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花粉症(かふんしょう、hay fever、pollen allergy、pollen disease、医 pollinosis または pollenosis)とはI型アレルギー(いちがたアレルギー)に分類される疾患の一つ。植物の花粉が、鼻や目などの粘膜に接触することによって引き起こされ、発作性反復性のくしゃみ、鼻水、鼻詰まり、目のかゆみなどの一連の症状が特徴的な症候群のことである。枯草熱(こそうねつ)とも言われる[1]。日本においては北海道の大半を除いてスギ花粉が抗原となる場合が多い[2](スギ花粉による花粉症についてはスギ花粉症参照)。
公害とみなす動きもある(詳細は花粉症の原因の節を参照)。
枯草熱も医薬品等の効能に表記される医学(医療)用語であるが、この記事では花粉症で統一する。ただし、hay fever = 枯草熱、pollinosis = 花粉症というように、古語・現代語、一般名・疾病名、の観点で呼び分けることもある。なお、pollen allergy は花粉アレルギー、pollen disease は花粉病(花粉による疾患)の意である。
主な症状は、くしゃみ、鼻水、鼻詰まり、目のかゆみとされ、一般に花粉症の4大症状と呼ばれる。耳鼻科領域においては、目のかゆみを除外したものを3大症状と呼んでいる。
くしゃみ、鼻水、鼻詰まりなどはアレルギー性鼻炎(鼻アレルギー)の症状であり、花粉の飛散期に一致して症状がおこるため、季節性アレルギー性鼻炎(対:通年性アレルギー性鼻炎)に分類され、その代表的なものとなっている。目のかゆみや流涙などはアレルギー性結膜炎の症状であり、鼻炎同様に季節性アレルギー性結膜炎に分類される。広義には花粉によるアレルギー症状全てを指すこともあるが、一般的には上記のように鼻および目症状を主訴とするものを指す。また、狭義には鼻症状のみを指し、目症状は結膜花粉症(または花粉性結膜炎)、皮膚症状は花粉症皮膚炎または花粉皮膚炎、喘息の症状は花粉喘息、喉の不快感などの症状はアレルギー性咽喉頭炎などと別に呼ぶことがある。
スギ花粉飛散の前から症状を呈する患者も多くいるが、実際にごく微量の花粉に反応している場合だけでなく、季節特有の乾燥や冷気によるものもあると考えられている。患者は自己診断に頼らず、専門家の診断を受けることが望ましい。
喘息様発作については、咳が多く出たり呼吸機能の低下がみられ、重症例では呼吸困難になることもある。そうなった場合は無理をせずすみやかに救急医療機関を受診するか救急車を呼ぶべきである。従来は、花粉の粒子サイズから、それらは鼻で捕らえられるために下気道の症状である喘息などは起きないとされていたが、近年の研究でスギ花粉の周りにオービクルまたはユービッシュ体と呼ばれる鼻を通過するサイズの微粒子が多数付着していることがわかり、それらを吸引することで喘息が起こり得ることがわかってきた。二次飛散を繰り返すうちに細かく砕かれる花粉もあるとの推測もある。
花粉のアレルゲン性の高さも異なり、花粉の種類と量によっては、まれにアナフィラキシーショックを起こすこともある。重症者や、特に喘息の既往症のある患者は、激しい呼吸によって多量の花粉を吸引するおそれがあるような運動はなるべく避けるべきである(スギ花粉のアレルゲン性はそう高くはない)。
果物などを食べると口の中にかゆみやしびれなどを生じる口腔アレルギー症候群(OAS)を起こす場合もある。特に北海道に多いシラカバ花粉症でよくみられるほか、関西で多いヤシャブシ花粉症などでもみられる。リンゴ、モモ、ナシ、イチゴなど、バラ科の果実に反応することが多い。患者の多いスギ花粉症ではあまりないが、メロンなどに反応する例が知られている。トマトにも反応するという。アレルゲンがきわめて類似しているためと考えられている。外部リンク:口腔アレルギー症候群(OAS)も参照のこと。
花粉症を引き起こす植物は60種以上が報告されている。報告されていないものも含めればさらに多いであろうということは容易に想像できる。
春先に大量に飛散するスギの花粉が原因であるものが多いが、ヒノキ科、ブタクサ、マツ、イネ科、ヨモギなど他の植物の花粉によるアレルギーを持つ人も多くいる。
特にスギ花粉症患者の7 - 8割程度はヒノキ花粉にも反応する(よって、スギ・ヒノキ花粉症と呼んだほうがよいとの指摘もある)。また、「イネ科」と総称されることからもわかるとおり、その花粉症の患者は個別の植物ではなくいくつかのイネ科植物の花粉に反応することが知られている(○○科と総称されるのは光学顕微鏡による肉眼観察では区別がつかないためでもある)。これらは花粉に含まれているアレルゲンがきわめて類似なため、交差反応を起こしているからである。
スギの少ない北海道ではスギ花粉症は少なく、イネ科やシラカバ(シラカンバ)による花粉症が多いなど、地域差もある。中国地方、ことに六甲山周辺において、大量に植樹されたオオバヤシャブシによる花粉症が地域の社会問題になったこともある。北陸の稲作が盛んな地域では、他地域よりもハンノキ花粉症が多い(シラカバ、ハンノキ、ヤシャブシ、オバヤシャブシなどは口腔アレルギー症候群をおこしやすい)。
アメリカではブタクサ、ヨーロッパではイネ科の花粉症が多い。北欧ではシラカバ等カバノキ科の花粉症が多い。
花粉症の原因となる植物は、風に花粉を乗せて飛ばす風媒花が一般的であるが、職業性の花粉症にみられるように、その花粉を大量かつ長期にわたって吸い込んでいれば、どんな植物の花粉でも花粉症になり得ると考えられている。職業性の花粉症は果樹の人工授粉に従事する人など栽培農家によくみられるが、華道家が発症した例もある。
なお、セイタカアワダチソウ(セイタカアキノキリンソウ)の俗名がブタクサということもあり、ごく一部で混乱が生じている。実際、過去に花粉症の原因植物と言われたこともあったが、セイタカアワダチソウは虫媒花のため、原則的には花粉は飛ばさない。ただし、大群落を作ることが多く、こぼれた花粉が周辺に飛散してしまうことはある。同じキク科のブタクサやヨモギ等の花粉に対しても交差的に感作が成立することもある。
日本人の主食となっている米をとるイネは、花粉症の原因になることは少ない。開花期が早朝でごく短く、水田で栽培されるためである。
