バルプロ酸
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バルプロ酸ナトリウム |
|
|
識別情報 |
CAS登録番号 |
1069-66-5 |
KEGG |
D00710 |
特性 |
化学式 |
C8H15NaO2 |
モル質量 |
166.20 |
外観 |
白色粉末 |
特記なき場合、データは常温(25 °C)・常圧(100 kPa)におけるものである。 |
バルプロ酸ナトリウム (sodium valproate) は、抗けいれん薬と気分安定薬作用がある有機化合物。略称はVPA。主にてんかん・双極性障害の治療として、一部では大うつ病の治療に用いられる。また片頭痛と統合失調症の治療にも使われている。分子式は C8H15NaO2 で、特異なにおいがあり、水に溶けやすい。GABA(γ-アミノ酪酸)トランスアミナーゼを阻害することにより抑制性シナプスにおけるGABA量を増加させ、薬理作用を発現する。
一般的な副作用には、疲労感・振戦・鎮静や胃腸障害がある。加えて10%に可逆的な脱毛がみられる[1]。
2008年、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、199の二重盲検試験を分析し、データに用いられた24週間では、抗てんかん薬服用時の自殺念慮や自殺企図が2倍―てんかん用途では3.5倍、精神科では1.5倍―に高まることを警告した(それ以上の期間は単に未調査)[2]。2009年4月23日以降、認可されたすべての抗てんかん薬に警告表示が追加された[3]。日本でも、自殺企図の既往や自殺念慮を有する場合に注意書きがある[4]。
目次
- 1 薬理
- 2 効能
- 3 禁忌
- 4 副作用
- 5 製剤の種類
- 6 用法・用量
- 7 脚注
- 8 関連項目
- 9 外部リンク
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薬理
バルプロ酸は、人間の脳の神経伝達物質であるGABAの作用に関連すると考えられている。主にGABAトランスアミナーゼを阻害し、GABA濃度を増加させるとされる。しかしながら近年、その他にいくつかの精神神経疾患に対しての作用機序が存在することが報告されている[5]。
バルプロ酸はまた、電位依存性ナトリウムチャネルとT型カルシウムチャネルをブロックする。これらのメカニズムによりバルプロ酸は広域スペクトル抗けいれん薬である。
バルプロ酸は ヒストン脱アセチル化酵素1 (HDAC1) 酵素阻害剤であり、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤に分類される。
効能
双極性障害の治療に用いられるリチウム塩に代わるものである。抗けいれん薬として、バルプロ酸は欠神発作・強直間代発作(大発作)・複雑部分発作・レノックスガストー症候群に関連する若年性ミオクロニーてんかんのコントロールに用いられる。
またミオクローヌスの治療にも使用されている。一部の国では経口バルプロ酸の製剤は、ステータスてんかん重積のセカンドライン治療として、フェニトインの代替としても使用されている。バルプロ酸は心的外傷後てんかん治療に使用される最も一般的な薬の一つである。[6]
またバルプロ酸はFDAにより、躁病エピソードに関連する双極性障害、複数の発作型(てんかんを含む)の治療補助、および片頭痛の予防に承認されている[7]。 最近では神経因性疼痛(特にデルタ繊維から痛みを刺すような)を治療するセカンドラインの薬剤として使用されている。
2010年8月、脊髄を損傷したマウスに、神経細胞の元になる神経幹細胞を移植してバルプロ酸を注射したところ、歩行能力のある程度の回復が認められたとする報告を、奈良先端科学技術大学院大学の中島欽一教授らのグループが行った。iPSを用いた人間への応用が期待される。
禁忌
- 重篤な肝臓障害のある患者(致死的な肝障害悪化の恐れ)
- カルバペネム系抗生物質との併用(バルプロ酸の血中濃度低下)
- 尿素サイクル異常症患者(高アンモニア血症の恐れ)
- 妊娠している者は原則として服用を避ける(催奇性・胎児への肝障害など発現、退薬症状発現の恐れ)
副作用
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- 精神神経系
- 傾眠、失調、ふらつき
- 消化器症状
- 悪心、嘔吐、食欲不振、胃腸障害、
- その他
- 全身倦怠感、脱毛、体重増加、カルニチン欠乏症など
- 重篤な副作用
- 致死的肝障害、高アンモニア血漿を伴う意識障害、血液障害(血小板・顆粒球の減少)、膵炎、催奇形性(胎児への影響)など[8]。
製剤の種類
日本では協和発酵キリンからデパケン®、興和からセレニカ®などの商品名で販売されている。一日の服用回数が少なくて済むデパケン®R、セレニカ®Rという徐放剤もある。後発医薬品も多くの製薬会社より販売されている。
- 錠剤:100 mg、200 mg
- 錠剤(徐放剤):100 mg、200 mg、400 mg(400 mg はセレニカ®のみ)
- 細粒:20%、40%
- シロップ:50%
用法・用量
- 1日 400–1200 mg を分割経口投与する。なお症状、年齢により適宜増量する。
