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過酸化水素 | |
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IUPAC名
Hydrogen Peroxide |
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別称
Hydroperoxide
Hydrogen dioxide |
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識別情報 | |
CAS登録番号 | 7722-84-1 |
KEGG | D00008 |
特性 | |
化学式 | H2O2 |
モル質量 | 34.0 |
外観 | 無色液体 |
密度 | 1.4, 液体(90%) |
融点 |
-11 (90%) |
沸点 |
141 (90%) |
出典 | |
ICSC | |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
過酸化水素(かさんかすいそ、Hydrogen peroxide)は、化学式 H2O2 で表される化合物。しばしば過水(かすい)と略称される。主に水溶液で扱われる。対象により強力な酸化剤にも還元剤にもなり、殺菌剤、漂白剤として利用される。発見者はフランスのルイ・テナール。
35%水溶液は、常温では無色の、水よりわずかに粘度の高い弱酸性の液体[1]。エタノール、エーテル、水に可溶。僅かにオゾンに似た臭いがする[2]。
過酸化水素は不安定で酸素を放出しやすく、非常に強力な酸化力を持つヒドロキシラジカルを生成しやすい。過酸化水素は活性酸素の一種ではあるが、フリーラジカルではない。
強い腐食性を持ち、高濃度のものが皮膚に付着すると痛みをともなう白斑が生じる。また、可燃物と混合すると過酸化物を生成、発火させることがある。水に溶けると、分解されるまでは水生生物に対して若干の毒性を持つ。[1]
実験室では、酸素を得る際に使われる。この反応式は以下の通りである。
反応速度を大きくするため触媒として二酸化マンガンや酵素の一種カタラーゼを使用する。傷口の消毒時に生じる泡は体内にあるカタラーゼが触媒として働いて生じる酸素である。
なお、過酸化水素は消防法第2条第7項および別表第一第6類2号により危険物第6類(酸化性液体)に指定されている。
また、重量%で6%を超える濃度の水溶液は毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている。
過酸化水素全体の使用量では、製紙の際のパルプ漂白や廃水処理、半導体の洗浄など、工業的な利用が大部分を占める。例えば塩素系の漂白剤が多量の廃棄物を生じるのに対し、過酸化水素は最終的には無害な水と酸素に分解するため、工業利用するには環境にやさしい物質であると言われ、近年工業的な過酸化水素の利用は拡大してきている。
試薬用としては、濃度30w/v%の過酸化水素水が市販されている。主に酸化剤として用いられる。過酸化水素を酸化剤に用いた環境負荷の低い新規酸化反応法などが精力的に研究されている。同様の観点から合成への利用も数多く検討されているが、コストの高さのため実用化されたプロセスはシクロヘキサノンオキシム合成[3]など限られており、利用用途におけるシェアはまだ低い。
閉鎖系エンジン(非大気依存推進)の酸素源としても利用が検討された。1930年頃からドイツのヘルムート・ヴァルターによって、高濃度過酸化水素の分解により酸素を発生させ内燃機関を作動させるアイディアが研究されヴァルター機関が開発された。各国で開発が進められ、第二次世界大戦中にはドイツでUボートXVIIB型が建造され、大戦後、戦勝国がその成果を持ち帰り、イギリスではエクスプローラー級潜水艦、ソビエト連邦ではS-99が建造され、試験されたが、いずれも成果は芳しくなく、事故を起こした事や、アメリカ海軍において、艦船に搭載可能な原子力機関の開発と成功が先んじたこともあって、ヴァルター機関はそれ以上省みられることなく、潜水艦の水中動力源としては実用化には至らなかった。日本でも第二次世界大戦中にドイツから技術提供を受けてヴァルター機関が研究されたが、実用化される前に終戦を迎えた。また魚雷の動力源としても使用されており、海上自衛隊の72式魚雷やイギリスの21インチ マーク12魚雷やソビエトの65型魚雷で使用された。マーク12魚雷はHMS Sidon、65型魚雷はクルスクでそれぞれ推進剤の高濃度過酸化水素に起因すると見られる事故を起こして搭載艦が沈没している。