これらの原因花粉をつきとめるためにはアレルゲンの検査が必要であるが、身近にその植物があれば患者自身でもわかりやすい。花粉の観測を行っている施設は多いが、そのかなりはスギ・ヒノキの飛散期間のみであり、通年で行っていたとしても、ほとんどはビルの屋上などに装置を設置しているため、草花花粉についての正しい飛散情報は得ることがむずかしい。また、飛散範囲が局地的であることも、草花花粉の飛散情報を得るのが難しい原因となっている。
花粉量は多い年と少ない年が交互になる傾向があり、花粉量が多い年を「表年」、少ない年を「裏年」という[3]。
花粉症は、患者が空中に飛散している植物の花粉と接触した結果、後天的に免疫を獲得し、その後再び花粉に接触することで過剰な免疫反応、すなわちアレルギー反応を起こすものである。アレルギーの中でも、IgE(免疫グロブリンE)と肥満細胞(マスト細胞)によるメカニズムが大きく関与する、即時型のI型アレルギーの代表的なものである。
同じI型アレルギーが主であるアトピー性皮膚炎では、IV型のアレルギー反応も部分的に関与するといわれる(症例によってはIII型も関与するといわれるが確証はない)。花粉症でも、皮膚症状が出る場合は、IV型(すなわち接触性皮膚炎。いわゆるかぶれである)が関与している場合もあるだろうと考えられている。
ここでは、即時型のI型アレルギーのみを紹介している。また、一つの仮説としてTh細胞バランスを紹介する。
花粉症の患者は、症状が現れる以前にそのアレルギーの元(アレルゲン)になる花粉に接触している。目や鼻などの粘膜に花粉が付着すると、花粉内およびオービクルからアレルゲンとなるタンパク質が溶け出し、マクロファージ(貪食細胞)に取り込まれ、非自己(異物)であると認識される。この情報は胸腺由来のリンパ球であるヘルパーT細胞のうちのTh2を介し、骨髄由来のリンパ球であるB細胞に伝えられる。そして、B細胞はその花粉アレルゲンと特異的に反応する抗体を作り出す。
抗体は本来、体内に侵入した病原細菌や毒素などの異物を排除・無害化するためのものであり、ヒトにはIgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5つのタイプが存在するが、花粉症の患者で最も重要なのがIgEである。(こうした抗体が関与する免疫反応を液性免疫という。)このIgEは、血液や粘膜中に存在する肥満細胞や好塩基球に結合し、再び花粉アレルゲンが侵入してIgEに結合すると、様々な化学伝達物質(ケミカルメディエーター)が遊離して症状を引き起こすことになる。(後述)
なお、IgEが一定レベルまで肥満細胞に結合した時を感作が成立したと言い、発症の準備が整ったことになる。どの程度までIgEが蓄積されると発症するかなどは個人差が大きいと考えられている。また、IgEのレベル以外に発症を誘引する因子があるのかないのかなどについても詳しいことは分かっていない。いずれにしろ、ある年に突然に花粉症が発症したように思えても、それまで体内では発症のための準備が着々と進んでいたということである。このことを理解しやすくするため、一般にアレルギーコップという喩えがよく用いられる。すなわち、体内のコップに長期間かけて一定レベルの発症原因がたまり、それがあふれると突然に発症するというものである。
感作が一旦、成立すると、原則的に花粉症の自然治癒は困難である。病原菌などに対する免疫と同様、「花粉は異物である」との情報が記憶されるためである。
遊離したケミカルメデイエーターのうちもっとも重要なのは、ヒスタミンとロイコトリエンである。
その他、PAF(血小板活性化因子)、トロンボキサンA2、プロスタグランジンD2などのケミカルメディエーター、各種のインターロイキンなどのサイトカインも症状に少なからず関係するといわれるが、花粉症(鼻アレルギー)の実際の症状においては、どれほどの影響があるのかなどくわしいことは明らかになっていない。
こうした症状そのものは、体内に入ってきた異物を体外に出すための反応であり、また引き続いて体内に入ってこないようにする正常な防衛反応であると解釈できる。しかし、害のない異物と考えられる花粉アレルゲンに対して過剰に反応し、それによって患者が苦痛を感じる点が問題となる。
症状を起こした粘膜では、血管から浸潤した炎症細胞(特に好酸球)からのロイコトリエン等によってさらなる鼻粘膜の膨張が起こる。その他のケミカルメディエーターや酵素などにより組織障害も起きる。抗原曝露後6 - 10時間にみられる遅発相反応がこれで、アレルギー性炎症と呼ばれる。こうした炎症細胞を呼び寄せるのも肥満細胞などから放出されるケミカルメディエーター(上記のPAFなど)である。
症状が繰り返し起こることによって、粘膜過敏性は増加し、症状は慢性化する。不可逆的な粘膜の肥厚なども起こり得る。重症例では、花粉の飛散が減少または終了しても、病変はすぐには改善されない。
一つの仮説として、免疫系を制御しているヘルパーT細胞のバランスが関与するという考えがある。抗体産生細胞であるB細胞に抗原の情報を伝達するヘルパーT細胞は、産生するサイトカインの種類により1型と2型(Th1とTh2)に大別される。これらのうち、インターロイキン4などを分泌してアレルギーに関わるIgEを産生するように誘導するのはTh2である。いっぽうのTh1は主に感染症における免疫反応に関わる。すなわちマクロファージやキラーT細胞などを活性化させ、細菌そのものやウイルスに感染した細胞を障害する(細胞性免疫という)。B細胞にIgGを産生させ、いわゆる正常の免疫を作ることにも関与する。
これらのことから、アレルギー患者においてはTh2が優位に働いているということがいえるが、なぜTh2が優位になるのかについてはよく判っていない。幼少時における感染症が減ったためにアレルギーを起こしやすい体質になっているのではないかという説については、この仕組みが関与していると考えられている。成長期において細胞性免疫を獲得する機会が減っているため、おのずとTh1よりTh2が優位になる人が多く、アレルギー人口が増えたというものである。強く影響を与える感染症としては、過去に国民病ともいわれた結核が疑われている。鼻症状に限定すれば、やはり過去には多かった副鼻腔炎の減少の関与を考える場合もある。
これらヘルパーT細胞のバランスは出生後数か月のうちに決まるとも、3歳程度までのうちに決まるともいわれるが、のちに人為的に変化させることもできるという説もある。なお、ヒトは胎内にいるときや出生直後はもともとTh2優位の状態であり、また、Th1とTh2は相互に抑制しあう関係にあるという。
