- 英
- 関
Wikipedia preview
出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/03/19 02:49:52」(JST)
[Wiki ja表示]
変異原(へんいげん、mutagen)とは、生物の遺伝情報(DNAあるいは染色体)に変化をひき起こす作用を有する物質または物理的作用(放射線など)をいう。GHSの定義では、「変異原性物質(Mutagen)とは、細胞の集団または生物体に突然変異を発生する頻度を増大させる物質」であり、「突然変異(Mutation)とは、細胞内の遺伝物質の量または構造における恒久的な変化」である。[1]
変異原としての性質あるいは作用の強さを変異原性(へんいげんせい、mutagenicity)もしくは遺伝子毒性(いでんしどくせい)と呼ぶ。[2][3][4]
また遺伝毒性(いでんどくせい、genotoxicity)[5]を持つ物質の一部はその原因として変異原性を有する。つまり変異原性を原因とする遺伝形質の変化(発がん、催奇形性)は毒性として認識されれば遺伝毒性と呼ばれる。また、変異原性を原因とする形質の変化が生殖機能に影響する場合や次世代の形質転換に及ぶ場合は生殖毒性と呼ばれる。
特に、発がんにおけるイニシエーター(initiator。発がん性物質で、遺伝情報に異常を起こしてがんの原因を作るもの)のほとんどは変異原性物質でもあることが実験的に知られている。
日本国においては、医薬品(薬事法)、食品添加物(食品衛生法)、農薬(農薬取締法)、新規化学物質(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)および労働環境検査(労働安全衛生法)についてサンプルの変異原性試験が求められている。主要な物質については変異原性試験と併せて遺伝毒性や生殖毒性の評価も行われる。
つまり、変異原性を調べることは遺伝毒性、発がん性の可能性がある物質を見つけ出すのにも役立つと考えられ、変異原性試験は発がん性物質のスクリーニング試験(候補の絞り込み)としての意味も持つ。
種類
変異原には次のようなもの(物質または物理的作用)がある。
- DNA分子に異常を起こすもの:
- ニトロソ化合物:ニトロソ基 (−NO) を有する化合物。ニトロソアミン(食物中などでアミンと亜硝酸塩が反応して生じる)、ニトロソグアニジンなど。
- 塩基類似化合物:DNAの複製、修復の際に異常を起こす。BrdUなど。
- アルキル化剤:DNAにアルキル基を付加する。エチル化剤 N-エチル-N-ニトロソウレア (ENU)、エチル化剤 メタンスルホン酸メチル (EMS) など。
- 多環芳香族炭化水素:排気ガスやタバコの煙中に含まれるベンゾピレン、クリセンなど。
- DNAインターカレーター:DNAの2重らせん構造にはさまり、DNAの複製の際に異常を起こす。(ベンゾピレン、臭化エチジウムなど)
- DNA架橋剤:DNA分子中の2個の塩基に結合し架橋構造を作る。抗がん剤のシスプラチン、マイトマイシンCなど。
- 活性酸素
- 放射線
- 紫外線
- 遺伝情報を挿入するもの
- コルヒチンなどの細胞分裂阻害剤はDNA自体には異常を起こさないが、細胞分裂において染色体異常(倍数性、異数性)をもたらすことが知られており、細胞の遺伝情報に異常を引き起こすという意味で、上記とは別種の変異原ということができる。また、染色体構造異常を引き起こす物質も知られており、これらも変異原性物質に含まれる。
試験法
変異原性を検出する方法として最もよく用いられるものに、サルモネラ菌 Salmonella typhimuriumなどの細菌を用いる突然変異試験であるエームス試験(Ames test、開発者B. N. Amesにちなむ)がある。変異原性の存在は常に発がん性を始めとした遺伝毒性を有することを意味せず、遺伝毒性を判定するには発がん性を始めとした遺伝毒性試験(遺伝子突然変異試験と染色体突然変異試験)が必要である[4]。すなわち、変異原性試験はプロセスが簡便なため、遺伝毒性試験の前スクリーニング(絞り込みスクリーニング)として実施されるため一連の遺伝毒性試験に含まれる場合がある。しかし変異原性試験の結果のみでは遺伝毒性試験の代用にはならない。
変異が起こる過程やそれらに伴う現象を検出するための種々の試験法がある。検出対象によって大きく分ければ次のようになる。
- 変異原性試験
- DNAの損傷と修復を検出:
- pol-assay
- rec-assay
- Umu-assay
- コメットアッセイ
- 不定期DNA合成
- 形質変化で突然変異を検出:
- エームス試験
- マウスリンフォーマ試験
- スポットテスト
- 遺伝毒性試験
- 染色体異常試験
- 小核試験
- 姉妹染色分体交換試験(SCE)
- 遺伝子突然変異試験
- 形質転換試験(発がん試験を含む)
- 優性致死試験
OECD テストガイドライン
以下、GHS第3版において生殖細胞変異原性物質の試験の例として引用されているOECDテストガイドラインを記載する。リンクは該当文書の国立医薬品食品衛生研究所の翻訳それぞれへのリンクである。原文はOECDのOECD Guidelines for the Testing of Chemicalsから無償でダウンロードできる。
- 試験番号478: 遺伝毒性:げっ歯類を用いる優性致死試験 (1984.4.4採択)
- 試験番号485: 遺伝毒性:マウス転座試験 (1986.10.23採択)
- 試験番号475: 哺乳類骨髄染色体異常試験 (1997.7.21採択)
