出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/07/10 23:22:17」(JST)
成人T細胞白血病(せいじんTさいぼうはっけつびょう、ATL, Adult T-cell leukemia、成人T細胞白血病/リンパ腫、- leukemia/lymphoma)は、腫瘍ウイルスであるHTLV-1感染を原因とする白血病、もしくは悪性リンパ腫である。
1976年(昭和51年)に高月清らによって発見、命名された。発症の原因はHTLV-I感染であり、独自の形態をもつ異型リンパ球(CD4陽性リンパ球)の単クローン性腫瘍である。
ATLの臨床経過は多彩であり、以下のような4つの病型と1つの病態が知られている。
この診断基準は消去法にて定義されている。急性型の病態が最も多彩であり、定義しにくい反面、くすぶり型、慢性型、リンパ腫型はそれぞれの特徴が比較的明確である。基本的には定義しやすいくすぶり型、慢性型、リンパ腫型でなければ急性型と考える[1]。
予後不良因子としては、年齢、パフォーマンスステータス、総病変数、高カルシウム血症、高LDH血症があげられる。予後不良因子を持たないくすぶり型と慢性型では化学療法がむしろ免疫不全を助長し、感染症合併の要因になるため、原則として経過観察とする。急性型、リンパ腫型では極めて予後不良であるため、ただちに加療する必要がある。急性化すると極めて予後不良である。急性型と診断された患者の生存期間中央値は1年未満である[2]。
原因ウイルスであるHTLV-Iの感染者は日本、特に九州に多く、他にはカリブ海沿岸諸国、中央アフリカ、南米などに感染者がみられる。そのため、成人T細胞白血病(ATL)患者もこれらの地域に多くみられる[3]。
日本におけるATLによる年間死亡者数は約1,000人であり、1998年(平成10年)以降の10年間に減少傾向はみられていない[4]。
詳細は「HTLV」を参照
HTLV-1キャリアは日本全国で100万以上いるとされる[5]。また、日本人におけるHTLV-Iの陽性率は、献血者を対象とする結果から0.32%と推定されている[4]。
一方、感染者の分布は九州・沖縄に編在している。例えば東京都におけるHTLV-1の陽性率が0.15%と低率であるのに対して、全国で最も陽性率が高い鹿児島県では1.95%と、住民の約50人に一人がHTLV-1キャリアとなっている[4]。
日本ではHTLV-Iキャリアのうち、毎年600-700人程度がATL(病型は問わない)を発症している。キャリアの生涯を通しての発症危険率は2-6%である。HTLV-1の感染経路は授乳、性交、輸血があげられる。キャリアの母親による母乳保育が継続された場合、児の約20%がキャリア化するとされる[6]。一方、これを人工栄養へ切り替えることによって母子感染はほぼ防げる。性交による感染は通常、精液に含まれるリンパ球を通じての男性から女性への感染である[5]。
個体内でのHTLV-1増殖の場は主にリンパ節であると考えられている。リンパ節で増殖したATL細胞が血液中に流出すると、特徴的なATL細胞が末梢血で見られるようになる[7]。
CHOP療法が選択されるが、再発、薬剤耐性化が多い。若年発症では造血幹細胞移植も試みられている。
母乳中のHTLV-1感染リンパ球が乳児の消化管内で乳児のリンパ球に接触することでHTLV-1は新たに感染することができる。レトロウイルスであるため、リンパ球DNAに組み込まれ、ウイルスの再生産を行う。HTLV-1のp40 taxは宿主細胞のIL-2レセプター遺伝子などを活性化し、その分裂増殖を引き起こす。こうして無限増殖を繰り返す宿主細胞がその過程でなんらかのエラーをおこし、形質転換をおこし、ATLを発症すると考えられている。
1970年代の日本の白血病、リンパ腫の論文ではいくつかの興味深い症例報告をみることができる。西南日本に予後不良の悪性リンパ腫が多いこと、家族内発症が悪性リンパ腫にみられること、ホジキン病が南九州に多いこと、セザリー症候群や皮膚T細胞リンパ腫が九州に多いこと、リンパ腫から白血化し、急激に死にいたる症例が認められること、末梢血に核が分葉した奇妙な白血病細胞が認められることなどがあげられる。
これらの多くは2008年(平成20年)現在の診断能力ではATLと診断されておかしくないものばかりであるが、腫瘍ウイルスが原因とわかったのは1980年代である。
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