出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/01/03 22:25:39」(JST)
睡眠(すいみん)とは、ねむること、すなわち、周期的に繰り返す、意識を喪失する生理的な状態のことである[1]。ねむりとも言う[2]。
(動物の、動物などの)からだの動きが止まり、外的刺激に対する反応が低下して意識も失われているが、簡単に目覚める状態のことをこう呼んでいる[3]。
睡眠の目的は、心身の休息、記憶の再構成など高次脳機能にも深く関わっているとされる。下垂体前葉は、睡眠中に2時間から3時間の間隔で成長ホルモンを分泌する。放出間隔は睡眠によって変化しないが、放出量は多くなる。したがって、子供の成長や創傷治癒、肌の新陳代謝は睡眠時に特に促進される。その他、免疫力の向上やストレスの除去などがあるが、完全に解明されていない部分も多い。
睡眠中は刺激に対する反応がほとんどなくなり、移動や外界の注視などの様々な活動も低下する。一般的には、閉眼し意味のある精神活動は停止した状態となるが、適切な刺激によって容易に覚醒する。このため睡眠と意識障害とはまったく異なるものである。またヒトをはじめとする大脳の発達したいくつかの動物では、睡眠中に夢と呼ばれるある種の幻覚を体験することがある。
短期的には睡眠は栄養の摂取よりも重要である。ネズミの実験では、完全に睡眠を遮断した場合、約1、2週間で死亡するが、これは食物を与えなかった場合よりも短い。極端な衰弱と体温調節の不良と脳では視床の損傷が生じている。ヒトの場合でも、断眠を続けると思考能力が落ち、妄想や幻覚が出て、相当期間、強制的に、眠らない状態でいさせると恐らく死んでしまうと言われている[4][5]。
睡眠が不足した場合に最も影響のある精神活動は気分、記憶力、集中力である。
その他
睡眠の取りやすさにも個体差がある。さらに、入眠時の身体状態や精神状態、外部環境に依存するため、睡眠が取りやすかったり、睡眠が取りにくかったりするなど、同一個体でも状態による差が大きい。そのため、睡眠を快く取る為の安眠法が幾つも発明されている。後述する入眠ニューロンは体温の上昇によって活動が亢進するため、入眠前の入浴や入眠時に寝室を暖かくすることが有効である。また睡眠にはメラトニンが関わっており、メラトニンを脳にある松果体で生成するには起床中に2500ルクス以上の光を浴びる必要がある[16]。
ヒトの睡眠は、脳波と眼球運動のパターンで分類できることが知られている。成人はステージI~REMの間を睡眠中反復し、周期は90分程度である。入眠やステージI - IVとレム睡眠間の移行を司る特別なニューロン群が存在する。入眠時には前脳基部(腹外側視索前野)に存在する入眠ニューロンが活性化する。レム睡眠移行時には脳幹に位置するコリン作動性のレム入眠ニューロンが活動する。覚醒状態では脳内の各ニューロンは独立して活動しているが、ステージI - IVでは隣接するニューロンが低周波で同期して活動する。
ステージI
ステージII
ステージIII
ステージIV
レム (REM) 睡眠
覚醒を維持する神経伝達物質には、ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミン、アセチルコリン、オレキシンなどがあるが、睡眠中はこれらの神経伝達物質を産生する神経細胞が抑制されている。その抑制には腹背側視索前野に存在するGABA作動精神系が関与しているとされる。アセチルコリン作動性神経の一部はレム睡眠の生成にも関与している。
必要な睡眠時間は種ごとの体の大きさに依存する。例えば小型の齧歯類では15時間 - 18時間、ネコでは12 - 13時間、イヌでは10時間、ゾウでは3 - 4時間、キリンではわずか30分 - 1時間である。これは大型動物ほど代謝率が低く、脳細胞の傷害を修復する必要が少なくなるためとも考えられている[17][18]。また小型の動物は他の動物に捕食者として狙われやすいので、無防備になる睡眠時間は短い傾向がある。体躯が同程度であれば、草食動物は睡眠時間は短く、肉食動物は長い傾向にある。草食動物は摂取する食料に不自由しない反面、食料は低カロリーであり、繊維質も多く、長時間食べる事、消化する事を余儀なくされるので、睡眠時間は短い。一方で肉食動物は、食物を得る機会は乏しく、一方で食物は高カロリーであるため、一度食物を得た後はしばらく食物を摂る必要が無い。そのため何もしない時間が多く、その間は睡眠によって消費カロリーを抑えていると考えられる。
すべての陸生哺乳類にレム睡眠が見られるものの、レム睡眠時間の種差は体の大きさとは無関係である。例えば、カモノハシは9時間の睡眠時間のうち、レム睡眠が8時間を占める。イルカはレム睡眠をほとんど必要としない。
脊椎動物以外の動物、例えば節足動物にも睡眠に類似した状態がある。神経伝達物質の時間変化を観察すると、レム睡眠と似た状態になっているらしい[19]。
ヒトと異なり、生物の中には、長い期間覚醒しない種もある。これは冬眠と呼ばれる。冬眠する生物の例として、クマ、リス、カエルなどが挙げられる。
睡眠の際の姿勢も生物によって異なる。魚は単に水中を漂う形で睡眠状態に入る。フラミンゴは片足で立ったまま眠るとされる。またイルカは数秒程度の半球睡眠(大脳半球ずつ交互に眠ること)を繰り返して取るため、眠りながら泳ぎ続けることが可能である。
