩を、硫酸塩から硫化水素を、炭酸からメタンを生成するような例がある。
腸内細菌叢を構成している腸内細菌は、互いに共生しているだけでなく、宿主であるヒトや動物とも共生関係にある。宿主が摂取した食餌に含まれる栄養分を主な栄養源として発酵することで増殖し、同時にさまざまな代謝物を産生する。腸内細菌が発酵によって作り出したガスや悪臭成分がおならの一部になる。腸内細菌は、草食動物やヒトのような雑食動物において食物繊維を構成する難分解性多糖類を短鎖脂肪酸に転換して宿主にエネルギー源を供給したり、外部から侵入した病原細菌が腸内で増殖するのを防止する感染防御の役割を果たすなど、宿主の恒常性維持に役立っている。しかし、腸管以外の場所に感染した場合や、抗生物質の使用によって腸内細菌叢のバランスが崩れた場合には病気の原因にもなる。
腸内細菌は多数の雑多な菌種によって構成され、一人のヒトの腸内には100種以上(一説には500種類とも言う)100兆個の腸内細菌が存在していると言われる。一般にヒトの細胞数は60-70兆個程度と言われており、細胞の数ではそれに匹敵するだけの腸内細菌が存在することになる。ただし細菌の細胞は、ヒトの細胞に比べてはるかに小さいため、個体全体に占める重量比が宿主を上回ることはない。しかし、それでも成人一人に存在する腸内細菌の重量は約1.5 kgにのぼるとされる。腸管内容物を見ると、内容物1gに100億個から1,000億個(1010-1011個)の腸内細菌が存在しており、糞便の約半分は腸内細菌か、またはその死骸によって構成されている。
ヒトや動物の腸は、摂取した食餌を分解し吸収するための器官であるため、生物が生育するのに必要な栄養分が豊富な環境である。このため、体表面や泌尿生殖器などと比較して、腸内は種類と数の両方で、最も常在細菌が多い部位である。この多様な細菌群は、消化管内部で生存競争を繰り広げ、互いに排除したり共生関係を築きながら、一定のバランスが保たれた均衡状態にある生態系が作られる。このようにして作られた生態系を腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)と呼ぶ。なお、この系には細菌だけでなく酵母など菌類や、細菌に感染するファージなども混在してバランスを形成しているため、腸内常在微生物叢、腸内フローラ、腸内ミクロフローラなどという用語がより厳密ではあるが、一般にはこれらの細菌以外の微生物も含めて腸内細菌叢と呼ばれることが多い。
ヒトや動物が摂取した食餌は、口、食道、胃を経て、十二指腸などの小腸上部に到達し、その後、宿主に栄養分を吸収されながら、大腸、直腸へと送り出される。このため、消化管の場所によって、その内容物に含まれる栄養分には違いが生じる。また消化管に送り込まれる酸素濃度が元々高くないのに加えて、腸管上部に生息する腸内細菌が呼吸することで酸素を消費するため、下部に進むほど腸管内の酸素濃度は低下し、大腸に至るころにはほとんど完全に嫌気性の環境になる。このように同じ宿主の腸管内でも、その部位によって栄養や酸素環境が異なるため、腸内細菌叢を構成する細菌の種類と比率は、その部位によって異なる。一般に小腸の上部では腸内細菌の数は少なく、呼吸と発酵の両方を行う通性嫌気性菌の占める割合が高いが、下部に向かうにつれて細菌数が増加し、また同時に酸素のない環境に特化した偏性嫌気性菌が主流になる。
また、胆汁酸が界面活性剤として細菌の細胞膜を溶解する作用[2][3]により小腸内や胆管での腸内細菌叢の形成を妨げている。毎日、合計で20-30gの胆汁酸が腸内に分泌され、分泌される胆汁酸の90%は回腸で能動輸送され再吸収され再利用され、腸管から肝臓や胆嚢に抱合胆汁酸が移動することを、腸肝循環と呼んでいる。殺菌作用のある胆汁酸が回腸でほとんど吸収されるため、腸内細菌は回腸以降の大腸を主な活動場所としている。
消化管の部位の違いによるヒト腸内細菌の数(内容物1gあたり)はおよそ以下の通りである。糞便に排出される菌の組成は、大腸のものに類似している。
これらの腸内細菌の組成には個人差が大きく、ヒトはそれぞれ自分だけの細菌叢を持っていると言われる。ただしその組成は不変ではなく、食餌内容や加齢など、宿主であるヒトのさまざまな変化によって細菌叢の組成もまた変化する。