衛生仮説ともいわれるこの説は現在もっとも有力な説となっている。しかし、近年の研究によれば、単にTh1/Th2バランスによってのみ説明できることばかりではないこともあり、調節性T細胞の関与を考える説も出されている。衛生仮説を説明したこのTh1/Th2パラダイムは1980年代後半に提唱されたものだが、広く免疫を考えるときに重要なものであることは現在でも変わりがない。
衛生仮説の応用として、結核のワクチンであるBCG接種によって花粉症の治療をしようという試みや、結核菌と同じグラム陽性菌である乳酸菌の一種を摂取することが治療に役立たないかどうかの研究も行われている。菌のDNAの一部であるCpGモチーフを抗原ペプチドとともに投与して減感作療法の効率をあげる試みもなされている。
関連として、環境中の細菌等が産生する微量の毒素が関係すると提唱する研究者もいるほか、最近では、医療における抗生物質の多用(によるヒトと共生している菌のバランスの崩れ)が関わっているのではないかという見方も出てきている。ピロリ菌感染との逆相関が認められることも報告された。
花粉症の患者では、原因植物の花粉に対するIgE量が多いことは明らかであり、これがアレルギーを起こす直接の原因である。しかし、花粉症の原因となる花粉と接触しても全ての人が花粉症になるわけではなく、IgEが多くても発症しない人がいる。またIgEの量と重症度とは必ずしも相関しない。なぜこうしたことがあるかについては、遺伝要因(遺伝的素因)や環境要因などさまざまな要因の関与が考えられている(すなわち花粉症は多因子疾患である)が、全貌は明らかになっていない。
遺伝要因については、広く体質(いわゆるアレルギー体質)と呼ばれるものが相当する。しかし広義の体質は、遺伝による体質と、出生後に後天的に獲得した体質とが混同されているため、これらは分離して考える必要がある。アレルギーになりやすい遺伝的素因、すなわちIgEを産生しやすい体質は劣性遺伝すると考えられており、それを規定する候補遺伝子は染色体11qや5qなどに存在するといわれる[要出典]が確証はない。こうした遺伝的要因については、IgE産生に関わるもののほか、各種のケミカルメディエーター遊離のしやすさや受容体の発現のしやすさの違いなども考えられている[要出典]。どんな物質に対してアレルギーを起こすかということも、遺伝的に規定されているとの説もある[要出典]。
大気汚染や生活環境の変化、衛生環境の変化による人体の免疫作用の変化との関連が指摘されており、下記のような調査が進められている。
元々日本の森林は広葉樹を主体とした多種多様な樹木が分布しており森林の90%近くが広葉樹であった。しかし高度経済成長による建築用木材の需要増大で生育が早く加工が容易でまっすぐに成長する杉や檜などの針葉樹の植樹が各地で行われた。その結果森林全体では針葉樹が50%を占めるようになった。人工林では99%が針葉樹となっている。高度経済成長の終息や海外から安い木材が輸入されるようになると日本の針葉樹林は放置され大量の花粉を排出するようになった。杉や檜は樹齢30年を過ぎると子孫を残す段階に移行するため、特に多くの花粉を排出するようになる。近年の花粉症患者の増大はそのためと考えられる。
また、針葉樹は動物の食糧となる木の実が成らず、針葉樹林は緑の砂漠と言われる。針葉樹林の増加は人間だけではなく森にすむ動物にとっても深刻な問題である。[4][5]
ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子 (DEP) や、ガソリンエンジンからも排出される窒素酸化物 (NOx)、オゾン (O3) などに長期間暴露されることにより花粉アレルギー反応の閾値を下げる、アレルギー反応を増幅する等の影響が指摘されており、様々な実験・調査がされている。NHK地上TVでも、排気ガスと花粉の化合物の問題を取り上げ、幹線道路沿いの住民が花粉症派生率が高いと報道した[6] [7]。
また、そもそも東京都内などほぼ全域にわたって大気汚染物質の濃度が高いところでは疫学的研究による差が出にくい(比較的低濃度の地域であっても閾値を超えていることが考えられる)こと[8]や、動物実験について臨床との差異があることを理由に結果を否定しようとする向きがあること(前述)、PM2.5 などこれまで充分に測定されていない物質の影響が調査できていないといった問題もあることから、環境省や大気汚染が進む自治体などでは、より広範な情報収集・調査を行うための観測地域や対象物質の拡大といった、観測体制の整備[9]が進められている。
大気汚染物質としては、前述の自動車排ガスのほか、自動車タイヤと道路の摩擦から発生する道路粉塵、煙草の煙や換気の悪い室内での暖房時に出るガス状物質、黄砂や土ぼこりなども、症状を悪化させるという報告がある。
都市化との関連については、別項にて述べているように、それによりいつまでも空中を漂い続ける花粉数が増えているという説もある。
そのほか、従来からの日本式家屋とは異なる高気密の住宅が普及したことも、花粉症が増えた原因のひとつではないかという考えがある。高気密ではあるが高断熱ではない住宅では局所的に湿度が蓄積されやすく、不十分な換気などによってダニ・カビが繁殖しやすい環境になる。これによって幼少児期のうちからハウスダストに対するアレルギー性鼻炎や小児喘息などを発症し、中にはそれが原因で花粉症にもなりやすくなっている人もいるとの考え方である。すなわち、なんらかのアレルギーになると、それがきっかけで違うアレルギーにもなりやすくなるというものである(逆に、そうした時期にアレルゲンを絶つとアレルギーになりにくいとの研究もある。たとえば妊娠期および授乳期に卵を厳格に除去すると、卵に対するIgEが低値であるだけでなく、ダニに対するIgEも低値であったという研究もある。しかしさまざまなデータがあるため、現在では、それらの関連は不明であるとされている)。
しかし、こうした住宅事情の変化はハウスダストアレルギー増加をうまく説明しても、前述のようにどのようなアレルゲンに反応するかは遺伝的に規定されているという説によれば、これが花粉症増加の原因であるとはいいがたい。ただし花粉症患者のかなりは、その発症以前にハウスダストアレルギーを発症しているという事実もあり、花粉症の素因を持った人の発症時期を早める影響は否定できない(そうであれば、高気密住宅の多い都市部に花粉症患者が多くなることも、ある程度は説明ができる)。
