出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/07/26 00:43:32」(JST)
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半陰陽(はんいんよう、英: Intersexuality, Hermaphroditism)は第一次性徴における性別の判別が難しい状態である。インターセックス(英: Intersex)ともいう。この性質を持つ人を半陰陽者(はんいんようしゃ)、インターセクシュアルあるいはインターセクシャル(英: Intersexual、略称: IS)と呼称する場合もある。また、医学的な名称としては性分化疾患(DSD)が用いられている。
日本では男女両方の性を兼ね備えているという観点から両性具有(りょうせいぐゆう)とも呼ばれ、またふたなり(二形)、 はにわり(半月)などの呼称もあり古くよりその存在が知られていた。この他、半陰陽者のことを指して両性具有者(りょうせいぐゆうしゃ)、アンドロジニー (Androgyny) 、アンドロギュノスあるいはアンドロジナス (Androgynous) 、アンドロジン (Androgyne) 、ギリシャ神話に出てくるヘルマプロディートスの名をとってヘルマプロディトス (Hermaphroditus) 、ハーマフロダイトあるいはヘルマフロディーテ(Hermaphrodite) と呼ぶこともある。
医学的には性分化疾患 (英: Disorders of Sex Development:DSDs ) に分類される。ただし、呼称についてはインターセックス(英: Intersexuality)なども含めて当事者の間では賛否両論があり、まとまっていない。詳細は性分化疾患の項目参照。
半陰陽は、遺伝子、染色体、性腺、内性器、外性器などの一部または全てが非典型的であり、身体的な性別を男性や女性として単純には分類できない状態である。正確な数は不明であるが、少なくとも数千人に一人の割合でみられるとされる。
一部のジェンダー論やクィア論などでは単純には分類できない多様な性別のあり方があるとし、この半陰陽を男女のどちらにも属さない「第三の性」と位置づけるとする考えもあるが、実際のところ、インターセックスの状態を持つ人々の大多数が、典型的な男性/女性としての性自認を持っており、むしろ「インターセックス」とのステレオタイプ的なラベリングは拒絶されることが多い[1][2]。
2004年から2005年にかけてドイツで行われた大規模調査[3]では、性分化疾患当事者439人のうち、自らを「男でも女でもない」とした人は9人で、残りの430人は通常の男性か女性の性自認を報告している。
陽と陰、男と女といった対立的にして補完的なものの調和を重視する陰陽思想などに基づいて、半陰陽を理想的な性別のあり方とする考え方もあった。
半陰陽の原因としては、性染色体に稀なものが見られる場合や、胎児の発達途中における母体のホルモン異常が引き起こす場合などがある。また、モザイク体と呼ばれる、性染色体の構成の異なる細胞を併せ持つ場合もある。
男女両性の特質を中途半端に兼ね備える場合や、遺伝子上の性別と肉体的それが通常の組み合わせとは反対の場合もある。両性の性腺を兼ね備えたものを真性半陰陽、遺伝子と外見とで性別の異なるものを、仮性半陰陽と呼び、後者は性腺上の性別によって、男性仮性半陰陽、女性仮性半陰陽として区別される[4]。
身体的には、女性仮性半陰陽の場合、膣が塞がっている場合が多く、また陰核が通常よりも肥大し、これが男性器(ペニス)と間違われることがある。男性仮性半陰陽では、尿道下裂[5]や停留睾丸を併せ持った状態のこともある。
真性半陰陽では、その性器の状態は人それぞれであり、またその要因は未だ解明されていない。人体に2つある性腺のどちらか一方が精巣、もう一方が卵巣である場合と、精巣または卵巣が左右揃い、染色体構造は「46, XX」に次いで「46, XY」が多く、「46、XX/46、XYモザイク」も多い。男性型では尿道下裂、女性型では陰核肥大、陰唇癒合。
仮性半陰陽の発生は、その根本的な原因は様々であるが、少なくとも男性ホルモンが関係しているとされる。
胎児における外性器の分化は、染色体や遺伝子ではなく男性ホルモンの働きに因る。外性器の発生する時期にこれが働くことで外性器は男性化を起こし、それがなければ未分化、すなわち女性的な外性器の状態を示す。
遺伝子上は男性であっても、睾丸が男性ホルモンを分泌しない、細胞が男性ホルモンに反応しないなどで外性器が完全には男性化しない、あるいは、遺伝子上は女性であっても母体などからの男性ホルモンの影響で外性器の男性化が起こるといわれている。
