出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/11/18 20:50:48」(JST)
E型肝炎(Eがたかんえん、英: hepatitis E)は、ウイルス性肝炎の一種で、E型肝炎ウイルス(略称HEV)と呼ばれる接触感染性ウイルスによって起こる。ウイルスが発見されるまでは日本においては経口伝播型非A非B型肝炎と呼ばれていた。日本の感染症法での取り扱いは4類感染症。
潜伏期間は2週間から2ヶ月程度と考えられ、15歳から40歳の成人に最も一般的に見られる。小児もまたこの感染症によく罹患するものの、症状が認められることはそれほどない。本症はしばしば自然消失・自然治癒が見られる「自己制御式の」病気のため、その致死率は通常低い。しかし感染期間中(通常数週間)には、労働・家族の世話・食事の摂取といった患者の能力は、著しく低下する。E型肝炎は時折、重症な急性肝疾患に進展し、全症例の約2%が致命的となる。臨床的にはA型肝炎に類似するものの、妊婦では本症は重症化しやすく、『劇症肝炎(ないし肝不全)』と呼ばれる臨床的な症候群となりうる。特に後期の妊婦では、本症に罹患すると死亡率が非妊時より上昇する。
本症において典型的に見られる症状としては、黄疸、食欲不振、肝腫大、腹痛と腹の張り、嘔気や嘔吐、発熱などが挙げられるが、これら症状の表出については、無症候性なものから劇症型まで重症度に幅が見られる。
ウイルス粒子は直径約33ナノメートルで、エンベロープはなく、長さ約7,300塩基対の一本鎖RNAを内包している。かつてはカリシウイルス科に分類されていたが、そのゲノムは風疹ウイルスの方にさらに類似しており、今ではヘペウイルス科と名づけられた新しい科に分類されている。
G1からG4まで4つの遺伝子型が報告されているが、豚から検出された遺伝子型はG3とG4だけである。G3とG4だけが豚から検出される理由は不明。
便口感染の感染様式とされウイルスに汚染された水との接触(飲用)のほか、汚染された肉の加熱不十分での喫食や生食した場合に発症する。本症はほとんどの発展途上国で流行しており、暑い気候の国ではどこでも普通に見られる。東南アジア、北部及び中部アフリカ、インド、中央アメリカなどが主な流行地である。本症は主に糞便などによる水や食料の汚染によって媒介される。ヒトからヒトへの感染は稀である。E型肝炎の広域発生は、大量降雨やモンスーンの後など、給水機能の混乱によって発生するのが最も一般的である。主要な大流行としては、インドのニューデリー(1956年-1957年に30,000症例)、ミャンマー(1976年-1977年に20,000症例)、インドのカシミール(1978年に52,000症例)、インドのカーンプル(1991年に79,000症例)、中国(1986年から1988年の間に100,000症例)などがある。
日本を含む先進国では、豚肉の生食やイノシシ、シカなどの野生動物[2]、鱈[3]の精巣の生食による感染が報告されている[4]。しかし、三重県で2007年から2012年にかけて続発した感染例[5]では、豚レバー摂取歴の無い感染者の発生が報告されている、二次的に汚染された食品が原因となった可能性があるが感染経路は不明である。潜伏期間が長いことから、原因食品の特定は困難な場合が多い。また、希な例として輸血感染も報告されている[6]。
2004年に、二つの地域(両方ともサハラ砂漠以南のアフリカ)での主要な大流行がみられた。その一つはチャドで、9月27日までに1,442症例の報告があり46名が死亡した。現在もなお紛争下にあるスーダンでも、人々はE型肝炎の深刻な大流行に苦しんでいる(ダルフール紛争参照)。9月28日までに、主に西ダルフール地方で、6,861症例の報告があり87名が死亡している。ユニセフ、国境なき医師団、赤十字や、その他の国際的保健機関は目下、石鹸の入手機会の増加、新たな井戸掘り、給水・貯水の塩素処理などに取り組んでいる。しかし、現存する資源は未だ充分でなく、この地域の人々の健康と福祉を保証するために、より多くの人材や資金が著しく求められている。
英国や米国、日本での症例報告により、E型肝炎は先進諸国でもだんだん見られるようになってきている。それは動物が発生源となった人獣共通感染症であると考えられており、シカ、ブタ、イノシシとの関連が言われている。野生動物やブタの生肉、生臓器(レバー、ホルモンなど)が感染原因となりうる。厚生労働省の調査によれば、市販されていた豚レバー363件中7件からHEV遺伝子が検出されている。また、野生イノシシの 5 - 10% からHEV遺伝子が検出される。2005年に福岡県での症例の感染源が、野生イノシシであることが遺伝子レベルで確認された[7]。経口感染ではあるが、ウイルス血症の時期が長く、無症候急性感染献血者からの輸血後感染も5例報告されている。なお献血者における頻度は1万分の1程度であり、早急なスクリーニング開始が望まれる[要出典]。
