出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/01/16 16:43:21」(JST)
知的障害 | |
---|---|
分類及び外部参照情報 | |
ICD-10 | F70-F79 |
ICD-9 | 317-319 |
DiseasesDB | 4509 |
eMedicine | med/3095 neuro/605 |
MeSH | D008607 |
プロジェクト:病気/Portal:医学と医療 | |
テンプレートを表示 |
知的障害(ちてきしょうがい、英語: Intellectual Disability)とは、
の3点で定義される[1]が、一般的には金銭管理・読み書き・計算など、日常生活や学校生活の上で頭脳を使う知的行動に支障があることを指す。
精神遅滞(せいしんちたい、英:mental retardation)とほぼ同義語であるが、一般的には、医学用語上は「精神遅滞」を用い、学校教育法上の用語として「知的障害」を用いる形で使い分けを行う。日本では、1950年代から学校教育法では、精神薄弱という語が使われていたが、1998年に法改正があり「知的障害」に変わった。アメリカ合衆国などでも、こうした障害は「精神遅滞」と呼ばれていたが、retardation(遅滞)という語の差別的な側面に配慮して、「intellectual disability」との呼称が好まれるようになった。この分野の国際学会も病名などで「mental retardation」という表現を用いていたが、次回の改正で改名される予定である。
法令上、一般的な知的障害の定義は存在しない。福祉施策の対象者としての知的障害者について定義する法令は存在するが、個々の法令において、その目的に応じた定義がなされている。客観的な基準を示さず、支援の必要性の有無・程度をもって知的障害者が定義されることもある。
客観的基準を示す法令にあっては、発達期(おおむね18歳未満)において遅滞が生じること、遅滞が明らかであること、遅滞により適応行動が困難であることの3つを要件とするものが多い。遅滞が明らかか否かの判断に際して「標準化された知能検査(田中ビネーやWISCやK-ABCなど)で知能指数が70ないし75未満(以下)のもの」といった定義がなされることもある。
通常、事故の後遺症や認知症といった発達期以後の知能の低下は知的障害としては扱われない。事故の後遺症については通常の医療給付の問題であり、認知症については老人福祉の問題と考えられるためである。したがって、法令上の用語としての知的障害は、精神医学の領域における知的発達障害に照応することが多い。また、外見だけでは知的障害者と気づかれないことも多く、体力にも遅滞が生じることもある。
以前は、「独:schwachsinn」「英:feeble mindedness」「英:mental deficiency」などの外来語の直訳として「精神薄弱(せいしんはくじゃく、略称・精薄)」という用語が広く使われており、法律用語にも多用されていたが、「精神」という言葉は人格も含むうえ、精神障害と混同されやすいため、関係団体などでは「知的障害」という用語が使われるようになった。平成12年(2000年)3月からは法律上の表記も、知能面のみに着目した「知的障害」という用語に改められた。
また、かつては重度知的障害を「白痴」、中度知的障害を「痴愚(ちぐ)」、軽度知的障害を「魯鈍・軽愚(ろどん、けいぐ)」と呼称しており、これらの用語は法律などにも散見されたが、偏見を煽るとして「重度」「中度」「軽度」という用語に改められた。
医学的な診断名には「英:mental retardation:MR」の訳として「精神遅滞(せいしんちたい)」、「精神発達遅滞(せいしんはったつちたい)」という用語が用いられる。これらは「知的障害」と同じ意味で使われる場合が多い。ただし、厳密な医学的分類では「精神遅滞」・「精神発達遅滞」と「知的障害」を使い分ける場合もある。DSM-IVやアメリカ精神遅滞学会(AAMR)の定義では、「精神遅滞」は「知的障害」の症状に加えて生活面、すなわち「意思伝達・自己管理・家庭生活・対人技能・地域社会資源の利用・自律性・学習能力・仕事・余暇・健康・安全」のうち、2種類以上の面にも適応問題がある場合をさす。しかし、こういった生活面に適応問題があるかどうかを判断するのは難しく、現実的には知能のみで判断しているので、知的障害と精神遅滞は同義語だと考えても差し支えない。
