ニューモシスチス肺炎
Wikipedia preview
出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/10/17 15:44:13」(JST)
[Wiki ja表示]
ニューモシスチス肺炎(ニューモシスチスはいえん、Pneumocystis pneumonia、PCP)は、酵母様真菌であるニューモシスチス・イロヴェチ(Pneumocystis jirovecii)によって引き起こされる肺炎。正常な免疫能力を持つ場合発症することは希であり、化学療法やステロイド剤長期内服、後天性免疫不全症候群(AIDS)などによる免疫低下時に発症する、日和見感染症の一つである。
以前はニューモシスチス・カリニ (Pneumocystis carinii) による肺炎とされ、「カリニ肺炎」と呼ばれた。しかし、ラットから見つかったニューモシスチス・カリニ(「カリニ」は病原体発見に貢献したアントニオ・カリニにちなむ)と、ヒトで肺炎をおこすニューモシスチスは異なる種類であることが判明し、ヒトに病原性をもつニューモシスチスは、1952年にニューモシスチスが肺炎を起こすことを報告したチェコの寄生虫学者オットー・イーロヴェッツへの献名である Pneumocystis jirovecii に命名し直され、これによる肺炎はニューモシスチス肺炎に名称変更された。なお略号はニューモシスチス・カリニ肺炎の時の略号のまま、PCPを用いる(Pneumocystis cariniii pneumoniaの略からPneumocystis pneumoniaの略となった)。
またニューモシスチスは以前原虫に分類されていたが、遺伝子解析の結果、真菌の一種(子嚢菌門タフリナ菌亜門)であると判明した。なお、現在でもニューモシスチスの体外での人為的増殖は実現しておらず、研究においてはラットに感染させることが必要である。
ニューモシスチス・イロヴェチはほとんどの人が保菌しているが、免疫力が低下すると増殖が抑制できなくなり肺炎を引き起こす。AIDS発症において最も多い日和見感染症であり、治療をしないと致死的である。
目次
- 1 歴史
- 2 徴候
- 3 検査・診断
- 4 治療・処置
歴史[編集]
ミラーの総論 (Robert F.Miller:Pneumocystis carinii in non-AIDS patients. Current Opinions in infectious diseases.1999 Aug;12(4)371-7) によれば、このニューモシスチス・イロヴェチは、1909年にブラジルのカルロス・シャーガス(Carlos Chagas、シャーガス病の発見者としても知られる)によって発見された。ただし、この時は、これが人間の病気の原因に成り得るとは認識されていなかった。これが人間に対する病原体として認識されたのは、ヨーロッパにおいて、1930年代から1940年代にかけて、未熟児や低栄養状態の子供に、間質性肺炎が多発した事が切っ掛けであった。ミラーは、特に孤児でこの様な肺炎が多かったと、上記の総論で述べている。第二次世界大戦後、栄養状態の改善によってこの現象は一旦消えたが、1960年代以降新たに、先天性免疫不全の子供や、悪性腫瘍に罹病及び治療を受ける成人の間で、この肺炎が多く認められる様になった。そして臓器移植の普及に伴って、更に多く観察される様になった。1981年、アメリカで後天性免疫不全症候群 (AIDS) と呼ばれる疾患が報告されると、この疾患はAIDS(エイズ)患者に多く見られる日和見感染として、注目される様になった(ただし、アフリカのエイズ患者で、この肺炎の報告が少ない事は、エイズ研究における一つの課題である)。
徴候[編集]
乾性咳嗽(痰を伴わない咳)、発熱、呼吸困難(息苦しさ)
検査・診断[編集]
- 喀痰検査
- 菌体鏡顕 グロコット染色、トルイジン青染色、メセナミン銀染色で確認できる。
- PCR
- 血液検査
- KL-6...間質性肺炎のマーカー
- β-Dグルカン...真菌感染のマーカー
- 画像診断
- 胸部レントゲン写真
- すりガラス状陰影が一般的だが、実際には様々な像を呈する。
- 胸部CT
治療・処置[編集]
- ST合剤(バクタ®)を服用。
- ペンタミジン(ベナンバックス®)吸入・点滴する。
- アトバコン内服。
などの治療を行う。
ニューモシスチス肺炎は、AIDS患者においては予後良好だが、それ以外の免疫不全患者では予後不良であることが多い。AIDSの有無にかかわらずニューモシスチス肺炎に対しての予防投薬は有効とされる。予防的用法は、バクタ® 1錠1日1回服用が多く用いられている。
気道感染 |
|
上気道 |
風邪