都市生活ならではのストレスや食生活の変化(洋風化)などについては、明らかなことはわかっていないが、個人により影響を強く受ける人もいるかもしれないとは考えられている。特に食品中のさまざまな栄養成分とアレルギーとの関連は、実験的なデータや理論(仮説)はあるものの、疫学的に実証されているとはいいがたい。建材などから発生する有毒化学物質や食品中の添加物の影響を考えるむきもあるが、花粉症との関連は調査されていない。授乳時の人工栄養や早期離乳などについてはいくつかのデータがあるが結論はなされていない。
ω-6脂肪酸は、不飽和脂肪酸の分類の一つで、一般に炭素-炭素二重結合がω-6位(脂肪酸のメチル末端から6番目の結合の意味)にあるものを指す。ω-6脂肪酸はω-3脂肪酸とともに必須脂肪酸である。
ω-6脂肪酸の生物学的役割の大部分は、体内の組織で見られる様々な受容体へ結合するn-6エイコサノイドへの変換の仲介である。ω-6脂肪酸からの多数の生理活性物質の生成反応はアラキドン酸から滝のように流れ落ちる如く生成されることからアラキドン酸カスケードと呼ばれる。代表的なω-6脂肪酸であるリノール酸から出発して体内でリノレオイルCoAデサチュラーゼによりγ-リノレン酸が生成され、さらにアラキドン酸へ変換される。さらに、このアラキドン酸(20:4n-6)から変換されて炎症・アレルギー反応と関連した強い生理活性物質であるω-6プロスタグランジン、n-6ロイコトリエン等のオータコイド類が生成される[11]。α-リノレン酸等のω-3脂肪酸が豊富に存在する場合、強い生理活性物質の生成は競争的相互作用により抑制される。
炎症性のあるロイコトリエンやプロスタグランジンのようなアラキドン酸カスケードの原料であるω-6脂肪酸(リノール酸)の摂り過ぎと代謝酵素が共通してるために拮抗関係にあるω-3脂肪酸(α-リノレン酸)との摂取バランスがこわれて過敏性が増加しアレルギーが惹起されやすくなっているとの報告もある[12][13]。
花粉症の検査は、
の2点が重要であり、そのための検査が行われる。
なお、花粉に限らずいくつかの代表的なアレルゲンは、日本においては定期健診のオプションメニューで受診ができる場合もあるので活用されたい。
日本で行われているアレルギーテストは血液検査のRASTのみであることが多い。しかし、RASTには陰性でも、欧米で一般的に行われている感度の高い皮膚テストが行われずに、皮膚テストで陽性の患者の原因アレルゲンの特定が不可能になることがある。RASTよりも感度の高い皮膚テストを行うことによって、患者の原因アレルゲンの特定をより正確に行うことの必要性を主張する医師もいる[14]。
実際の重症度を調べるには、患者にアレルギー日記(花粉症日記)をつけてもらうのが一番の方法である。この利点としては、自分の重症度や日による症状の変化などを把握できるため、アレルゲンが特定できていない場合、アレルゲンを推定するのに有用となることがある。
しかし、重症度とQOLの障害は別物であり、近年はこのQOLを重視する方針での治療が推進されるようになっているため、治療の経過を判断する材料にはなるが、それだけで判断することはない。
一般的には、花粉症の治療を受ける場合に適した診療科は耳鼻咽喉科であるが、アレルギー増加に伴い、大抵の医師は一定レベルの知識を有している。よって内科などでも充分な治療が受けられることがある。小児の場合は、慣れているという点で小児科の方が良いことがある。同様に妊婦および授乳婦の場合は、産婦人科の方がなにかと融通がきくことがある。
ただし、症状がひどい場合は、その部位の専門医にかかったほうがいいとはいえる。すなわち鼻や喉の症状であれば耳鼻咽喉科、目の症状であれば眼科、皮膚症状がひどい場合は皮膚科が適する。これらの診療科の標榜とともに、アレルギー科の標榜がなされていると、なおよいといえる(一般にアレルギー科単独で標榜していることは少ない)。ただし、アレルギー科を標榜している医療機関に必ずアレルギー専門医がいるとは限らない。アレルギー専門医を調べるには、日本アレルギー学会や日本アレルギー協会に問い合わせるとよい(アレルギー学会のサイトにて調べることもできる)。
なお、自治体の保健所などが相談体制を整えつつあるので、まずはそこで相談するのもよい。
治療は目的や方法によっていくつかに分けることができる。
薬剤の分類や呼び方は少々の混乱が生じている。専門家における呼称と一般に広く用いられる呼称も異なったまま慣用されている。
花粉症はアレルギーであるため、その治療に用いられるものは抗アレルギー薬といえる。それらは薬理作用により以下のように大別できる(広義ではステロイド薬をも含めて抗アレルギー薬と考えることもある)。
専門的には、1. の遊離抑制作用のみを抗アレルギー作用と呼ぶ。よって、1. の遊離抑制作用のある薬のことを抗アレルギー薬と呼ぶ。これは、初のケミカルメディエーター遊離抑制薬であるクロモグリグ酸ナトリウムのことを、ヨーロッパの一部において抗アレルギー薬( anti-allergic drug )と呼んだことに由来している。
しかし、遊離抑制作用を持つものを抗アレルギー薬と呼ぶと定義すると問題が生じることがある。抗ヒスタミン薬の中には、抗ヒスタミン作用の効果だけでなく、ケミカルメディエーター遊離抑制薬およびケミカルメディエーター遊離抑制作用を持つもの(これを第二世代抗ヒスタミン薬と言う。)があり、第二世代抗ヒスタミン薬も抗アレルギー薬に含まれるという分類になる。患者向けとして広く一般に用いられている呼称はこれが多く、第二世代抗ヒスタミン薬は抗アレルギー薬として普及してしまっている。一方、ケミカルメディエーター遊離抑制作用のない第一世代抗ヒスタミン薬は、単に抗ヒスタミン薬と呼ばれることが多い。
こうした薬剤の分類や呼び分けは、医師・研究者や治療する疾病の分野によってやや異なることがある。一般向けに出版されている書籍での説明や、インターネット上の花粉症・アレルギーの説明を行う各種サイトによっても、微妙に異なる場合がある。たとえば、第二世代抗ヒスタミン薬をさらに細分化し、第三世代とのカテゴリーを設ける医師・研究者もいる。
過去にケミカルメディエーター遊離抑制薬(抗アレルギー薬)のことを体質改善薬ということがあったが、抗ヒスタミン薬とは作用機序が異なる事実においてそのように呼ばれただけであり、いわゆるアレルギー体質は改善されない。アレルギーの発症を予防する効果もない。便宜的に患者に対してそう説明されることがある。