現在では、教育分野や行政やマスコミなどでは、「知的障害」や「知的発達障害」や「知的発達遅滞」と呼ばれることが多く、医学関係では、「精神遅滞」や「精神発達遅滞」と呼ばれることが多い。また、古くからあるくだけた言い方、俗に使われる名称として「知恵遅れ(ちえおくれ)」や侮蔑した呼び方として「ノータリン」(脳味噌が足りないという意味)という言葉があり、それらは子供内でも平然と用いられた。 またインターネットスラングとして、俗的略称である知障(ちしょう)の誤変換である「池沼」の文字を当てる場合がある。
19世紀以前にも重度の知的障害者はいた。しかし、軽度の知的障害者の場合は、それほど支障なく社会生活を送れていた。しかし、近代的な学校制度が普及するにつれて、年齢主義的な進級制度が広く行われるようになり、年齢基準の学年編成では、遅れをとる児童の存在が無視できなくなった。そのような児童生徒は、単純な怠惰や学業への無関心のために成績が悪い生徒と、努力しても成績が悪い生徒の二種類に分類できた。1905年に、フランスのアルフレッド・ビネーが世界初の知能検査を公表したが、これ以降、知的障害の児童は、厳密な診断のものさしで区分されることになった。ビネー死後、知能検査はさまざまな心理学者によって改良され、現在では知能指数を基にして知的障害を判定するようになった。
福祉国家スウェーデンの不妊手術をはじめ、諸外国でも知的障害者は社会的に抑圧されてきた。
江戸時代中期の医師(漢方医、古方派)で儒学者である香川修徳(香川修庵)は、その著書「一本堂行余医言(いっぽんどうこうよいげん)」の巻5にて「痴鵔」として記述している[3][4]。
知的障害者福祉は民間から始まった。明治20年代に立教女学院教頭の職にあった石井亮一が、孤女学院を開設したことにはじまる。濃尾大地震の震災孤女を引き取った亮一は、孤女の中に知的障害児がいたことで強い関心を示し、アメリカへの二度にわたる留学を経て、日本初の知的障害者福祉施設滝乃川学園を開設したのが、日本における知的障害者福祉の先鞭である。亮一は、夫人筆子とともに知的障害者福祉事業に生涯をささげ、後には日本精神薄弱児愛護協会(現・日本知的障害者福祉協会)を設立した。
重度障害児には就学免除などが適用されていたが、養護学校は1979年に義務教育の学校となり、重度障害児も入学可能となった。
『障害者白書』平成21年版によると、厚生労働省が確認した日本国内の知的障害者数は約55万人(在宅者約42万人、施設入所者約13万人)。
知的障害があると認定されると療育手帳が交付され、各種料金の免除などの特典が与えられる。自治体によって、「愛の手帳」や「緑の手帳」などの名称がある。また、障害年金や特別障害者手当などの制度もある。療育手帳などの福祉手帳は、社会福祉法の制度で65歳未満と制限されている。人口比で計算すると先進国各国では年々減少はしているが、開発途上国各国や後発開発途上国各国では減少が見られない国も多い。
知能指数の分布から予測すると、IQ70以下の人は2.27%(認知症を含む)存在するはずなので、理論的には日本の知的障害者数は284万人になる。しかし、公的に知的障害者とされている人は推計41万人であり、実際に存在するはずの障害者数と比較すると6分の1ないし7分の1であり、著しく少ない。また、上記の41万人のうち84%が療育手帳所持者であるが、軽度・中度の手帳の所持者が55%、重度・最重度の手帳の所持者が45%であり、理論上の出現頻度は障害が軽いほど多いので、それを考慮すると、軽度・中度の手帳所持者は実際の軽度・中度の人数のうちのごく一部であると考えられる。
知的障害者の「問題行動」などによって重大犯罪の加害者もしくは被害者になる場合も多い。