その根本的な原因により、第二次性徴の表れ方は様々である。性腺の働きが正常で遺伝子的な異常の無い、単純な外性器の発達不全の場合には、第二次性徴期に通常に性ホルモンが分泌され、(外見とは逆の)本来の二次性徴が発現するといわれ、この場合にはこの肉体的変化で気付くことが多い。また、男性仮性半陰陽の中で、睾丸が女性ホルモンのみを分泌する場合には、女性としては十分とはいえないまでも乳房の発達が起こるとされ、この様な場合には男性ホルモンが働かないために陰毛などが発生しないともいわれる。
仮性半陰陽の場合、外見的には表に出ている男性または女性そのものであることも少なくないため、周囲はおろか当人も全くそれに気づかない場合もある。精巣や卵巣も形成され、たとえ遺伝子情報のそれと反していても、外見通りの性別に成人する。
たとえば遺伝子は男性だが女性の形態をとる男性仮性半陰陽の場合、本人もそれと知らずに結婚、一生を女性として過ごすこともある。ただしこの場合、膣はあるものの子宮が痕跡的で少なくとも機能しないため、自然な妊娠はできない。少なくとも現在のところ、男性仮性半陰陽の女性が出産にまで至った事例は知られていない。クラインフェルター症候群などの男性は極端に精子が少ないため、自然的に受精させることはほぼ不可能だが人工授精での受精は可能である。不妊治療の過程で自分が半陰陽であることを知り精神的な打撃を受けることもある。
社会的には現在、半陰陽の状態を持つ人々は差別以前に日本ではほとんど認知されていない。
ごく最近では、性的ファンタジーとしての両性具有ではない、半陰陽の状態を持つ人の現実的な問題を描いた漫画『IS』(著:六花チヨ、講談社刊)や、半陰陽当事者である漫画家新井祥の作品などが話題となり、以前より少しは半陰陽の状態を持つ人々(インターセクシュアル)の存在が認知されるようになった。しかし、これらの作品でも半陰陽について分かりやすい解説を加えているにもかかわらず、その概念が理解できず、未だに「性同一性障害」「トランスジェンダー」と混同している人は少なくない。
まず第一に、性分化疾患とは、約60種類以上ある疾患群の総称に過ぎず、そのような単一の疾患があるわけではない。両性具有のようなイメージに参照されると思われる卵精巣性性分化疾患においても、性腺が精巣・卵巣に分化していない状態であり、両方の性腺を併せ持っているわけではない。その他の性分化疾患においても、内性器と外性器、性染色体などがマッチしていなかったり、内性器や外性器の発達が不十分だったり、性ホルモンが不足しているなど、「両性具有」という完全性をイメージさせる状態とは全く異なる。
上記にある通り、性分化疾患を持つ人達の大多数は、違和感なく通常の男性/女性として生活しており、むしろ、「男でも女でもない性」「第3の性」とラベリングされることは拒絶される場合が多い。たとえば通常の女性として育ち、性自認も女性の完全型アンドロゲン不応症の女性は、以前「精巣性女性化症」と呼ばれていたが、この疾患名は「女性ではない」という印象を与え、大きく傷つく人が多かったため、当事者の切実な要望から現在の疾患名に変更された。このような状況を代表として、通常の男性・女性の性自認を持っている当事者に対して、「男でも女でもない」と名指しすることは、実情に合わず、当事者を大きく傷つける可能性が高い。性分化疾患の当事者の中には、「男でも女でもない」と自認する人もいるが、それは、性分化疾患を持たない人の中にも自認する人がいて、性分化疾患を持つ人に限らず、厳に尊重されるべきである。
インターセックス(性分化疾患)について、「生まれた時に間違った性別を与えられている」「勝手に医者や両親が性別を決めている」「性別を決めずにインターセックスとして育てるべきだ」などと述べられることがある。しかし、これはすべて誤解である。まず、大多数の性分化疾患は、将来の性自認がほとんど自明であるか、出生時の検査によって判明する[6]。すぐには判明しないケースもあるが、インターセックス(性分化疾患)の当事者運動は、健康上の問題がない美容上の性器形成手術の弊害は訴えてきていても、性別決定そのものを否定しているわけではない。
それ以前に、「間違った性別を与えられて苦しんでいるから、インターセックスとして育てるべき」との誤解は、ではインターセックスというもので育てれば、それは間違っていないのか、本人は苦しまないのかという大きな問題を持っていることに気がついていない。また、以前、フェミニスト生物学者のアン・ファースト=スターリンは、性器の形、内性器と外性器の組み合わせから、「5つの性別」にすればよいとした論文を出版したことがあり、これは性分化疾患(インターセックス)の当事者から大きく批判された。性器の形(ペニスの長さが男性として適当かどうか)を基準に、正式な検査を行えば男性として育つことが自明だったケースでも、性器切除の上女性として育てられ、後に勝手に手術を受けさせられた当事者の人生が大きく狂ってしまうということが頻発しており、インターセックスの当事者運動は、性器の形だけで性別を決めないように訴えていた。しかし、ファースト=スターリン自身がインターセックス当事者運動の支援者だったにも関わらず、その論文は運動の目的を全く理解しないものだった。そのため、ファースト=スターリンは後に「5つの性別論」を撤回している。