その他にもロケット飛行機であるメッサーシュミット Me163のエンジンであるHWK 109-509や秋水の特呂二号原動機、Hs 293誘導弾、ロケットベルトの推進剤として使用され、磁気浮上式鉄道のKOMET(Komponentenmeßtrager)で1975年に401.3km/hの速度記録を樹立するときにも使用された。他にV2ロケットでターボポンプの駆動ガスの発生にも使用され、イギリスのアームストロング・シドレー・ステンター、アームストロング・シドレー・ベータ、ブリストル・シドレー・ガンマ、ブリストル・シドレー・605、デ・ハビランド スペクター等のロケットエンジンでも酸化剤として使用された。
軍用機以外では、水上速度記録更新を狙ったロケット推進型パワーボート「ディスカバリーII」[4]、2014年11月9日に時速333kmを記録したフランソワ・ギッシー(Francois Gissy)操縦のロケット推進自転車「Kamikaze V」[5]の推進剤としても用いられている。
衣料用漂白剤として過酸化水素は利用される。液体の衣料用漂白剤は希薄過酸化水素の溶液である。一方、過酸化水素と炭酸ナトリウムの錯体である過炭酸ナトリウムは、粉末で安定のため粉末の酸素系漂白剤として利用される。過炭酸ナトリウムは水に溶解すると炭酸ナトリウム (洗剤としても知られている)と過酸化水素とに解離する。
また、髪の脱色に使用されることもあり、過酸化水素によって脱色した「偽の」ブロンドは、英語で peroxide blonde または bottle blonde と呼ばれる。
食品分野ではうどん、かまぼこ等の漂白目的の食品添加物として認可されているが、日本では1948(昭和23)年に食品添加物として初めて指定され、1969(昭和44)年に「うどん、かまぼこ、ちくわにあっては0.1g/kg以上、その他の食品にあっては0.03g/kg以上残存してはならない」とする使用基準が設けられた。
その後、弱い動物発がん性が認められたとの報告があったことを踏まえて当該物質が分解しやすいという特性から、1980(昭和55)年2月に使用基準が「最終食品の完成前に過酸化水素を分解し、または除去しなければならない。」と改められたため代替手段への切り替えが進められてきた。
現在[いつ?]でもカズノコの殺菌・漂白に使用されていながら表示がないのは、カタラーゼで分解処理を施し残存させないため加工助剤となり食品添加物には該当しないためである。[6][7]
落花生、ほたて貝、しらす干しなど製造工程に関係なく、細胞内酸化反応および脂質の酸化等により天然由来の過酸化水素が数µg/g検出される食品が存在するため、殺菌・漂白の工程を示すものとは限らない。[8]
2.5~3.5 w/v%の過酸化水素は医療用の外用消毒剤として利用され、オキシドール (oxydol) という日本薬局方名、またはオキシフル (oxyfull) という商品名でも呼ばれる。
飲料生産の充填工程で、飲料を充填する前に低濃度の過酸化水素水を紙パック内に噴霧して内部を殺菌する飲料充填機も存在する。この際、パック内に噴霧された過酸化水素水はパック内に送風を行うことで分解・乾燥し無害化する。ただし、噴霧量が多すぎるなどして飲料に過酸化水素水が混入するというトラブルも起こるリスクがある。
多くの生物種は過酸化水素分解酵素のカタラーゼを持つため、生体内での過酸化水素の寿命は極めて短い。つまり、(傷の内面を含む)体内に過酸化水素が侵入すると速やかに酸素に分解される (オキシフルを塗布した傷口で酸素の細かい白い泡の発生が観察される)。これを微生物分析への応用した用途がある。一般的に通性嫌気性細菌はカタラーゼを持つが、偏性嫌気性細菌は持たないため、細菌の種類を判別できる。また、カタラーゼは熱により変性することから、食品に混入した生物系の異物 (毛髪や昆虫など)が加熱殺菌工程の前後どちらで混入したかを判別する苦情対応にも用いられる (殺菌前に混入した物であると泡が生じない)[9]。
過酸化水素 (100%相当)の2008年度日本国内生産量は 214,210 t、工業消費量は 16,588 t である[10]。今日では、一般的にアントラセン誘導体の自動酸化を利用して生産が行われている[11]。2-エチルアントラヒドロキノンもしくは2-アミルアントラヒドロキノンを溶媒に溶解し、空気中の酸素と混合するとアントラヒドロキノンが酸化されてアントラキノンと過酸化水素が生じる。ここからイオン交換水を用いて抽出し、アントラキノンと過酸化水素を分離する。分離後、わずかに混入している有機溶媒を除去し、さらに減圧蒸留することにより高濃度(30~60%)のものを得る。副生成物であるアントラキノンをニッケルまたはパラジウム触媒を用いて水素還元することでアントラヒドロキノンへと戻し再利用する。アントラヒドロキノンの酸化の際に側鎖が酸化されたり、還元の際に芳香環が還元されてしまうことがあり、適当な再生処理が必要である。本法ではアントラキノンをいかに効率よく循環・再生使用できるかが重要となる。