元衆議院議員の山本譲司は不正受給問題で懲役刑を受けた時の体験から『獄窓記』という書籍を出版し、刑務所内の知的障害者の比率が一般社会と比べて異常に高いと指摘している。著書『累犯障害者』の中で山本は、実社会では生きるすべを持たない知的障害者たちが、繰り返し犯罪を犯しては刑務所に戻ってくる様を克明に描いている。服役囚全体の4分の1が知的障害者である現実を伝えている。
基本的には、知能指数が100に近い人ほど人数が多い。しかし、知能指数の種類によっては最重度まで正確な存在数比率を出せない場合もある[10]。
教育の分野では、軽度の生徒を「教育可能」、中度の生徒を「訓練可能」と分類する。医学的に考えると精神年齢は12歳以下と推定される(厚生労働省などの発表)。
AAMR第9版においてなされている定義。 ①精神遅滞の概念を広げること、②IQ値によって障害のレベルを分類することはやめること、③個人のニードを、適切なサポートのレベルに結びつけること、の3点を意図している。
運動能力と知能指数による分類として、大島一良による大島分類が使用されている。下記の表は大島分類の表に障害別の大まかな分布範囲を表記したものであるが、個人差があることに注意されたい。
大島分類では、分類1 - 4該当するものを定義上の「重症心身障害児」(ただし、児童福祉法上の話であり、学校教育法上は、重度重複障害の一種に過ぎない)とし、分類5 - 9に該当するものを「周辺児」と呼んでいる[12]。
「自閉症」という障害は、知的障害があるもの(狭義の自閉症)と、知的障害がないもの(高機能自閉症・アスペルガー症候群。いわゆる高機能PDDと称される)に便宜的に分類されているが、その他の関連した障害を含めて自閉症スペクトラムという連続した障害と捉えることがかつて提案された。広汎性発達障害(厳密には、知的障害のないものについては、高機能広汎性発達障害(いわゆる高機能PDD)となる)という用語がほぼ同義語として機能している。知的障害は、知能面の全体的な障害であり、自閉症の本質であるコミュニケーション障害は、対人関係面を主とした障害である。昔から知られている種類の自閉症は狭義の自閉症のことであるが、これはコミュニケーション障害と知的障害が合わさったものである。近年知られてきた種類の自閉症である高機能自閉症は、コミュニケーション障害のみであり、知能指数の全体平均は知的障害の域に達しない。しかし、知能指数を要素別に計測すると、各要素間に大きな差が見られる。
ただし、精神障害の診断と統計マニュアル第5版では、(カナー型)自閉症、アスペルガー症候群、高機能自閉症、特定不能の広汎性発達障害の4つを包括し、自閉症スペクトラムと規定された。
学習障害(LDのこと。厳密には、学習障害というよりも、主に読み書きの障害であるディスレクシアとするのが正確とされる)は、読み・書き・計算など学習面に困難があるが、会話能力・判断力などの知能の他の面では障害がない(そもそも、LDの定義の中に「知的遅れがない」とされている)。知的障害の場合は、学習面も含めて、知能面など全般的に問題がある。
軽度発達障害に使われる「軽度」、およびその一つにカテゴライズされる高機能広汎性発達障害(いわゆる「高機能PDD」のこと。これに含まれる高機能自閉症を含む)に使われる「高機能」とは、いずれも、本稿で説明されている「知的障害」がないながらも障害が発生している、というニュアンスで用いられており、決して、障害の度合いや複雑さなどを表す接頭辞として使われていない点に十分注意する必要がある。このため、近年では、「軽度」という用語では誤解を招く恐れがあることから、単に「発達障害」とのみいう場合や、「(軽度)発達障害」と表現するケースが多い。
ちなみに、「重度重複障害」などに使われる「重度」は、上述の「軽度」の対義語として使用されており、すなわち、「知的障害の度合いが重い重複障害」ということを意味する(ただし、主たる障害は知的障害以外にある点に注意)。
[ヘルプ] |
橋本創一、菅野敦、大伴潔、林安紀子、小林巌、霜田浩信、武田鉄郎、千賀愛、小島道生、池田一成〔編著〕『障害児者の理解と教育・支援 特別支援教育/障害者支援のガイド』金子書房、2008年。
|
|