第一、第二を含めて「症状を抑える」という対症的な治療効果であり、根治薬ではない。
ステロイド薬は、遊離抑制作用や受容体拮抗作用などといった限られた作用ではなく、アレルギーのメカニズムのほとんどを抑制する。抗炎症作用も強く、多くはこの作用を期待して用いられる。しかし、強力にアレルギーを抑えるということは、免疫そのものも減弱させるということでもあり、不必要な長期投与など不適切な使用によって他の感染症を招いたり、体内のホルモンバランスが崩れることにより重い副作用や後遺症が現れることもある。その他の副作用も多く知られている。
IPD(アイピーディー)というTh2活性阻害薬(内服薬)が、症状に応じて使用されることがある。
IPD(アイピーディー)は、アトピー性皮膚炎や気管支喘息でも使われる薬剤である。花粉症では、Th2細胞活性の亢進・サイトカインの中のIL-4・IL-5(アレルギー症状を誘発するもの)の産生の増加がみられることがあるが、この薬剤はTh2細胞の活性を低下させIL-4・IL-5の産生を抑制する作用があり効果があるとされる。ただし、即効性はなく、効果が現れるのに数週間ほどの時間がかかるという特徴がある。
鼻詰まりが強い場合、いわゆる血管収縮剤(α交感神経刺激薬)と呼ばれる薬剤の点鼻薬が処方されることがあるが、連用すると効果が弱まるだけではなく、かえって鼻詰まりがひどくなり、依存(離脱困難)になることもある。そうした副作用が出やすいため、短期間に限って処方されることが多い。鼻詰まりがひどい患者がステロイド点鼻を行うとき、薬剤が鼻腔内に入っていきやすいように、あらかじめ鼻粘膜を収縮させるために用いる場合がある。この種の薬剤は市販のほとんどの点鼻薬に含まれており、即効性と高い効果があるため、説明書の注意書きを守らずに乱用してしまいがちである。花粉症に使われる市販薬でいちばん問題になるのが、この点鼻薬の副作用である。幼児の場合、まれに重い副作用が出ることもあるので使用を避けるべきである(原則的に5歳以下には用いない)。
血管収縮剤は充血を取ると称する市販の点眼薬にも多く含まれており、やはり連用するとかえって充血がひどくなることがある。
副交感神経遮断薬である抗コリン薬はエアゾール剤の関係で製造を中止している。
病気によっては禁忌となっている薬もあるので、持病のある人はたとえ気軽に買える市販薬であっても、その使用については医師・薬剤師に相談すべきである。他に薬剤を常用している人や、乳幼児、小児、妊婦、授乳婦も同様である。なんらかの副作用を感じたら、早めに医師・薬剤師に相談すべきである。
作用と副作用とのバランスを考え、効果が不充分なものであったり、眠気などの副作用があまりに日常生活に支障があるようであれば、違う薬および治療法に変更してもらうよう医師に相談することも大切である。あまりものわかりのよくない医師であると感じたら、病院を変更するのも一つの方法である。
花粉症の確実な根治療法はまだ確立されておらず、アレルゲン免疫療法(減感作療法)がもっとも根治療法に近い。広く免疫療法とも呼ばれ、広義では変調療法ともいわれる。一般的には下記の抗原特異的アレルゲン免疫療法を指す。
WHOの見解書では、アレルゲン免疫療法(減感作療法)が花粉症の自然経過を変える唯一の根本的治療法として記述されている[15]。
花粉症の症状の治癒と予防に関しては、臨床上の観察において、アレルゲン免疫療法(減感作療法)以外の治療では治癒や予防は期待できず、花粉やダニの免疫療法の必要性を説く医師もいる[16]。
20世紀初頭よりトキソイド研究から派生した抗原特異的アレルゲン免疫療法は大別すると皮下投与による減感作療法と経口投与による舌下減感作療法とに大別される。
アレルゲン免疫療法は薬物療法とは異なり、治療終了後もアレルギー防止効果が持続する点が特徴である(患者によっては数年 - 十数年後に同一または異なる花粉に再感作する可能性はある)。一方、現在承認されている治療方法では毎週 - 月1回程度の通院治療が必要であり、完全な効果を得るにはに数年程度継続する必要がある。舌下減感作療法は在宅治療が期待されるが日本においてはアレルゲンワクチン錠は未承認である。
花粉症のアレルゲン免疫療法は花粉シーズン前から開始すると有効性が高い。
2007年時点では米国では数十種類の標準化アレルゲンワクチンが上市されているのに対して、日本においては標準化スギアレルゲンが上市されているに過ぎない。日本においても標準化アレルゲンワクチンの多様化を期待する意見がある[17]。
直接アレルゲンをアレルゲンワクチンとする抗原特異的アレルゲン免疫療法以外にも、限定的ではあるが非特異的アレルゲン免疫療法も存在している。
減感作療法において、日本で使用されている皮膚テスト用のアレルゲンは12種類しかない。それに比べて公益財産法人日本アレルギー協会を通して入手可能な米国政府承認の皮膚テスト用アレルゲンは64種類ある。皮膚テスト用アレルゲンと治療用アレルゲンワクチンをともに多様化することで、日本のアレルギー診療の質が向上可能だと指摘する医師もいる[18]。
ハンドスプレー式の容器に薄めた花粉エキスを入れ一日一回口の中にスプレーする治療法。最初の2週間は専用のスプレーで少しずつ量を増やしていき、3週間目から専用のボトルで一定の量を服用し続ける。難点は治療期間が3年以上と長い事。全ての患者に有効ではなく、何らかの改善が見られるのは70%に留まっている。2014年10月より保険適用となる。「舌下減感化療法」とも呼ばれている。
鼻内部のアレルギー症状をおこす部分の粘膜にレーザー光線を照射して焼灼し、その部位を変質させることで鼻水・鼻づまりを抑える治療法。原則的には鼻詰まりの治療法である。保険が利くが、美容整形クリニックなどで自由診療(保険外診療)として行っている場合がある。レーザー照射をしてから数日は、傷(やけどのようなもの)のために花粉症以上の鼻水が出て苦しむこともある。一般的にはシーズンの1 - 2か月前に予防的に行う。効果の程度は個人差があり、有効でない場合もある(医師の技術にもよる)。
効果の持続は整形手術などとは違い、短ければ数か月、長くて2年程度のことが多い。そのため毎年行う患者もいるが、そうした繰り返しの処置による不可逆的な組織の変化、すなわち後遺症については、歴史が浅いこともあって明らかな知見はない。安全だという医師もいれば、毎年はやらないという方針の医師もいる。