硫酸または硫酸水素アンモニウムの水溶液を電気分解して生じるペルオキソ二硫酸(H2(SO4)2)2−を加水分解することによる生産法も行われていたが、電力消費などの理由から現在ではあまり行われていない。
2005年現在、工業的な利用量が増え続けており、アントラキノン法に代わる安価な製造法、精製法の研究開発が各所で進められている。実験室レベルの研究については、合成研究の項で述べる。
工業的にはアントラキノン法がよく用いられる。 しかし、アントラキノン法は、多段プロセスであること、有機溶媒を必要とすること、副反応を起こしたアントラキノンの再生が必要であること、など多数の問題があり、過酸化水素が高価になる原因となっている。そのため、新しい過酸化水素合成法の開発が切望されている。
他の合成法にPd触媒を用いた合成法と燃料電池反応法がある。
Pd(-Au)/CまたはPd(-Au)/SiO2触媒を用いてハロゲン化物イオン存在下、酸性条件で酸素と水素を直接反応させる。古くは、徳山曹達(現・トクヤマ)がPd/SiO2触媒を用いて、高圧の酸素と水素を反応させると過酸化水素が高濃度で蓄積できることを特許取得している[12]。またデュポンも同様にPd触媒を用いた合成法を特許取得している[13]。最近では、石原らはPd-Auコロイド触媒を適切に調製することにより、ほぼ100%の選択性で過酸化水素が生成することを報告している[14]。酸素0.5気圧、水素0.5気圧の混合ガスを用いて、2時間反応させたところ0.4%の過酸化水素水が生成したとしている。本触媒系一般の問題点として、酸素と水素を直接混合するため爆発の危険性があること、過酸化水素を高濃度で蓄積するためには加圧が必要であること (1気圧では最高で1%~2%)、生成する過酸化水素水には酸や塩が含まれることが挙げられる。
特に爆発の危険性の問題は重大であり、この危険性を回避するため、反応速度を犠牲にして水素と酸素の混合比を爆発範囲から外す方法のほかに、酸素と水素をパラジウム薄膜で隔てた合成法がChoudharyらにより提案されているが、パラジウムが水素透過能を示すのは通常遥かに高温であり、単に膜に穴が開いていることが疑われることに加え、過酸化水素生成速度が極めて遅いなどの難点がある[15]。
酸素-水素燃料電池では通常は発電を目的とし、酸素を水にまで還元させるが、適切な触媒を選択することにより酸素を過酸化水素に選択的に還元する方法が提案されている[16]。燃料電池反応法では酸素と水素は電解質に隔てられているため爆発の危険性が無いことが利点して挙げられる。まず酸水溶液中での過酸化水素の合成[17]および塩基性での過酸化水素合成[18][19]が報告された。特に塩基性では高効率で過酸化水素が生成したと報告されているが、これらの反応系ではパラジウム系と同様に生成する過酸化水素水に電解質が含まれるという難点を持つ。しかし、最近ナフィオン膜を用いた電解質を含まない過酸化水素水の直接合成法が提案された[20]。1気圧の条件であるにもかかわらず、コバルト触媒の回転数 (ターンオーバー数)は8時間で400000に達し、生成する過酸化水素濃度は14%と非常に高い。本反応系の問題点として、効率が約40%(残りは水)と十分ではないことが挙げられる。
光触媒を使用した光電気化学法による過酸化水素の合成法が研究されている[21][22]。
1980年3月18日にソビエト連邦のプレセツク宇宙基地で、ターボポンプ駆動用の過酸化水素を充填中のボストーク2Mロケットが爆発事故を起こし、48人が死亡した。原因はステンレスのフィルターのはんだ付けに純粋な錫を使用せずに鉛の含有する電子部品用のはんだを使用した事だった。鉛自体には過酸化水素を分解する触媒としての働きは無いものの、鉛の酸化物は強力な触媒として作用する[23]。
1999年10月29日、首都高速2号目黒線を走行中のタンクローリーが爆発。積み荷の過酸化水素水溶液が飛散した。飛散した過酸化水素水溶液により、一般道路の歩行者が目の痛みと皮膚のただれを訴えてるなどした[24]。このタンクローリーは普段は塩化銅を含む廃液の運搬に使用されており、残留していた金属成分により過酸化水素の分解が進み爆発した[25]。このように過酸化水素は遷移金属により容易に分解されるので、注意が必要である。