2007年に中国国内でヒト用のワクチンが承認されたと報道されたが[8]、2009年までに中国以外で使用可能なE型肝炎には有効なワクチンは実用化されていない[9]、現実的な唯一の予防策は公衆衛生の向上・改善である。人間の排泄物の適切な処理と廃棄、より高い水準の公共水道設備、個々人の衛生行動の改善、衛生的な食糧供給、これら全てが本症の流行拡大を防ぐ上で重要な措置である。このように、本疾患の予防対策は、発展途上国の人々を悩ませている他の多くの問題に対する対策法と近似しており、彼らは給水・水処理プロジェクトに対する大規模な国際的経済支援を必要としている。
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E
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年 | 病原微生物 | 種類 | 疾患 |
1973 | Rotavirus | ウイルス | 小児下痢症 |
1975 | Parvovirus B19 | ウイルス | 伝染性紅班 |
1976 | Cryptosporidium parvum | 寄生虫 | 下痢症 |
1977 | Eboravirus | ウイルス | エボラ出血熱 |
Legionella pneumophila | 細菌 | レジオネラ症 | |
Hantaanvirus | ウイルス | 腎症候性出血熱 | |
Campylobacter jejuni | 細菌 | 下痢症 | |
1980 | Human T-lymphotropic virus-1 | ウイルス | 成人T細胞白血病 |
Hepatitis D virus | ウイルス | D型ウイルス肝炎 | |
1981 | TSST-1-producing Staphylococcus aureus | 細菌 | 毒素性ショック症候群 |
1982 | Escherichia coli 0157:H7 | 細菌 | 腸管出血性大腸炎、溶血性尿毒症症候群 |
Human T-lymphotropic virus-2(1) | ウイルス | 白血病 | |
Borrelia burgobrferi | 細菌 | ライム病 | |
Rickttsia japonica | 細菌 | 日本紅斑熱 | |
1983 | Human immunodeficiency virus | ウイルス | 後天性免疫不全症候群 |
Helicobacter pylori | 細菌 | 胃炎(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌、MALTリンパ腫) | |
1985 | Enterocytozoon bieneusi | 寄生虫 | 持続性下痢症 |
1986 | Cyclospora cayetanensis | 寄生虫 | 持続性下痢症 |
Prion(2) | プリオン | 牛海綿状脳症 | |
1988 | Human herpesvirus-6 | ウイルス | 突発性発疹症 |
Hepatitis E virus | ウイルス | E型肝炎 | |
1989 | Ehriichia chaffeensis | 細菌 | エールリキア症 |
Hepatitis C virus | ウイルス | C型肝炎 | |
Clamydia pneumoniae | 細菌 | 肺炎、気管支炎 | |
1991 | Guanarito virus | ウイルス | ベネズエラ出血熱 |
Encephalitozoon heilem | 寄生虫 | 結膜炎 | |
Newspecis of Babesia | 寄生虫 | 非定型性バベシア症 | |
1992 | Vibrio choerae 0139 | 細菌 | 新型コレラ |
Bartoneiia henselae | 細菌 | 猫ひっかき病 | |
1993 | Sin Nombre virus | ウイルス | ハンタウイルス肺症候群(成人呼吸窮迫症候群) |
Encephalitozoon cuniculi | 真菌 | ミクロスポリドーシス | |
1994 | Sabia virus | ウイルス | ブラジル出血熱 |
Hendra virus | ウイルス | ウイルス性脳炎 | |
1995 | Human herpesvirus-8 | ウイルス | カポジ肉腫 |
Hepatitis G virus | ウイルス | G型肝炎 | |
