出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/11/13 21:39:59」(JST)
ビオチン[1] | |
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IUPAC名
5-[(3aS,4S,6aR)-2-oxohexahydro-1H-thieno[3,4-d]imidazol-4-yl]pentanoic acid |
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別称
ビタミンB7; ビタミンH; 補酵素R
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識別情報 | |
CAS登録番号 | 58-85-5 |
PubChem | 171548 |
ChemSpider | 149962 |
SMILES
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InChI
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特性 | |
化学式 | C10H16N2O3S |
モル質量 | 244.31 g mol−1 |
外観 | 白色の針状結晶 |
融点 |
232-233 °C |
水への溶解度 | 22 mg/100 mL |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
ビオチン(biotin)とは、D-[(+)-cis-ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-チエノ-(3,4)-イミダゾール-4-吉草酸] のこと。ビタミンB群に分類される水溶性ビタミンの一種で、ビタミンB7(Vitamin B7)とも呼ばれるが、欠乏症を起こすことが稀なため、単にビオチンと呼ばれることも多い。
1935年、オランダのケーグル(F. Kögl)により卵黄中から発見された。酵母の増殖に必要な因子ビオス(bios)の1成分として研究されたため、この名がついた。また、古くには、マウスを用いた動物実験において、生卵白の大量投与によって皮膚に生じる炎症を防止する因子として発見されたことから、ビタミンH(H は皮膚を表すドイツ語 Haut から)と呼ばれたこともある。また、生体内において果たす役割から補酵素Rと呼ばれることもある。
熱、光、酸に対し安定、アルカリに対して不安定。カルボキシル基転移酵素(carboxylase)の補酵素として働く。特にビオチンを補酵素として持つ酵素の一群をビオチン酵素(biotin enzyme)と呼ぶ。この中には糖代謝に関与するピルビン酸カルボキシラーゼ、脂肪酸代謝に関与するアセチルCoAカルボキシラーゼやプロピオニルCoAカルボキシラーゼ、アミノ酸の一種ロイシンの代謝に関与する3-メチルクロトノイルCoAカルボキシラーゼなどが含まれる。
卵に含まれる糖タンパク質であるアビジンは、ビオチンを非常に強く結合する(ほとんど不可逆的)ため、標的分子にビオチンを結合して目印とし、これをアビジンで検出する方法が用いられている。生化学の研究用試薬、あるいはがんなどの検査用試薬、さらにはモノクローナル抗体と制がん剤を結びつけてがん細胞のみを直撃するミサイル療法製剤への適用などへの応用がある。
一日の目安量は、成人で45μg。腸内細菌叢により供給されるため、通常の食生活において欠乏症は発生しない。多く含む食材には酵母、レバー、豆類、卵黄などがある。しかしながらビオチンは未だ日本食品成分表に掲載されておらず、摂取基準が曖昧である。第六次改定・日本人の栄養所要量によれば成人男女の基準は30μg。ビオチンの利用効率は食品によりかなり異なり、特に、小麦中のビオチンはほとんど利用されない。サプリメントとしては他のビタミンとは違い、ビオチンは日本の薬事法では栄養機能食品以外には認可されず、一錠中の許容量も上限が500μgと定められている。
