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100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 291 kJ (70 kcal) |
炭水化物
|
6.89 g
|
糖分 | 6.89 g |
食物繊維 | 0 g |
脂肪
|
4.38 g
|
飽和脂肪酸 | 2.009 g |
一価不飽和脂肪酸 | 1.658 g |
多価不飽和脂肪酸 | 0.497 g |
タンパク質
|
1.03 g
|
トリプトファン | 0.017 g |
トレオニン | 0.046 g |
イソロイシン | 0.056 g |
ロイシン | 0.095 g |
リシン | 0.068 g |
メチオニン | 0.021 g |
シスチン | 0.019 g |
フェニルアラニン | 0.046 g |
チロシン | 0.053 g |
バリン | 0.063 g |
アルギニン | 0.043 g |
ヒスチジン | 0.023 g |
アラニン | 0.036 g |
アスパラギン酸 | 0.082 g |
グルタミン酸 | 0.168 g |
グリシン | 0.026 g |
プロリン | 0.082 g |
セリン | 0.043 g |
ビタミン | |
ビタミンA相当量
β-カロテン
ルテインと
ゼアキサンチン |
(8%)
61 μg (0%)
7 μg0 μg
|
チアミン (B1) |
(1%)
0.014 mg |
リボフラビン (B2) |
(3%)
0.036 mg |
ナイアシン (B3) |
(1%)
0.177 mg |
パントテン酸 (B5)
|
(4%)
0.223 mg |
ビタミンB6 |
(1%)
0.011 mg |
葉酸 (B9) |
(1%)
5 μg |
ビタミンB12 |
(0%)
0 μg |
コリン |
(3%)
16 mg |
ビタミンC |
(6%)
5 mg |
ビタミンD |
(1%)
3 IU |
ビタミンE |
(1%)
0.08 mg |
ビタミンK |
(0%)
0.3 μg |
ミネラル | |
カルシウム |
(3%)
32 mg |
鉄分 |
(0%)
0.03 mg |
マグネシウム |
(1%)
3 mg |
マンガン |
(1%)
0.026 mg |
セレン |
(3%)
1.8 μg |
リン |
(2%)
14 mg |
カリウム |
(1%)
51 mg |
ナトリウム |
(1%)
17 mg |
亜鉛 |
(2%)
0.17 mg |
他の成分 | |
水分 | 87.5 g |
コレステロール | 14 mg |
|
|
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 |
項目 | 分量(g) |
---|---|
脂肪 | 4.38 |
飽和脂肪酸 | 2.009 |
10:0(カプリン酸) | 0.063 |
12:0(ラウリン酸) | 0.256 |
14:0(ミリスチン酸) | 0.321 |
16:0(パルミチン酸) | 0.919 |
18:0(ステアリン酸) | 0.293 |
一価不飽和脂肪酸 | 1.658 |
16:1(パルミトレイン酸) | 0.129 |
18:1(オレイン酸) | 1.475 |
多価不飽和脂肪酸 | 0.497 |
18:2(リノール酸) | 0.374 |
18:3(α-リノレン酸) | 0.052 |
母乳栄養(ぼにゅうえいよう)とは、栄養のために母乳を乳児に授乳すること。人工栄養と対となる。乳児に栄養を与える手段としてもっとも好ましい方法とされており、特に女性の乳房の乳首を直接乳児に吸わせることが望ましいとされている。哺乳類一般の授乳に関しては授乳、人工栄養に関しては粉ミルクを参照されたい。
以下、本稿では断りのないかぎり「授乳」を「母乳栄養」および「直接乳房から母乳を与えること」の双方の意味で用いる。また、「乳児」には「新生児」も含める。
母乳は多くの乳児にとって最良の食事である(母親からの感染の心配がなく、子供に特定の先天代謝疾患がない場合)。賃金労働を子育てより優先する事により、あるいは医学上の問題で授乳を行わないあるいは出来ない母親もいる。例えば体液を通して感染するHIVやHTLV-1は、母乳によっても感染する可能性があり、これらに感染した女性は母乳栄養を避ける必要がある。同様に薬品によっては母乳に移行するものもあるが、ほとんどの場合わずかな量の移行に過ぎないので、母乳栄養しても安全であると考えられている。よって、ほとんどの女性は母乳栄養に問題がなく、医師も[要出典]政府も母乳栄養を強く勧めている。もっとも、多くの薬品についていまなお法律上、「授乳中は服用を避けるように」という表示が必要である。
乳児にとって授乳が最良の食事手段であるため、世界保健機関(WHO)や米国小児科学会(AAP)など、多くの政府機関や国際機関が母乳栄養を推奨している。日本においても厚生省が母乳推進運動を行っている。
妊娠後半の6か月の間、妊婦は盛んに乳腺の成長を促す次のようなホルモンを分泌する。
妊娠5ないし6か月になると、乳房は乳汁を生成し分泌できるようになる。出産まぢかには、黄色を帯びた初乳(コロストルム、コロストラム、colostrum)を分泌するようになる。これが新生児の飲む最初の母乳である。初乳には重要な母親由来の抗体が含まれ、子供自身の免疫系が発達するまで感染防御についての一時的な繋ぎとなる。また、後に分泌される乳汁に比べ、免疫力を高める作用がある核酸類の含有量が高いほか、タンパク質含量が高く、脂質と糖質が少ない。乳汁成分の成熟は子供が乳首を吸うことが刺激になっておこり、出産後3-4日すると脂質および糖質が増えてくる。
