- 55歳の女性。2週前からの褐色調尿を主訴に来院した。身長155cm、体重52kg。眼球結膜に黄染を認める。右肋骨弓下に肝を3cm、左肋骨弓下に脾を2cm触知する。血液所見:赤血球325万、Hb9.2g/dl、Ht30%、白血球5,400、血小板9万。血清生化学所見:総蛋白6.7g/dl、アルブミン3.8g/dl、IgG1,360mg/dl(基準960~1,960)、IgA150mg/dl(基準110~410)、IgM480mg/dl(基準65~350)、総ビリルビン3.2mg/dl、直接ビリルビン1.9mg/dl、AST62IU/l、ALT59IU/l、ALP782IU/l(基準260以下)、γ-GTP322IU/l(基準8~50)。免疫学所見:CRP0.3mg/dl、HBs抗原陰性、HCV抗体陰性、抗核抗体80倍(基準20以下)、抗ミトコンドリア抗体160倍(基準20以下)。
- この疾患に合併する頻度が高いのはどれか。2つ選べ。
[正答]
※国試ナビ4※ [101A027]←[国試_101]→[101A029]
★リンクテーブル★
[★]
- 75歳の男性。下血を主訴に来院した。今朝、突然の左下腹部痛があり、その後、3回の下血を認めた。20年前から糖尿病と高血圧とがある。身長168cm、体重54kg。体温37.2℃。脈拍88/分、整。血圧118/62mmHg。眼瞼結膜に貧血を認める。左下腹部に圧痛を認める。筋性防御を認めない。下行結腸の内視鏡写真を以下に示す。
- 最も考えられるのはどれか。
[正答]
※国試ナビ4※ [101A026]←[国試_101]→[101A028]
[★]
- 48歳の男性。右上腹部の不快感を主訴に来院した。身体所見に異常はない。血液所見:Hb13.8g/dl、白血球5,800。血清生化学所見:総ビリルビン0.9mg/dl、AST30IU/l、ALT32IU/l、γ-GTP48IU/l(基準8~50)。免疫学所見:CRP0.1mg/dl、CA19-9 32U/ml(基準37以下)。腹部超音波写真を以下に示す。
- 最も考えられるのはどれか。
[正答]
※国試ナビ4※ [101A028]←[国試_101]→[101A030]
[★]
- 英
- primary biliary cholangitis
- 同
- 原発性胆汁性肝硬変
- first aid step1 2006 p.280
- 2009/7/16 III 消化器
まとめ
- 肝内の小葉間胆管が組織的に慢性非可能性破壊性胆管炎により障害され、肝内に胆汁うっ滞をきたしてうっ血性肝障害を起こす疾患である。発症は中年以降の女性に好発する。またHLA-DR8と関連があるらしい。初期症状は皮膚掻痒感であり、黄疸を示さない無症候性PBCがほとんどである。疾患の進行により、黄疸、全身倦怠感が出現、やがて肝硬変、さらに非代償性の肝硬変に陥り、腹水、門脈圧亢進症などを呈する。病理学的には慢性非化膿性破壊性胆管炎が特徴的であり、門脈域周囲にリンパ球の浸潤、非乾酪性壊死を認める。血清学的には抗ミトコンドリア抗体(M2抗体)が疾患特異的に出現し、抗平滑筋抗体も50%弱の症例で陽性となり、またIgMの上昇が認められる。その他血液検査は胆汁うっ滞による肝障害に特徴的な異常がみられる。合併症として、シェーグレン症候群が多く、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、強皮症(あるいはCREST症候群)の合併もありうる。治療は対症療法的にウルソデオキシコール酸、ベサフィブラートを用い、肝障害が末期的になれば肝移植の適応となる。
概念
- 特定疾患治療研究対象疾患
- 肝内の中等大小葉間胆管ないし隔壁胆管が障害される原因不明の慢性肝内胆汁うっ滞症。
- 慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)による慢性の肝内胆汁うっ滞を来す疾患(YN.)。
- 初発症状は皮膚掻痒感。
- 末期になると肝硬変像を示す。 → 門脈圧亢進症
- 血清学的には抗ミトコンドリア抗体(IgM)が特徴的だが、胆管障害機序は不明。 → 自己免疫機序?
