聴覚障害者(ちょうかくしょうがいしゃ)とは、聴覚に障害をもつ(耳が不自由な)人のことである。
この聴覚障害者にはろう者(聾者)、軽度難聴から高度難聴などの難聴者、成長してから聴覚を失った中途失聴者、加齢により聴力が衰える老人性難聴者が含まれる。
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目次
- 1 用語について
- 2 概要
- 3 程度による区分
- 4 身体障害者福祉法による区分
- 5 筆談
- 6 有名な言葉
- 7 学校教育
- 8 各国の聴覚障害者
- 9 関連項目
- 10 外部リンク
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用語について
かつては聞こえに不自由がある人を指す言葉として「つんぼ(聾)」という言葉があったが、現在では差別に当たるとして「聴覚障害者」という言葉に改められた。また「つんぼ」は放送禁止用語・差別用語とされ、TVや出版物での使用の自粛が行われており、日常会話で使われることもほとんどなくなっている。しかし過去の著名な文学作品には用いられているため、筒井康隆はこれを龍の耳と書く美しい日本語であるとしている。
概要
原因
聴覚障害の原因には風疹などによる先天性と後天性がある。後者には、病気、薬の副作用(ストレプトマイシンが代表的)、点滴の副作用長期間にわたる重度騒音や頭部への衝撃、精神性ストレスによる突発性難聴、加齢などがある。一般的に、聴覚障害者は聴覚以外に身体的欠陥はないが、重複障害を持つものもある。
分類
聴覚障害のタイプには、伝音性と感音性と混合性がある。伝音性は内耳までの間の音を伝える経路に原因がある場合で、感音性は内耳から奥の聴覚神経や脳へ至る神経回路に問題がある場合である。混合性は伝音性と感音性の2つが合わさったものである。
聴覚はセンサー機能について述べ、聴力は聞く能力について述べているといえる。つまり、ある特定の聴覚神経が欠けていると、その波長の音は聞こえない。一方、聴力は聞き取る能力が低下したりする場合にいう。大きな騒音環境にいて、一時的に聞こえの能力が低下した場合は聴力低下という。
治療、対処
- 発話訓練
- 生まれつき、または3~5歳までの言語機能形成期に聴覚を失ったり、聴力に低下を来した場合、発話障害を伴う場合がある。しかし、最近の聾学校では性能が発達した補聴器の装用で発話訓練を十分に行うようになっている。このため、昔は聾唖(ろうあ)・瘖唖(いんあ)と呼ばれたが、最近では発話面の障害がないことが多いため聾者(ろうしゃ)と呼ばれることが多い。ちなみに、「聾」・「瘖」は聞こえないこと、「唖」は話せないことを指す。
- 人工内耳
- 聴神経に音が伝わらない場合、内耳の中に電極を挿入して、補聴システムでとらえた音声信号を電気信号に変えて、その電極から聴覚神経へ直接伝える人工内耳が普及してきた。電極の数に制限があり、一方残存聴覚神経にも個体差があるため、電子回路で患者一人一人に合わせた信号補正を行っている。人工内耳の手術後も言語聞き取りのために訓練期間が必要になってくる。
- 補聴器
- 加齢などで聞こえの程度に不自由を生じた場合、補聴器を装用することが多い。そのような場合、特定周波数をとらえる聴覚神経が欠損している場合もあり、補聴器を装用したからといって、健康な状態へ回復するとは限らない。
程度による区分
聴覚障害の程度は、医学的にはデシベル(dB)で区分する。デシベルとは音圧レベルの単位であり、音の大きさが大きいほど高い値を示す。これにより健康な場合に対しどれだけ聞こえが悪くなったか(大きな音でないと聞こえないか)が示される。
聴覚障害のdB区分
| dB |
聴覚障害 |
聞こえの程度 |
| 0 |
聴者 |
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| 10 |
ささやき声 |
| 20 |
| 30 |
軽度難聴 |
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| 40 |
普通の会話 |
| 50 |
中度難聴 |
| 60 |
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| 70 |
高度難聴 |
大声 |
| 80 |
| 90 |
怒鳴り声 |
| 100 |
ろう |
ガード下での鉄道走行音 |
| 110 |
地下鉄走行音 |
| 120 |
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| 130 |
飛行機のエンジン音 |
