- 英
- amniotic embolism, amniotic fluid embolism
- ラ
- embolia liquolis amnii
- 関
- 産科ショック。肺塞栓症
概念
- 妊婦の破水後、特に分娩開始後に、羊水成分が母体内に流入して引きおこされる急性呼吸循環不全および播種性血管内凝固症候群(DIC)を呈する重篤な病態である。
- 発症頻度は6-8万分娩に1例であるが、母体の死亡率は60-80%と著しく高い。
- 歴史的には1941年SteinerとLushbauchの報告が最初とされている(PMID 3514978 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3514978/)。
- 病態生理は明らかではないころが多い。
- 診断が難しく、死亡率が高いために医療過誤を疑われることが多い。
病態生理
- 羊水成分・胎児成分(胎児扁平上皮、ムチン、胎便など)が母体の静脈に入り、肺血管に塞栓を生じる。急性肺循環不全や急性右心不全、また羊水成分によりDICを起こし、性器出血にて死亡に至る。
- 病態としては肺血管閉塞→肺高血圧→呼吸循環不全、播種性血管内凝固、SIRSの流れで起こる。
- 羊水成分の血液内の流入は、卵膜破綻した後に、子宮筋層断裂部や子宮内腔に露出する欠陥破綻部から起こるとされている
- 胎児成分による物理的な閉塞、ないし血管攣縮性物質による肺血管攣縮により肺血管抵抗が上昇して肺高血圧を来たし、左室の機能低下、低酸素血症を来す
- 羊水中の組織因子やプロテアーゼなどの血管内への流入により血管内血液凝固が引きおこされ、血管内皮障害を来すとされる。
リスク因子
- 経産婦
- 高齢妊娠
- 過強陣痛
- 陣痛促進剤
- 潜在性子宮破裂
- 羊水混濁
症状
- 分娩中ないし分娩直後に多く、経腟分娩が殆どである。
- 初発症状は胸部苦満、呼吸困難(呼吸促進、気管支収縮)、不穏状態、血圧低下がありうる。産道出血や痙攣発作が初発症状となる場合もある。
- 発症後は急激に呼吸・循環不全、DICによる出血症状、ショックが出現するが、次第にARDSを呈し予後不良の経過を辿ることが多い。
診断
- 緊急で施行できる確定診断法は乏しい。
- 中心静脈圧測定用のカテーテルから右心血を採取し、遠心した沈渣の塗沫標本により胎児性分を証明することである。酸性粘液多糖類染色法(コロイド鉄、トルイジンブルー、アルシアンブルーなど)で胎便成分のムチンを染色する。
治療
- 確立した予防方法も治療方法もない。
- 呼吸循環管理
- DICに対する支持的治療
国試
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Japanese Journal
- 症例 原因不明の弛緩出血を生じ摘出子宮の免疫組織学的検査の結果,羊水塞栓症と診断した1例
- 羊水塞栓症の対処法 (特集 周産期医が習得したい専門的手技(産科編))
- 症例報告 選択的帝王切開術後に羊水塞栓症による大量出血・DICが疑われた1例
Related Links
- 羊水塞栓症とは? 「塞栓症」とは何らかの流れがあるところが詰まり、その下流に悪い 影響を与えてしまう病態のことをいいます。 この場合の流れとは血管内の血流である ことがほとんどですね。 血液の固まりが血管内に詰まることを特に血栓塞栓症といい ...
