出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/07/28 18:37:59」(JST)
自動体外式除細動器(じどうたいがいしきじょさいどうき、Automated External Defibrillator, AED)は、心室細動の際に機器が自動的に解析を行い、必要に応じて電気的なショック(除細動)を与え、心臓の働きを戻すことを試みる医療機器である。
除細動器の一つだが、動作が自動化されているので、施術者が一般市民でも使用できるよう設計されている。
日本で現在承認されている製品は、医薬品医療機器等法上の「類別・機械器具12、一般的名称・半自動除細動器あるいは非医療従事者向け自動除細動器」に該当する。
一部の国では、全自動化された製品が発売されているが、日本ではこの方式は承認・流通ともされていない。
主に不特定多数の人が出入りする空港や飛行機内、ホテルなどの公共施設に広く設置され、消火器などと同様に、万一の事態が発生した際には、その場に居合わせた人が自由に使えるようになっている。
使い方は、電源を入れ、電極パッドを胸に貼り付けると心電図を解析して電気ショックを与えるべきかを調べる[1]。電気ショックが必要と解析した場合には、機械の指示に従ってスイッチを押すと、機械が自動的に電気ショックを与え、除細動を行う。
従来の除細動器は、医師などの専門家の使用を想定しているため手動式であるが、空港など公共の場に配備されている自動体外式除細動器 (AED) は、操作を自動化して、医学的判断ができない一般の人でも使えるように設計されている。AEDの発する指示音声にしたがってボタンを押すなど2 - 3の操作のみで、取り付けもピクトグラムで分かりやすく説明されており、医療知識や複雑な操作なしに電気的除細動が実行される。なお、AEDによる除細動の実行と併せて、胸骨圧迫(心臓マッサージ)・人工呼吸を継続して行うことも、救命のために望ましい(一次救命処置参照)。
日本では、救急車が現場到着するまで平均で約7分を要するが、心室細動の場合は、一刻も早く電気的除細動を施行することが必要とされている[2]。救急車の到着以前にAEDを使用した場合には、救急隊員や医師が駆けつけてからAEDを使用するよりも、救命率が数倍も高いことが明らかになっている[3][4]。
AEDが登場し始めた当初は一セットあたり100万円以上だったが、2007年には30万円程度になっている。心停止に陥る可能性の高い疾患を持つ家族を抱える家庭では、自家所有している例もある。レンタルだと1機当たり月額5000円程度。また現在では子供用のAEDパッドが認可され、1歳以上の子供なら使用できるAEDが増えている。
収納スタンドは、蓋を開けるとサイレンやブザー鳴動・赤ランプの点滅で緊急事態発生を周囲に告げる他、使用された事を示す信号が、当該施設の防災センターに送られるようになっているものもある(これにより防災センターは、警備員を現場に向かわせ対応する)。
なお、AEDとは「異常な拍動を繰り返し、ポンプとしての役割を果たしていない」状態の心臓を、電気ショックによって一時停止させることにより正常な拍動の再開を促すものであり、フィクションにおけるAED使用描写でよく見られる「停止した心臓を電気ショックで再起動させる」ものではない。また、AED使用によって一時停止させられた心臓は本来であれば自動的に拍動を再開するが、酸欠等の状態にあると拍動が再開しにくいため、AED使用後は速やかに人工呼吸と心臓マッサージで拍動の再開を促す必要がある。
AEDの使用方法については、総務省消防庁のサイト (PDF) や日本心臓財団のサイトを参照のこと。
かつて日本では、医師しか使用が認められていなかった。2003年に救急救命士に使用(医師の指示なく)が認められ、2004年7月からは一般市民も使えるようになり、空港や学校、球場、駅などの公共施設に設置されることが多くなった。
2005年に開催された愛知万博では会場内にAEDを多数配置している。また2006年から2008年頃にかけて公共交通機関でのAED設置が進んだ。2006年7月、都営地下鉄全101駅へのAED設置完了を皮切りとして2006年にはJR東日本新幹線全駅、JR東海も新幹線全駅と在来線主要駅に設置[5]、小田急ロマンスカーも2008年10月22日に設置完了。東京都清瀬市コミュニティバスでは全車に設置された。現在各鉄道主要駅には大抵の場合設置されている。
Jリーグではすべての試合会場にAEDを設置することを義務付けている。
高校野球では、2007年4月に行われた春季近畿地区高校野球大会大阪府予選で、飛翔館高等学校の投手に打球が直撃して心肺停止状態に陥り、AEDなどの救命処置によって一命を取り留める事故があった[6]。2009年に、この出来事を題材としたAED普及広告が日本心臓財団によって出されている。
