副甲状腺ホルモン
Wikipedia preview
出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/01/25 11:42:34」(JST)
[Wiki ja表示]
パラトルモン(parathormone)とは副甲状腺(上皮小体)から分泌される84アミノ酸から構成されるポリペプチドホルモンである。 副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone, PTH)、上皮小体ホルモンとも呼ばれる。パラトルモンは、血液のカルシウムの濃度を増加させるように働き、逆に甲状腺から分泌されるカルシトニンはカルシウムを減少させるように働く。パラトルモンは、血中のカルシウム濃度を増加させるが、パラトルモン受容体(PTH受容体)は骨、腸、腎臓の3箇所の臓器に発現が見られる[1]。
目次
- 1 機能
- 1.1 血中カルシウム濃度の上昇
- 1.2 血清リン濃度の制御
- 2 フィードバック機構
- 3 疾患
- 4 副甲状腺ホルモン関連ペプチド
- 5 骨粗鬆症治療への応用
- 6 脚注
機能
血中カルシウム濃度の上昇
器官 |
効果 |
骨 |
カルシウムの放出を増大させる骨は大きなカルシウムの貯蔵器官である[2]。 骨の代謝は主に破骨細胞による古い骨基質の吸収反応と骨芽細胞による新しい骨基質の形成反応からなる。また骨吸収と骨形成は互いに共役しており、骨芽細胞は骨形成を行う一方、破骨細胞分化因子(RANKL;RANKリガンド)の発現等によって破骨細胞分化の支持細胞としても働く。PTHは破骨細胞を間接的に刺激して骨吸収を促進するが、破骨細胞にはPTH受容体がなく、PTHの直接的な標的細胞はむしろ骨形成を行う骨芽細胞である。PTHは骨芽細胞の細胞膜上に発現するPTH受容体と結合し、骨芽細胞を刺激してRANKLを発現させる。破骨細胞前駆細胞は破骨細胞分化因子受容体(RANK;RANKLに対する受容体)を発現しており、RANKLの刺激を受けて分化・細胞融合し、多核の破骨細胞を形成する。その結果、PTHにより破骨細胞形成が促進され、骨吸収が促進される。 |
腎臓 |
遠位尿細管[3]とヘンレ係蹄上行脚でカルシウムおよびマグネシウムの再吸収を亢進する。一方、無機リン酸(以下、リン)に関してはPTHの骨吸収促進作用によってカルシウムとともに骨より放出されるが、腎臓では近位尿細管におけるリンの再吸収を抑制して排泄させるため、結果的にリンの血中濃度は低下する。 |
腸 |
ビタミンDの生成促進、25-ヒドロキシビタミンD3の1-αヒドロキシル化酵素の発現誘導により、腎臓における1,25-ジヒドロキシビタミンD(活性型ビタミンD)への変換を促進することで、小腸においてカルビンジン(ビタミンD依存性カルシウム結合タンパク質)によるカルシウムイオンを吸収させ、結果的に腸のカルシウムの吸収を促進させる。 |
血清リン濃度の制御
パラトルモンは腎臓の尿細管でリンの吸収を抑制する[3]。これはより多くのリンが尿から排出されることを意味する。またパラトルモンは腸管および骨より血中へのリンの取り込み・放出を亢進する。骨では骨吸収によってリンはカルシウムとともに放出されるが、比率としてはややカルシウムの方が多い。腸管では、活性型ビタミンD3の増加により、リンおよびカルシウムはそれぞれ異なる機構によって吸収が亢進する。
フィードバック機構
血液中のカルシウム濃度が増加すると、副甲状腺の細胞上にカルシウム受容体が反応し、パラトルモンの分泌が抑制される[4]。
疾患
- 副甲状腺機能亢進症 - パラトルモンの過剰によって起こる。
- 原因が副甲状腺腺にあるなら、原発性副甲状腺機能亢進症と呼ばれる。原因は、副甲状腺腺腫または副甲状腺過形成そして、副甲状腺癌である。
- 副甲状腺が原因でない場合、二次性副甲状腺機能亢進症と呼ばれる。これは慢性腎不全で起こることが知られている。
- 副甲状腺機能低下症 - パラトルモンの欠乏によって起こる。
副甲状腺ホルモン関連ペプチド
パラトルモンに類似した物質に副甲状腺ホルモン関連ペプチド(Parathyroid hormone-related peptide, PTHrP)がある。これは141個のアミノ酸からなる蛋白質であるが、アミノ末端の13残基中6個がパラトルモンと同一であるために生物作用がパラトルモンときわめて類似する。生体内にもある程度は存在するが、悪性腫瘍によって大量に産生されると副甲状腺機能亢進症と類似した症状をきたす。悪性腫瘍による高カルシウム血症の80%以上がPTHrPが原因となる。
骨粗鬆症治療への応用
PTH(全長84aa)のN末34アミノ酸(1-34)は、骨粗鬆症治療薬テリパラチド(teriparatide)として臨床応用されている。上記のとおりPTHには骨吸収促進作用があり、副甲状腺機能亢進症で見られるように持続的なPTH投与は骨密度を低下させるが、間欠的投与では逆に骨形成を促進し、骨折リスクを低下させる。ビスホスホネート等、以前の骨粗鬆症治療薬は破骨細胞による骨吸収の抑制を主たる薬理作用とするものがほとんどであるが、本剤は骨芽細胞に作用して骨形成を促進するという特徴的な薬理作用をもつ。1日1回、または週1回、静注または皮下注で使用される。