両耳で70dB以上になると、身体障害者手帳を交付される。40dB前後を超えると「話すのにやや不便を感じる」レベルになる。身体障害者手帳が交付されない40~70dBの人達も含めると、聴覚障害者は全体で約600万人いると言われる。そのうち、約75%は加齢に伴う老人性難聴である。
なお、欧米の聴覚障害判定基準は40dB以上である。
<【参考】騒音(公害)の環境基準。夜間の住宅地は45dB以下。新幹線沿線住宅地は70dB以下。ただし、騒音の環境基準は、正確にはA特性の騒音レベルにより定められており、聴覚を表す音圧レベルはdBHLという単位である。>
平均聴力レベルの計算式
平均聴力レベルは次の計算式で求める。日本国内では労働災害の認定に6分法を用い、健康診断では4分法を用いる傾向が多い。日本国外では世界保健機関『難聴及び聴力低下の予防のためのプログラム (PDH)』が示す4分法を用いられる。
- 3分法
- 平均聴力レベル
- 4分法(日本)
- 平均聴力レベル
- 6分法
- 平均聴力レベル
- 4分法 (PDH)
- 平均聴力レベル
身体障害者福祉法による区分
日本では、身体障害者福祉法によって身体障害者等級を定めている。聴覚障害の程度に応じて以下の等級の身体障害者手帳が交付される。
以下は、「身体障害者福祉法施行規則別表第5号」の「身体障害者障害程度等級表」による。
- 2級
- 両耳の聴力レベルがそれぞれ100dB以上のもの(両耳全ろう)
- 3級
- 両耳の聴力レベルが90dB以上のもの(耳介に接しなければ大声語を理解し得ないもの)
- 4級
- 両耳の聴力レベルが80dB以上のもの(耳介に接しなければ話声語を理解し得ないもの)
- 両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50%以下のもの
- 6級
- 両耳の聴力レベルが70dB以上のもの(40cm以上の距離で発声された会話語を理解し得ないもの)
- 一側耳の聴力レベルが90dB以上、他耳の聴力レベルが50dB以上のもの
同一の等級について2つの重複する障害がある場合は、1級上の級とする。ただし、2つの重複する障害が特に本表中に指定されているものは、該当等級とする。異なる等級について2つ以上の重複する障害がある場合については障害の程度を勘案して、当該等級より上の級とすることができる。5級および7級の欄には記載がない。
筆談
聴覚障害者の人は筆記用具を持ち歩いていることが多く、手話等を解さない人とは正確を期すため筆談をすることが多い。また、「私の代わりに電話をかけていただけますか」と書かれたカードを持ち歩く人もいる。
有名な言葉
- Blindness cuts you off from things; deafness cuts you off from people.(目が見えないことは人と物を切り離す。耳が聞こえないことは人と人を切り離す)イマヌエル・カント(ドイツの哲学者)の言葉(1910年にヘレン・ケラーが英語に訳したものが、彼女の言葉として広まってしまっている。)。
- Deaf people can do anything except hear.(ろう者は聞くこと以外は何でもできる。)キング・ジョーダン
学校教育
2006年度までは、聾学校が聴覚障害を対象とした特殊教育諸学校として機能していたが、2007年度の特別支援学校制度の開始に伴い、「聴覚障害を教育領域とする特別支援学校」が、聴覚障害者に対する教育機関となった。かつては、聾学校教諭(専修・1種・2種)の免許状の取得が必要であった(実質的には骨抜き規定で、一般の小・中・高の免許状を取得していれば教えることが可能であった)が、特別支援学校教諭免許状の制度が開始されたことにより、同免許の「聴覚障害者に関する教育領域」とする免許に変更され、旧聾学校の免許保有者は、「聴覚障害を教育領域とする特別支援学校教諭免許状」を保有している、と読み替えられる(骨抜き規定である点は、現在も変わっていないが、正式採用後に授与されることは推奨される)。
なお、聴覚障害者に対する教育は聾教育とも呼ばれるが、学校教育法上は「聴覚障害教育」とされ、概念的には、「(心身に障害のある幼児、児童又は生徒の)教育課程及び指導法」を包括したものとなる(この場合の「心身」とは「聴覚」のことを指す)。
聴覚障害教育と教職課程