- 治療効果が期待できる濃度域が限定されるため (50–100 μg/mL)[9][10]、バルプロ酸 (VPA) として血中濃度をモニタリングする必要がある。
脚注
- ^ Gelder, M.; Mayou, R.; Geddes, J. (2005). Psychiatry (3rd ed. ed.). New York: Oxford. p. 250.
- ^ “Postmarket Drug Safety Information for Patients and Providers > Information for Healthcare Professionals: Suicidal Behavior and Ideation and Antiepileptic Drugs”. U.S. Food and Drug Administration (FDA) (2008年1月31日). 2013年1月15日閲覧。
- ^ “Postmarket Drug Safety Information for Patients and Providers > Suicidal Behavior and Ideation and Antiepileptic Drugs”. U.S. Food and Drug Administration (FDA) (2009年5月5日). 2013年1月15日閲覧。
- ^ リーマス錠100/ リーマス錠200 添付文書情報(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)
- ^ Rosenberg, G. (2007). “The mechanisms of action of valproate in neuropsychiatric disorders: can we see the forest for the trees?”. Cellular and Molecular Life Sciences 64 (16): 2090–2103. doi:10.1007/s00018-007-7079-x. PMID 17514356.
- ^ Posner, E.; Lorenzo, N. (2006年10月11日). “Posttraumatic epilepsy”. 2008年7月30日閲覧。
- ^ “FDA Issues Approvable Letter For Stavzor Delayed Release Valproic Acid Capsules”. 2007 MediLexicon International. (2007年10月25日). http://www.medicalnewstoday.com/articles/86674.php 2007年10月29日閲覧。
- ^ EasyTDM
- ^ ブライアン・P・クイン 『「うつ」と「躁」の教科書』 大野裕監訳、岩坂彰訳、紀伊国屋書店、2003年、226頁。ISBN 431400939X。
- ^ 三菱化学メディエンス バルプロ酸ナトリウム/臨床検査の三菱化学メディエンス
関連項目
- てんかん
- 双極性障害
- 片頭痛
- うつ病
- 気分安定薬
- 抗躁薬
外部リンク
気分安定薬 |
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カルバマゼピン ジバルプロエックスナトリウム ガバペンチン ラモトリギン リカルバゼピン リチウム オクスカルバゼピン プレガバリン バルプロ酸ナトリウム チアガビン トピラマート バルプロ酸
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UpToDate Contents
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Japanese Journal
- Premium Edition 早川教授の薬歴添削教室 デパケンを服用しているてんかん乳児
- 早川 達
- 日経ドラッグインフォメーションpremium (149), PE16-23, 2010-03
- … 患児はてんかんのため、デパケン(一般名:バルプロ酸ナトリウム)を服用中です。 …
- NAID 40017024176
- 20-P3-571 三直交代制勤務者に対する抗てんかん薬(デパケン^[○!R]R錠200mg)の服薬指導(その他,来るべき時代への道を拓く)
- 寺澤 知彦,加藤 隆寛,吉田 勉,伊藤 里奈,江崎 秀樹,金田 僚子,笹野 央,灘井 雅行
- 日本医療薬学会年会講演要旨集 18, 374, 2008-09-01
- NAID 110006964514
Related Links
- デパケンとは?バルプロ酸の効能,副作用等を説明,ジェネリックや薬価も調べられる(おくすり110番:薬事典版) ... 用法用量は医師・薬剤師の指示を必ずお守りください。 すべての副作用を掲載しているわけではありません。
- デパケンとは。効果、副作用、使用上の注意。 各種のてんかん発作 及び てんかんに伴う性格行動障害 ( 不機嫌、怒りっぽいなど )の治療と予防、 躁病及び双極性障害の躁状態 の治療に使われています。 - goo辞書は国語 ...