- 胆汁うっ滞に基づく症状を呈さないPBCを無症候性PBC、症状を呈すものを症候性PBCという。
疫学
- 発症年齢は40から60歳代に集中。約90%は女性。 → 中年以降の女性に好発
YN.
- 有病率:3-4人/10万人。欧米より低いと推定されている。
- 40-60歳の女性。女性が90%
病型と症状
- 初発症状:皮膚掻痒が最も多い。門脈圧亢進症に基く消化管出血が初発症状の場合がある。
- 無症候性PBC:皮膚掻痒感、黄疸など症状を欠く。新規症例の2!3
- 症候性PBC-S1:倦怠感、掻痒感
- 症候性PBC-S2:非代償性。黄疸,腹水
病理
[show details]
病理所見
- 胆管上皮の増殖性変化,胆管上皮細胞の壊死, 胞体の腫大や好酸性変化
- 基底膜の破壊、核の非偏在化、核の重層化、門脈域にリンパ球、形質細胞が浸潤
- 門脈域主体の炎症細胞浸潤
- 小葉内胆管の障害像
- 非乾酪性類上皮肉芽腫
- 好酸球
病態
- 自己免疫機序によると思われる胆管の傷害 → 胆汁うっ滞 → 肝細胞傷害および線維化 → 門脈圧亢進症 → 肝硬変
- 肝内の中等大小葉間胆管ないし隔壁胆管が障害されることによる肝内性胆汁うっ滞 ← これは「肝内胆管が拡張しない」ことの説明になるの?(QB.B-339)
症状(YN., HIM.chapter 302)
- 初発症状:皮膚掻痒感(診断された症例の50%に見られる)、皮膚黄色腫
- 疲労感:肝臓の状態や年齢にそぐわないようなひどい疲労感
- 黄疸
身体所見
- 門脈圧亢進症に基づく症状:肝腫大、脾腫大、腹水、浮腫
- 原発性胆汁性肝硬変に特有:色素沈着(皮膚を掻爬するため)、黄色腫・眼瞼周囲の黄色腫(高脂血症による)
合併症
- YN.
検査(YN.)
血液一般
- 赤血球、白血球、血小板:減少 → 門脈圧亢進症による脾腫が原因
生化学 - 脂質
生化学 - 銅
- 血清Cu:上昇、尿中Cu:上昇、肝組織内銅含有量:上昇
- 血清セルロプラスミン:上昇
肝障害
胆汁
- 胆汁うっ滞の所見が特徴的。ただし総ビリルピンの上昇は末期
免疫血清学
- 抗ミトコンドリア抗体(AMA):陽性。臓器特異性はない ← 90%の患者で陽性。PBCに特異的。
- M2抗体:PBCに特異的。 AMA陰性患者でもほとんどの場合M2抗体が陽性。
- M2の主要対応抗原はミトコンドリア内膜のpyruvate dehydrogenase (PDH) E2 component。
- 抗PDH抗体:陽性。抗PDH-E2抗体と反応する分子がPBCの胆管上皮に高濃度に存在。
- IgM:上昇:70%の症例 ← PBCではIgM産生能が高まったB細胞が末梢血中に存在する。PBCの発症機序との関連が示唆されている。(参考3)
- ANA、抗平滑筋抗体は50%の症例で陽性
- AMA陽性 + ANA陽性 = オーバーパップ症候群
AMAのターゲット(HIM.chapter.302)
- これらの抗原に対する自己抗体は病態形成には関与していないが、疾患のマーカーとなる。
- pyruvate dehydrogenase complex
- branched chain-2-oxoacid dehydrogenase complex
- 2-oxogluterate dehydrogenase complex
超音波検査・CT・MRI
診断
- 臨床症状、血清学的検査、エコー、CTで疑い、肝生検による組織診で確定診断する。
- ALP、γ-GTP → エコーで胆道閉塞性疾患を否定 → AMA、IgM検査 → 肝生検
- AMA陰性の場合は肝生検が決め手
参考2より抜粋
- 次のいずれか1つに該当するものをPBCと診断する。
- 1. 組織学的にCNSDCを認め,検査所見がPBCとして矛盾しないもの。
- 2. AMAが陽性で,組織学的にはCNSDCの所見を認めないが,PBCに矛盾しない組織像を示すもの。
- 3. 組織学的検索の機会はないが,AMAが陽性で,しかも臨床像及び経過からPBCと考えられるもの。
鑑別診断
- 1期: florid duct lesion - 無症候性
- 慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)といわれる所見、すなわち、胆管上皮細胞の変性、壊死、脱落と、胆管周囲へのリンパ球、形質細胞の浸潤。
- 2期: ductular prliferation - 無症候性
- 細胆管の増生と門脈域より肝実質へのリンパ球浸潤。
- 架橋壊死と線維性隔壁を伴った瘢痕。
- 肝硬変
予後
- 黄疸が出現したら肝臓の予後は不良 → つまり進行性
- 無症候性PBCの予後はおおむね良好、15-20年間経過観察された無症候性PBCの約10%が症候性PBC(黄疸あり)へ移行
- 症候性PBCの5年生存率は約40%、総ビリルビン>2.0mg/mlで数年以内に腹水貯留などの肝不全の徴候があらわれてくることが多い
冶瞭
- UDCA(ウルソデオキシコール酸)、ベサフィブラート、肝移植(scheuer stage IV)
薬物療法
- ウルソデオキシコール酸:胆汁排泄を促進して胆道系酵素を低下させる。 → 病態の進行を遅らせるだけに過ぎない
臓器移植
- 進行例に対して肝移植を施行
- 肝移植: 1年生存率 75-90%、 5年生存率 75-85%
- 再発は20-30%(確診), 28-90%(compartible)
禁忌
- ステロイド:骨粗鬆症の増悪を招くため! → 自己免疫性肝炎ではステロイドを使用(よく反応するらしい)。 PBCに対するステロイド療法は症状緩和のみで根治できず、長期投与が必要になるということか???
合併症
鑑別診断
他疾患との比較
PBCとPSCの比較
Table 16-7. Main Features of Primary Biliary Cirrhosis and Primary Sclerosing Cholangitis