初乳が出た後は、乳汁は子供の必要量分泌されるようになる。つまり、子供が母乳を欲しがる頻度と量によってコントロールされる。授乳アドバイザーによっては、母乳づくりが維持されるとして4時間に一度は授乳すること勧めている。
母乳の性質は完全には解明されていないが、含まれる栄養素は比較的一定しており、それらは母親が食事として摂取したものから得られる。食事が不適切であれば、母親の身体そのものから得られる。水と脂質との比率は食事と環境によって左右される。最初に分泌される母乳は水分含量が多く、脂質含量が少なく、糖質が多い。授乳が進行するにつれ(乳房が空に近くなるにつれ)脂質含量が増える。母乳の合成は常に行われているので、乳房が完全に「から」になることはない。
乳首を吸うと反射的に母乳が出る(射乳反射)。この反射はオキシトシンというホルモンによって起る。乳頭が刺激されると下垂体後葉よりのオキシトシン分泌が増加する。オキシトシンは乳腺の筋上皮細胞を収縮させ、乳汁を排出する。母乳が出る時の感覚は人によりけりで、うずく感じがする人もいるらしい。
この反射は特に初期の内は安定しない。子供をあやす情景を思い浮かべたり、子供の声(他人の子でも)を聞いたりすると、反射が亢進し、不必要に母乳を漏らしてしまったり、本番の授乳の際に母乳の出が足りなくなったりすることがある。しかしながら、授乳を始めて2週間もすると反射は安定する。母親がストレスや精神的な不安に晒されると、母乳の出に影響し、授乳がたいへん困難になる。
射乳反射が減弱する原因:
母乳の出が悪い場合には、射乳反射を助ける方法がある。たとえば:
母乳栄養の利点は身体、精神両面にわたり、母子両者に及ぶ。子供は母体からの栄養素と抗体が得られる。授乳はまた心理的に母子の絆を強める。また、母乳栄養を行うと正常な腸内細菌叢(フローラ)が早期に形成され、下痢の防止と免疫機能に役立つ。
特にビフィズス菌は母乳栄養の糞便に多く存在する。正常な母乳栄養児のフローラはビフィズス菌が極めて優勢である。腸内のビフィズス菌を旺盛にするために母乳に多く含まれる乳糖が有効である[4]。ビフィズス菌は善玉菌として腸内の環境を整えるほか、花粉症などアレルギー症状の緩和にも貢献していることが分かってきた[5]。乳幼児に多いロタウイルスによる感染性腸炎の抑制をする可能性が報告されている[6]。ビフィズス菌は、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンK、その他ビタミンB群を生成する[4]。
死亡した乳児(新生児を除く)を対象として調査した結果(1957年東京都)によれば、母乳栄養、混合栄養、人工栄養の各栄養法による死亡率比は、成熟児については、ほぼ1:2:3、未熟児については、ほぼ1:2:4の値を示していた[4]。
近年の研究によると、授乳で育った子どもの知能指数の平均は、そうでなかった子どもより高かった[11]とする論文がいくつか提出された。だがJain (2002)という一学者 は、雑誌「Pediatrics」において「詳細な検討を行った結果、母乳栄養が知能の発達をより促進すると結論付ける論文は過去にたくさんあるが、その殆どが結果を受け入れがたい質の低い論文である」[12]とする反論がある。 しかしながら、医学専門誌「Lancet」においてGaleは乳幼児へのおしゃぶり使用は成人期の知能(IQ)が低くなるとしている[13]。
皮膚炎と母乳栄養に関する研究では、玉虫色の結果が得られた。母乳栄養で皮膚炎が減ったという報告[14]もあれば、ドイツの研究結果では母乳栄養は親の社会的地位の高さおよび皮膚炎の多さと関連し、子どもの皮膚炎のリスクを増すという[15]。アトピー性皮膚炎も参照のこと。
2007年の世界がん研究基金とアメリカがん研究協会による報告では、子どもを病気やがんのリスクを増やす肥満から守るとし、6か月以上の母乳哺育をがん予防のため推奨している[16]。
母乳栄養は母親にとっても利点がある。授乳の際分泌されるホルモンには気分を落ち着かせる効果があり、育児に前向きな気分を感じさせる。出産のできるだけ直後から母乳栄養を行うと、分泌されるオキシトシンが増加するため子宮復古を促進し、出血を抑える。母乳を生成するのに脂肪が消費されるため、ダイエット効果もある。頻繁に授乳している間は排卵や月経の再開が遅れ(乳汁分泌無月経症候群参照)、妊娠しにくい。そのため、母親の貯蔵鉄を回復し、子どもが授かる間隔が自然になる。母乳栄養を行った母親は、出産後骨の再石灰化が進むことも知られている。閉経前後を問わず、卵巣腫瘍や乳癌のリスクが減少することも知られている。
2007年の世界がん研究基金とアメリカがん研究協会による報告では、母親の乳がんリスクを減らすとし、6か月以上の母乳哺育をがん予防のため推奨している[16][17]。
母子の絆はとても重要で、80%の母親がマタニティブルーを経験している。母乳栄養を成功させるには、パートナーのさまざまな援助が重要である[18]。そうすれば父子の絆もまた強くなることであろう。
母子栄養は、パートナーと子どもとの間の人間関係に大きく影響しうる。父親によっては、奥方が授乳している間、のけものにされているような感じを味わうことがあるようだが、授乳の一部始終を見、家族の絆を強化する機会だと感じる父親もいる。おそらく授乳は出生に関わる健康問題と並んで長時間を要する。母親の時間が減る分、父親と家族にとってはやらなければならないことが増え、プレッシャーになる。多くの父親はわりとその点のサポートを嫌がらないので、却って家族の絆が強まるのである[要出典]。「嘆きのボイン」月亭可朝(1969年12月発売、80万枚の大ヒットに)は妻の愛情とその母性と女性性の象徴である乳房が子どもに独占されたことを嘆く歌であり、当時大きな社会的反響を生んだ。2004年妻の愛情が子どもに向かうことに嫉妬した夫によって妻が刺殺される事件が起きている。