抗生物質の服用により腸内細菌叢に変調をきたすと欠乏症を示すことがある。また、ビオチンは卵白中に含まれるアビジンと非常に強く結合し、その吸収が阻害されるため、生卵白の大量摂取によっても欠乏症を生じることがある。この場合のビオチン欠乏症を特に卵白障害と呼ぶ。1日あたり10個以上の生卵を食用し続けると卵白障害に陥る可能性があるとされる。欠乏症状は以下のとおり。
またこれまでの動物を用いた多くの研究において、妊娠中ビオチン欠乏状態に陥った母体の胎児に、高い確率(-100%)で奇形が誘発されることが報告されている。主なものとしては、口蓋裂、小顎症、短肢症、内臓形成障害などがある。逆に動物実験ではビオチンを多量に摂取した場合に胎児にたまる性質があり、催奇性が確認されている。
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日本国内でのビオチン治療法は、自己免疫疾患(易感染性、膠原病)や血糖値上昇(糖尿病)など、その他、ビオチン欠乏からくる多岐にわたる病状を、改善または治癒(緩解、寛解状態ではない)することを目的としたもので、プロスタグランジンやヒスタミンのような、オータコイド系の生理活性物質を過剰に作らせない(機能の正常化)という、いわば、4種のカルボキシラーゼ の補酵素という考え方だけで治療を行っているアメリカよりも、日本の方がこの点では、一歩進んだ考え方となっている。 しかし、今のところ、ビオチンによる免疫治療は、一部の病院でしか治療方法が確定しておらず、ほとんどの日本の病院では皮膚疾患の治療薬としか認識していない。
先天的なビオチン欠乏には大きく分けて、ビオチニダーゼ欠損症とホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症の2つがあり、いずれも常染色体劣性遺伝疾患である。前者は、本来ビオチンがビオチニターゼによってリサイクルされて使用されるのだが、ビオチニダーゼがないために、ビオチンが再利用できないことによるビオチン欠乏である。後者はビオチンをアポカルボキシラーゼに取り込む反応を触媒する酵素であり、ホロ化(活性化)できないことによる欠乏症状である[2]。
乳幼児のビオチン欠乏は出産時に、ビオチン欠乏の母親から悪玉菌優勢の腸内細菌叢を引き継ぐこと[3]や、母乳中にビオチンが少ないことで発症するといわれている。生活環境では、喫煙、アルコール、乳製品、生卵白などの取りすぎはもとより、頻回の下痢、抗生物質やストレスなどで腸内細菌叢の構成に異状をきたしたとき、その他にも、完全静脈栄養施行時、腎臓透析施行時、または、長期にわたり、ペプチドミルク(乳幼児)、一部の抗てんかん薬、鎮痛薬などを服用したときに欠乏する。食物中のビオチンは卵黄中にも存在しているが、アビジンやリジンなどタンパク質と結合した結合型であり、穀物中のビオチンは吸収できないなど、生体内での利用がしにくい。これに対し、腸内バクテリアが産生しているビオチンは活性型といわれている遊離型である。
腸内細菌叢で産生しているビタミンは種々あるが、食物から摂取しにくいビタミンはビオチンに限らずビタミンK2(Menaquinone)なども腸内バクテリアが産生している、このビタミンK2は食物ではチーズにはMK-9、納豆にはMK-7が主に含まれている、MK-7はバクテリア以外には産生しないため、抗生物質などの内服により、腸内細菌叢の構成の変化により欠乏症をおこしたばあい、骨粗鬆症などの発症原因になるといわれている。
ビオチンは様々な薬物相互作用があり、処方されている内服薬との関係を調査しなければならない。飲食物との相互作用もあり、喫煙、副流煙による受動喫煙はビオチンの効力をなくしてしまうことや、飲酒はビオチンを多量に消費してしまうので避けるべきである。その他にも乳製品の偏った食べ過ぎや生卵白などは効力を減弱させてしまう。他にステロイドの内服はビオチン欠乏症を増悪させてしまい、使用していると、改善、治癒(緩解、寛解状態ではない)できなくなってしまうので、外用薬として使用することが望ましい。