ネコは丸くなって寝ているという印象が多いが、これは身を守ろうとしているか寒い時の状態で、飼い猫などはほぼ確実に攻撃を受けないと確信したリラックス状態では仰向けで寝ることもある。
スペインを初めとする地中海地方などに於いては昼食の後に睡眠を含む一休みをする「午睡(シエスタ)」の風習がみられる。2000年代に入ってLifehack(ハッカー文化の一端にある仕事術)の延長で、短時間の昼寝が注目される現象も見られる。しかしその一方で、労働時間の増加により地中海地方の国々に於いてもシエスタを行わない企業が増加しつつある。
現代日本の場合、電車やバスによる通勤・通学をする者も多く、またこれらの交通機関においての治安も非常に良いため、その中で眠る者も多い。肉体労働の多い職種では、昼の食事の後、午後の作業開始までの間の短い睡眠をとる場合が多い。
座ったままで眠る行為は「居眠り」と呼ばれる。授業中、仕事中、運転中など、眠ってはいけない場所・場合で無意識のうちに居眠りをしてしまう例もある。特に授業中や仕事中の居眠りはやる気がないとみなされる場合があり、前者の場合内申点に影響したり、後者の場合は解雇の対象ともなりうる。夜の睡眠は、伝統的には体を横たえて布団の中(昨今ではベッドの中も多い)でとられるが、これは「寝る」(横になること)とも呼ばれる。
風呂に入浴中の居眠りは溺死の危険性があるため要注意である。また、運転中の居眠りも交通事故などの危険性があるため要注意。
2001年2月に発表されたNHKの調査によると、日本人の平均睡眠時間は平日で7時間26分、土曜日で7時間41分、日曜日で8時間13分であった[20]。
年をとると早寝早起きの習慣が身につくと一般に考えられている。しかし、本当に習慣であるのか、高齢者に多く見られる睡眠相前進症候群の症状であるのかは、容易には判断できない。
仏教思想と結び付けて、頭を北に、足を南に配置する形で寝ることは北枕と呼ばれ、忌避されている。
詳細は「昼寝」を参照
最近、日本でも昼寝の効用について研究が行われている。昼寝を行うことにより、事故の予防・仕事の効率アップ・自己評価のアップなどが期待されるため、職場・学校などで昼寝が最近、奨励されるようになった。また、昼寝により、脳が活発になるため、独創的なアイデアが浮かびやすい環境になるという。
(昼寝におけるその他の研究報告)
(昼寝の方法)
しばしば死は睡眠に例えられる。死を睡眠になぞらえた例には次のようなものがある。
また、「寝る」、「眠る」という語を含むことわざとして次のようなものがある。
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ドーパミン受容体作動薬 プロラクチン |
覚醒期 | α波、β波(低振幅) | |||
第1期 | 入眠期 | α波の振幅が次第に減少し、発生が不連続になる。 代わって低振幅のθ波があらわれる。 θ波(4-8Hz)は前頭部や頭頂部で著名である。 覚醒時にも情緒不安定時に見られる。 |
うとうとしている状態で低振幅の徐波が増えてきて それに時々頭頂部を中心に瘤波(hump)と呼ばれる鋭波が混じる |
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第2期 | 軽睡眠期 | 脳波は全体として平坦化し、13-15Hzの紡錘波が現れる | 浅い睡眠層で、あまり振幅の高くない徐波が連続するようになり、 それに12-14Hzの紡錘波が混じったり、 K-complexと言われる群発波が現れたりする。 |
Stage1よりθ波が目立つ vertex wave: 頭頂葉に鋭波が出現 sleep sindle: short bursts of 12-16 Hz activity K complex:sleep spindleが重なった高振幅波 眼運動なし、筋緊張若干低下 |
第3期 | 中程度睡眠期 | 4Hz以下の徐波(δ波)が現れるが、紡錘波も残る | 深い睡眠相。高振幅徐波(δ波)が50%より少ない | |
第4期 | 深睡眠期 | 大きな振幅のδ波が記録の50%以上の期間に出現し、紡錘波は消失する。 | 深い睡眠相。高振幅徐波(δ波)が50%以上。 | |
レム睡眠期 | 深い睡眠中にもかかわらず脳波は覚醒時の低振幅の速波を示す。 θ波(低振幅)、β波 |
覚醒時に似た低振幅の脳波。 覚醒時とは筋電図が消失することで区別される。(筋弛緩) 眼球電図も特徴的な眼球運動を示す。(急速眼球運動(REM) 呼吸、脈拍の不規則変化、血圧上昇 |
後頭野で一過性の大きいPGO spikeが出現 |
身体疾患による二次的な不眠 | 精神的・環境的な状態による二次的な不眠 | |
入眠困難 | 疼痛 or 耐え難い状態 中枢神経障害 下記の状態に常にあること |
不安 不安筋緊張 環境変化 概日リズム睡眠障害 |
睡眠維持困難 | 睡眠時無呼吸症候群 夜間ミオクローヌス、むずむず脚症候群 食事因子 挿管性事象(睡眠時随伴症) 物質の影響(アルコールなど) 物質離脱の影響(アルコールなど) 物質相互作用 内分泌疾患/代謝性疾患 感染、悪性腫瘍などの疾患 疼痛 or 耐え難い状態 脳幹・視床下部障害・疾患 加齢 |
うつ病、とくに原発性うつ病 環境変化 概日リズム睡眠障害 外傷後ストレス障害 統合失調症 |
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