出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2012/06/10 12:27:57」(JST)
ヒトTリンパ好性ウイルス(ヒトティーリンパこうせいウイルス、Human T-lymphotropic Virus、HTLV)は、レトロウイルスの一種。HTLV-I, II, III, IVがある。
目次
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特にHTLV-Iは最初に発見された疾患を起こすヒトレトロウイルス。類縁ウイルスにsimian T-lymphotropic virus(=STLV)がある。
宿主であるヒトのT細胞内では核内に移行し、RNAからcDNAを逆転写により生成し、cDNAは宿主ゲノムDNAへインテグレーション(integration)する。integration siteは決まってはいない。messenger mRNA(gag mRNA)を生成した後、スプライシング(splicing)を受け、env mRNAとなる。env RNAはさらにスプライシング(secondary splicing)を受けpX mRNAとなる。px mRNAは複製制御を担うp40tax/p27rex 蛋白をコードする。 これらのmRNAはopen reading frameが異なるため、もとのウイルスゲノムRNAが一本であっても、それぞれのmRNAは異なった蛋白をコードする。感染T細胞は必ずしも死滅するわけではない。そのため、T細胞からT細胞へ感染するほかに、感染したT細胞の増殖によるウイルス増殖もみられる。 HTLVはフリーのウイルス粒子による感染は効率が非常に悪いので[1]、ウイルスの感染には、感染細胞と非感染細胞の細胞間接触が必要である。
HTLV-1は腫瘍ウイルスのひとつで、ウイルス保持者(キャリアと呼ぶ)は生涯の何れかの時点でATL(=adult T-cell leukemia, 成人T細胞白血病)を発症する可能性がある。
1977年に、京都大学の内山卓、高月清らによって、日本の九州出身の白血病患者には特有のT細胞性白血病が多いことから成人T細胞性白血病(adult T-cell leukemia; ATL)という疾患概念を提唱した。その後、1981年に、京都大学の日沼頼夫らによってレトロウイルスが分離され「ATL virus (ATLV)」とした。これは1980年にアメリカ国立衛生研究所のロバート・ギャロらが菌状息肉症患者から分離した、ヒトから初めて発見されたレトロウイルスと同一のウイルスとのちに判明し、名称はHuman T-cell leukemia virus type 1 (HTLV-1)と改められた。
このウイルスは、自然には性行為または哺乳により感染することが多いが、出産時、母体内での感染もある。母乳感染は、母親がHTLV-Iキャリアであることが判明した場合、母乳哺育を行わずに人工乳を用いることによって回避できる。人工的には、血液曝露(感染リンパ球を含んだ輸血)により感染するが、血漿成分輸血、血液製剤ではあまり感染しない。これはcell-to-cell infection(細胞から細胞へ感染)のためだといわれている。日本では現在、献血に際して抗体スクリーニングが行われており、輸血での感染のリスクは低い。
文化人類学的に、HTLV-Iの塩基配列を検討することによって、人類の移動を推測する研究もなされている。夫婦・親子と感染するため、ヒト・ゲノムと同様に、一群のヒト集団(血族)の移動を示唆すると考えられる。ティワナクの項に詳しい。 tax遺伝子をT細胞および胸腺細胞で発現させたトランスジェニックマウスではT細胞性白血病 / リンパ腫を発症する。[2]
Adult T-cell leukemia(ATL)ともいう。
詳細は「成人T細胞白血病」を参照
HTLV-I感染を原因とする白血病/悪性リンパ腫であり、日本、特に九州、沖縄に非常に多いという特徴がある。ATLは初回から薬剤耐性を示すことが少なくなく、標準的な治療法が未だに確立していない。
HAM/TSP(HTLV-I associated myelopathy, HTLV-I関連脊髄症/tropical spastic paraparesis, 熱帯性痙性対麻痺)、HAB(HTLV-I associated bronchitis),HAU(HTLV-I associated uveitis)などがある。
アフリカを中心にみられる。
カメルーンで2005年に発見された。
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ヒト免疫不全ウイルス(HIV) - 後天性免疫不全症候群(エイズ)の原因ウイルスであり、HTLV同様白血球(CD4 Tリンパ球)に感染するレトロウイルス
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病原体 | 感染症 | 原因ウイルス |
ウイルス | 性器ヘルペス | 単純ヘルペスウイルス |
尖圭コンジローマ、子宮頚癌 | ヒト乳頭腫ウイルス | |