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
国試過去問 | 「099G047」「108E014」「107G019」「113A006」 |
リンク元 | 「クレチン症」「デント病」「ネコ鳴き症候群」「先天性サイトメガロウイルス感染症」「知能障害」 |
拡張検索 | 「中等度精神発達遅滞」「最重度精神発達遅滞」「重度精神発達遅滞」「軽度精神発達遅滞」「潜伏精巣・低身長症・肥満・軽度精神発達遅滞症候群」 |
関連記事 | 「発達」「発達遅滞」「遅滞」「精神発達」 |
B
※国試ナビ4※ [099G046]←[国試_099]→[099G048]
A
※国試ナビ4※ [108E013]←[国試_108]→[108E015]
C
※国試ナビ4※ [107G018]←[国試_107]→[107G020]
C
※国試ナビ4※ [113A005]←[国試_113]→[113A007]
月齢 | 運動 | 言葉 | 情緒・社会 | 生活 |
2 | あやすと笑う | |||
3 | 首が座る | 声に反応 | ||
4 | ||||
5 | 寝返り | 離乳食開始 | ||
6 | 人見知り | |||
7 | おすわり | 意味のない言葉(喃語) | ||
8 | ハイハイ | |||
9 | つかまり立ち | |||
10 | バイバイをする | |||
11 | つたい歩き | |||
12 | 一人歩き | 1語(ママ)をいう | 命令実行 | コップで水 |
2歳 | 階段登り | 2語文(パパ、カイシャ) | 自己中心的 反抗的 |
大便を教える |
3歳 | 三輪車 | 自分の名前をいう | 排尿自立 |
異常を考える
年齢 | 粗大運動 | 微細運動 | 対象認知 | 言語 | 生活習慣行動 | 社会的行動 |
4ヵ月 | 頚定 | 感覚運動期 | 母親を区別 | |||
6ヵ月 | 直接的な運動・感覚により対象を把握(触る、なめる、嗅ぐなど) | |||||
8ヵ月 | 座位 | 物の持ち替え | ||||
9ヵ月 | 哺乳瓶を持って飲む | |||||
10ヵ月 | 立位 | 母親の後追い | ||||
1歳 | 歩行 | 母指対立運動(ピンセットつまみ) | 隠されているものの存在を理解 | 始語 | 食器の使用 | |
2歳 | 象徴的思考段階 | 2語文 | ごっこ遊び | |||
3歳 | 十字・丸の模写 | 目の前にないものを考えることができる | 1人称代名詞 | 靴を履く | 役割遊び | |
4歳 | 片足立ち | 直感的思考段階 | 多語文増加 | 排泄の事前告知 | ルールの理解 | |
概念的理解が出現 | (4~6語文) | |||||
5歳 | 四角の摸写 | ただし、自己中心・主観的 | 複文完成 | 食事・排泄自立 | 競争意識 | |
6歳 | 衣服着脱自立 |
年齢 | 発達状況 |
4ヵ月 | 首のすわり |
7ヵ月 | 寝返り |
8ヵ月 | 坐位 |
10ヵ月 | つかまり立ち |
13ヵ月 | つたい歩き |
14ヵ月 | 一人で立つ |
15ヵ月 | 一人歩き |
2歳 | つかまって階段昇降 |
3歳 | 三輪車の乗れる |
4歳 | 片足立ち |
5歳 | 片足跳び |
6歳 | スキップ |
年齢 | 発達状況 |
5ヵ月 | 手掌全体でつかむ(手掌把握)。おむちゃに手を伸ばす。 |
6ヵ月 | 手全体でつかむ(全手把握)。手から落としたおもちゃをまたつかむ。 |
7~8ヵ月 | 橈骨側でつかむ(橈骨側把握)。おもちゃを持ちかえる。両手におもちゃを1個ずつ持っている。 |
9~10ヵ月 | 母指と人差し指で鋏持ちをする(鋏状把握)。 |
11~12ヵ月 | 母指と人差し指でつかむ(ピンセットつまみ)。 |
1~1歳半 | 2個の積木で塔をつくる。絵本を2~3ページ一緒にめくる。 |
2~2歳半 | 6~8個の積木で橋をつくる。絵本を1ページずつめくる。 |
3~3歳半 | 3個の積木で橋をつくる。十字形の模写。 |
3~4歳 | 丸の模写。人物画(3部分) |
4~5歳 | 十字の模写。人物画(6部分) |
5~6歳 | 四角の模写。 |
.