例えば、母乳で育てられている乳児と人工のミルクで育てられている乳児では、前者では、ビフィズス菌などのBifidobacterium属の細菌が最優勢で他の菌が極めて少なくなっているのに対して、後者ではビフィズス菌以外の菌も多く見られるようになる。このことが人工栄養児が母乳栄養児に比べて、細菌感染症や消化不良を起こしやすい理由の一つだと考えられている。
乳児が成長して離乳食をとるようになると、バクテロイデス属 Bacteroides やユーバクテリウム属 Eubacterium など、成人にも見られる嫌気性の腸内細菌群が増加し、ビフィズス菌などは減少する。さらに加齢が進み、老人になるとビフィドバクテリウム属 Bifidobacteriumの数はますます減少し、かわりにラクトバシラス属 Lactobacillus や腸内細菌科の細菌、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)などが増加する。
腸内細菌はヒトだけでなく、消化管を有するさまざまな動物にも存在するが、その組成は動物種によって異なる。基本的にはいずれもBacteroides属などの偏性嫌気性菌が優勢であるが、ヒト、サル、ニワトリなどでは乳酸菌としてビフィズス菌の仲間が多いのに対して、ブタ、マウス、イヌなどでは乳酸桿菌(Lactobacillus)が多く、ネコ、ウサギ、ウシなどではどちらの乳酸菌も少ない。
腸内細菌を善玉菌と悪玉菌に分類することが腸内環境の説明に使われることがある。前者は宿主の健康維持に貢献し、後者は害を及ぼすとされる。
この考えは19世紀終わりにイリヤ・メチニコフが発表した「自家中毒説」に端を発している。小腸内で毒性を発揮する化合物が産生されたことが発見され、それが腸から体内に吸収されることがさまざまな疾患や老化の原因だと考えた。腸内の腐敗は寿命を短くするという仮説を立て、腸内腐敗を予防すれば老化を防止できると考えた。ヨーロッパ各地を遊説中に、長寿国であったブルガリアでヨーグルトが摂食されていることを見出し、そこから分離した「善玉菌」である乳酸菌(ブルガリア菌)を摂取することによって、腸内の腐敗物質が減少することを確認した。
その後の研究によって、腸内細菌と宿主であるヒトの共生関係が徐々に明らかになり、また腸内細菌叢のバランスの変化が感染症や下痢症などの原因になりうることが明らかになったことから、腸内細菌叢のバランスを変化させることによってヒトの健康改善につながるという考えが改めて支持されるようになった。そして、がん、心臓病、アレルギー、痴呆症のような病気との関連性も高いと分かっている[4]。
善玉菌と呼ばれるものにはビフィズス菌に代表されるビフィドバクテリウム属 Bifidobacterium や、乳酸桿菌と呼ばれるラクトバシラス属 Lactobacillus の細菌など乳酸や酪酸など有機酸を作るものが多く、悪玉菌にはウェルシュ菌に代表されるクロストリジウム属 Clostridium や大腸菌など、悪臭のもととなるいわゆる腐敗物質を産生するものを指すことが多い。悪玉菌は二次胆汁酸やニトロソアミンといった発がん性のある物質を作る。悪玉菌は有機酸の多い環境では生育しにくいものも多い。
日本では、科学的根拠がある特定保健用食品(トクホ)には食品の機能の表示が認可されている。認可された食品はヨーグルトとして乳酸菌を含んでおり、食品の摂取によって便秘や下痢の改善、善玉菌に分類される菌が増殖し有機酸が増え、悪玉菌が減少しアンモニアが減ったため腸内環境が改善されたことを示す研究結果が多い[5]。
肉は大豆よりアンモニアを多く作るので、アンモニアが肝臓で処理できず脳にまわる肝臓障害の場合、回復させるために肉の摂取が制限されることがある[6]。
ほかに生きたまま腸内に到達可能な乳酸菌(プロバイオティクス)や、腸内の善玉菌が栄養源に利用できるが悪玉菌は利用できない物質(オリゴ糖など、プレバイオティクス)を、製剤や機能性食品として用いることが考案され、多くの製品が開発・実用化されている。