|
ライノウイルス - アデノウイルス - パラインフルエンザウイルス - RSウイルス - コロナウイルス - エコーウイルス - エンテロウイルス
|
|
喉頭炎
|
急性喉頭蓋炎 - クループ
|
|
咽頭炎
|
|
|
下気道 |
急性細気管支炎
|
|
肺炎 |
原因
|
定型肺炎
|
グラム陽性
|
肺炎球菌 - 黄色ブドウ球菌
|
|
グラム陰性
|
肺炎桿菌 - インフルエンザ菌 - モラクセラ - 大腸菌 - 緑膿菌
|
|
|
非定型肺炎
|
ウイルス性
|
RSウイルス - インフルエンザ肺炎 - 重症急性呼吸器症候群
|
|
肺真菌症
|
ニューモシスチス肺炎 - クリプトコッカス症 - アスペルギルス症
|
|
レジオネラ菌 - マイコプラズマ - クラミジア肺炎 - オウム病
|
|
|
抗酸菌症
|
結核 - 非結核性抗酸菌症
|
|
|
機序
|
市中肺炎 - 院内肺炎 - 誤嚥性肺炎
|
|
病態
|
肺胞性肺炎
|
大葉性肺炎 - 気管支肺炎
|
|
化膿性肺炎
|
|
|
|
胸壁 |
膿胸
|
|
HIV / AIDS と共に生きる人々(people living with HIV / AIDS、HIV positive people) |
|
シンボルマーク |
レッドリボン
|
|
|
ウイルス |
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
|
|
疾患・症状 |
後天性免疫不全症候群(AIDS) - エイズ関連症候群(ARC) - 日和見感染 - カポジ肉腫 - ニューモシスチス肺炎
|
|
抗ウイルス薬 |
HIV-1感染症治療薬 - ジドブジン - プロストラチン
|
|
治療法 |
HAART療法
|
|
運動・団体
(アマチュア) |
世界エイズデー - セーブ・ザ・チルドレン(ジャパン) - AIDS メモリアルキルト/en - 日本国際民間協力会 - アメリカン・エキスプレス・レッド
芸術家 -
芸能家 |
ブロードウェイケアース - マーキュリー・フェニックス・トラスト(フレディ・マーキュリー追悼コンサート)
日本 |
アクト・アゲインスト・エイズ - 僕たちにできる事
|
|
|
|
機関・拠点
(医療従事者) |
国際エイズ学会/en(国際エイズ会議/en) - 国際連合エイズ合同計画
|
|
概念 |
カミングアウト - セーファーセックス(性教育) - エイズ孤児 - エイズ・パンデミック/en - サイレント津波 - 静かな緊急事態
|
|
著名な PLWHA |
Category:HIV-陽性の人物
|
|
ヒト以外の種 |
サル免疫不全ウイルス - 猫免疫不全ウイルス感染症(猫後天性免疫不全症候群)
|
|
薬害エイズ事件 - アンゴラ - カナダ - スワジランド - タンザニア - ハイチ - マラウイ - モザンビーク - リビアのエイズ感染事件 - ルワンダ - 万延海 - Category:映画・テレビドラマ・舞台芸術 |
|
UpToDate Contents
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
Japanese Journal
- 36.繰り返しBALを行い診断,治療の経過を追うことができたカリニ肺炎と考えられる1例(第19回 日本呼吸器内視鏡学会中国四国支部会)
- 勝田 知也,海野 正俊,鎌尾 高行,肥後 寿夫
- 気管支学 : 日本気管支研究会雑誌 33(3), 202-203, 2011-05-25
- NAID 110008686149
- Pneumocystis jiroveci 肺炎(カリニ肺炎)を合併した生体腎移植後の2小児例
- 梶保 祐子,近本 裕子,水谷 誠,谷口 貴実子,藤井 寛,秋岡 祐子,田邉 一成,平井 由児,戸塚 恭一,堤 康,服部 元史
- 日本小児腎不全学会雑誌 : 小児腎不全研究会記事 30, 201-203, 2010-08-31
- NAID 10027697888
- 濱田 邦夫,大沼 法友,堀川 敬,長谷川 敦,渡辺 秀樹
- 2009-06-01
- … 今年度上期で比較的まれな疾患であるニューモシスティス肺炎(旧疾患名カリニ肺炎)を4例経験したので報告する。 …
- NAID 120002033976
Related Links
- 以前はニューモシスチス・カリニ (Pneumocystis carinii) による肺炎とされ、「カリニ肺炎 」と呼ばれた。しかし、ラットから見つかったニューモシスチス・カリニ(「カリニ」は病原体 発見に貢献したアントニオ・カリニにちなむ)と、ヒトで肺炎をおこすニューモシスチスは ...