母親が不在の間も、予め搾乳しておいた母乳を用いれば母親以外の養育者の手で母乳栄養を行うことができる。もっとも、不在時間分の母乳を予め搾乳し保存できるだけ乳の出がよくないと無理があるし、母親が養育者と引き離されている場合もうまくいかないだろう。これらの場合は養育者は一時的にか恒久的にか、他の手段を探さざるを得ない(人工栄養、混合栄養、他の母親の母乳の利用等)。現在ではさまざまな搾乳器があり、購入する事もレンタルすることもできる。これによってワーキングマザーも母乳だけでわが子を育てることが可能になった。
(AAP、WHO、UNICEF資料の引用。引用部分のため訳出せず。下記URL参照)
初期の頃はうまく授乳できない例は稀ではない。数週間もすればほとんどがうまくいくようになる。
2-3%の女性は、子供が必要とするだけのカロリーを母乳で与えられない。母乳不足の理由ははっきりしないが、出産時に子供と離され過ぎたり、乳腺自体の問題であったり、多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS) だったりということが主犯格として知られている。こういった場合でも、不足分を他の母親の母乳やミルクで補いながら授乳を続けて行くことが可能であるし、多くの例では、supplementary nursing system (SNS) と呼ばれる補助具(チューブ入りの細いテープで、乳房に貼り、不足分をそこから子供に飲ませる)を用いて母乳栄養を続けている。
確かに、あまりに面倒だというような理由で授乳をやめたり、あるいは個人的な理由で最初から授乳する気がなかったり途中でやめたりする場合もある[要出典]。しかし、最初のつまずきを乗り越えたほとんどの女性は、上手に授乳を続けていける[要出典]。
新生児には自然に吸啜反射(きゅうてつはんしゃ、唇に触れたものにしゃぶりつく反射)が見られるが、乳房の乳首から母乳を吸うには哺乳瓶から吸う場合よりも学習が必要である。時として乳房から母乳を飲むことを嫌がる新生児がいる。授乳をうまく確立させるには、生まれたらすぐ乳房を吸わせ、乳房を吸うのに慣らしてしまうことが大事である[19]とする見解がある。
おっぱい嫌い Breast refusal の原因:
子供が成長し、歯が生えてくると授乳に困難を来すようになる。断乳のチャンスでもあるが、なんとか授乳を続けることもできる。
子供の哺乳を阻害する要件:
未熟児は吸啜反射が弱く、疲労も速いので、授乳がうまくいかないことがある。
吸啜の問題を原因とする摂食困難の多くは、特殊な瓶と吸啜を刺激する乳首のついたハーバーマン哺乳瓶 (Haberman feeder) を用いて適切な栄養を行うことができる。
子供がフェニルケトン尿症などの先天代謝異常をもっている場合は、特殊な食事療法が必要となる場合があり、母乳や通常のミルクは禁止されることがある。
母体の健康状態が悪い場合や、栄養状態が悪い場合には授乳している乳児に悪影響が及ぶ。
手術、膿瘍、癌の既往がある女性も、多くが母乳栄養可能である。しかし、乳房組織へのダメージがあると、豊胸術を含んだ乳房の手術の既往[27]がある場合や感染がある場合は、問題が起こりうる。癌、特に乳癌と化学療法も問題になりうることが知られている。
HIV感染、AIDS、未治療で活動的な結核は母乳を通して子供に感染が移行しうる。いくつかの国々では、HIV陽性の母親が授乳することは幼児虐待扱いで捜査の対象となりうる。アメリカ合衆国では1998年に、あるHIV陽性の母親が自分の子に授乳しつづけ、子供のHIV感染予防に何らの手も打たなかったとして、ソーシャルワーカーに報告され事件となった[28]。乳房に単純ヘルペス感染が起きている場合も授乳は避けるべきである。
乳腺炎は乳管の閉塞を原因とする乳房の炎症である。乳腺炎は乳房、乳頭の疼痛をきたし、発熱や流行性感冒様症状を引き起こしうる。乳腺炎それ自体は授乳を断念する理由にはならない。逆に、閉塞を取り除き症状を軽くするもっとも効果的な方法が子供の世話をすることであって、赤ん坊にとっても害はない。急に断乳すると乳腺炎を引き起こしたり悪化させたりする。
母親の状態によっては、母乳栄養は子供にとって危険である。たとえば、母親が:
母乳だけで育てる場合、乳児の栄養は完全に母乳に依存することになる。したがって、母親が健康的なライフスタイル、特に食生活を維持することが重要である。赤ん坊が大きくて成長が速い場合、妊娠中に母親が蓄積した脂質はすぐ消費されてしまい、食べても食べても母乳を作るのに追い付かなくなることがある。授乳中の食事は通常、妊娠中並みに高カロリー高栄養であるべきである。「授乳中の栄養」研究会(The Subcommittee on Nutrition during Lactation)は、一日当たり1500 - 1800 kcal を勧めている。栄養不足の母親からも栄養価の高い母乳は得られるが、十分な栄養を取った母親と比較すると母乳中のビタミンA、D、B6、B12の含量が少なく、乳の出も悪くなりがちである[29]。
また、母乳栄養だけだとビタミンKが不足しがちになる。このビタミンは血液凝固に関係するので、不足すると頭蓋内出血で死亡する原因になる。日本では新生児に経口でビタミンKを投与しているが、母親自身がビタミンKを十分摂取することも重要である。また、母親がビタミンD欠乏症を発症していなくてもビタミンDの欠乏状態にある場合、乳幼児の血中ビタミン量の推奨値を下回わる事があり小児のビタミンD欠乏症であるくる病を発症することがある[30]。特に日本では、1990年代以降美白ブームが起こり日焼け(紫外線)に対する過度な忌諱が行われる傾向にあり[31]、くる病の報告患者数が増加している。潜在的にビタミンDが不足しやすい母乳栄養では症状の改善が遅い[31]。