脚注
- ^ Physiology at MCG 5/5ch6/s5ch6_11
- ^ Poole K, Reeve J (2005). "Parathyroid hormone - a bone anabolic and catabolic agent.". Curr Opin Pharmacol 5 (6): 612-7.PMID 16181808
- ^ a b http://sprojects.mmi.mcgill.ca/nephrology/presentation/presentation5.htm
- ^ Physiology at MCG 5/5ch6/s5ch6_9
内分泌器:ホルモン(ペプチドホルモン、ステロイドホルモン) |
|
視床下部 - 脳下垂体 |
視床下部
|
GnRH - TRH - ドーパミン - CRH - GHRH - ソマトスタチン - ORX - MCH - MRH - MIH
|
|
脳下垂体後葉
|
バソプレッシン - OXT
|
|
脳下垂体中葉
|
MSH(インテルメジン)
|
|
脳下垂体前葉
|
αサブユニット糖タンパク質ホルモン(FSH - LH - TSH) - GH - PRL - POMC(ACTH - エンドルフィン - リポトロピン)
|
|
|
副腎 |
副腎髄質
|
副腎髄質ホルモン(アドレナリン - ノルアドレナリン - ドーパミン)
|
|
副腎皮質
|
副腎皮質ホルモン(アルドステロン - コルチゾール - DHEA)
|
|
|
甲状腺 |
甲状腺
|
甲状腺ホルモン(T3 - T4 - カルシトニン)
|
|
副甲状腺
|
PTH
|
|
|
生殖腺 |
精巣
|
テストステロン - AMH - インヒビン
|
|
卵巣
|
エストラジオール - プロゲステロン - インヒビン/アクチビン - リラキシン(妊娠時)
|
|
|
その他の内分泌器 |
膵臓
|
グルカゴン - インスリン - ソマトスタチン
|
|
松果体
|
メラトニン
|
|
|
内分泌器でない器官 |
胎盤:hCG - HPL - エストロゲン - プロゲステロン - 腎臓:レニン - EPO - カルシトリオール - プロスタグランジン - 心臓:ANP - BNP - ET - 胃:ガストリン - グレリン - 十二指腸:CCK - GIP - セクレチン - モチリン - VIP - 回腸:エンテログルカゴン - 脂肪組織:レプチン - アディポネクチン - レジスチン - 胸腺:サイモシン - サイモポイエチン - サイムリン - STF - THF - 肝臓:IGFs(IGF-1 - IGF-2) - 耳下腺:バロチン - 末梢神経系:CGRP - P物質
|
|
誘導タンパク質 |
NGF - BDNF - NT-3
|
|
UpToDate Contents
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
Japanese Journal
- 骨代謝異常が発生した乳用種および交雑種牛肥育農場における起立不能牛の臨床病理と事故対策 (第34回家畜診療等技術全国研究集会・入賞論文 全国農業共済協会長賞)
- 乳牛において緩やかに飼料中カチオン・アニオン差を変化させることによる乳熱予防効果(内科学)
- 黒崎 尚敏,大和 修,森 史伸,井本 精一,前出 吉光
- The journal of veterinary medical science 69(2), 185-192, 2007-02-25
- … 群(7.3-7.5)および非アニオン群の値(7.9-8.1)に比較してやや酸性に維持され,若牛群の値(6.3-7.3)に近似していた.分娩前の尿中Ca排泄量は,アニオン群の値がすべての群の中で最も高かった.すべての経産牛群の上皮小体ホルモンおよび1,25-ジヒドロキシビタミンD濃度には,特別な変化は認められなかったが,若牛群では実験期間中を通してこれらのホルモンは低い濃度に保たれた.本研究の成績から,分娩前にわずかにDCADを低下させ …
- NAID 110006201237
Related Links
- デジタル大辞泉 - 上皮小体ホルモンの用語解説 - ⇒副甲状腺ホルモン ... 女性の不安を希望に変える 更年期症状で悩む女性のために 大豆を乳酸菌で発酵させたエクオール成分 www.ko-nenkilab.jp/
- 上皮小体のホルモンについて 1,上皮小体とは? 甲状腺の後側に甲状腺の被膜に包まれた、長楕円形で 米粒くらいの黄褐色のもの。だいたいは左右一対(4個)、数には個人差がある。上皮小体からは上皮小体ホルモンが ...