B型肝炎 | B型肝炎ウイルス | |
C型肝炎 | C型肝炎ウイルス | |
エイズ | ヒト免疫不全ウイルス | |
成人T細胞白血病 | ヒトTリンパ球向性ウイルス | |
サイトメガロウイルス感染症 | サイトメガロウイルス | |
伝染性軟属腫 | 伝染性軟属腫ウイルス | |
伝染性単核症 | EBウイルス | |
細菌 | 梅毒 | 梅毒トレポネーマ |
性器クラミジア感染症 | クラミジア・トラコマチス | |
淋病 | 淋菌 | |
軟性下疳 | ヘモフィルス・デュクレイ | |
鼠径部肉芽腫 | 肉芽腫カリマトバクテリウム | |
赤痢 | 赤痢菌 | |
非淋菌性尿道炎 | クラミジア・トラコマチス、マイコプラズマ、ウレアプラズマ | |
真菌 | 口腔カンジダ症 | カンジダ |
非淋菌性尿道炎 | カンジダ | |
寄生虫、 原虫 |
いろいろ | トリコモナス |
非淋菌性尿道炎 | 腟トリコモナス | |
アメーバ赤痢 | 赤痢アメーバ | |
毛ジラミ症 | Phthirus pubis | |
疥癬 | 疥癬虫 | |
白癬 | Trichophyton rubrum, Trichophyton mentagrophytes | |
ランブル鞭毛虫下痢症 | ランブル鞭毛虫 |
急性型 | リンパ腫型 | 慢性型 | くすぶり型 | |
典型的な症状 | 腫瘍随伴症状(腫瘍熱、高カルシウム血症(意識障害・脱水・腎機能障害) (50%で認められる))が初発症状であることが多い。 臓器浸潤による症状(消化管浸潤(下痢・腹痛)、肝臓浸潤(黄疸)、 肺浸潤(呼吸困難)、中枢神経浸潤(脳神経症状)) |
リンパ節腫大は全例で認められる。 腫瘍熱、高カルシウム血症を初発症状とする場合もある。 末梢血中の形態的異常細胞は1%以下 |
多くの場合、自覚症状を欠き、健康診断などで偶然診断される。 日和見感染症や腫瘍の浸潤に伴う皮膚症状(皮疹、皮膚腫瘤)、 肺病変(労作時息切れ、咳嗽)が診断の発端となる場合もある。 |
リンパ球増多を伴わないため、血液検査では診断に至らない。 無症候キャリアーと同様、多くの患者では症状を欠く。 |
PS>1 | 67.6% | 45.4% | 27.2% | 22.7% |
感染性併発症 | 26.9% | 10.9% | 35.5% | 35.6% |
皮膚病変 | 40.2% | 25% | 46.1% | 48.9% |
肺病変 | 20.2% | 10.9% | 15.1% | 15.6% |
肝腫大 | 35.9% | 16% | 13.8% | 0% |
脾腫大 | 29.9% | 15.4% | 11.2% | 0% |
4個以上の腫大リンパ節 | 80.7% | 62.2% | 54% | 6.7% |
高カルシウム血症 | 50.3% | 16.7% | 0% | 0% |
貧血(Hb<10g/dl) | 10.1% | 4.5% | 4% | 0% |
血小板減少(10万/ul) | 19.4% | 4.5% | 2% | 6.7% |
HTLV-1型関連ミエロパシー : nothing HTLV-1型関連ミエロパチー : nothing HTLV-1脊髄症 : 30 件 HTLV-I型関連ミエロパシー : 9 件 HTLV-I型関連ミエロパチー : nothing HTLV-I脊髄症 : 70 件 ヒトT細胞白血病ウイルス関連脊髄症 : 4 件 ヒトTリンパ球向性ウイルス脊髄症 : 49 件 ヒトT細胞白血病ウイルスI型関連ミエロパシー : 2 件 ヒトTリンパ好性ウイルスI型関連脊髄症 : 10 件 ヒトTリンパ球関連ウイルス脊髄症 : nothing
属 | ウイルス | 疾患 |
α-レトロウイルス属 | ||
β-レトロウイルス属 | ||
γ-レトロウイルス属 | ||
δ-レトロウイルス属 | ヒトTリンパ球向性ウイルス1, 2 | 成人T細胞白血病(ATL) |
ε-レトロウイルス属 | ||
レンチウイルス属 | ヒト免疫不全ウイルス1, 2 | 後天性免疫不全症候群(AIDS) |
スプーマウイルス属 |
ヒトTリンパ好性ウイルス : 約 29,900 件 ヒトTリンパ球向性ウイルス : 約 74,200 件 ヒトT細胞白血球ウイルス : 15 件 ヒトT細胞白血病ウイルス : 約 171,000 件
近位尿細管 | 70% |
遠位尿細管 | 20% |
呼吸器粘膜の局所感染 | ライノウイルス |
アデノウイルス | |
コロナウイルス | |
RSウイルス | |
インフルエンザウイルス | |
全身感染 | ムンプスウイルス |
麻疹ウイルス | |
風疹ウイルス | |
ハンタウイルス | |
水痘・帯状疱疹ウイルス | |
ラッサウイルス | |
天然痘ウイルス |
目(order, -virales), 科(family, -viridae), 亜科(subfamily, -virinae), 属(genus, -virus), 種(species)
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