トクホに認可された食品には、研究によって血圧や血清コレステロールの低下が確認された製品がある。花粉症などのアレルギー症状が軽減されるという研究報告もある[7]。がんの予防効果を謳った健康食品まで見受けられる(薬事法違反)。整腸と関連したがんやアレルギーなど、様々な疾患を抑制する作用の研究が行われている[8]。
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死亡した乳児(新生児を除く)を対象として調査した結果(1957年東京都)によれば、母乳栄養、混合栄養、人工栄養の各栄養法による死亡率比は、成熟児については、ほぼ1:2:3、未熟児については、ほぼ1:2:4の値を示していた[9]。 特にビフィズス菌は母乳栄養の糞便に多く存在する。正常な母乳栄養児のフローラはビフィズス菌が極めて優勢である。腸内のビフィズス菌を旺盛にするために母乳に多く含まれる乳糖やオリゴ糖などが有効である[9]。ビフィズス菌は乳糖やオリゴ糖などを分解して乳酸や酢酸を産生して腸内のpHを顕著に低下させ[10]、善玉菌として腸内の環境を整えるほか、花粉症などアレルギー症状の緩和にも貢献していることが分かってきた[11]。乳幼児に多いロタウイルスによる感染性腸炎の抑制をする可能性が報告されている[12]。ビフィズス菌は、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンK、その他ビタミンB群を生成する[9]。
ヒトの消化管は自力ではデンプンやグリコーゲン以外の食物繊維である多くの多糖類を消化できないが、大腸内の腸内細菌が嫌気発酵することによって、一部が酪酸やプロピオン酸のような短鎖脂肪酸に変換されてエネルギー源として吸収される。食物繊維の大半がセルロースであり、人間のセルロース利用能力は意外に高く、粉末にしたセルロースであれば腸内細菌を介してほぼ100%分解利用されるとも言われている。デンプンは約4kcal/g のエネルギーを産生するが、食物繊維は腸内細菌による醗酵分解によってエネルギーを産生し、その値は一定でないが、有効エネルギーは0〜2kcal/gであると考えられている。また、食物繊維の望ましい摂取量は、成人男性で19g/日以上、成人女性で17g/日以上である[13]。食物繊維は、大腸内で腸内細菌によりヒトが吸収できる分解物に転換されることから、食後長時間を経てから体内にエネルギーとして吸収される特徴を持ち、エネルギー吸収の平準化に寄与している。
小腸では栄養素を吸収しても、小腸組織の代謝には流用されずに即座に門脈によって運び去られ、小腸自体の組織は動脈血によって供給される栄養素によって養われる。しかし、大腸の組織の代謝にはこの発酵で生成されて吸収された短鎖脂肪酸が主要なエネルギー源として直接利用され、さらに余剰部分が全身の組織のエネルギー源として利用される。
ウマなどの草食動物ではこの大腸で生成された短鎖脂肪酸が主要なエネルギー源になっているが、ヒトでも低カロリーで食物繊維の豊富な食生活を送っている場合にはこの大腸での発酵で生成された短鎖脂肪酸が重要なエネルギー源となっている。
酪酸菌は、酪酸を生成する偏性嫌気性芽胞形成グラム陽性桿菌である。クロストリジウム属のタイプ種でもある。芽胞の形で環境中に広く存在しているが、特に動物の消化管内常在菌として知られている。日本では宮入菌と呼ばれる株が酪酸菌の有用菌株として著名であり、芽胞を製剤化して整腸剤として用いられている。
ビタミンKは食物からの摂取と並んで、幾つかの種類に属する複数腸内細菌によっても供給される。ビタミンKは血液凝固作用(止血)にも関係し、これが不足すると各種内出血といった欠乏症が発生する。ヒト成人に於いては通常、腸内細菌による供給だけでも充分必要量を賄えるが、生まれたばかりのヒト新生児では、まだ充分に腸内細菌叢が形成されて居ないため、これを充分に生産出来ない事から、腸内出血(血便)などの異常が発生しやすい。これに加え、胎児や新生児では出産に際して骨を柔らかくするためP450により骨のカルシウム定着にも関係しているビタミンKを体内で分解しているとの説もある[14]。また成人でも抗生物質の投与により腸内細菌叢が損なわれた際には、同様に欠乏症が発生し得る。