ω-3脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)は脳などのリン脂質に含まれる脂肪酸の主要な成分であり、胎児、乳児はDHAを多く必要とする。DHAを多く含むシーフードをたくさん摂取するところほど母乳内のDHAは高く、産後うつ病の有病率は低かった。母体から胎児への転送により、妊娠・出産期には母親には無視できないω-3脂肪酸の枯渇の危険性が高まり、その結果として産後のうつ病の危険性に関与する可能性がある[32]。ω-3脂肪酸であるα-リノレン酸からヒトの体内でDHAを合成することもできる。植物油はω-6脂肪酸であるリノール酸を多く含むものが多く、バランスよくω-3脂肪酸を摂取する必要がある。
授乳中に完全に禁止される食品はないが、母親が何か特殊なものを摂取した場合、赤ん坊にはそれに対する感受性があるかもしれない。授乳アドバイザーによっては、赤ん坊が夕暮れ泣き(baby colic、生後6 - 8週程度の新生児が決まって夕方になると泣くこと)やおならを始めたら豆のようなガスを生ずる食品を控えるように指導する。
母乳栄養を行う母親は喫煙とニコチン摂取に注意すべきである。母親がヘビースモーカー(一日当たり20本を超える)である場合、母乳の生成が減少することや、嘔吐、下痢、頻脈、落ち着きのなさの原因になることが知られている。こういった場合、母乳栄養の利点と、ニコチンによって引き起こされる可能性のある問題のどちらが大きいかは現在研究中である。喫煙環境では乳幼児突然死症候群(SIDS)が起りやすいことも知られている[33]。喫煙者の母親は、授乳開始前から授乳中にかけて煙草を吸わないようカウンセリングされ、節煙や禁煙について誰かに手助けしてもらうことを勧められる。
アルコールの飲み過ぎが子供にとって危険であることも知られている。母親の養育テクニックがなかなか巧くならず、子供の体重増加が遅くなる。安全なアルコールの量がどの程度かはまだコンセンサスがない。しかし、たまに少し飲む程度なら問題がないだろうというのが一般的な見解である。しかし、一日グラス一杯のワインでも問題になると信じている人もいる。それほどアルコールを飲まなかった場合でも、母乳中のアルコール濃度は30 - 90分後にピークになる。既に知られている胎生期のアルコール曝露の危険性を考えると、医療関係者は安全側に振って、授乳中の母親はアルコールを控えるべきだとしている。
授乳中の母親がカフェインをとりすぎると、落ち着きのなさ、不眠、神経質、多飲といった状態が子供に起こりうる。授乳中の母親はカフェインを控えるべきだとアドバイスされる。
マリファナに含まれるようなカンナビノイドはAAPによって乳汁移行性のある化合物として挙げられている[34]。研究によるとマリファナ中のある種の成分は血中半減期が極めて長い。生後一か月の間に母親の母乳からカンナビノイドを摂取したことと、その子が一歳の時に運動能力が低かったことは関連があると思われた。
母乳栄養以外の選択肢については授乳を参照のこと。 乳房から母乳を飲む場合と、哺乳瓶から飲む場合とでは、赤ん坊の飲み方が異なる。前者の場合、吸引するというより、舌で乳首をマッサージして絞り出す感じに近いし、乳首はそれ程口の奥まで入らない。哺乳瓶ではもっと勢い良く吸引できるだろう。そのため、母親の乳房から母乳を飲むのになれるまでは、混合栄養を行ったり子供に哺乳瓶や乳首型おしゃぶりを吸わせたりしないことが勧められる。通常のものより長めに作られた矯正乳首(Orthodontic teats)の方が乳房の代用としては好ましい。
母乳のみで育てる場合、平均して一日に6 - 14回の授乳が必要である。この所要量は子供によって大きく異なる。新生児期は一回 30 - 90 mlで、乳児期に入ると 120 ml 程度である。これも子供次第であるし、発育につれ量は多くなる。子供の空腹のサインを認識することが重要である。また、乳の必要量は子供自身が知っているという立場から、乳を欲しがる頻度、一回当たりの授乳時間は子供に従うようにアドバイスされる。乳腺での母乳の合成量は、搾乳される母乳の量(頻度と時間)に依存している。出生時体重によって赤ん坊の飲みっぷりは異なるだろうし、母親もこのくらいの体重ならこのくらい飲むだろうと思っているだろう。 だが、必要量はその子供が決めるのであって、親が勝手に思い込んではいけない。
直接授乳する場合の心配な点として、赤ん坊が飲んだ母乳の量が正確にはわからないというのがあげられる。これは心配する必要がない。赤ん坊は必要なだけ飲むからである。おむつの量をモニターすることも容易であって、出生後5-6日過ぎた新生児なら、そこから適量かどうかがわかる(尿によるおむつ交換は24時間あたり、布製のおむつなら8回、使い捨てのおむつなら5-6回で、便では2-5回である)。2-3か月になれば、排便の回数が目安になる。もっとも正常でも10日間も排便がない場合もあり、幾分不正確である。
直接授乳することが不可能な場合でも、母乳栄養は可能である。母乳を人工的に搾って保存しておけば、不在時においても自分の母乳を与えることができる。母乳を搾るには自分の手で搾乳してもいいし、搾乳用ポンプを用いてもいい。SNSや哺乳瓶にいれて保存する。搾乳した母乳は7時間以内に用いる。それ以上保管する場合は冷蔵ないし冷凍する。冷蔵で8日間、冷凍すると4か月利用可能である。研究[35]によると、搾乳された母乳の抗酸化作用は時間の経過とともに減少するが、それでも粉ミルクより高いレベルにある。
しばらく母子が引き離される場合でも、搾乳することで母乳の出を維持する事ができる。赤ん坊が嚥下できない場合は経鼻カテーテルを用いれば胃内に直接与えることが可能である。
搾乳は、歯が生え始めた子供にかまれたり(母親が痛がればやむことが多いのだが)して乳首が痛む場合も便利である。
