出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2018/02/27 07:17:49」(JST)
ジアルジア症 | |
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病原体ランブル鞭毛虫の走査電子顕微鏡写真。
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分類および外部参照情報 | |
診療科・ 学術分野 |
感染症内科学[*] |
ICD-10 | A07.1 |
ICD-9-CM | 007.1 |
DiseasesDB | 5213 |
MedlinePlus | 000288 |
eMedicine | emerg/215 |
Patient UK | ジアルジア症 |
MeSH | D005873 |
ジアルジア症(ジアルジアしょう、giardiasis)とは鞭毛虫であるランブル鞭毛虫 (Giardia lamblia) を原因とする寄生虫病である。食品や水に含まれるシストを摂取することにより感染する。
人獣共通感染症であり、ランブル鞭毛虫はヒトを含む多くの哺乳類の消化管で増殖する[1]。ヒトでの一般的な症状は下痢性胃腸炎である。日本では感染症法施行規則により五類感染症(全数把握疾患)に指定されており、診断した医師には届け出が義務づけられている。
本稿では、主にヒトの感染症について記述する。
ジアルジア症はひどい下痢と腹部の痙攣を特徴とする胃腸炎である。鼓腸、膨満、疲労、吐き気、嘔吐、体重減少などを伴うが、患者によっては吐き気や嘔吐が主症状となることもある。病原体を摂取したあと、7日から10日程度の潜伏期間を経て症状が出る。これは2–4週間でおさまるが、乳糖不耐症の場合には6ヶ月続くこともある。程度は様々で、無症状キャリアも多い。自然治癒するが、免疫不全の場合には慢性化し胆嚢・胆管炎を併発することが多い。
全世界的にはありふれた感染症で、世界中のほとんどの国で有病地を抱えている。特に熱帯・亜熱帯地域に感染者が多く、感染率は1-2割に達する。有病率が20%を超える国もあり、約2億人が感染している。
特にインド周辺を旅行した者の感染が増えており、旅行者下痢症 (traveler's diarrhea) の1つとして注目されている。現在の日本人の感染者は、海外旅行者に多く赤痢菌、下痢原性大腸菌やアメーバ赤痢などとの混合感染例が多いとされている。南アジア、東南アジアなどを旅するバックパッカーの間では、ゲップが卵臭くなることから卵ゲップ病として知られる。
一方、欧米の都市化された地域でも、水道管に汚染水が混入したことによる集団感染が起きている。
日本では第二次世界大戦後の動乱期(1956年頃まで)に感染率が3〜6%であった。日本でも戦後すぐには感染率が数%だったとされている。現在、感染事例は年間100例前後でそのほとんどは輸入感染例であり、感染率は1%未満と考えられている。ただし飼育犬の1割以上から検出された例があり、また厚生省(当時)の調査で水源水域282地点中24地点で検出されたことがあるため、潜在的なリスクは現在でも無視できない。
感染様式は糞口経路で、主な感染経路は感染患者や汚染された飲食物である。ヒト-ヒトの接触や食品を介した小規模な集団感染と、飲料水を介した大規模な集団感染が知られている。浄水場における通常の浄水処理で完全に除去することは困難で、塩素消毒にも抵抗性を示す。
ランブル鞭毛虫は食品や水に含まれるシストを摂取することにより感染する。感染源としては生水、生野菜、生ジュースなどが主であり、一見きれいにみえる渓流の水などが危険である。キャンプをしたり、川やビーバーダムのようなところで泳いだりすると感染することがあり、それゆえジアルジア症には「ビーバー熱」という俗称がある。また人間やペット[2]、動物の糞便から感染することもある。キャンプ場、デイケアセンターなどで感染するほか、飲料水由来の蔓延がおきたり、感染した家族からうつることもある。生食や、井戸や水道水、食器などが汚染されたことが原因になることもある。感染しても症状が出るとは限らないが、無症候性キャリアとなる場合がある。また性的接触による感染も知られている。
シストは湿った条件下では強い耐久性があり、水中で数ヶ月生存し、−20℃でも10時間まで生存できる。塩素処理にもある程度の抵抗性があり、クロラミン処理ではほとんど死なない。一方で熱処理には弱く、60℃数分の加熱で死ぬ。したがって野外での飲料水浄化法としては濾過や煮沸が推奨される。汲み置いて上澄みをすくうだけではランブル鞭毛虫を充分防ぐことは出来ない。
主な臨床症状は非血性で水様 または泥状便の下痢、衰弱感、体重減少、腹痛、悪心や脂肪便などで、発熱は少ない。有症症例では下痢が必発で、排便回数は1日数回から20回以上と患者により様々。
