出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/01/18 16:41:38」(JST)
飽和脂肪酸(ほうわしぼうさん)とは、炭素鎖に二重結合あるいは三重結合を有しない(水素で飽和されている)脂肪酸のことである。飽和脂肪酸は同じ炭素数の不飽和脂肪酸に比べて、高い融点を示す。
不飽和脂肪酸の場合、二重結合はシス型またはトランス型をとる。それに対し、飽和脂肪酸は二重結合あるいは三重結合を有せず、直線上の構造を持つ。
トランス(エライジン酸) | シス(オレイン酸) | 飽和(ステアリン酸) |
---|---|---|
エライジン酸は、トランス型の不飽和脂肪酸であり、植物性脂肪の部分的な水素添加やエライジン化によって生成される。融点43-45℃。 | オレイン酸は、シス型の不飽和脂肪酸であり、天然の植物性脂肪の一般的な成分である。融点16.3°C。 | ステアリン酸は動物性脂肪で見つかった飽和脂肪酸であり、完全に水素が付加した成分である。二重結合を持たないため、ステアリン酸はシスやトランスの形をとらない。 |
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これらの脂肪酸は、同一の化学式で二重結合の方向のみが異なる幾何異性体である。 | この脂肪酸は二重結合を含まず、前の2つの異性体ではない 。 |
脂肪酸の命名法はIUPAC生化学命名法[1]に定義されている。
数値表現 (Numerical symbol) |
示性式 CH3-(R)-CO2H |
組織名 | 慣用名 | 略号 | 融点(℃)[2] |
---|---|---|---|---|---|
4:0 | -(CH2)2- | ブタン酸 | 酪酸(ブチル酸) | Bu | -7.9 |
5:0 | -(CH2)3- | ペンタン酸 | 吉草酸(バレリアン酸) | Pe | -34.5 |
6:0 | -(CH2)4- | ヘキサン酸 | カプロン酸 | Hx | -3 |
7:0 | -(CH2)5- | ヘプタン酸 | エナント酸(ヘプチル酸) | Hp | -7.5 |
8:0 | -(CH2)6- | オクタン酸 | カプリル酸 | Oc | 15-17 |
9:0 | -(CH2)7- | ノナン酸 | ペラルゴン酸 | Nn | 11-13 |
10:0 | -(CH2)8- | デカン酸 | カプリン酸 | Dec | 31 |
12:0 | -(CH2)10- | ドデカン酸 | ラウリン酸 | Lau | 44.2 |
14:0 | -(CH2)12- | テトラデカン酸 | ミリスチン酸 | Myr | 53.9 |
15:0 | -(CH2)13- | ペンタデカン酸 | ペンタデシル酸 | 51-53 | |
16:0 | -(CH2)14- | ヘキサデカン酸 | パルミチン酸 | Pam | 63.1 |
17:0 | -(CH2)15- | ヘプタデカン酸 | マルガリン酸 | 61 | |
18:0 | -(CH2)16- | オクタデカン酸 | ステアリン酸 | Ste | 69.6 |
20:0 | -(CH2)18- | イコサン酸 | アラキジン酸 | Ach | 75.6 |
22:0 | -(CH2)20- | ドコサン酸 | ベヘン酸 | Beh | 81.5 |
24:0 | -(CH2)22- | テトラドコサン酸 | リグノセリン酸 | Lig | 86.0 |
26:0 | -(CH2)24- | ヘキサドコサン酸 | セロチン酸 | Crt | |
28:0 | -(CH2)24- | オクタドコサン酸 | モンタン酸 | Mon | |
30:0 | -(CH2)26- | メリシン酸 |
主な食品中の全脂肪における主な飽和脂肪酸の割合は次のとおりである。
食品 | ラウリン酸(C12H24O2) | ミリスチン酸(C14H28O2) | パルミチン酸(C16H32O2) | ステアリン酸(C18H36O2) |
---|---|---|---|---|
ヤシ油 | 47% | 18% | 9% | 3% |
バター | 3% | 11% | 29% | 13% |
牛挽肉 | 0% | 4% | 26% | 15% |
ブラックチョコレート | 0% | 0% | 34% | 43% |
キングサーモン | 0% | 1% | 29% | 3% |
鶏卵 | 0% | 0.3% | 27% | 10% |
カシューナッツ | 2% | 1% | 10% | 7% |
大豆油 | 0% | 0% | 11% | 4% |
植物油の脂肪酸構成は次のとおりである。
植物油 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
種類 | 飽和脂肪酸[4] | 一価不飽和脂肪酸[4] | 多価不飽和脂肪酸 | オレイン酸 (ω-9)[5] |
発煙点 | ||
多価合計[4] | α-リノレン酸 (ω-3)[5] |
リノール酸 (ω-6)[5] |
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非水素添加 | |||||||
キャノーラ油 | 7.365 | 63.276 | 28.142 | 10 | 22 | 62 | 400 °F (204 °C) [6] |
ココナッツ油 | 86.500 | 5.800 | 1.800 | - | 2 | 6 | 350 °F (177 °C) [7] |
コーン油 | 12.948 | 27.576 | 54.677 | 1 | 58 | 28 | 450 °F (232 °C) [6] |