JR東海とJR西日本は、2008年12月より東海道・山陽新幹線の全編成でAEDを設置すると発表した[7]。さらにJR東日本も所有する新幹線の全編成に2009年2月以降AEDを設置すると発表[8]。JR九州でも2009年3月1日より九州新幹線の6編成すべてに設置すると発表した[9]。
2009年3月22日に開催された東京マラソン2009にて、ランナーとして出場していたタレントの松村邦洋が、スタート地点から約15kmの港区高輪二丁目付近で突然倒れ、一時心肺停止 (CPA) 状態になった。救護班として巡回していた国士舘大学のモバイル隊がAEDを使用するなど対応が早かったため意識はすぐに回復し、命に別状はなかった。松村の所属事務所の発表によると原因は急性心筋梗塞による心室細動であったという[10]。東京マラソンでは2013年2月24日に開催された大会でも、参加ランナーが約23kmの水天宮前交差点で突然倒れ、近くを走っていた松山市役所勤務の参加ランナーなどが心臓マッサージや近くの交番から持ってきたAEDによる処置を行い、一命を取り留めたことがある[11]。
テレビ東京系列で放送されているバラエティ番組「開運!なんでも鑑定団」の収録スタジオ内に、2010年からAEDが設置された。特定のテレビ番組のためにAEDを設置した初めての事例で、これは同番組の性格上、高齢もしくは心臓に何らかの持病がある出演者(依頼人等)が、鑑定結果にショックを受けて、万が一の事態が発生した場合等を考慮したものである。
静岡県三島市では、2010年7月1日から「あんしんAEDステーション24設置事業」を実施して市がAEDを購入し、市内の24時間営業のコンビニエンスストアやガソリンスタンドなどに協力を仰ぎ、AEDを設置してもらっている。この事業で42台のAEDが市内のあらゆる場所に設置された[12]。千葉県船橋市等、他自治体においても同様の事業が始まっているが、AEDは心室細動が持続している数分間にのみ作動するものであるため、事実上、設置場所付近で心停止が起こった際に救命効果が発揮される。厚生労働省が公表している「自動体外式除細動器(AED)の適正配置に関するガイドライン」[13]では、「AEDの設置が推奨される施設」としてまず、心停止の発生確率の高いスポーツ施設や大多数の人が集中する交通機関や商業施設等を挙げており、コンビニ等は優先度としては次点にあたる「AEDの設置が考慮される施設」としている。
2010年4月、大阪府大阪市で、心肺停止状態の男性に救急隊員が救命処置を行おうとした所、救急車に取り付けられたAEDが故障により作動せず、男性が搬送先の病院で死亡すると言う事態が起こった。製造元の調査により、部品の欠落が原因と発表されたが部品が欠落した原因は不明。これに伴う自主回収などは行われていない[14]。
2012年7月9日9時10分頃、埼玉県鴻巣市立赤見台中学校において、8時45分からの1時間目の体育の授業時に、1年生2クラスの男女63人がプールで水泳(泳力検定)を行っていたところ、女子生徒1名が水泳中に心室細動を起こし、溺水した。女子生徒は25mプール(水深1.4m)のゴールまであと1mのところで突然、泳ぎが乱れて動きが止まり、うつぶせに浮いた状態であり、異変に気づいた生徒が教員に緊急事態を知らせ、すぐに女子生徒をプールサイドに引き上げ、心肺蘇生法(人工呼吸、胸骨圧迫)を行い、中学校に設置してあったAEDで、救命処置を行った。その後行田市内の病院に救急搬送された。女子生徒は翌10日も生徒は意識不明の状態が続いたが、一命は取り留め、その後回復したという。女子生徒は水泳が苦手であるものの、心停止につながる既往症がなく、当日の健康状態も良好であった。[15][16]
4か国語対応の取り扱い説明も備わるスタンド型(日本光電製)
京橋駅 (大阪府)に設置された緑色のランプ付きのタイプ(フィリップス製)
難波駅の千日前線と四つ橋線ホームに設置(日本光電製)
龍谷大学に設置されているAED搭載の自動販売機(AEDは日本光電製)
JR西日本、ひかりレールスター(700系7000番台)6号車に設置(フィリップス製)
JR九州、800系4号車に設置
JR東日本、E7系7号車デッキに設置(日本光電製)
出典:日本心臓財団[18]
また、プロ野球球団に入団したばかりの新人選手に対して救命講習会を行った例がある。[20]
電極のパッドやバッテリーには使用期限があるため、定期的な点検と交換が必要となる。[21]
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