ビオチン欠乏による発症機序は、脾臓細胞の免疫システム活性(免疫グロブリンAやGなど)がそれぞれ異常値になり発症するもの[4]、免疫機能の低下により病気に対する抵抗が弱くなり、2次的に発症するもの(易感染性など)、グリセミックインデックス(GI値)の高い食品を食べ続けたことにより、インスリン抵抗性が増加し、グルコースを血管内から細胞内にとりこめなくなることで、発症するもの。 そのほかにも、免疫グロブリンEが持っている特異なレアギン活性によるものが知られている。ビオチン欠乏症の患者は、健常者に比べインスリンの生合成も少ない[5]。ビオチンはピルビン酸カルボキシラーゼの補酵素であるため、欠乏すると乳酸アシドーシスなどの障害も起きる。
ビオチンは、抗炎症物質を生成する事によってアレルギー症状を緩和する作用がある。また、ビオチンはタンパク質の生成にも関係し、皮膚を作る細胞を活性化させ、老廃物の排泄を促し、皮膚の機能を正常に保つ働きもある。皮膚疾患で代表的なアトピー性皮膚炎や掌蹠膿疱症の治療にもビオチンが使われることがある。ビオチンにはコラーゲンやセラミド(細胞間脂質)などの生合成を高める働きがあり、骨などに炎症や変形をともなう病気の治癒を促す。
ビオチン欠乏症は、リュウマチ、シェーグレン症候群、クローン病など膠原病群の免疫不全症だけではなく、1型及び2型の糖尿病にも関与している。ビオチン欠乏が進むと、インスリン分泌能がきわめて低下する[5]。ビオチンの投与によりインスリン抵抗性が低下することや、粘膜部位の炎症、皮膚疾患、血糖値が改善することが知られている。
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リンク元 | 「ビオチン」 |
関連記事 | 「ビタミン」「H」 |
性状 | ビタミン名 | 化合物名 | 機能 | 補酵素名 | 欠乏症 | 過剰症 | ||
アミノ酸代謝 | 補酵素前駆体 | |||||||
水溶性ビタミン | ビタミンB1 | チアミン | 糖代謝 | ○ | チアミン二リン酸 | 脚気 (多発性神経炎、脚気心による動悸・息切れ) ウェルニッケ脳症 コルサコフ症候群 |
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ビタミンB2 | リボフラビン | 酸化還元反応 | アミノ酸オキシダーゼ | ○ | フラビンアデニンジヌクレオチド | 口角炎、舌炎、結膜炎、角膜炎、脂漏性皮膚炎 | ||
ビタミンB6 | ピリドキシン | 転移反応、脱炭酸反応、離脱反応、ラセミ化 | 多くのアミノ酸 | ○ | ピリドキサルリン酸 | 末梢神経障害(INHの副作用) | ||
ビタミンB12 | シアノコバラミン | C1転移 | メチオニン、分岐アミノ酸 | ○ | コバルト補酵素 | 巨赤芽球性貧血 | ||
ビタミンC | アスコルビン酸 | 抗酸化 | ○ | 壊血病 易出血性、骨・筋の脆弱化 |
||||
ビタミンB5 | パントテン酸 | CoAの骨格 | ||||||
ビタミンB9 | 葉酸 | C1転移 | グリシン、セリン | ○ | 巨赤芽球性貧血 | |||
ビタミンB3 | ナイアシン ニコチン酸 |
酸化還元反応 | ○ | ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド | ペラグラ (1)光過敏性皮膚炎、(2)下痢、(3)認知症 |
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ビタミンB7 | ビオチン | 炭素固定反応 | ○ | ビオチン酵素 | 脂漏性皮膚炎、鱗屑状皮膚炎 | |||
脂溶性ビタミン | ビタミンA | レチノイド | 転写因子、視覚 | 夜盲症 眼球乾燥症・角膜軟化症(Bitot斑)・毛孔性角化症 |
脳圧亢進、四肢疼痛性腫脹、肝性皮膚落屑、悪心・嘔吐、食欲不振、催奇形性 | |||
ビタミンD | コレカルシフェロール等 | 骨形成 | くる病、骨軟化症 |
腎臓・血管壁への石灰沈着、多尿、↑尿Ca、高Ca血症、高P血症 | ||||
ビタミンE | トコフェロール | 抗酸化 | 未熟児の溶血性貧血 | |||||
ビタミンK | フィロキノン、メナキノン等 | 血液凝固因子やオステオカルシンの成熟 | ○ | 出血傾向 | 溶血、核黄疸 |
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