|
Parameter
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primary biliary cirrhosis
|
primary sclerosing cholangitis
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Age
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Median age 50 years (30-70)
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Median age 30 years
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Gender
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90% female
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70% male
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Clinical course
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Progressive
|
Unpredictable but progressive
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Associated conditions
|
Sjogren syndrome (70%)
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inflammatory bowel disease (70%)
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scleroderma (5%)
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pancreatitis (≦25%)
|
thyroid disease (20%)
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idiopathic fibrosing disease (retroperitoneal fibrosis)
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Serology
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95% AMA positive
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0% to 5% AMA positive (low titer)
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20% ANA positive
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6% ANA positive
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60% ANCA positive
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82% ANCA positive
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Radiology
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normal
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strictures and beading of large bile ducts; pruning of smaller ducts
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duct lesion
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florid duct lesion; loss of small ducts
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concentric periductal fibrosis; loss of small ducts
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自己免疫性肝炎と原発性胆汁性肝硬変
症例
- 52歳女性。3ヶ月前から皮膚の掻痒感と軽度の黄疸が出現したため来院した。抗ミトコンドリア抗体が陽性である。
参考
- http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/029_i.htm
- http://www.nanbyou.or.jp/pdf/029_s.pdf
- 3. [charged] Pathogenesis of primary biliary cirrhosis - uptodate [1]
国試