綿実油 | 25.900 | 17.800 | 51.900 | 1 | 54 | 19 | 420 °F (216 °C) [6] |
オリーブ油 | 13.808 | 72.961 | 10.523 | 1 | 10 | 71 | 374 °F (190 °C) [8] |
パーム油 | 49.300 | 37.000 | 9.300 | - | 10 | 40 | 455 °F (235 °C) [9] |
ピーナッツオイル | 16.900 | 46.200 | 32.000 | - | 32 | 48 | 437 °F (225 °C) [6] |
ひまわり油 (中オレイン種) |
9.009 | 57.334 | 28.962 | 0.037 | 28.705 | 57.029 | 510 °F (266 °C) [6] |
大豆油 | 15.650 | 22.783 | 57.740 | 7 | 54 | 24 | 460 °F (238 °C) [6] |
ベニバナ油 (高オレイン種) |
7.541 | 75.221 | 12.820 | 0.096 | 12.724 | 74.742 | 510 °F (266 °C) [6] |
水素添加済 | |||||||
綿実油 | 93.600 | 1.529 | .587 | .287[4] | |||
パーム油 | 47.500 | 40.600 | 7.500 | ||||
大豆油 | 21.100 | 73.700 | .400 | .096[4] | |||
値は重量パーセント |
脂肪酸シンターゼによってアセチルCoAとマロニルCoAから直鎖の飽和脂肪酸が作られる。順次アセチルCoAが追加合成されるので原則脂肪酸は偶数の炭素数となる。体内で余剰の糖質、タンパク質等が存在するとアセチルCoAを経て、飽和脂肪酸の合成が進む。脂肪酸合成が炭素数18(ステアリン酸)に達すると、ステアリン酸の中央に二重結合が生成されて体内で一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸が生成される。例えば豚の体脂肪であるラードにはオレイン酸が豊富に含まれている。このオレイン酸から、植物では、二重結合が一個増えてリノール酸(ω-6脂肪酸)が生成され、ついで二重結合がもう一つ増えてα-リノレン酸(ω-3脂肪酸)が生成される。動物の体内にはリノール酸もα-リノレン酸も作る酵素が存在しないので、これらの不飽和脂肪酸を必須脂肪酸として摂取しなければならない[10]。
アメリカ心臓協会は、心臓病と闘うための健康的な食事と生活スタイルを勧告している(心臓病#アメリカ心臓協会による2006年版の食と生活の勧告参照)[11]。脂質関連項目を以下に抜粋する。
日本の国立がん研究センターが4万3000人を追跡した大規模調査では、乳製品の摂取が前立腺癌のリスクを上げることを示し、カルシウムや飽和脂肪酸の摂取が前立腺癌のリスクをやや上げることを示した[12]。
飽和脂肪酸を食べる量が多いグループで心筋梗塞のリスクが上昇するが、反面、飽和脂肪酸を食べる量が少ないグループで脳卒中のリスクが上昇する[13]。
飽和脂肪酸の多い食事はインスリン抵抗性を生じさせ、糖尿病の罹患が増加する可能性が示唆されている。また、日本人において飽和脂肪酸摂取量が少ない人では脳出血罹患の増加が認められる。大腸がん及び膵臓がんの罹患との関連は認められていない。飽和脂肪酸について全カロリーの4.5%が摂取下限、7%が摂取上限であると考えられている[14]。
デンマークでは2011年10月1日から、脂肪税として、飽和脂肪酸が2.3%以上含まれる食品に対して、飽和脂肪酸1キログラムあたり16クローネを課税し、施行前には飽和脂肪酸の多い食品であるバターやピザ、肉、牛乳といった食品に買い込み需要が高まった[15]。
ただし、飽和脂肪酸が心臓疾患の原因になるという確固たる証拠は見つかっておらず、2014年3月発行のアナルズ・オブ・インターナル・メディシンでは「飽和脂肪酸は心臓疾患の原因にはならない」という研究が発表された。飽和脂肪酸の摂取量を減らすことは女性の場合、特に害がある。飽和脂肪酸の摂取量を減らしている女性の場合、善玉コレステロールの量が急減し、心臓疾患にかかるリスクが高いとされる[16]。
厚生労働省によると、脂質所要割合は、脂肪エネルギー比率で成人で20-25%の範囲が望ましい。飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の望ましい摂取割合は、おおむね3:4:3であり、ω-6脂肪酸とω-3脂肪酸の比は、健康人では4:1程度である[17]。
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炭素数 | 不飽和結合 | 融点 | |||
ラミバス | |||||
ラウリン酸 | 12 | 0 | C12飽和脂肪酸 | 44.2 | |
ミリスチン酸 | 14 | 0 | C14飽和脂肪酸 | 53.9 | |
パルミチン酸 | 16 | 0 | C16飽和脂肪酸 | ||
ステアリン酸 | 18 | 0 | C18飽和脂肪酸 | ||
バスオリレン | |||||
パルミチン酸 | 16 | 0 | 63.1 | ||
ステアリン酸 | 18 | 0 | 69.6 | ||
オレイン酸 | 18 | 1 | n-9 | 動物油 | 14.0 |
リノール酸 | 18 | 2 | n-6 | 植物油 | -5.0 |
α-リノレン酸 | 18 | 3 | n-3 | シソ油 | -11.3 |
パルミトレイン酸 | 16 | 1 | 0.5 | ||
アラキドン酸 | 20 | 4 | -49.5 |
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