- 試験番号484: 遺伝毒性:マウススポットテスト (1986.10.23採択)
- 試験番号474: 哺乳類赤血球小核試験 (1997.7.21採択)
- 試験番号483: 哺乳類の精原細胞を用いる染色体異常試験 (1997.7.21採択)
- 試験番号486: 哺乳類肝細胞を用いるin vivo 不定期DNA合成(UDS)試験 (1997.7.21採択)
- 試験番号473: 哺乳類のin vitro染色体異常試験 (1997.7.21採択)
- 試験番号476: 哺乳類細胞のin vitro遺伝子突然変異試験 (1997.7.21採択)
- 試験番号471: 細菌復帰突然変異試験 (1997.7.21採択)
出典
- ^ 化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)改訂3版 環境省訳
- ^ 変異原性試験、薬学用語解説
- ^ 変異原、日本環境変異学会
- ^ a b 変異原性
- ^ 遺伝毒性、日本環境変異学会; 註)遺伝毒性には突然変異性を伴わない突然変異誘発(mutagenesis)性、染色体(chromosome)異常誘発性までを包含する広い意味に用いられる。
外部リンク
UpToDate Contents
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
Japanese Journal
- チリ産食用担子菌Grifola gargalの安全性評価
- 原田 栄津子,森園 智浩,湊 健一郎,小原 章裕,長谷川 武夫
- 日本きのこ学会誌 : mushroom science and biotechnology 22(2), 79-85, 2014-07-31
- … 本研究では,Grifola gargal(アンニンコウ)子実体の安全性を評価した.評価項目は,亜慢性毒性試験および変異原性試験であった.アンニンコウ子実体乾燥粉末(GFD)を経口投与した30日間および100日間の亜慢性試験では,全ての動物において体重が増加し,血液学的検査および状態観察においてもGFD投与の影響は認められなかった.試験期間中には,副作用や死亡マウスは観察されなかった.さらに,GFD抽出物の変異原性はAmes試験プレイ …
- NAID 110009863114
- P-058(O-8) ジクロロメタン由来のDNA付加体を含むシャトルプラスミドを用いたヒト細胞内変異原性試験(ポスターセッション)
- P-048 イチョウ葉エキスのgpt deltaマウスを用いたin vivo変異原性試験(ポスターセッション)
- 木島 綾希,石井 雄二,高須 伸二,黒田 顕,松下 幸平,児玉 幸夫,梅村 隆志
- 日本環境変異原学会大会プログラム・要旨集 (42), 98, 2013-10-30
- NAID 110009732461
Related Links
- 突然変異を引き起す性質を変異原性といい,この性質を検出する方法を変異原性試験 という.ヒトに対する発ガンのリスクと生殖細胞に対する遺伝的障害を予測するために 行う。突然変異を引き起す物理的,化学的,生物的な因子を変異原(mutagen)といい, ...
Related Pictures
★リンクテーブル★
[★]
- 日
- サルモネラ・チフィリウム
- ラ
- Salmonella typhimurium, S. typhimurium
- 同
- Salmonella enterica serovar Typhimurium
- 関
- 変異原性試験、チフス菌、サルモネラ属
[★]
- 英
- mutation
- 関
- 遺伝的変異、変異原性試験
[★]
- 英
- examination、test、testing、assessment、trial、exam、examine
- 関
- アセスメント、計測、検査、検定、試み、査定、試行、調べる、診断、治験、調査、テスト、判定、評価、検討、影響評価、実験デザイン、研究デザイン、データ品質、対応群、スコアリング法
循環器
肝臓異物排泄能
カルシウム
ビタミン
血液
- ショ糖溶血試験:(方法)等張ショ糖液に血液を加える。(検査)溶血の存在。低イオン強度では補体の赤血球に対する結合性が増し、発作性夜間血色素尿症 PNHにおいては溶血をきたす。スクリーニング検査として用いられ、確定診断のためにはハム試験を行う。
- ハム試験 Ham試験:(方法)洗浄赤血球に塩酸を加え、弱酸性(pH6.5-7.0)条件にする。(検査)溶血の存在。発作性夜間血色素尿症 PNHにおいては弱酸性条件で補体に対する感受性が亢進するため
産婦人科
内分泌
視床下部-下垂体-糖質コルチコイド
高血圧
- 立位フロセミド負荷試験:(投与)フロセミド、(検査)血漿レニン濃度:フロセミドでhypovolemicとし歩行負荷で交感神経を興奮させレニンの分泌を促す。原発性アルドステロン症の場合、レニン高値のまま無反応。
膵臓
膵外分泌機能
腎臓
ガストリノーマ
感染症
[★]
- 英
- mutagenesis
- 関
- 突然変異誘起、突然変異誘発、変異誘発、変異誘発性
- 同
-
[★]
- 英
- mutagen
- 関
- 環境変異原、突然変異原
- 関
- 遺伝毒性物質、染色体切断物質、変異誘発物質、変異誘発要因、突然変異原
[★]
- 英
- variation (KH.250)
- 関
- 破格
- 平均値から±2-3σの範囲の値を示すもの (KH.250)
---
- 英
- mutation
- 同
- 突然変異