感染者の多くは無症状で、便中に持続的に嚢子(ジアルジア症の病原体)を排出しており、感染源として重要視される。
患者の糞便(下痢便)から顕微鏡下で原虫を確認。
ジアルジアの治療には、抗トリコモナス薬のメトロニダゾール (metronidazole) やチニダゾール (tinidazole) などニトロイミダゾール系の薬剤が経口投与がされる。
これらは日本では抗トリコモナス薬として薬価収載されており、ジアルジア症に対しては健康保険の適用外となる。
ネコは簡単に治癒し、仔ヒツジでは体重が減るだけだが、仔ウシの場合は致死的なこともあり、抗生物質や電解質を与えても効かないことも多い。一方、無徴候でキャリアとなる仔ウシもいる。チンチラでは致死的なので安全な水を与えるように特別の警戒が必要である。
イヌの場合は深刻で、犬舎にいる1歳未満のイヌの3割ほどが感染している。犬舎での処置は、感染した犬を特定して隔離するか、あるいは単に全部の犬を治療し、その後犬舎全体を消毒する。シストは最低1ヶ月は生存しているため、その間は運動のための草場は汚染されていると考えるべきである。予防のためには最低20日間隔離しておき、あまり多くのシストがないように給水設備を管理することが挙げられる。
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リンク元 | 「五類感染症」「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則」「輸入感染症」「東南アジア」「ランブル鞭毛虫」 |
関連記事 | 「症」 |
西暦 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | |
元号 | 平成11 | 平成12 | 平成13 | 平成14 | 平成15 | 平成16 | 平成17 | 平成18 | 平成19 | 平成20 | 平成21 | |
アメーバ赤痢 | 276 | 378 | 429 | 465 | 520 | 610 | 698 | 752 | 801 | 871 | 786 | |
ウイルス性肝炎 | B型肝炎 | 510 | 425 | 330 | 332 | 245 | 241 | 209 | 228 | 199 | 178 | 178 |
C型肝炎 | 136 | 119 | 65 | 61 | 65 | 43 | 57 | 46 | 34 | 52 | 40 | |
D型肝炎 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
その他 | 74 | 41 | 29 | 23 | 19 | 7 | 10 | 6 | 4 | 8 | 5 | |
不明 | 36 | 22 | 14 | 14 | 4 | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
急性脳炎 | ... | ... | ... | ... | 12 | 167 | 188 | 167 | 228 | 192 | 526 | |
クリプトスポリジウム症 | 4 | 3 | 11 | 109 | 8 | 92 | 12 | 18 | 6 | 10 | 17 | |
クロイツフェルト・ヤコブ病 | 92 | 108 | 133 | 147 | 118 | 176 | 153 | 178 | 157 | 151 | 142 | |
劇症型溶血性レンサ球菌感染症 | 21 | 44 | 46 | 92 | 52 | 52 | 60 | 106 | 95 | 104 | 103 | |
後天性免疫不全症候群 | 合計 | 588 | 794 | 947 | 916 | 970 | 1162 | 1203 | 1348 | 1493 | 1565 | 1446 |
無症候性キャリア | 346 | 413 | 570 | 547 | 564 | 699 | 753 | 852 | 951 | 1000 | 882 | |
AIDS | 215 | 331 | 320 | 312 | 337 | 386 | 359 | 406 | 414 | 441 | 429 | |
その他 | 27 | 50 | 57 | 57 | 69 | 77 | 91 | 90 | 128 | 124 | 135 | |
ジアルジア症 | 42 | 98 | 137 | 113 | 103 | 94 | 86 | 86 | 53 | 73 | 70 | |
髄膜炎菌性髄膜炎 | 10 | 15 | 8 | 9 | 18 | 21 | 10 | 14 | 17 | 10 | 10 | |
先天性風しん症候群 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | 10 | 2 | 0 | 0 | 0 | 2 | |