2000年8月12日にバレンツ海でK-141クルスクに搭載されていた魚雷の推進剤である過酸化水素が不完全な溶接箇所から漏れて爆発してこれが原因で魚雷の弾頭が誘爆してクルスクは沈没した[26][27][28]。
生体ではエネルギー代謝の際、細胞内に過酸化水素が発生する。過酸化水素は、活性酸素の一種であり、脂肪酸、生体膜、DNA等を酸化損傷する能力を有し、生体に有害であり、生体防御のためその迅速な消去が必要である。
カタラーゼ(catalase)は、代謝の過程で発生する過酸化水素を不均化して酸素と水に変える反応を触媒する酵素である。毎秒当たりの代謝回転数は全酵素のなかでも最も高く、4000万に達する[29]。ヒトの場合、カタラーゼは4つのサブユニットで構成されており、各サブユニットは526のアミノ酸から成る[30]。分子量は約24万。ヘムとマンガンを補因子として用いる。
グルタチオン-アスコルビン酸回路は、過酸化水素を解毒化する代謝経路である。グルタチオン-アスコルビン酸回路には、アスコルビン酸、グルタチオン、NADPHおよび代謝に関連する酵素等の抗酸化物質が含まれている[31]。
この経路の最初のステップでは、過酸化水素は、アスコルビン酸を電子供与体として利用してアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)によって水に還元される。酸化されたアスコルビン酸(モノデヒドロアスコルビン酸(MDA))は、モノデヒドロアスコルビン酸レダクターゼ (NADH)(MDAR)によってアスコルビン酸(ASC)に再生される[32]。しかし、モノデヒドロアスコルビン酸は反応性が高く、迅速に還元されない場合にはアスコルビン酸とデヒドロアスコルビン酸(DHA)に不均化する。デヒドロアスコルビン酸は、還元型グルタチオン(GSH)を消費してデヒドロアスコルビン酸レダクターゼによってアスコルビン酸に還元され、酸化型グルタチオン(GSSG)(グルタチオンジスルフィド)を生成する。最後に、酸化型グルタチオンは、NADPHを電子供与体として利用してグルタチオンレダクターゼ(GR)によって還元される。こうしてアスコルビン酸とグルタチオンが消費されることはない。電子は実質的にNADPHからH2O2に流れることとなる。デヒドロアスコルビン酸の還元は、非酵素的または例えばグルタチオンS -トランスフェラーゼオメガ1やグルタレドキシンなどのようにデヒドロアスコルビン酸還元酵素(DHAR)活性を有したタンパク質によって触媒される[33][34]。
植物では、グルタチオン-アスコルビン酸回路は、細胞質、ミトコンドリア、色素体およびペルオキシソームで機能する[35][36]。グルタチオン、アスコルビン酸およびNADPHは、植物細胞に高濃度で存在しているので、グルタチオン-アスコルビン酸回路が過酸化水素の解毒に重要な役割を担っていることが想定される。それにもかかわらず、チオレドキシンまたはグルタレドキシンを還元基質として利用したペルオキシレドキシンやグルタチオンペルオキシダーゼを含む他の酵素(ペルオキシダーゼ)もまた、植物での過酸化水素の解毒に貢献している[37]。
ミトコンドリアの電子伝達系では、スーパーオキシドアニオン(O2-)などの活性酸素種が常に発生している。活性酸素は生体分子を破壊し有害であるため、防御機構が存在する。スーパーオキシドアニオンは、まずスーパーオキシドディスムターゼ(SOD) によって過酸化水素に変換され、ペルオキシダーゼによって無害な水に分解される[38][要高次出典]。
グルタチオンペルオキシダーゼはセレノシステインを含む酵素である。グルタチオンを電子供与体として用い、過酸化水素だけでなく有機過酸化物にも作用し、酸化ストレスから生体を守っている[39][40][要高次出典]。
白血球(好中球)は、体内に細菌が侵入してくると捕獲(貪食)し、白血球はNAD(P)Hオキシダーゼを使ってNADH(NADPH)とH+と酸素を反応させて、過酸化水素を生成し、貪食されてもまだ増殖しようとする細菌を殺菌し感染から守る生体防御メカニズムを有する[41][要高次出典]。
ミイデラゴミムシは体内に過酸化水素とヒドロキノンを貯めておき、これらを反応させて敵に対し蒸気とベンゾキノンから成る100°C以上の気体を爆発的に噴射する。
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オキシフル液3%
口内炎の洗口には10倍希釈して洗口する
頻度不明
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