出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/11/12 14:45:41」(JST)
鎮痛剤(ちんつうざい、英:Analgesic)とは、痛みに対する鎮痛作用を有する医薬品の総称。感覚をなくす麻酔薬とは区別される。
鎮痛剤は、中枢神経系・末梢神経に対し様々な機序で作用する。鎮痛剤の主なものに、アセトアミノフェン(国際一般名パラセタモール)や、サリチル酸、アセチルサリチル酸(アスピリン)、イブプロフェン、ロキソプロフェンのような非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、モルヒネやトラマドールのようなオピオイドが含まれる。
鎮痛剤は痛みの種類によって選択され、神経因性疼痛では、三環系抗うつ薬や抗てんかん薬など、鎮痛薬に分類されていないものが使用されることがある。
英単語Analgesicは、ギリシャ語で"~無しで"を意味する"an-"と、"痛み"を意味する"-algia"の合成語である。
あるいは、英語圏では口語的にPainkiller、Pain relieverと呼ばれる。
アセトアミノフェン(国際一般名パラセタモール)の正確な作用機序は分かっていない。しかし、中枢神経に働きかけているという事はうかがえる。アセチルサリチル酸など非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、シクロオキシゲナーゼの作用を阻害し、炎症のメディエーターであるプロスタグランジンの生成量を減少させる。アセトアミノフェンとオピオイドとは対照的に、この作用が痛み、更には炎症を抑える。
アセトアミノフェンは、低頻度で低用量であれば安全とみなされるが、そうでない場合、致命的な肝機能障害を引き起こす可能性がある。
NSAIDsには、ジクロフェナク、ロキソプロフェン、フェルビナク、フルルビプロフェンも挙げられる。NSAIDsは、消化性潰瘍・腎不全・アレルギー反応、また高用量で耳鳴りを引き起こすことがある。また、血小板の機能にも影響を与えるので出血の危険性が増す可能性がある。ウイルス性疾患にかかった16歳以下の子どもに対するNSAIDsの使用は、ライ症候群を引き起こすことがある。
COX-2阻害剤はNSAIDから派生している。1990年代以降注目を集めた。NSAIDsはシクロオキシゲナーゼという酵素の、少なくとも2つのアイソザイムを阻害することが分かっており、それはCOX-1、COX-2である。研究によって、NSAIDsの副作用のほとんどはCOX-1を遮断する事によって起きており、COX-2は炎症作用にかかわっていることがわかった。NSAIDsは、一般的にCOX-1とCOX-2の両方の働きを阻害する。このためCOX-2のみを選択的に阻害する薬剤を創れば、胃痛などの副作用のない優れた消炎鎮痛剤になると考えられた。
ロフェコキシブやセレコキシブなど、これに分類される薬品は、NSAIDsと等しい鎮痛効果を持ちながら消化管の出血が起こりにくいとされ、ベストセラーとなった。しかし発売後のデータ分析によって、消化管出血は起こりにくいものの心疾患の確率が上昇することがわかり、ロフェコキシブは市場から回収された。これがロフェコキシブのみのことなのか、COX-2阻害剤全体に共通する副作用であるのか、現在議論されている所である。
モルヒネは典型的なオピオイドであり、ほかに様々な薬物(コデイン・オキシコドン・ヒドロコドン(英語版)・ペチジン)は全て、脳のオピオイド受容体に同じように影響を及ぼす。ブプレノルフィンは、オピオイド受容体の部分的作動薬(英語版)であると考えられ、またトラマドールはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を持つ。オピオイドの投与は、錯乱、呼吸抑制、・ミオクローヌス・縮瞳を引き起こす事があるため、その服用量は制限されるべきである。
オピオイドは、効果的な鎮痛効果をもたらすが、一方で不快な副作用をもたらす可能性がある。 モルヒネの投与の開始時には、三人に一人には、吐き気や嘔吐の症状が現れる。一般的に制吐剤を用いる。掻痒症(かゆみ)が生じた場合には、別のオピオイドに変更する場合がある。便秘は、オピオイドの投与を受けた患者のほぼ全てに起こる症状である。便秘に対しては、ラクツロース・マクロゴール含有剤・co-danthramerなどの薬剤が一様に用いられる。
オピオイドや他の鎮痛麻薬は、適切に用いられれば安全で有効である。しかし、依存や耐性の危険性がある。服用量を減らす場合には、離脱症状が起こらないように配慮する必要がある。
慢性的もしくは神経因性疼痛による痛みをもつ患者においては、他の薬剤が鎮痛作用を持ちうる。三環系抗うつ剤、特にアミトリプチリンは、中枢神経に起因する痛みを改善する事が分かってきている。カルバマゼピンやガバペンチン、またプレガバリンの正確な機序は、明確になっていない。しかし、これら抗てんかん薬は、神経因性疼痛を改善するのにいくらか効果がある。