コミックなどによって流布された誤解であり、一部の当事者しか用いない。元々はトランスジェンダーの人々が使い出した略語であり、当事者から言い出した自称ではない。上記の通り、性分化疾患を持つ人々の大多数は通常の男性・女性として生活しており、「IS:インターセックス:中性」といったイメージは拒否されることが多い。また医療現場では、「副腎皮質過形成」「アンドロゲン不応症」「クラインフェルター症候群」「MRKH」などの個別の疾患名が用いられ、「性分化疾患」も「インターセックス(IS)」という用語も用いられない。
「インターセックス」はもともと生物学の用語で、昆虫や爬虫類、魚類などに用いられた用語であり、後に医学論文などで、人間に対しても用いられるようになっていた。しかしそれは、医学内部の論文などで用いられる俗称であり、実際は昔の医療現場での告知などにおいて「hermaphrodite(半陰陽)」を基準にした用語が用いられることが多かったが、患者の心理的な状態を理解出来ない医師によって、誤って「インターセックス」という用語が用いられたり「男でも女でもない」と告知されるケースもあった。後に「hermaphrodite(半陰陽)」という用語も蔑視的であるとして医学・医療では用いられなくなっている。現在では「インターセックス」「インターセクシュアル」との用語は、学術的論文では以前のように生物学の範囲でしか見られなくなっている。しかし、性分化疾患当事者が「インターセックス」という用語を用いてはいけないということではなく、それは個々の考えにより、厳に尊重されなければならない。
日本小児内分泌学会性分化委員会による2008年(平成20年)3月1日付けの「性分化異常症の管理に関する合意見解」において、半陰陽(Intersex)については「Disorders of sex development (DSD) 」、真性半陰陽(True hermaphrodite)については「Ovotesticular DSD」と呼称するように提唱されている[7]。
ジェンダー論やクィアセオリーなどでこう述べられることがあるが、「生物学的には」ヒトの性別は、性腺・外性器・内性器の組み合わせが典型的である男性・女性が大多数であるため、男性・女性の2つである。そもそも、「インターセックスの人々がいるので、生物学的にヒトの性別は2つではない」との主張は、性分化疾患を持つ人達の通常の男性・女性としての自認を踏みにじることにもなりかねず、政治的な利用は厳に慎まれるべきである。もちろん、性分化疾患の人の中には、性自認が揺れている人もいるし、また個人的な政治主張として「男も女もない」と主張する人もいるが、それは、性分化疾患ではない人がそういう状態にあったり、そういう政治的信念を持つことと変わりがない。ただし、個人の政治的信念は厳に尊重されるべきである。
出生直後に外見上の性別が不明瞭である場合、出生届等で性別留保という手続きをすれば戸籍には性別は記載されない。
現在、日本で半陰陽の状態を持つ子が生まれた場合、整形手術が行われることが多い。特に生まれてすぐに手術を行うことで生殖能力の保持に関わるケースなどもあり、医師と親の判断に任されることが多々ある。しかし、本人の身体についての説明が十分でない場合、後に本人のアイデンティティを揺るがすことがある。手術をすることによって初めて自分の体に満足する人もいるが、インターセックスの当事者団体では、半陰陽の状態を持つ子供が生まれた場合、即座の整形手術は健康的な問題を含まない限り避けられるべきで、かつ、男性女性どちらかで養育するように推奨している。ただし、後々で明確になる本人の性自認は尊重すべきであり、成長に合わせた柔軟性も必要である。モントリオール宣言やジョグジャカルタ原則第18原則は特にこうした十分なインフォームド・コンセントの伴わない医療介入から児童が保護される必要性を訴えている。
手術の問題点としては、説明が十分になされないゆえのアイデンティティの危機、性感帯の切除による満足の減少、また、ホルモンの減少によって骨粗鬆症になりやすくなる、精神が不安定になる場合がある。骨粗鬆症に関しては、生来的なホルモン不足により起こることがほとんどで、その上ではホルモン投与などの治療はむしろ推奨される。
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