ビオチン(ビタミンB7)の一日の目安量は、成人で45μg。腸内細菌叢により供給されるため、通常の食生活において欠乏症は発生しない[15]。
ピリドキシン(ビタミンB6)も腸内細菌により供給されている[16]。
食物繊維を多く摂ると腸内細菌によるリボフラビン(ビタミンB2)の合成が盛んになる[17]。
生体内においては、ナイアシン(ビタミンB3)はトリプトファンから生合成される。ヒトの場合は、さらに腸内細菌がトリプトファンからナイアシン合成を行っている。
プロピオン酸生産菌はビタミンB12を生産する主要な菌であり、草食動物は腸内細菌としてこれらの菌からビタミンB12を摂取している[18][19][要高次出典]。ヒトではビタミンB12欠乏症が見られることから、ヒトの腸内細菌は十分な量のビタミンB12を産生していないと考えられる。
腸内細菌は、パントテン酸(ビタミンB5)、葉酸(ビタミンB9)、リボフラビン、ナイアシン(ビタミンB3)、ビオチン(ビタミンB7)、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンKも生成する[20]。
乳酸菌もビタミンCを微量ながら生成する。野菜や果物を摂れない遊牧民は、乳酸発酵された馬乳酒を1日最低1-3リットル程度飲んでいる[21][22]。馬乳酒にはビタミンCが100mlあたり8-11mg含まれている[23]。
肝臓においてグルクロン酸転移酵素によりヘムの分解物であるビリルビンはグルクロン酸抱合を受け、水に溶けるようになる。抱合型ビリルビンはほとんどが胆汁の一部となって十二指腸に分泌される。抱合型ビリルビンの一部は大腸に達し、腸内細菌の働きにより還元されてウロビリノーゲンに代謝され、腸から再吸収され、腎臓を経て、尿として排泄される。この循環を腸肝ウロビリノーゲンサイクルと呼ぶ。ウロビリノーゲンは、抗酸化作用を有し、DPPHラジカル除去作用は他の抗酸化物質(ビタミンE、ビリルビン及びβ-カロチン)よりも高い値を示す[24][25]。再吸収されたウロビリノーゲンが体内で酸化されると黄色のウロビリンとなり尿から排泄される。 腸内に残るウロビリノーゲンはさらに還元されてステルコビリノーゲンになり、別の部位が酸化されて最終的にはステルコビリンになる。このステルコビリンは大便の茶色の元である。 なお、ビリルビンが胆汁として分泌されずに体内に蓄積されると黄疸になる。
乳酸菌等の腸内細菌は、腸内で担体として増加することにより菌体が腸管老廃物を吸着して排出させている可能性がある[22]。健康なヒトの腸内にはたくさんの種類の微生物が生息しており、ほぼすべての人の腸内からは、ラクトバシラス属やビフィドバクテリウム属の乳酸菌が検出される。これらの乳酸菌は、俗に言う「腸内の善玉菌」の一種として捉えられる場合が多く、腸内常在細菌叢(腸内フローラ)において、これらの細菌の割合を増やすことが健康増進の役に立つという仮説が立てられている。ただしその有効性については、意義があるとする実験結果と関連が認められないとする結果がそれぞれ複数得られており、結論が出ていないのが現状である。 #善玉菌と悪玉菌を参照のこと。
en:Gut flora#Immunityを参照のこと。
en:Gut flora#Preventing allergyを参照のこと。
鉄分は3価の鉄イオンが自然界に存在しているが、それが2価の鉄イオンに還元されてから吸収されると考えられている。東京工科大学応用生物学部の齋木博教授らのグループによって、腸内と同様の環境下で、腸内細菌である大腸菌、酪酸菌、乳酸菌、ビフィズス菌のどれもが、3価の鉄イオンを2価の鉄イオンに還元し微生物の増殖を促したことから、腸内細菌が鉄分の吸収に貢献していることが分かった[26]。
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リトコール酸(Lithocholic acid)は、脂質を可溶性にして吸収を高める界面活性剤の役割をする胆汁酸の一種である。結腸内において微生物の活動により一次胆汁酸であるケノデオキシコール酸から二次胆汁酸として生合成される。この反応は一部の腸内細菌が有する胆汁酸-7α-デヒドロキシラーゼによってリトコール酸が生成される。腸内細菌の総菌数の1〜10パーセント程度の多くの菌株が低い胆汁酸-7α-デヒドロキシラーゼ生産能を有することが確認されている[27][要高次出典]。リトコール酸は、人や実験動物に発癌をもたらすとされている[28]。