- じょうひしょうたいホルモン【上皮小体ホルモン】とは。意味や解説、類語。⇒副甲状腺ホルモン - goo国語辞書は27万語以上を収録。政治・経済・医学・ITなど、最新用語の追加も定期的に行っています。
Related Pictures
★リンクテーブル★
[★]
- 英
- parathyroid hormone, PTH
- 同
- 上皮小体ホルモン, パラソルモン parathormone
- 関
- 上皮小体、カルシトニン
- 副甲状腺、甲状腺
- カルシウム
- 「血中カルシウムイオンの低下」により分泌され、「血中カルシウムイオン濃度を上げる」ホルモン
分類
性状
産生組織
標的組織
作用
2007年度後期生理学授業プリント
-
- リン酸の再吸収↓ ← ビタミンDはリン酸の再吸収↑
- HCO3-排出↑ → 原発性副甲状腺機能亢進症では代謝性アシドーシスを起こす
- 活性ビタミンD3産生↑ (副甲状腺に対してネガティブフィードバックをかける)
-
- カルシウム再吸収↑
- 活性ビタミンD3存在下で、腸管からのカルシウム取り込み↑
YN.D46
- 1. 遠位尿細管でのCa2+再吸収↑→血中Ca↑
- 2. 近位尿細管でのP再吸収↓→血中P↓
- 3. 近位尿細管でのHCO3-再吸収↓→排泄↑→高Cl性代謝性アシドーシス
- 4. 近位尿細管で1α水酸化酵素活性化→1,25-(OH)2-D産生↑→腸管でのCaとPの吸収↑
- 5. 骨芽細胞に作用は破骨細胞の形成・機能↑→Ca2+遊離→血中Ca2+, P, H+↑
骨の形成と吸収 YN.D46
分泌の調節 (2007年度後期生理学授業プリント)
- 血中カルシウムイオン濃度↓→PTH分泌↑
- 血中カルシウムイオン濃度↑→PTH分泌↓
分泌調節のポイント:カルシトニン ←Ca2+ + protein binding Ca 。 副甲状腺ホルモン ←Ca2+
分子機構
臨床関連
臨床関連
[★]
- 英
- parathyroid gland (KH)
- ラ
- glandura parathyroidea
- 同
- 上皮小体
[show details]
機能
解剖
血管
動脈
臨床関連
[★]
- 英
- parathyroid hormone receptor
- 関
- 副甲状腺ホルモン受容体、副甲状腺ホルモンレセプター、上皮小体ホルモンレセプター
[★]
- 英
- parathyroid hormone receptor
- 関
- 副甲状腺ホルモン受容体、副甲状腺ホルモンレセプター、上皮小体ホルモン受容体
[★]
- 英
- blood parathyroid hormone
- 関
- 血中副甲状腺ホルモン
[★]
- 英
- serum parathyroid hormone
- 関
- 血清副甲状腺ホルモン
[★]
- 英
- hormone
古典的な定義
- 特定の内分泌腺から分泌され、血行によって運ばれ、遠隔部の特定の標的器官に作用して特異的効果を現す物質(PT.403)
例外
- 消化管ホルモン (PT.403)
- 視床下部ホルモン (PT.403)
- 甲状腺濾胞ホルモン?
- カルシトニン?
ホルモンの一覧表
[★]
- 英
- epithelium, (pl.)epithelia
- 関
- 上皮組織、消化器系#上皮の移行、呼吸器の上皮の移行
上皮の分類
[★]
- 英
- body
- ラ
- corpus、corpora
- 関
- 肉体、身体、本体、コーパス、ボディー