搾乳した自分の乳を直接、ないしは病院をとおして他の人に提供する場合もある。他人の乳などわが子に飲ませたくない、という向きもあるが、それでも母乳栄養の恩恵に与りたいという人もいる。
WHOは全ての母親に母乳栄養を勧めている。WHOの基準を満たす病院では粉ミルクは禁止されてはいないものの、母乳で育てうる子供には与えられない。新生児に粉ミルクを与えると、母乳栄養の確立を損なう。
母乳栄養を選択しなかったり、不可能だったりする場合は育児専用に調整された粉ミルクを通常哺乳瓶の中に入れて利用する。フォローアップミルクのように離乳時に栄養の補助として用いられるものもある。これはヒトの子供用に各種成分が調整されているので、他の哺乳類の乳(牛乳など)や脱脂粉乳など、未調整のものを与えるより健康上はるかに優れている。
母乳栄養より劣る方法ではあるのに、粉ミルクはモダンでイージーかつ便利な選択肢として新しい母親向けに市場が開拓されてきた。2004年にイギリスの健康省(Department of Health)が調査した所、34%の女性が粉ミルクは母乳とほとんどかわりがないと信じている[36]。1979年には、新生児に対する補助的な粉ミルクの授乳、不適切な粉ミルクの宣伝、母乳栄養を妨げるような母親の態度の変化を助長することについてInternational Baby Food Action Network (IBFAN)が注意を喚起している。しかし、1980年代以降、アメリカや日本は他の地域に先駆けて、より母乳に近い成分の育児用粉ミルクを開発してきたため、当時とは状況に違いがある。
両方の乳房から二人の子供に同時授乳することを「タンデム授乳」(タンデムは二人乗り、縦列などの意)という。「ダブルフィーディング」と呼ぶ人もいる。
最もよく見られるのは双生児を同時に授乳する場合である。もっとも、双子といっても、同じようにお腹がすくわけではないから、同じように授乳しなければならないというわけでもない。同時に授乳しようとすると、その子なりのペースで母乳を飲むことを阻害しかねない。
三つ子以上になると、全ての子供のペースに合わせ食欲を満足させるのはとても難しくなる。乳腺は必要な量の母乳を合成でき、母乳で三つ子以上を上手に育てた母親はたくさんいるが[37]、別の選択肢を使うのが普通である。
双子でなくても、先に生まれた子供が離乳しないうちに次の子供が生まれた場合もタンデム授乳が便利である。この場合、妊娠の最後になると母乳はこれから生まれてくる子供向けに初乳になる。初乳状態の母乳を飲ませ続けることも、これを切っ掛けにして上の子を断乳することもある。
異論を唱える人もいるが、女性によっては3歳、まれには7歳の子供にまで母乳を与え続けることがある。過期授乳(extended breastfeeding)と呼ばれるものである。これを支持する人は、母乳の栄養上、情緒上の利点を挙げ、子供が飲む間はずっと母乳を与える。反対者は7歳まで授乳を遷延させると、子供の情緒を未成熟なままにし、性心理学的な問題を残すと信じている。
アフリカなどの発展途上国の一部では、複数の母親が一人の子供に授乳することも普通にみられる。この「共同授乳」は出生時はHIV陰性だった乳児にHIV感染が拡大する原因の一つとして注目されている[38]。 乳母 参照
新米の母親むけに母乳栄養の手助けとなる多くの出版物がある。赤ん坊は通常、泣いたりぐずったりして空腹を知らせる。赤ん坊の頬を撫でると、撫でた向きに顔を向けて唇を開く(原始反射の一つ。哺乳反射と呼ばれる)。授乳中はのどがかわくことがあり、最初の頃は一回の授乳に1時間もかかることがあるので、授乳中、飲み物をとって水分を補給するのが普通である。
授乳は自然な行為に見えるが、上手に授乳するにはそれなりのテクニックが必要である。授乳がうまくいかない主な理由は赤ん坊の抱き方で、抱き方が悪いと乳首や乳房をいためやすい。赤ん坊の頬を軽く押して乳首を口につけると、赤ん坊は唇を開き乳首の側を向く。そこで乳首と乳輪が赤ん坊の口一杯になるくらいに含ませる。そうすると乳首は赤ん坊の咽の奥に当たるはずである。この体勢をつくることをlatching onという。陥没乳頭、扁平乳頭の場合はマッサージによって赤ん坊がしゃぶりつけるだけの余地をつくりだせる。普通のブラジャーより乳首を出しやすい「授乳用ブラ」を使う女性が多い。
数分たつと、あるいは十分長く飲んだ後、赤ん坊は乳首を離そうとする。そのまま同じ乳房から飲み続けることもあるし、もう一方の乳房を与えてもよい。乳腺が空になっていくにつれ、脂質含有量が増える。時間制限を行ったり、すぐ次の乳房に移らせたりしないで、飲み始めた乳房が空になるまで飲ませてよい。
授乳時間はさまざまである。その長短にかかわらず、授乳している女性が快適な状態にあることは重要である。
授乳中に赤ん坊を抱く方法にはいろいろあり、母親の快適さと子供の好みで選ばれる。例えば、片側の乳房の方を選り好みする子もいる。ほとんどの女性はだっこスタイル(Cradling Position)で授乳している。子供の身長、母親の体格によって、子供を縦に抱く(縦抱き)も横に抱く(横抱き)こともある。
タンデム授乳の場合、一方の乳房から他方へ赤ん坊を抱きかえることができないので腕が疲れやすく、特に子供が成長するとますますやっかいなことになる。サポート用の枕を用意する母親が多い。好まれるスタイルは:
場合によっては授乳が痛みを伴う場合がある。テクニック不足によるものは通常しばらくすると改善される。乳管が閉塞すると、乳房の充血や炎症が起るが、その際はマッサージを行うと同時に、むしろ積極的に問題のある側の乳房を吸わせ、症状が収まるまでできるだけ空にしておくことが良いとされている。乳首にカンジダ症がある場合も痛い。授乳時間を制限しても痛みは防止できない。