細かくみれば、レーザー光線の種類や術式の違いもある。いうまでもなく鼻の処置であるため、目の症状には効果はない。
レーザーと同様な原理で、鼻粘膜に対する超音波メスによる処置や、高周波電流を使った鼻の処置が行われている。薬剤の塗布によって鼻粘膜を化学的に焼く方法もある。治療成績や後遺症については、レーザー同様、確立した知見はない。
特に通気性の改善のため、鼻中隔湾曲など鼻の器質的な異常に対する手術も行われる。最近では入院が前提となる後鼻神経切断術と同時におこなうことにより、半永久的根治治療を行うことが可能である。
鼻水がひどい難治例にはビディアン神経切除術なども行われる。
麻酔科からのアプローチとして、首にある星状神経節のブロックという方法も行われる。治療成績は明らかでない。
目の涙管に抗アレルギー薬を注入するという治療法も一部の眼科で行われている。これは保険適用外。
その他、その医師の独自の考え方により特殊な治療法が実施されることもある。治療成績はもちろん、安全性についても明らかでないものがある。
漢方薬による治療も行われる。従来の漢方専門薬局のみならず、総合病院や開業医でも扱うことが増えてきており、漢方科を設置するケースも見受けられる。有名メーカーの顆粒エキス剤は医療保険対象のものが多い。元来、漢方薬は症状ではなく、個々人の体質によって薬を選択するので、漢方専門家の診断と、予後経過観察しながらの投薬の種類や用量の適宜変更が必要であるが、西洋医は、効果のマイルドな薬という観点で西洋薬学的に用いることが多いため、時に上記の抗ヒスタミン薬など西洋薬との併用も行われるが、そのような運用手法は東洋医学的には誤りである事も多い。西洋医は東洋医学には精通していないのが主因である。例えば小青竜湯は水気の貯まった肺や気管支を乾かし熱を帯びさせるが、その予後を経過観察せず飲み続けると今度は鼻炎など炎症が悪化してしまう、という具合である。適度の鼻水で潤されるのも、きちんとした生理的理由があるのである。うかつに症状を取るだけでは漢方医療とは言えない。
よく誤解されているが、漢方薬なら副作用がないというのは誤りである。特に小青竜湯や葛根湯に含有されるマオウは、体質や服用量により動悸や血圧上昇などが起こる可能性があるので、服用に当たっては熟達した漢方薬剤師か、漢方処方経験に厚い西洋医師に運用を依存するべきである。
メジャーな漢方材料による副作用は他に、カンゾウによる偽性アルドステロン症(低カリウム症状が出る)や、ジオウとダイオウなどでの下痢、柴胡処方による血流や体温の低下に伴う、衰弱の進行した重病患者の合併症増発などが代表的(柴胡での合併症増発は、漢方に未熟な西洋医のオペミスとして有名)。虚弱体質の人が小柴胡湯を飲んで冬の山に行くと、凍えて動けなくなってしまう恐れすらある。消炎作用が強いためである。この場合はせめて柴胡桂枝湯などに処方を変えなくてはいけない。
花粉症によく用いられる漢方薬(ただし個々人でケースバイケースである。以下の通りに薬種を選択すべきではない) - (頓服の対症薬として):小青竜湯、葛根湯、柴朴湯、小柴胡湯、荊芥連翹湯、麻黄附子細辛湯等(対症薬を飲む前に、あるいは同時服用による、基礎体質強化として):補中益気湯、六君子湯、人参湯、帰脾湯等
このように、症状を抑える即効性の薬のほか、長く飲み続けて体質を変えて根治をねらうとされる種類の薬もある。体力と免疫力の落ちた状態、血行の悪い部位、リンパの蓄積でむくみがある状態、ではアレルギー物質に弱くなり反応が悪化する、というように、気血水や胸脇苦満などの理論に基づいた、基礎体力をはじめとする体質改善の方が、対症療法よりも効果が高いケースも往々にしてある。体質が弱体化したまま、対症薬だけ服用しても、山火事に放水するに等しいなどという例えられ方をする。
おおむね、女性の妊娠・授乳期にも比較的安全といわれる処方が多いが、逆に妊婦には禁忌の処方や望ましくない服用量、服用法もあるので、処方箋を出した主治医に事前に相談することが望ましい。これも『漢方に副作用は無い』という風説と同じく、眉唾と言える。
ハーブによる発症抑制、緩和が注目されている。抗アレルギー作用のあるネトル、抗ウイルス効果の高いエルダーフラワー(ニワトコ、英: Elder flower)、免疫力を強化するエキナセアが特に注目されるほか、鼻通りを良くするペパーミントや鼻の粘膜に効くレモンバーム、鼻炎に効果の高いカモミールや殺菌力で知られるユーカリ、気管支炎に良いとされるブルーマロウ(ウスベニアオイ、英: Malva sylvestris)、目の粘膜を強くするアイブライト(コゴメグサ、英: Eyebright)などにも緩和効果があると話題にされることが多い。いずれも健康茶の域であって、ステロイド剤のような強力性や漢方薬ほどの薬用性、即効性はないが、シーズン中の常用茶として利用することに有意義性がみられる。最近の流行で、ハーブティー専門店にてこれらハーブが調合されたブレンドティーが多く発売されている。
代替医療・民間療法には、食品や飲料の摂取などのほか、さまざまなグッズ類を使用したり、鍼灸などの伝統医療や整体、医師によらない漢方治療、エネルギー療法などがある。
これらの成分とビタミン・ミネラル等を配合したサプリメント類や清涼飲料水など、いわゆる健康食品類も多く出ている。
2007年2月、スギ花粉(スギのつぼみ)をカプセルにつめた健康食品にて、服用した患者が一時意識不明になるという事故がおきた。厚生労働省は、「残念ながら民間医療の多くに十分な効果の根拠があるとは言えません。」「安全性が危惧される民間医療も指摘されています。」としている(厚生労働省:花粉症の民間療法について )。
花粉症の症状はアレルゲンと接触したときにのみ現れるので、花粉との接触を断つことがもっとも効果的な対策である。アレルギーの原因にさかのぼって対処するため、原因療法といわれることもある。症状が出てから対策を行うのではなく、症状が出る前から予防的にケアを開始するとより有効である。すなわち自分で行う初期治療である。
アレルゲンとの接触を続けていれば抗体値も上がり、症状もひどくなる。すなわち、薬剤治療により症状を抑えているからといって、なんの対策もしなくてよいということにはならない。患者にとっては、こうしたセルフケアはもっとも基本的なことといえる。