- デパケンR錠100 販売名コード 1139004G1024 承認・許可番号 承認番号 20200AMZ00937 欧文商標名 DEPAKENE-R Tablets 薬価基準収載年月 1990年11月 販売開始年月 1991年1月 貯法・使用期限等 貯法 室温保存 使用期限 包装に ...
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Japan Pharmaceutical Reference
薬効分類名
販売名
デパケン細粒20%
組成
有効成分
添加物
- 日局軽質無水ケイ酸、日局バレイショデンプン、ポリビニルアルコール(部分けん化物)、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム
禁忌
- 重篤な肝障害のある患者[肝障害が強くあらわれ致死的になるおそれがある。]
- 本剤投与中はカルバペネム系抗生物質(パニペネム・ベタミプロン、メロペネム水和物、イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム、ビアペネム、ドリペネム水和物、テビペネム ピボキシル)を併用しないこと。[「相互作用」の項参照]
- 尿素サイクル異常症の患者[重篤な高アンモニア血症があらわれることがある。]
効能または効果
- 各種てんかん(小発作・焦点発作・精神運動発作ならびに混合発作)およびてんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)の治療
- 躁病および躁うつ病の躁状態の治療
- 片頭痛発作の発症抑制
- [片頭痛発作の発症抑制]
- 本剤は、片頭痛発作の急性期治療のみでは日常生活に支障をきたしている患者にのみ投与すること。
- 各種てんかん(小発作・焦点発作・精神運動発作ならびに混合発作)およびてんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)の治療
- 躁病および躁うつ病の躁状態の治療
- 通常1日量バルプロ酸ナトリウムとして400〜1,200mgを1日2〜3回に分けて経口投与する。
ただし、年齢・症状に応じ適宜増減する。
- 片頭痛発作の発症抑制
- 通常1日量バルプロ酸ナトリウムとして400〜800mgを1日2〜3回に分けて経口投与する。
なお、年齢・症状に応じ適宜増減するが、1日量として1,000mgを超えないこと。
慎重投与
- 肝機能障害又はその既往歴のある患者[肝機能障害が強くあらわれるおそれがある。]
- 薬物過敏症の既往歴のある患者
- 自殺企図の既往及び自殺念慮のある躁病及び躁うつ病の躁状態の患者[症状が悪化するおそれがある。]
- 以下のような尿素サイクル異常症が疑われる患者[重篤な高アンモニア血症があらわれるおそれがある。]
- 原因不明の脳症若しくは原因不明の昏睡の既往のある患者
- 尿素サイクル異常症又は原因不明の乳児死亡の家族歴のある患者
重大な副作用
- 劇症肝炎等の重篤な肝障害、黄疸、脂肪肝等を起こすことがあるので、定期的に検査を行うなど観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
- 高アンモニア血症を伴う意識障害があらわれることがあるので、定期的にアンモニア値を測定するなど観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
- 溶血性貧血、赤芽球癆、汎血球減少、重篤な血小板減少、顆粒球減少があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
- 急性膵炎があらわれることがあるので、激しい腹痛、発熱、嘔気、嘔吐等の症状があらわれたり、膵酵素値の上昇が認められた場合には、本剤の投与を中止し、適切な処置を行うこと。
- 間質性腎炎、ファンコニー症候群があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
- 中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
- 過敏症症候群があらわれることがあるので、観察を十分に行い、初期症状として発疹、発熱がみられ、さらにリンパ節腫脹、肝機能障害、白血球増加、好酸球増多、異型リンパ球出現等の症状があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。なお、発疹、発熱、肝機能障害等の症状が再燃あるいは遷延化することがあるので注意すること。