梅毒 | I期梅毒 | 112 | 129 | 104 | 99 | 114 | 136 | 151 | 175 | 198 | 172 | 142 |
II期梅毒 | 126 | 157 | 134 | 121 | 127 | 179 | 180 | 205 | 234 | 282 | 251 | |
晩期顕症梅毒 | 47 | 46 | 40 | 53 | 54 | 54 | 37 | 50 | 55 | 65 | 44 | |
先天梅毒 | 9 | 8 | 6 | 9 | 5 | 7 | 3 | 12 | 7 | 9 | 5 | |
無症候 | 457 | 421 | 301 | 293 | 209 | 160 | 172 | 195 | 225 | 299 | 249 | |
破傷風 | 66 | 91 | 80 | 106 | 73 | 101 | 115 | 117 | 89 | 123 | 113 | |
バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症 | ... | ... | ... | ... | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
バンコマイシン耐性腸球菌感染症 | 23 | 36 | 40 | 44 | 59 | 58 | 69 | 83 | 84 | 80 | 116 | |
風疹 | ... | ... | ... | ... | ... | ... | ... | ... | ... | 293 | 147 | |
麻疹 | ... | ... | ... | ... | ... | ... | ... | ... | ... | 11012 | 732 |
(五類感染症)
第三章 感染症に関する情報の収集及び公表
(医師の届出)
(指定届出機関の指定の基準)
一 | RSウイルス感染症、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、水痘、手足口病、伝染性紅斑、突発性発しん、百日咳、ヘルパンギーナ及び流行性耳下腺炎 | 診療科名中に小児科を含む病院又は診療所 |
二 | インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。) | 診療科名中に内科又は小児科を含む病院又は診療所 |
三 | 急性出血性結膜炎及び流行性角結膜炎 | 診療科名中に眼科を含む病院又は診療所 |
四 | 性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ及び淋菌感染症 | 診療科名中に産婦人科若しくは産科若しくは婦人科、医療法施行令(昭和二十三年政令第三百二十六号)第三条の二第一項第一号ハ及びニ(2)の規定により性感染症と組み合わせた名称を診療科名とする診療科又は泌尿器科若しくは皮膚科を含む病院又は診療所 |
五 | クラミジア肺炎、(オウム病を除く。)、細菌性髄膜炎、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、マイコプラズマ肺炎、無菌性髄膜炎、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、薬剤耐性アシネトバクター感染症及び薬剤耐性緑膿菌感染症 | 患者を三百人以上収容する施設を有する病院であって、その診療科名中に内科及び外科を含むもの |
(感染症の発生の状況及び動向の把握)
↓拡張
症状 | 潜伏期間 | 主な疾患 |
下痢(±発熱) | 短い(1週間以内) | 細菌性赤痢、コレラ、旅行者下痢症 |
比較的長い・長い(1~2週間またはそれ以上) | アメーバ赤痢、ランブル鞭毛虫症(ジアルジア症)、クリプトスポリジウム症、回虫症、鉤虫症、糞線虫症、条虫症、住血吸虫症 | |
発熱(±発疹) | 短い(1週間以内) | デング熱、黄熱、紅斑熱、ペスト、サルモネラ症 |
比較的長い(1~2週間) | ウイルス性出血熱(ラッサ熱、エボラ出血熱、マールブルグ病など)日本脳炎、急性灰白髄炎(ポリオ)、ツツガ虫病、腸チフス、パラチフス、ブルセラ症、マラリア、トリパノソーマ症(アフリカ睡眠病、シャーガス病) | |
長い(2週間以上) | 各種肝炎(A,B,C,E型)、マラリア(熱帯熱マラリア以外)、アメーバ性肝膿瘍、カラアザール(内臓リーシュマニア症) | |
発疹(+発熱) | 短い(1週間以内) | デング熱、紅斑熱 |
比較的短い(1~2週間) | ウイルス性出血熱、ツツガ虫病、腸チフス、パラチフス | |
皮膚炎/移動性皮膚腫瘤 | 皮膚リーシュマニア症、オンコセルカ症、鉤虫症、顎口虫症、旋毛虫 |
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