1996 | TSE causing agent | プリオン | 新型クロイツフェルト・ヤコブ病 |
Australian bat lyssavirus | ウイルス | ウイルス性脳炎 | |
1997 | Influenza A/H5N1 | ウイルス | トリ型インフルエンザのヒト感染 |
1999 | Nipa hvirus | ウイルス | 急性脳炎 |
2003 | SARS coronavirus | ウイルス | 重症急性呼吸器症候群(SAR) |
-感染症
A型肝炎 | B型肝炎 | C型肝炎 | D型肝炎 | E型肝炎 | |
ウイルス科 | ピコルナウイルス科 | ヘパドナウイルス科 | フラビウイルス科 | ヘペウイルス科 | |
ウイルス属 | ヘパトウイルス属 | オルソヘパドナウイルス属 | ヘパシウイルス属 | デルタウイルス属 | ヘペウイルス属 |
エンベロープ | - | + | - | + | - |
ゲノム | RNA1本鎖(+) | DNA | RNA1本鎖(+) | RNA1本鎖(-) | RNA1本鎖(+) |
潜伏期 | 15-40日 | 50-180日 | 21-90日 | 1-5月 | 2-9週 |
発症型 | 急性 | 潜伏性 | 潜伏性 | 急性 | 急性 |
感染経路 | 糞口感染、 飲料水 |
母子感染、 性感染、 周産期感染 |
母子感染、 性感染 |
母子感染、 性感染 |
飲料水、 人獣共通感染症 (イノシシ、豚の肝臓) |
保因者 | しない | する | する | する | しない |
慢性肝炎 | なし | 約10% | 50-70% | あり | なし |
死亡率 | 0.1%-0.2% | 0.5%-2.0% | 1%-2% | 2%-20% | 1%-2%(20%:妊婦) |
特徴 | Ribozyme活性を持つ |
肝炎ウイルス.xls
感染症 | A型肝炎 | B型肝炎 | C型肝炎 | D型肝炎 | E型肝炎 | |
ウイルス | HAV | HBV | HCV | HDV | HEV | |
科 | ピコルナウイルス科 | ヘパドナウイルス科 | フラビウイルス科 | 未分類 | ヘペウイルス科 | |
属 | ヘパトウイルス属 | オルソヘパドナ属 | ヘパシウイルス属 | デルタウイルス属 | ヘペウイルス属 | |
ゲノム | ssRNA+ | dsDNA | ssRNA+ | ssRNA- | ssRNA+ | |
エンベロープ | - | + | + | + | - | |
逆転写酵素 | - | + | - | - | - | |
潜伏期 | 文献1 | 15-40days | 50-180days | 1-5months | 21-90days | 2-9weeks |
文献2 | 約4週 | 1-6ヶ月 | 平均6-8週 | 平均7週 | 平均5-6週 | |
type of onset | 急性 | 潜行性 | 潜行性 | 急性 | 急性 | |
前駆症状 | 関節炎、皮疹 | 関節炎、皮疹 | ||||
感染経路 | 経口・糞光 | ○ | 無 | 無 | 無 | ○ |
非腸管 | 稀 | ○ | ○ | ○ | 無 | |
その他 | 食物、水 | 性的接触、周産期感染。血液、体液、垂直感染 | 性的接触(稀)。血液、体液 | 性的接触(稀) | 水 | |
後遺症 | キャリアー | × | ○(約10%) | ○(約50-70%) | ○(重複感染:2-20%) | × |
慢性肝炎 | × | ○ | ○ | ○ | × | |
肝硬変→肝細胞癌 | × | 2.5-3 %/年 | 5-7 %/年 | × | ||
劇症肝炎 | 0.1% | 0.2 % | 0.2 % | 0.3-5.0% | ||
死亡率 | 0.1-0.2% | 0.5-2.0%(健常者) | 1-2%(健常者) | 2-20% | 2%(一般)。20%(妊婦) | |
発熱 | ○ | ? | ? | ? | ? | |
予防 | A型肝炎ワクチン(不活化) | B型肝炎ワクチン(成分, HBs抗原)、HBIG | なし | B型肝炎ワクチン(成分, HBs抗原) | ワクチン | |
治療 | なし | IFN ラミブジン アデフォビル エンテカビル テルビブジン |
INF+リバビリン IFN(著効率:30%。2a 60%, 2b 45%, 1b 15%) |
IFN? | なし | |
その他 | CPEなし | Gianotti病 | HBVと同時感染、Ribozyme活性 | 風土病。人獣共通感染症(豚、イノシシ、鹿) |
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