「聴覚障害を教育領域」とする免許を取得する教職課程を設置した大学は、旧養護学校免許状に相当する「知的障害者に関する教育領域」・「肢体不自由者に関する教育領域」・「病弱者(身体虚弱者を含む。)に関する教育領域」とする3教育領域とする課程設置校に比べると絶対数が少なく(ただし、視覚障害を教育領域とした免許状を取得可能な教職課程を設置している大学に比べると、その数は比較的多い)、大学通信教育でも、「聴覚障害者に関する教育領域」を定めた免許状の課程を設けているのは、全国で1校しか所在しない(当該学校では、旧養護学校相当の3領域も当然ながら取得可能で、(旧)養護学校相当3領域か、聴覚障害を加えた4領域のいずれかの取得を基本とするカリキュラムが組成されている。ちなみに、「視覚障害者に関する教育領域」を定めた課程を設置した通信制大学は皆無である)。
各国の聴覚障害者
- ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン - ドイツの作曲家。交響曲第5番ハ短調作品67の冒頭部分が、聴覚を失うことを暗示しているとされる。
- コンスタンチン・ツィオルコフスキー - ソビエト連邦の科学者、ロケット研究者、数学教師。
- ベドルジハ・スメタナ - チェコの作曲家。
- ガブリエル・フォーレ - フランスの作曲家。
- ルイス・キャロル - 数学者、写真家。
- ヘレン・ケラー - 盲ろう者
- マーリー・マトリン - 女優
- Dame Evelyn Glennie - パーカッション奏者・作曲家
- ダミー・ホイ - 野球選手
- 忍足亜希子 - 女優
- 津田絵理奈 - 女優
- 大橋ひろえ - 女優、サインボーカル、ダンサー
- 岡田絵里香 - 女優
- 泉宜秀 - 手話講師・脚本家・俳優
- フジコ・ヘミング - ピアニスト
- 石井裕也 - 野球選手
- 的山哲也 - 元野球選手
- 山本和範 - 元野球選手
- 奥保鞏 - 軍人
- 篠原勝之 – 芸術家、タレント
- 矢神知樹 - 女子プロレスラー
- 福島智 – 東京大学教授、盲ろう者
- やなせたかし – 漫画家 アンパンマンなどで知られている。
- 小笠原恵子 - 女子プロボクサー
- コロッケ - ものまねタレント
- 浜崎あゆみ - 歌手
- 山本譲二 - 歌手
関連項目
- ろう者 - 難聴者 - 中途失聴者 - 聴者 - 盲ろう者 - 片耳中途失聴者 - 中途難聴者
- コーダ (聴者) - デフファミリー
- 欠格条項
- ろう文化 - デフリンピック
- 手話 - 手話通訳 - 要約筆記 - 情報保障 - 手話ニュース
- 補聴器 - 人工内耳 - 内耳再生 - 磁気誘導ループ
- 字幕 - 文字多重放送 - クローズドキャプション - リアルタイム字幕放送 - 目で聴くテレビ
- 聴導犬
- 聴覚障害者標識
- 障害者権利条約
- 身体障害者手帳集団不正取得事件
外部リンク
- 全日本ろうあ連盟
- 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
- Network Accessibility Project (NAP)
- デフユニオン (聴覚障害、ろう、聾、難聴の情報を掲載するウェブサイト)
- 日本聴覚障害者コンピュータ協会 - 日本聴覚障害者建築協会(aajd) - 全国聴覚障害教職員協議会 - 日本聴覚障害者デザイン協会
- 日本聴覚障害者エンターテイメントサポート - 日本聴覚障害者心理協会
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特別支援教育 |
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学校教育
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| 学校・教育施設 |
特別支援学校 - 支援教育を行う普通学校 - 通信教育
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| 学級 |
特別支援学級 - 重複障害学級 - 院内学級 - 通級(ことばの教室など) - 訪問教育・訪問指導・訪問学級 - 複式学級 - 健康学園
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| 制度 |
就学猶予と就学免除 - 就学時健康診断 - 生活単元学習 -自立活動 - 準高生
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| 学習指導要領・教育要領 |
特別支援学校幼稚部教育要領 - 特別支援学校小学部・中学部学習指導要領 - 特別支援学校高等部学習指導要領(盲学校、聾学校及び養護学校高等部学習指導要領)
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| 教員・教育支援者 |