硝酸態窒素を含む肥料が大量に施肥された結果、地下水が硝酸態窒素に汚染されたり、葉物野菜の中に大量の硝酸態窒素が残留するといったことが起こっている。人間を含む動物が硝酸態窒素を大量に摂取すると、腸内細菌により亜硝酸態窒素に還元され、これが体内に吸収されて血液中のヘモグロビンと結合してメトヘモグロビンを生成してメトヘモグロビン血症などの酸素欠乏症を引き起こす可能性がある上、2級アミンと結合して発ガン性物質のニトロソアミンを生じる問題が指摘されている[29][30]。 野菜類に主に肥料由来の硝酸塩、亜硝酸塩が多く含まれることがある。市販漬物中には硝酸塩、亜硝酸塩が多く、なかでも葉菜類が最も高く、次いで根菜類、果菜類の順に多かった旨の報告がある[31]。IARC発がん性リスク一覧では、「アジア式野菜の漬物 (Pickled vegetables (traditional in Asia) )」が、Group2B(ヒトに対する発癌性が疑われる(Possibly Carcinogenic)化学物質、混合物、環境)としてとりあげられている。アジア式野菜の漬物とは、中国、韓国、日本の伝統的な漬物を意味しており、低い濃度のニトロソアミン等が検出されている[32]。
硫化水素産生菌が産生する硫化水素が潰瘍性大腸炎の原因ではないかとの指摘がある。大腸の粘膜に硫化水素を代謝する酵素が存在するが、その処理量以上の硫化水素に大腸がさらされることが潰瘍性大腸炎の原因となるのではないかとの指摘がされている[33]。硫化水素はミトコンドリアに所在するシトクロムcオキシダーゼを阻害することにより毒性を発現する。高濃度の硫化水素に曝露されることでアポトーシス関連蛋白質であるカスパーゼ3の活性化、ミトコンドリアからのシトクロムcの遊離が見られ、ミトコンドリアを介したアポトーシスが誘導される可能性がある[34][要高次出典]。大腸粘膜を傷害するおそれのある有害な物質の発生を制御するためシソ科を中心としたいくつかの植物の抽出物を動物にあたえることで硫化水素やメタンチオールの発生を抑制することが明らかになった[35]。イギリスで行われた調査では約3分の1のヒトがメタン菌を保有するメタン生産者である。メタンガスを作らないヒトでは、水素を利用するメタン菌の代わりに硫酸還元菌が水素や乳酸を利用して硫酸イオンを還元し、硫化水素をつくる[36]。
アノイリナーゼ(=チアミナーゼ)は、ビタミンB1を分解する酵素である。アノイリナーゼは、ワラビ、ぜんまい、コイ、フナなどの淡水魚の内臓、はまぐりなどに含まれる。また、加熱すれば通常この酵素は失活する。アノイリナーゼを産生するアノイリナーゼ菌を腸内細菌として保有しているヒトも数パーセント存在しているといわれている。ただし、この菌を保菌していたとしても、ビタミンB1欠乏症である脚気の自覚症状、他覚症状を呈することはほとんどない[37]。
無菌動物とは、体内および体表に微生物(ウイルスや寄生虫を含む)が存在しない動物(現実的には検出可能な全ての微生物が存在しない動物)のことである。無菌動物はウイルス、細菌、寄生虫などの要因を制御するために無菌のアイソレータ内で飼育される[38] 。無菌動物は、盲腸の容積が大きく、寿命が長いなどの特徴を有する[39][要高次出典]。
腸内細菌には大型動物に利益をもたらす面も害をなす面もあるが、どちらが大きいのかについては不明である。無菌動物の場合、寿命が普通個体よりも長いので、総計すれば害の方が大きい、との説もある。
腸内細菌の最初の発見は、微生物そのものが発見されたのと同時期に、レーウェンフックによって行われた。レーウェンフックは1674年から、自分で作製した顕微鏡を使って環境中のさまざまなものを観察し、細菌などの微生物を発見したが、彼はヒトや動物の糞便についても観察し、腸内細菌をスケッチしている。