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★リンクテーブル★
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- 36歳の初産婦。妊娠38週3日に陣痛発来のため入院した。これまでの妊娠経過で異常を認めていなかった。血圧 128/68mmHg。児は頭位。内診所見で子宮口は4cm開大。胎児心拍数陣痛図で5分周期の子宮収縮を認め、胎児心拍数波形に異常を認めない。入院4時間後、陣痛は2分間隔となった。内診で子宮口は9cm開大、内診時に自然破水した。胎児心拍数陣痛図で胎児心拍数基線は155/分で正常な基線細変動を認め、一過性徐脈を認めない。さらに30分後に強い子宮収縮があり、胎児心拍数が60/分の徐脈となって回復しない。
- 胎児徐脈の原因として考えられるのはどれか。3つ選べ。
[正答]
※国試ナビ4※ [111I079]←[国試_111]→[ ]
[★]
- 29歳の女性(1妊1産)。分娩後1日で入院中である。妊娠38週0日で骨盤位のため帝王切開分娩となった。術中出血量は800mLで術中術後の経過は順調であった。術後の初回歩行を開始したところ、突然の呼吸困難と胸痛とを訴えた。意識は清明。身長 154cm、体重 77kg。脈拍 104/分、整。血圧 128/76mmHg。呼吸数 26/分。SpO2 92%(room air)。呼吸音に異常を認めない。
- 最も考えられるのはどれか。
[正答]
※国試ナビ4※ [114C048]←[国試_114]→[114C050]
[★]
- 36歳の2回経妊1回経産婦。妊娠39週5日。陣痛発来のため入院した。妊娠経過は順調であった。入院直後の内診では、分泌物は血性少量で子宮口は3cm開大していた。1時間後、突然の気分不快と持続性の腹痛とが出現した。その時の腹部超音波像(別冊No.7A)と胎児心拍数陣痛図(別冊No.7B)とを別に示す。
- 最も考えられるのはどれか。
[正答]
※国試ナビ4※ [107I041]←[国試_107]→[107I043]
[★]
- 40歳の初産婦。児の娩出までの経過は正常であった。胎盤娩出直後から多量の出血を認めるとともに下腹部に激しい痛みを訴えた。
- 最も考えられるのはどれか。
[正答]
※国試ナビ4※ [102A021]←[国試_102]→[102A023]
[★]
[正答]
※国試ナビ4※ [106A010]←[国試_106]→[106A012]
[★]
[正答]
※国試ナビ4※ [112A006]←[国試_112]→[112A008]
[★]
[正答]
※国試ナビ4※ [095A115]←[国試_095]→[095A117]
[★]
[正答]
※国試ナビ4※ [107H038]←[国試_107]→[107I002]
[★]
[正答]
※国試ナビ4※ [097G109]←[国試_097]→[097G111]
[★]
- 英
- obstetrical shock, obstetric shock
- ラ
- shock obstetricus
- 同
- 分娩時ショック
- 関
- ショック
分類
- G10M.274改変 QB.P316
[★]
- 英
- amniotic fluid (Z)
- ラ
- liquor amnii
- 同
- 胎水
- 関
- [[]]
性状
成分
- 種々の成長因子、電解質、低濃度の蛋白質、アミノ酸、糖質、α-フェトプロテイン、リン脂質、酵素、プロラクチン、性ステロイドホルモン
産生
- 妊娠初期:羊膜
- 妊娠中期:胎児腎臓(胎児尿)、胎児肺(肺胞液)
腎による羊水の産生
- 尿細管は妊娠7週で形成され、妊娠10週には腎は尿を排泄するようになる。妊娠5ヶ月頃から腎盂、膀胱に尿が貯留し、随意的排尿が見られるようになる。(NGY.283)
羊水量
- 胎盤完成期から急増して、妊娠7-8ヶ月でピーク(700ml)となり、妊娠末期に減少して50-500mlとなる。
吸収
- 妊娠初期:羊膜
- 妊娠中期:嚥下→腸管から吸収→胎盤→母胎
機能
- MGY.292 G10M34
- 胎児の保護(物理的衝撃、体温保持)
- 運動空間の確保
- 胚の成熟
臨床関連
量的な異常
[★]
- 英
- embolism
- ラ
- embolia
- 同
- 塞栓形成 thrombus formation
- 関
- 塞栓、塞栓形成、塞栓術、塞栓療法、塞栓化
[★]
- 英
- sis, pathy
[★]
- 英
- amniotic fluid embolism
- 関
- 羊水塞栓症
[★]
- 英
- embolus, (pl.)emboli
- 関
- 塞栓症