鎮痛剤はよく併用される。例えば、処方箋の不要な一般医薬品に、パラセタモールとコデインの併用はよくみられる。鎮痛剤の組み合わせは、プソイドエフェドリンのような血管収縮剤と合わせて、腫れ物の治療に用いたり、抗ヒスタミン剤と合わせてアレルギー患者の治療に用いられる。
パラセタモール・アスピリン・イブプロフェン・ナプロキセンなどのNSAIDsは、弱~中オピエート(ヒドロコドン(英語版)まで)との併用によって、複数部位に作用し有益な相乗作用を示すが、一部の組み合わせは単剤で用いられるよりも効果がない。また薬物相互作用による重大な副作用につながることがある。
局所の鎮痛薬は、一般的には全身性の副作用を避けるために推奨される。例えば、関節の痛みに対してはイブプロフェンかジクロフェナク含有ジェルが用いられる。また、カプサイシンも局部に用いられる。リドカインとステロイドは、より長期間の鎮痛ために、関節に注射されるかも知れない。リドカインは、口腔内の傷の痛みの鎮痛・あまり多くはないが医学的な治療・歯科治療のための局所麻酔に用いられる。
テトラヒドロカンナビノール(THC)や他のカンナビノイドには、大麻に由来するかあるいは合成によって作られ、鎮痛作用がある。アメリカ大陸やヨーロッパでは利用できる箇所増えているが、それ以外の国では違法薬物とみなされる。その他の向精神薬にはNMDA受容体拮抗薬であるケタミンや、クロニジン、α2-アドレナリン受容体拮抗薬であるメキシレチン、その他の局所麻酔類似物がある。
オルフェナドリン・シクロベンザプリン・スコポラミン・アトロピン・ニュートリンなど、第一世代の抗うつ薬・抗コリン薬・抗てんかん薬は、オピオイドのような、主に働く、鎮痛剤の作用を増強するために多く用いられる。この併用には、副交感神経系に働きかけで神経障害に起因する疼痛の改善・他の鎮痛剤の作用が調整できるなどの利点がある。
デキストロメトルファンは、オピオイドに対する耐性の形成を遅らせて、NMDA受容体に作用する事によって更なる鎮痛効果をもたらす事が知られている。メタドンとケトベミドンと、おそらくピリトラミドのような幾つかの鎮痛剤の組み合わせは固有のNMDA作用をもたらす。
補助鎮痛剤の用法は、疼痛管理の分野において非常に重要かつ発展している分野であり、ほとんど毎年新しい発見がなされている。
医薬品の副作用を改善し、更なる利点をもたらす薬剤も多くある。例えば、オルフェナドリンを含む抗ヒスタミン剤は、強い鎮痛剤によって引き起こされるヒスタミンの放出を抑える。メチルフェニデート・カフェイン・エフェドリン・アンフェタミン・メタンフェタミン・デキストロアンフェタミン(英語版)・コカインなどの精神刺激薬は、極度の鎮静作用を抑え、抗うつ薬と同様、痛みに苦しむ患者の気分を高揚させうる。
テトラヒドロカンナビノール(THC)の明らかな作用の一つは、慢性的な痛みによってオピオイドの投与を受けている患者に対する制吐作用である。マリノール製剤・経口・直腸・ハッシュオイルの蒸気吸入は、喫煙によって大麻を吸入するよりも効果的であり、これは多くの医師が大麻の喫煙を止めるように助言を行う事と同じ理由である。
連用により薬物乱用頭痛を引き起こすことがある。
近年のアメリカでは、オキシコドンやヒドロコドンなど、オキシコドン・アセトアミノフェン・パラセタモールを複合的に配合したパーコセットとは対照的な、単一成分の処方薬による依存患者が増えている。単体のヒドロコドンは、ヨーロッパの幾つかの国で錠剤の医薬品として入手ができるのみである。依存をもたらすどころか、これら多くのコデインを含むパラセタモール・ジヒドロコデイン・ヒドロコドン・オキシコドンなどアメリカで用いられる薬品は、服用する者に深刻な肝障害の危険性を負わせる。冷水や冷媒によって抽出されるオピオイドは薬物乱用者・自己投薬者・合法的な薬の所持者に、これら問題が発生する可能性を減らす。アメリカで販売されているほとんどのヒドロコドン・コデイン・ジヒドロコデインを含む咳止めシロップは、過剰摂取の危険性をはらんでいる。
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●2005年の死亡数が多い部位は順に | ||||||
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | ||
男性 | 肺 | 胃 | 肝臓 | 結腸 | 膵臓 | 結腸と直腸を合わせた大腸は4位 |
女性 | 胃 | 肺 | 結腸 | 肝臓 | 乳房 | 結腸と直腸を合わせた大腸は1位 |
男女計 | 肺 | 胃 | 肝臓 | 結腸 | 膵臓 | 結腸と直腸を合わせた大腸は3位 |
●2001年の罹患数が多い部位は順に | ||||||