1876年にロベルト・コッホが炭疽菌の純粋培養に成功したのをきっかけにさまざまな細菌が分離されるようになったが、当時のヨーロッパではコレラや腸チフスなどの消化器感染症が流行しており、その患者から病原菌を分離するときに同時に分離されてくる、健常者にも存在する常在菌として、大腸菌(1885年)など、いくつかの腸内細菌科の細菌が分離同定された。しかしこの当時はまだ、酸素に触れると死んでしまう偏性嫌気性菌の存在についてあまり知られていなかったため、実際に培養できたのは腸内細菌の10%にも満たなかった。残りの大部分である、培養できない偏性嫌気性菌については、死んだ菌の残骸であると考えられていた。
1880年代に、未消化タンパク質の腐敗によって発生した毒性を示す化合物が小腸から発見された[40]。イリヤ・メチニコフが自家中毒説として発展させ、毒素が腸から吸収され寿命を縮めると仮定し、19世紀終わりごろには大衆に広く知られるようになった[41]。
1899年、パスツール研究所の研究員であったティシエは、母乳栄養児の糞便から偏性嫌気性菌であるビフィズス菌を分離した。この当時、母乳と人工乳のどちらが与えられるかによって新生児の発育や死亡率などに違いがあり、母乳栄養児の方が健康状態がよいということが知られていた。ティシエはこの違いを明らかにするために糞便中に分離される腸内細菌に着目し、当時はまだ技術的に未熟であった嫌気培養法によってビフィズス菌の分離に成功して、母乳栄養児にこの菌が多く見られることを明らかにした。この発見によって、腸内細菌が宿主の健康に関与していることが注目されるようになり、また20世紀初頭にかけて、多くの偏性嫌気性菌の分離が行われるようになった。
1904年、イリヤ・メチニコフはパスツール研究所の副所長に就任した。1907年『不老長寿論』という著書を出版した。これは、ブルガリアに長寿者が多いことから端を発する説で、乳酸菌を摂取させたところ腐敗物質が減少したので、毒素が発生する(自家中毒になる)のを防止するために乳酸菌を摂取すれば長寿になる、というものである。ブルガリアの乳酸菌の他に、ケフィアや酢漬け、塩漬けの食品によって人々は知らずのうちに乳酸菌を摂取していることを指摘している[42]。メチニコフは1908年に、細胞性免疫を発見し、食細胞説を提唱した功績でノーベル生理・医学賞を受賞したため、不老長寿説は受賞とは無関係な研究であったものの脚光を浴びることになった[要出典]。しかし、後にメチニコフが提示した乳酸菌(ブルガリア菌)はその大部分が胃で殺菌されてしまい、腸には到達しないことが明らかになり、また同時に、腸内の腐敗物質だけでは老化やさまざまな疾患発生が説明できないことも明らかになったため、この説は下火になった[要出典]。
1918年、ジョン・ハーヴェイ・ケロッグは『自家中毒』[43]という著書を出版し、自家中毒説をもとに未消化の肉には毒を作り出す細菌が繁殖し、毒によって体の不調を招くという理由で菜食を勧めていった。またケロッグはシリアル食品を開発し、食物繊維は腸を刺激して毒を発生させる時間を短くすることにより健康にとって重要であるという宣伝を行なったため、大衆に食物繊維の重要性が認知されていった[41]。
1950年頃、腸内細菌の役割について宿主との共生という観点からの研究が再び盛んになり、嫌気培養技術が大きく発展したことも手伝って、細菌叢調査法が発展し、その実態解明が進んだ。腸内常在微生物叢が宿主の健康に関与していることも次第に明らかになった。腸内細菌バランスに介入することで健康維持を図ろうとする製剤、あるいは健康食品の開発が行われるようになった。
1965年、リリーらによってプロバイオティクスとして提唱され[44]、以降、乳酸菌を用いた醗酵食品を腸内に到達させる研究が進んでいった。
1995年、有用な腸内細菌を増殖させる物質としてプレバイオティクスという概念が提唱される[45]。プレバイオティクスの代表的なものには食物繊維やオリゴ糖がある。プロバイオティクスとプレバイオティクスの両方の機能を併せ持った食品はシンバイオティクスと呼ばれる。
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