特別支援学校教員 - 特別支援教育コーディネーター - 特別支援教育士 - 特別支援教育支援員
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心身に障害のある幼児、児童又は生徒の
教育課程及び指導法 |
視覚障害教育 - 聴覚障害教育 - 知的障害教育 - 肢体不自由教育 - 病弱教育
(重複・LD等領域)重複障害教育 - 発達障害教育 - 自閉症教育 - コミュニケーション障害教育
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福祉
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| 児童福祉施設 |
知的障害児施設 - 知的障害児通園施設 - 盲ろうあ児施設 - 肢体不自由児施設 - 重症心身障害児施設 - 情緒障害児短期治療施設 - 保育所(障害児保育・統合保育) - 医療型障害児入所施設 - 医療型児童発達支援センター - 児童発達支援センター
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| 日本の法律・国際条約 |
障害者基本法 - 身体障害者福祉法 - 知的障害者福祉法 - 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 - 児童福祉法 - 発達障害者支援法 - 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 - 障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律 - 障害年金 - 障害者権利条約
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| 障害者手帳 |
身体障害者手帳 - 療育手帳 - 精神障害者保健福祉手帳
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| 障害者団体 |
全国特別支援学校長会 - 全日本手をつなぐ育成会 - ピープル・ファースト・ジャパン - 全国精神障害者家族会連合会 - 全国精神保健福祉会連合会 - べてるの家 - きょうされん - HERO (プロレス)
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| テレビ番組 |
NHK教育テレビジョン - きらっといきる - 福祉ネットワーク - ハートネットTV - バリバラ〜障害者情報バラエティー〜 - ふれあい広場・サンデー九 - 24時間テレビ 「愛は地球を救う」
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| 障害の分類 |
身体障害 - 知的障害 - 精神障害 - 運動障害・肢体不自由 - 聴覚障害 - 視覚障害 - 発達障害 - (軽度)発達障害(学習障害(ディスレクシア) - 注意欠陥・多動性障害 - 自閉症スペクトラム(高機能PDD)) - 言語障害 - 健康障害 - 広汎性発達障害 - 情緒障害 - 染色体異常 - 自閉症 - 精神疾患 - 脳性麻痺 - 重複障害 - 病弱 - 身体虚弱 - 重症心身障害
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障害がある人の分類
心身に障害のある幼児、児童又は生徒の
心理、生理及び病理を含む |
視覚障害者 - 聴覚障害者 - 知的障害者 - 肢体不自由者 - 病弱者(病弱児・身体虚弱者)
発達障害者 - 精神障害者
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その他
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| 心理検査 |
知能検査 - 発達検査 - 性格検査 - 内田クレペリン精神検査
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| 障害者に対する虐待事件 |
宇都宮病院事件 - 水戸事件
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| その他 |
統合教育 - インクルージョン教育 - ノーマライゼーション・ノーマライゼイション - 学習性無気力
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