紅毛碧眼の白人は乳首の割れをもっとも経験しやすいといわれているが、赤ん坊を抱く姿勢が悪いと、誰にでも起こりうることである。赤ん坊がまだ上手に乳房にしゃぶりつかせたり乳房を離したりするのができない場合も、舌や吸引によって乳首の傷みが起こりうる。吸うのをやめさせる場合は、赤ん坊が乳房を離した隙をみて、唇のところに指を入れるか、静かに乳首を押し下げる。Nursing Padやきついブラは乳房や乳首の痛みの原因になりうる。ヘアードライヤー、サンライト、石鹸、アルコール、香水、脱臭剤、ヘアースプレー、ボディパウダー、搾乳器の誤用なども原因となりうる。哺乳瓶を使ったりニップルシールド(乳首保護具)を使ったりしても赤ん坊の吸い方が変わってしまう。
乳首の保護に医療用のラノリン(羊の皮膚や毛に含まれる高級脂肪酸および高級アルコールのエステルの混合物。)を用いる母親もいる。Lansinohの名でLa Leche League Internationalが授乳中の母親向けに医療用精製ラノリンクリームを販売しているし、日本薬局方の第二部にも「加水ラノリン」が収載されている。自分自身の母乳を搾って、それを乳首に塗るのも保護になる[39]。6週間も授乳をすれば、母子共にテクニックが上達しこれらの問題は解消に向かう。乳首の痛みが耐え切れない場合は、搾乳によって母乳栄養を継続することもできる。
離乳は、乳にかわって、これから食べて行くことになる食品を与えはじめ、乳を与えることをやめていく過程である。このうち、母乳を直接授乳することをやめる過程が断乳である。子供はおっぱいを欲しがるものなので、断乳はいささか難しい。日本では乳房に恐い顔を描く、乳首に辛子を塗るなどの方法をとることもあり、泣いても言って聞かせておっぱいを出さないなどの説得作戦もある。一旦離乳が成功すると、もう母乳の出番はなくなり、離乳食その他固形の食品で全ての栄養をまかなうようになる。ほとんどの哺乳類は離乳の末期にラクターゼの分泌が止まり、乳糖不耐症の状態になる(乳製品をうけつけない。無理して飲むと下痢をする)。突然変異の結果、多くのヒトの場合、生涯ラクターゼの分泌が続き、離乳後も乳製品を摂取することができる[40]。ほとんどの場合、それは家畜の乳から作ったものである。
人類の歴史の初期は、他の哺乳類と同様、母乳を授乳するのが普通だった。母子共に他の手段がなかったのである。先の「共同授乳」で触れたように、多くの発展途上国では現在でもこの状態がみられる。
エジプト、ギリシャ、ローマ帝国では母親は自分の子供に授乳したものであったが、後の時代になると、あまりに一般的すぎる授乳という行為は王家の者にとっては下賤とみなされたのか、乳母が雇われ王室の授乳役となった。高貴な生まれの者、または王家に嫁いだものが乳母に授乳させるというこの習慣は特に西欧では長く続いた(この問題には生物学的な意味もある。乳母参照)。
ブラーフマナによると、2世紀インドでは授乳は普通に行われていたが、出産後最初の4日は授乳せず、初乳は捨てられていたらしい。
西洋で最初に母乳以外の方法が一般的になったのは15世紀末のことだった。多くの親が母乳の代わりに牛や羊の乳を与えたのである。これは当時の労働条件が定期的な授乳を容易に許さなかったからである。牛や羊の乳を与えることの問題点が表れると、このやり方は消えていき、16世紀末には再び母乳栄養がほとんどの家庭で好まれるようになった。1583年にイタリア人Hieronymus Mercurialisが記す所によると、一般に母親は早ければ3か月、遅くても13か月で断乳したとのことである。
再度母乳離れが進んだのは、19世紀のことで、小麦粉やシリアルをブイヨンや水でといたものを用いたDry nursing(dry nurseは乳を出さない乳母のこと)である。これもすぐに消えた。この頃には都市化が進み、都市部と田舎では授乳の習慣に明確な差が生じていた。都市部では代替する食品が手に入りやすかったので授乳期間は田舎より相当短かった。
小児用ミルクを開発したのはアンリ・ネスレ(食品コンツェルン「ネスレ」の創始者)で、1860年代のことである。粉ミルクは第二次世界大戦後のベビーブーム時代に爆発的な売れ行きをしめすこととなった。先進国での出生率が落ち着き、売れ行きが落ちると、ネスレ他の企業は工業化が進んでいない国々に向けて攻撃的なマーケティングの鉾先を向けた。一方、工業化が進んだ国では政府が率先して母乳栄養の利点に光を当てる戦略にでた。
伝統的に日本では家庭で出産し、乳房をマッサージしながら母乳を直接授乳した。断乳は遅めで、稀な例では思春期の初めごろまで母乳を与えることがあった。第二次世界大戦後、(近代西洋医療の)医療機関の普及にともない、病院(産院)での出産が増え、そこでは新生児は新生児室に入れられ粉ミルクを与えられた。アメリカでの粉ミルクのブームもあり、1950年頃からは母乳栄養が衰退し、人工栄養が増加した。WHOと厚生省はこれを憂慮し、厚生省は1974年に母乳栄養推進運動を開始、母乳栄養の利点を広めた。その後、劇的に母乳栄養が復活し社会に定着した[41]。日本は「赤ちゃんにやさしい病院 (Baby-friendly hospital, BFH)」が作られた最初の先進国である(現在同国内では他に24の同様な施設が存在する[いつ?])。
1994年のカナダ政府による調査では、カナダにおける73%の母親が母乳栄養を始めた。1963年には38%であったから格段の上昇である[42]。母乳栄養を行っている率は西部カナダ人の方が高く、ブリティッシュ・コロンビアでは87%なのに、Atlantic provinceでは53%に止まる。回答を寄せた90%以上の女性が赤ん坊にとって母乳栄養は人工栄養に優ると言っている。母乳栄養を行っていない女性の内、40%は人工栄養の方が楽だからと答え、これが最も多い回答だった。母親の年齢、教育水準、収入が高い程母乳栄養を選び、既婚女性の方が未婚女性より母乳栄養を好んだ。母乳栄養を行った女性の内約40%は3か月以内に母乳栄養を止めている。自分の母乳の出が足りないのではないかと思い込んでいる母親は母乳栄養を止めてしまう傾向にある。3か月以上母乳栄養を続けた女性の場合、復職または「最初から決めていた期間になったから」というのが大きな理由である。