Related Pictures
★リンクテーブル★
[★]
- 英
- pneumocystis pneumonia, pneumocystis jirovecii pneumonia pneumocystis jirovecn pneumonia
- 同
- カリニ肺炎 carinii pneumonia、Pneumocystis肺炎
- ニューモシスチス・カリニ肺炎 pneumocystis carinii pneumonia PCP、ニューモシスチス・カリニ肺炎、ニューモシステイスカリニ肺炎
- 関
- ニューモシスチス症 pneumocystosis
病原体
病因
- IMD.1083
- 剖検例で悪性リンパ腫の1/4、成人T細胞白血病の1/10、全身性エリテマトーデスの1/20 に認められる。
- AIDSに高率に合併。
リスク因子
非HIV
- 別の易感染性の原因を有するグルココルチコイド投与患者
- 他の免疫抑制薬
- 細胞性免疫不全
- 悪性腫瘍(特に造血系悪性腫瘍)
- 造血幹細胞移植(HCT、特にallogeneic HCT)
- 固形臓器の臓器移植
- 拒絶反応に対する治療
- 炎症状態に対する治療(例えば、多発血管炎を伴う肉芽腫症など(ウェゲナー肉芽腫症)
- 重症の低栄養(特に低蛋白)
- 一次性免疫不全(特に重症複合免疫不全)
- 未熟児
症状
検査
- 末梢血液検査:リンパ球数減少。
- 胸部X線検査:肺門から両肺野にかけて微細な網状から索状影を認め、徐々にすりガラス様陰影となる。
- 呼吸機能検査:PaO2 が基準値の 1/2~1/3 に低下。PaCO2 は上昇することもある。
- (USMLE:first aid step1 2006 p.147)
- diagnosed by lung biopsy or lavage
- identified by methenamine silver stain of lung tissue
胸部X線写真
治療
予後
国試
[★]
- opportunistic
- 英
- opportunistic infection
- 関
- 日和見感染
AIDSにおけるCD4様生細胞数と日和見感染症発症の関連 (also see NDE.446)
[★]
- 英
- interstitial plasma cell pneumonia
- 関
- カリニ肺炎、ニューモシスチス症、ニューモシスティス肺炎
[★]
カリニ肺炎、Pneumocystis carinii肺炎
- 関
- Pneumocystis carinii pneumonia
[★]
- ラ
- (イヌ)Pneumocystis carinii、(ヒト)Pneumocystis jiroveci
- 関
- ニューモシスティス・カリニ、ニューモシスチス・カリニ、ニューモシスチス・ジロベシ、ニューモシスチス・イロベチ、ニューモシスチス肺炎菌
[★]
ニューモシスチス肺炎
[★]
ニューモシスチス肺炎
[★]
ニューモシスチス肺炎
[★]
- 英
- pneumonia pneumonitis
- 関
疫学
- 日本の肺炎の受療率は人口10万対3、死亡率は人口10万対7。死因順位は第4位である。
- 受療率・罹患率共に高齢になるに従い急激に増加し、85歳以上の男性では死因第2位、90歳以上の男性では死因第1位となる(ガイドライン1)。
- 死亡者の95%以上が高齢者である。
- 年代と病原体
日本における肺炎の年齢階級別受療率と死亡率(人口10 万対,2002 年)
- ガイドライン1 2004 年「国民衛生の動向」 改変
|
年齢階級
|
総数
|
15~
|
25~
|
35~
|
45~
|
55~
|
65~
|
75~
|
85~
|
90~
|
19
|
29
|
39
|
49
|
59
|
69
|
79
|
89
|
|
受療率
|
外来
|
6
|
3
|
4
|
3
|
3
|
6
|
7
|
14
|
21
|
21
|
入院
|
19
|
2
|
3
|
2
|
3
|
7
|
21
|
86
|
309
|
489
|
死亡率
|
男性
|
76.4
|
0.5
|
0.5
|
1.5
|
4.6
|
15.2
|
69.2
|
339
|
2087
|
4317
|
女性
|
62.7
|
0.3
|
0.5
|
0.9
|
1.9
|
5.6
|
22.4
|
144
|
934
|
2291
|
総数
|
69.4
|
0.4
|
0.5
|
1.2
|
3.2
|
10.3
|
44.6
|
249
|
1291
|
2787
|
分類
発症の場
原因
病理
- 上気道から連続的に下気道へ、あるいは、直接下気道に及んでいる。炎症は上皮に包まれた管腔内
肺炎の比較
ガイドライン
[★]
- 関
- 炎光、炎症