近代医学的な記録で最古のものは、1565年(一説には1533年)のイタリアの医師 Leonardo Botallus によるものとされる。「バラ熱(Rose cold または Rose fever)」と呼ばれる症状で、記録によれば、その患者はバラの花の香りをかぐとくしゃみやかゆみ、頭痛などの症状をおこすという。原則的にバラは花粉を飛散させないため、花粉症であるとは言い難いが、現在でも Rose fever は「晩春から初夏の鼻炎」様の意味で Hay fever 同様に用いられることがある。
花粉症であることが確かな最初の臨床記録は、1819年にイギリスの John Bostock が、春・秋の鼻症状、喘息、流涙など、牧草の干し草と接触することで発症すると考えられていた Hay fever と呼ばれる夏風邪様症状について報告したものである。彼自身も長年にわたって症状に苦しめられたというが、有効な治療法は発見できなかったという。彼は最初これを夏季カタルと呼んだ。発熱(fever)は主要な症状ではないので、粘膜の炎症を示すカタルの方が適切ではあった。この報告の後しばらくの間、この症状は「Bostockのカタル」と呼ばれたと言われる(なお、 Hay fever は枯草熱と訳されているが、字義通りに解釈するのであれば、干し草熱とした方が適切であった。Hay とはイネ科の牧草 grass の干し草を指すからである)。1831年には同じくイギリスの J.Elliotson により、証明はなされなかったが花粉が原因であろうとの推定がなされた。そして1872年、北アメリカでブタクサが Hay fever の原因であるという報告がなされた。ブタクサは Hay ではないが、その当時すでに Hay fever という名称は定着していたと考えられる。
その後、イギリスの Charles H. Blackley によって、 Hay fever は気温の変化あるいは花粉が発する刺激性のにおいや毒素などが原因とする考えが、実験的に否定された。彼は空中花粉の測定、鼻誘発試験や皮膚試験など、現在でも通用する試験を行ってイネ科花粉症を実証し、遅発相反応にさえ言及した著書『枯草熱あるいは枯草喘息の病因の実験的研究』を1873年に著した。これにより Hay fever は Pollinosis (花粉症)と呼ばれるようになった( pollen は花粉のこと)。これらのことから、自らも花粉症であった Blackley は花粉症の父と呼ばれている。しかし、アレルギーという概念が成立するには20世紀になるまで待たなければいけなかったため、この段階では花粉に過敏に反応する人とそうでない人がいるということしか分からなかった。
日本においては、1960年代に次々と報告されたブタクサ、カモガヤ、スギ、ヨモギなどによるものが花粉症の始まりである。しかし、その正確な出現時期は判っていない。
たとえばスギ花粉症の発見者である斎藤洋三(当時は東京医科歯科大学所属)は、1963年に鼻や目にアレルギー症状を呈する患者を多く診察したのが花粉症に気付くきっかけとなったというが、過去の記録を調べ、毎年同時期に患者が急増することを確認している。また、1989年に65歳以上の耳鼻咽喉科医師に対してアンケートを行った結果、初めてスギ花粉症と思われる患者に接したのは1945年以前であるとの回答が4.7%あったなど、総合的にみてスギ花粉症の「発見」以前に患者に接していた医師は回答者の4分の1に達したとの調査がある。さらに、高齢の患者を調べたところ、戦前の1940年以前に発症したとみられる患者もいた。
1935年と1939年には空中花粉の測定が行われ、空中花粉数は少なくないが花粉症の原因となる花粉はきわめて少ないと報告された。戦後、進駐軍の軍医により調査がなされ、気候風土などの関係により、日本でのブタクサおよびイネ科の花粉はアレルゲンとして重要ではないと結論した報告が1948年になされた。これらにより、日本における花粉症の研究および患者の発見・報告等が遅れたという指摘がある(1939年の米国帰国者の症例報告では、当地において「バラヒーバー」と診断されたと記録されている。前述の「バラ熱」のことである)[21]。
1960年後半からおよそ10年は帰化植物であるブタクサによる花粉症が多かったが、1970年代中頃からスギ花粉症患者が急増した。特に関東地方共通のできごととして1976年に第1回目の大飛散があり、その後1979年、1982年にもスギ花粉の大量飛散と患者の大量発症があり、全国的ではないにしろ、ほぼこの時期に社会問題として認知されるに至った。「花粉症」という言葉が報道等で一般的に用いられるようになったのもこれ以降である。(必殺仕事人III第30話(1983年5月6日放送)に「スギの花粉症に苦しんだのは主水」というサブタイトルが付けられていることからみて、この時点では既に広く知られている言葉であったと考えられる。)
原則的に自然治癒は期待できないため、毎年のように患者数は累積し、現在では花粉症といえばスギ花粉症を指すと思われるほどになっている。花粉症のおよそ80%はスギ花粉症と言われ、新たな国民病とも呼ばれる。
なお、本邦初の花粉症の報告は、1960年の荒木によるブタクサ花粉症であり、次いで1964年の杉田・降矢によるカモガヤ花粉症、堀口・斎藤によるスギ花粉症、1965年の寺尾・信太によるイネ科花粉症、佐藤によるイタリアンライグラス(ネズミムギ)花粉症、1967年の我妻によるヨモギ花粉症などの順である(報告年は文献により多少異なるが、初例報告か完成度を高めた研究報告かなど、取りまとめる際の観点の違いによると思われる)。
環境が清潔すぎると、アレルギー疾患が増えるという衛生仮説は非常に話題となっていた[22]が、近年[いつ?]、ドイツを中心とする医科学チームの研究により乳幼児期におけるエンドトキシンの曝露量が、以後の花粉症やぜんそくの発症に密接に関係していることが明らかにされた。これは、乳幼児期の環境が清潔すぎると、アレルギー疾患の罹患率が高くなるという衛生仮説を裏付ける重要な報告である[23]。
また、これらの研究を取り上げたドキュメンタリー番組「病の起源 (NHKスペシャル) 第6集 アレルギー ~2億年目の免疫異変~」が2008年11月23日(日) 午後9時 - 9時49分にNHK総合テレビで放送された。
厚生労働省の調査によれば、現在[いつ?]、日本国民の約30%が花粉症であると言われる[24]。 1994年の花粉症を含めたアレルギー性鼻炎の調査[25]では、その患者はおよそ1800 - 2300万人と推定された。