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | ||
男性 | 胃 | 肺 | 結腸 | 肝臓 | 前立腺 | 結腸と直腸を合わせた大腸は2位 |
女性 | 乳房*1 | 胃 | 結腸 | 子宮*1 | 肺 | 結腸と直腸を合わせた大腸は1位 |
男女計 | 胃 | 肺 | 結腸 | 乳房*1 | 肝臓 | 結腸と直腸を合わせた大腸は2位 |
*1上皮内がんを含む。 |
Table 79-1 Cancer Predisposition Syndromes and Associated Genes | ||||
Syndrome | Gene | Chromosome | Inheritance | Tumors |
ataxia telangiectasia | ATM | 11q22-q23 | AR | breast cancer |
autoimmune lymphoproliferative syndrome | FAS | 10q24 | AD | lymphomas |
FASL | 1q23 | |||
Bloom syndrome | BLM | 15q26.1 | AR | cancer of all types |
Cowden syndrome | PTEN | 10q23 | AD | breast, thyroid |
familial adenomatous polyposis | APC | 5q21 | AD | intestinal adenoma, colorectal cancer |
familial melanoma | p16INK4 | 9p21 | AD | melanoma, pancreatic cancer |
familial Wilms tumor | WT1 | 11p13 | AD | pediatric kidney cancer |
hereditary breast/ovarian cancer | BRCA1 | 17q21 | AD | breast, ovarian, colon, prostate |
BRCA2 | 13q12.3 | |||
hereditary diffuse gastric cancer | CDH1 | 16q22 | AD | stomach cancers |
hereditary multiple exostoses | EXT1 | 8q24 | AD | exostoses, chondrosarcoma |
EXT2 | 11p11-12 | |||
hereditary prostate cancer | HPC1 | 1q24-25 | AD | prostate carcinoma |
hereditary retinoblastoma | RB1 | 13q14.2 | AD | retinoblastoma, osteosarcoma |
hereditary nonpolyposis colon cancer (HNPCC) | MSH2 | 2p16 | AD | colon, endometrial, ovarian, stomach, small bowel, ureter carcinoma |
MLH1 | 3p21.3 | |||
MSH6 | 2p16 | |||
PMS2 | 7p22 | |||
hereditary papillary renal carcinoma | MET | 7q31 | AD | papillary renal tumor |
juvenile polyposis | SMAD4 | 18q21 | AD | gastrointestinal, pancreatic cancers |
Li-Fraumeni | TP53 | 17p13.1 | AD | sarcoma, breast cancer |
multiple endocrine neoplasia type 1 | MEN1 | 11q13 | AD | parathyroid, endocrine, pancreas, and pituitary |
multiple endocrine neoplasia type 2a | RET | 10q11.2 | AD | medullary thyroid carcinoma, pheochromocytoma |
neurofibromatosis type 1 | NF1 | 17q11.2 | AD | neurofibroma, neurofibrosarcoma, brain tumor |
neurofibromatosis type 2 | NF2 | 22q12.2 | AD | vestibular schwannoma, meningioma, spine |