2003年のLa Leche League Internationalによる研究では、72%の母親が母乳栄養を開始し、31%が4か月以降も続けている([29])。
1996年のカナダ公衆衛生学雑誌 (the Canadian Journal of Public Health) に発表された論文[43]によると、バンクーバーでは82.9%の母親が母乳栄養を始めているが、帝王切開と経膣分娩ではその率が異なり、前者は91.6%、後者は56.8%であった。同論文はまた、9か月には18.2%の母親だけが母乳栄養を続けていたとし、母乳栄養は母親の婚姻状況、教育、家計に有意に相関していると報告している。
1940年以降、キューバは憲法でも母乳栄養の利点を認め、これを推進することとなった。
民衆からの圧力に呼応して、さまざまな政府の健康関連省庁が母乳栄養を女性の間に広めることの重要さを認識してきた。さまざまな施設に子連れで入れるようにするために、授乳やおむつ替えのための場所が確保されたのは大きな一歩であった。多くの国では、公衆が集まる場所で授乳することは母親の権利であると適切に法律で定められている。
WHOはInternational Baby Food Action Network (IBFAN) のような草の根NGOと共に、各国政府が母乳栄養を推進するよう大いに働きかけてきた。この働きかけによって、各国は母乳栄養推進戦略を固め、母親に母乳栄養の利点を教え、励行すべく活動を展開している。特に25歳未満の母親に母乳でわが子を育てなさいと勧めているのである。
例えばこのようなキャンペーンや戦略がある:
しかし、かなりの昔から、人工的な母乳代替品を販売し人工栄養を進めようとする企業と母乳栄養を守ろうとする草の根NGOやWHOとの間には争いが絶えない。1981年にWHOとUNICEFが「母乳代替品のマーケティングに関する国際基準 (International Code of Marketing of Breast-milk Substitutes) 」を作ったが、IBFANのネットワークに含まれるものをはじめとして、いくつかの組織が問題点を指摘した。特にネスレがこれを守るのに3年間の猶予を得たにもかかわらず、1990年代末から2000年代初頭にかけてこれを破ったからである。この基準については([30])等参照。日本は棄権し、アメリカ合衆国は反対した(1994年に反対を撤回)。
一方、行き過ぎた母乳推進運動に対する反論も多く認める。90%以上の母体では充分に母乳を分泌できると考えられる反面、母乳の有益性を強く進めすぎる余り、一部の母乳分泌の悪い母体で人工乳を与えず、赤ちゃんが低血糖を起こすまで低栄養状態で粘ることなどの問題が臨床現場でしばしば認められる。
母乳を肯定する論文が乱立した時期があり、例えば「母乳栄養の子供は人工乳栄養よりも知能が高い」といった論文も複数だされたが、Jain は2002年に「詳細な検討を行った結果、母乳栄養が知能の発達をより促進すると結論付ける論文は過去にたくさんあるが、その殆どが結果を受け入れがたい質の低い論文である」[44] と小児科領域における権威的雑誌「Pediatrics」でそれまでの母乳優位の検証自体に問題があると提起している。
国内の小児科学雑誌においても完全母乳栄養児に置ける低血糖症例が発表され[45]、2008年5月28日の朝日新聞に置いても支持する記事が掲載され、完全母乳栄養にこだわりすぎることに対して小児科領域で賛否両論の大きな議論を起こした。
乳幼児突然死症候群(SIDS)の原因としても一時期人工乳が悪役として提唱された時期もあったが、2005年の米国小児科学会におけるSIDSリスクには人工乳は取り上げられていない[46]とする見解もある。
多くの国、特に総じて健康状態の貧困な国では、5歳未満での死の主たる理由が栄養不良であり、0歳児の死因の60%がこれである[47])。Plan International や La Leche League といった国際組織は母乳栄養を全世界で推進しており、新米産婦の教育や、母乳栄養のみを実施する女性の数を増やすための政府の戦略づくりに手を貸している。
多くの発展途上国では伝統的な信条によって新生児をもった女性に異なったアドヴァイスがなされる。ガーナではいまなお母乳と同時に赤ん坊に茶を飲ませることがしばしば行われている[48]。こうすると母乳オンリーの育児の利点を損なうし、鉄の吸収が悪くなる[要出典]。鉄の吸収は鉄欠乏性貧血の予防にも重要である。
1981年、118ヵ国の賛成で「母乳代替品のマーケティングに関する国際基準 」が成立した。ところがアメリカ合衆国は憲法で保証された表現の自由に抵触するとしてこれに反対した。法人にもひとりひとりの人間と同じ人権があるというのである[49]。前記の通り、日本は棄権した。
人々が集まる場に乳児を伴う場合も、乳児におっぱいを飲むなとはいえない。そのような場で人目に晒されながら授乳するのは自他共に居た堪れないものである。公共の場での授乳は世界各国で合法なものとされ、職場での授乳を拒む企業は罰せられている。
アメリカ合衆国では「授乳権法」the "Right to Breastfeed Act" (HR 1848)が法文化された(1999年9月29日)。連邦のいかなる施設でも女性は自分の子に授乳することができる。しかしながら、州によってはその州の施設について同様の法制化が行われていないこともある。子供が育児を受ける権利を明文化しようという動きはオハイオ州では成功したが、ウェストバージニア州他では失敗した。2005年6月までに、35の州で授乳する母親とその子供を守る法律が制定された。いかなる公共の施設でも授乳は合法である。