2005年末から2006年にかけて行われた首都圏8都県市によるアンケートでは、花粉症と診断されている人が21%、自覚症状からそう、あくまでも参考値ではあるが思うという人が19%、すなわち花粉症患者は40%という数値が出されている。また、ロート製薬によるアンケートでは、16歳未満の3割が花粉症と考えられるという。
その他、病院への受診者の推移などから、1970年代に患者数は3 - 4倍に増加したとの報告[26]がある。
使われる医療費は、1994年の推計では年間1200 - 1500億円とされた。1998年の調査では、有病率10%とした場合の年間医療費が2860億円 [27]、労働損失が年間650億円と推定[28]された。
なお、第一生命経済研究所の試算によれば、患者が花粉症対策に用いる費用(俗に花粉症特需といわれる)は639億円に上るが、シーズン中の外出などを控えるために、1 - 3月の個人消費が7549億円減少する[29]という(ただし、これはスギ花粉の大飛散があった2005年の場合である)。
スギがない沖縄県や北海道へ、花粉を避けるための短 - 中期の旅行に出かける患者が増えているという(俗に花粉疎開と呼ばれる)。旅行会社がそうしたツアーを売り出すことも行われており、観光資源の一つとして誘致に名乗りをあげる地域もある。患者が移住した例も報道された。医学的にみれば転地療養といえる。
一般に、小児期には男性に多く、成人では女性に多い傾向があると言われる[誰によって?]。
自然治癒率についての確立した知見はないが、概ね1 - 2割と言われる(治癒とは、臨床的に3シーズン連続して症状を呈さない状況を言う)。
すでに述べたように、ヨーロッパではイネ科の植物、アメリカではブタクサが多い。日本のスギ花粉症を含めて、世界の3大花粉症ともいわれる。
アメリカ合衆国における有病率は5 - 10%程度といわれる。ブタクサがほとんどともいわれるが、国土が広大なため、地域によってさまざまな種類の樹木・草本が問題になっているようである。北欧と同じく寒冷な地域であるカナダではカバノキ科の花粉症が多く、6人に1人という数字もある。
アジア太平洋地域では、文献的にはトルコやオーストラリアなどが40%以上という異常に高率の有病率を示しているが、この数字には疑問が残る。実際には10 - 20%と推測される。
世界的にみて、先進工業国ではおおむねアレルギーが増えており、花粉症も全人口の1 - 2割というところではないかとみられている。
いずれも、英語圏でなくとも、あるいは Hay(干し草)が原因ではなくとも、Hay fever の病名が慣用されることがある(そのため、花粉症の説明において、干し草が原因ではないとのことが述べられることもある)。さらに、アレルギー性鼻炎全般を Hay fever と代名詞的に総称することすらあるようであり、一般向けの病気についての解説等は、日本の感覚では疑問を持たざるを得ないことがある(もっとも、症状や治療方法はほぼ同じであるため、原因物質によって区別する必要もない)。
現在(特にヨーロッパ方面では)は、牧草や芝生、雑草などを手入れ時期に患者が増加する傾向があるため、草(Grass)を用いて、Grass fever と呼ぶ場合も多くなってきている。
こうした日本国外の花粉症については、プロスポーツ選手の日本国外進出などにともなって、ニュースとしてよく目にするようになってきている。
日本国内であればマスクや薬の入手は容易であるが、日本国外ではそうとは限らない。特に欧米では工事現場や病院等の特定の職場で働く人間、もしくはよほどの重病でない限りマスクをする習慣がないため、奇異な目で見られるということもある。街角でポケットティッシュを配るなどのことも行われてはいない。
その反面、日本では処方薬となっている第二世代抗ヒスタミン薬が、国によっては一般の薬店で買えるなどのこともある。しかし、それが自分の体質に合っているとも限らない。特にヨーロッパでは、当地の伝統医療であるホメオパシーのレメディを勧められることもあるという。
これらのことにより、花粉症患者が事情がよくわからない国へ訪れる場合は、シーズンを問わず、念のために自分に適した薬とマスク程度は持参したほうがよいといえる。一般に花粉症はきわめてまれと考えられている、いわゆる南洋の島などに観光旅行に行ったさいにも、原因不明の花粉症様の症状に苦しめられたとの情報もある(多量に栽培されているマンゴーやサトウキビなどによる可能性がある。これは国内でも、南方へ旅行した際に同様なことが起こる可能性がある)。
特に病院で抗アレルギー薬の処方を受けている患者が、シーズン中に短期(1週間前後)の旅行を行う場合は、その効果を減弱させないためにも、旅行中も薬の服用を欠かさないほうがよい。やや長めの旅行であれば一時中断してもよいが、帰国時が花粉症シーズンであるならば、その数日前から予防的に薬を服用しておくとよい。これは初期治療と同じ原理である。
ただし、国によって使用が許可されている薬と禁止されている薬は当然違っているため、渡航先の国がその薬の所持を許可しているかどうかを出来るだけ事前に確認しておく事が望ましい。日本では普通に処方されていても当該の国や州では違法、と言う扱いになっていた場合、よくて税関での没収、最悪の場合勾留や逮捕、強制送還をされてしまう恐れがある。
近年ではペットの花粉症も問題となっている。イヌの花粉症は1998年に、ネコの花粉症は2000年に初めて報告されたとされるが、ヒトの場合と同様、それ以前から存在したと推測される。特にイヌにおいては、ヒトのような鼻症状より毛が抜けるなどの皮膚症状が多く見られ、見た目にも悲惨な状態となることが多いといわれる。
獣医師により検査や治療は可能だが、イヌにおいてはヒトと違って抗ヒスタミン薬が効きにくく、ステロイドに頼らざるを得ないことが多い。重症の場合は減感作治療が行われることがある。ネコにおいては検査も治療も困難であるといわれる。
近年はこうしたペット向けのサプリメント類も販売されるようになってきている。
文部科学省の第8回技術予測調査によれば、日本において重要な課題の第2位が「花粉症やアトピーなどのアレルギーを引き起こす免疫制御機構や環境要因の解明に基づく、即時型アレルギーの完全なコントロール技術」であり、これが実現する時期は2015年、さらに、それが社会的に適用されるのは2027年であると予測された。
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