nevoid basal cell carcinoma syndrome (Gorlin's syndrome) | PTCH | 9q22.3 | AD | basal cell carcinoma, medulloblastoma, jaw cysts |
tuberous sclerosis | TSC1 | 9q34 | AD | angiofibroma, renal angiomyolipoma |
TSC2 | 16p13.3 | |||
von Hippel–Lindau | VHL | 3p25-26 | AD | kidney, cerebellum, pheochromocytoma |
疾患 | 危険因子 | 防御因子 | |
悪性腫瘍 | 胃癌 | 塩辛い食品、喫煙、くん製製品、ニトロソアミン土壌、腸上皮化生、Helicobacter pyroli | ビタミンC、野菜、果実 |
食道癌 | 喫煙、飲酒、熱い飲食物 | 野菜、果実 | |
結腸癌 | 高脂肪食、肉食、低い身体活動、腸内細菌叢の変化、遺伝(家族性大腸腺腫症) | ||
肝癌 | HBVキャリア・HCVキャリア、アフラトキシン、住血吸虫、飲酒 | ||
肺癌 | 喫煙(特に扁平上皮癌)、大気汚染、職業的暴露(石綿(扁平上皮癌、悪性中皮腫)、クロム) | 野菜、果実 | |
膵癌 | 高脂肪食、喫煙 | ||
口腔癌 | 喫煙(口唇・舌-パイプ)、ビンロウ樹の実(口腔、舌)、飲酒 | ||
咽頭癌 | EBウイルス(上咽頭癌)、飲酒 | ||
喉頭癌 | 喫煙、男性、アルコール | ||
乳癌 | 高年初産、乳癌の家族歴、肥満、未婚で妊娠回数少ない、無授乳、脂肪の過剰摂取、低年齢初経、高年齢閉経 | 母乳授乳 | |
子宮頚癌 | 初交年齢若い、早婚、多産、性交回数が多い(売春)、貧困、不潔]、HSV-2、HPV、流産、人工妊娠中絶回数が多い | ||
子宮体癌 | 肥満、糖尿病、ピル、エストロゲン常用、未婚、妊娠回数少ない、乳癌後のタモキシフエン内服 | ||
膀胱癌 | 喫煙、鎮痛剤乱用、ビルハルツ住血吸虫、サッカリン、防腐剤 | ||
皮膚癌 | 日光(紫外線)、ヒ素(Bowen病) | ||
白血病 | 放射線、ベンゼン、地域集積性(ATL)、ダウン症(小児白血病) | ||
骨腫瘍 | 電離放射線 | ||
甲状腺癌 | ヨード欠乏または過剰 |
疾患 | 危険因子 | 防御因子 | |
悪性腫瘍 | 胃癌 | 塩辛い食品、喫煙、くん製製品、ニトロソアミン土壌、腸上皮化生、Helicobacter pyroli | ビタミンC、野菜、果実 |
食道癌 | 喫煙、飲酒、熱い飲食物 | 野菜、果実 | |
結腸癌 | 高脂肪食、肉食、低い身体活動、腸内細菌叢の変化、遺伝(家族性大腸腺腫症) | ||
肝癌 | HBVキャリア・HCVキャリア、アフラトキシン、住血吸虫、飲酒 | ||
肺癌 | 喫煙(特に扁平上皮癌)、大気汚染、石綿(扁平上皮癌、悪性中皮腫) | 野菜、果実 | |
膵癌 | 高脂肪食、喫煙 | ||
口腔癌 | 喫煙(口唇・舌-パイプ)、ビンロウ樹の実(口腔、舌)、飲酒 | ||
咽頭癌 | EBウイルス(上咽頭癌)、飲酒 | ||
喉頭癌 | 喫煙、男性、アルコール | ||
乳癌 | 高年初産、乳癌の家族歴、肥満、未婚で妊娠回数少ない、無授乳、脂肪の過剰摂取、低年齢初経、高年齢閉経 | 母乳授乳 | |
子宮頚癌 | 初交年齢若い、早婚、多産、性交回数が多い(売春)、貧困、不潔]、HSV-2、HPV、流産、人工妊娠中絶回数が多い | ||
子宮体癌 | 肥満、糖尿病、ピル、エストロゲン常用、未婚、妊娠回数少ない、乳癌後のタモキシフエン内服 | ||
膀胱癌 | 喫煙、鎮痛剤乱用、ビルハルツ住血吸虫、サッカリン、防腐剤 | ||
皮膚癌 | 日光(紫外線)、ヒ素(Bowen病) | ||
白血病 | 放射線、ベンゼン、地域集積性(ATL)、ダウン症(小児白血病) | ||
骨腫瘍 | 電離放射線 | ||
甲状腺癌 | ヨード欠乏または過剰 | ||
バーキットリンパ腫 | EBウイルス | ||
循環器疾患 | 脳出血 | 高血圧、重筋肉・夜勤労働、蛋白摂取不足、低アルブミン血症、食塩、家族歴、初老期の男、過度の習慣性飲酒、ストレス、寒冷 | |
脳梗塞 | 高血圧、運動不足、糖尿病、肥満、食塩、喫煙、家族歴、加齢、高脂血症 | 有酸素運動 | |
虚血性心疾患 | 高血圧、高脂血症、喫煙、HDLコレステロール低値、糖尿病、肥満、過度の飲酒、運動不足、年齢、性、ストレス | 適度の飲酒 | |
高血圧疾患 | 寒冷、食塩、肥満、飲酒、カリウム(野菜、果物)の摂取不足、ストレス | 減量 | |
2型糖尿病 | 家族歴、肥満、脂肪の過剰摂取、運動不足、喫煙、薬剤(降圧薬etc.) | ||
肝硬変 | HCV、HBV、飲酒(多量) |
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