- 脳の萎縮、認知症様症状(健忘、見当識障害、言語障害、寡動、知能低下、感情鈍麻等)、パーキンソン様症状(静止時振戦、硬直、姿勢・歩行異常等)があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
なお、これらの症状が発現した例では中止により、ほとんどが1〜2ヵ月で回復している。
- 横紋筋融解症があらわれることがあるので、観察を十分に行い、筋肉痛、脱力感、CK(CPK)上昇、血中及び尿中ミオグロビンの上昇等が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
- 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)があらわれることがあるので、観察を十分に行い、低ナトリウム血症、低浸透圧血症、尿中ナトリウム量の増加、高張尿等があらわれた場合には水分摂取の制限等の適切な処置を行うこと。
薬効薬理
薬理作用21)〜25)
- 最大電撃痙攣(マウス、ラット、ウサギ)、ストリキニーネ痙攣(マウス)、ピクロトキシン痙攣(マウス)、聴原発作(ラット)、無酸素痙攣(マウス)、ペンテトラゾール痙攣(マウス、ウサギ)、ベメグライド痙攣(マウス)を抑制する。
- 全般てんかんモデルの光誘発痙攣(ヒヒ)、聴原発作(マウス)を抑制する。
- 部分てんかんモデルのコバルト焦点発作(ネコ)、Kindling痙攣(ネコ)を抑制する。
- 海馬後放電及び扁桃核の発作性放電を抑制する。(ウサギ)
- 中脳網様体刺激による筋肉微細振動の増強効果を鋭敏に抑制する。(ウサギ)
- 躁病の動物モデルと考えられる、デキサンフェタミンとクロロジアゼポキシドとの併用投与により生じる自発運動亢進作用を有意に抑制する。(マウス、ラット)
作用機序26〜28)
- 本剤の投与により脳内GABA濃度、ドパミン濃度の上昇とともに、セロトニン代謝が促進されることが認められている。これらの事実から、本剤の抗てんかん作用は神経伝達物質の作用を介した脳内の抑制系の賦活作用に基づくと推定されている。
抗躁作用および片頭痛発作の発症抑制作用についてもGABA神経伝達促進作用が寄与している可能性が考えられている。
有効成分に関する理化学的知見
性状
- 白色の結晶性の粉末で、特異なにおいがあり、味はわずかに苦い。
本品は吸湿性である(極めて吸湿性が強く、空気中で徐々に潮解する)。
溶解性
- 水に極めて溶けやすく、エタノール(99.5)又は酢酸(100)に溶けやすい。
分配係数
- logP′OCT=0.26
(測定法:フラスコシェイキング法 n-オクタノール/pH7.4緩衝溶液)
★リンクテーブル★
[★]
- 英
- valproic acid
- 同
- ジプロピル酢酸 dipropylacetic acid
- 化
- バルプロ酸ナトリウム sodium valproate, valproate sodium
- 商
- エピレナート、サノテン、セレニカR、プロモーション、セレブ、デパケン、ハイセレニン、バルデケンR、バルプラム、バレリン、Depakene, Depakote, Epival
- 関
- てんかん、バルプロ酸ナトリウム中毒
特徴
作用機序
- GABAトランスアミナーゼを阻害(SPC.187)
薬理作用
- GABAの異化を抑制→GABAの濃度↑
- 全ての型のてんかんに作用するが、特に欠神発作によく効く (SPC.187)
注意
副作用
参考
- http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1139004Q1097_2_02/1139004Q1097_2_02?view=body
- http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1139004G1024_1_16/1139004G1024_1_16?view=body
臨床関連
[★]
急性期治療
トリプタン系薬
エルゴタミン系薬
アセトアミノフェン
NSAIDs
鎮吐薬
予防薬
カルシウム拮抗薬
三環系抗うつ薬
β遮断薬
抗てんかん薬
[★]
- 英
- antiepileptic drug
- 関
- 抗てんかん薬
商品