イギリスの保健省Department of Healthは調査の結果、ほとんど(84%)の人々が独立した場所で行われる限りにおいて公共の場での授乳を認めていると発表した[50]。それと対照的に、67%の母親は公共の場での授乳が世論の糾弾を浴びるのではないかと案じている。スコットランドではこのような脅威と戦うために、公共の場で授乳する女性を守る法案[51]が提出され議会を通過した[52]。許可された場での授乳を妨害すると£2500以下の罰金となる。
カナダでは「人権と自由の憲章」(the Canadian Charter of Rights and Freedoms) において男女差別問題に関係してある程度の保護がある。しかし、授乳の権利は明文化されていない。1989年、カナダ最高裁は妊娠は女性特有の状態の一つであって、妊娠をもとにした差別は男女差別の一つであるという判決を下した (Brooks v. Canadian Safeway Ltd.)。カナダの判例はまた、男性と同様女性も自分の胸を露出することが許されるともいっている。ブリティッシュコロンビア州では、ブリティッシュコロンビア人権会議・方針と手続きの手引き (the British Columbia Human Rights Commission Policy and Procedures Manual) が女性勤労者が授乳を望んだ場合それを権利として認めることを定めている。
多くの母親は食事時に外出する際、搾乳器や自分の手で搾った母乳を携帯している。小さな瓶を持ち運ぶだけで、人前で不愉快な思いをしなくても母乳栄養をおこなうことができるからである。ただし、直接の授乳になれた赤ん坊は哺乳瓶を嫌うことがあるので、うまくいかないこともある。
次の表は、母乳栄養がどの程度浸透したかを示すものである[53]。
国 | 母乳栄養率 | 年(西暦) | 授乳方法 |
---|---|---|---|
アルメニア | 0.7% | 1993 | 母乳のみ |
20.8% | 1997 | 母乳のみ | |
ベナン | 13% | 1996 | 母乳のみ |
16% | 1997 | 母乳のみ | |
ボリビア | 59% | 1989 | 母乳のみ |
53% | 1994 | 母乳のみ | |
中央アフリカ共和国 | 4% | 1995 | 母乳のみ |
チリ | 97% | 1993 | 母乳優位 |
コロンビア | 19% | 1993 | 母乳のみ |
95% (16%) | 1995 | 母乳優位(母乳のみ) | |
ドミニカ共和国 | 14% | 1986 | 母乳のみ |
10% | 1991 | 母乳のみ | |
エクアドル | 96% | 1994 | 母乳優位 |
エジプト | 68% | 1995 | 母乳のみ |
エチオピア | 78% | 2000 | 母乳のみ |
マリ共和国 | 8% | 1987 | 母乳のみ |
12% | 1996 | 母乳のみ | |
メキシコ | 37.5% | 1987 | 母乳のみ |
ニジェール | 4% | 1992 | 母乳のみ |
ナイジェリア | 2% | 1992 | 母乳のみ |
パキスタン | 12% | 1988 | 母乳のみ |
25% | 1992 | 母乳のみ | |
ポーランド | 1.5% | 1988 | 母乳のみ |
17% | 1995 | 母乳のみ | |
サウジアラビア | 55% | 1991 | 母乳のみ |
セネガル | 7% | 1993 | 母乳のみ |
南アフリカ | 10.4% | 1998 | 母乳のみ |
スウェーデン | 55% | 1992 | 母乳のみ |
98% | 1990 | 母乳優位 | |
61% | 1993 | 母乳のみ | |
タイ | 90% | 1987 | 母乳優位 |
99% (0.2%) | 1993 | 母乳優位 (母乳のみ) | |
4% | 1996 | 母乳のみ | |
ザンビア | 13% | 1992 | 母乳のみ |
23% | 1996 | 母乳のみ | |
ジンバブエ | 12% | 1988 | 母乳のみ |
17% | 1994 | 母乳のみ | |
38.9% | 1999 | 母乳のみ |
妊娠したことのない女性も母乳を分泌することができ、したがって授乳することもできる。これをinduced lactation (誘導された乳汁分泌)と呼ぶ。 以前乳汁分泌のみられた女性の場合は relactate (乳汁の再分泌)と呼ぶ。搾乳器でも、実際にしゃぶってもいいのだが、乳首を授乳時と同様に刺激し続けると、母乳の合成が始まり、授乳が可能になる。これが一旦成立してしまえば、必要に応じた量の母乳が出るようになる。通常の出産を経て授乳させている母体となんら変わりはなく、分泌量も通常の母体が母子間でのみ行われる事に比して、この場合はそれを上回る場合もある。 乳母はこの方法で授乳をしている。また、養子をもらった母親も、最初のうちは母乳以外の補助が必要になるが、結局このようにして母乳栄養が可能になる[54]。誘導された母乳も妊娠で出る母乳も成分にはほとんどまたは全く差がないと考えられている。稀に男性が乳汁分泌することもある。
疾患としての妊娠を伴わない乳汁分泌には、プロラクチンの分泌過剰によるものがある。乳汁分泌、下垂体性無月経(女性)、インポテンツや女性化乳房(男性)を主な症候とする。下垂体の腫瘍(プロラクチン産生下垂体腺腫、プロラクチノーマ)が最も多い原因である。 抗鬱剤の副作用も一部知られている。
母乳は乳児のう蝕発生の要因であると考えられてきた。その理由としては、母乳中に7%程度含まれるラクトースがう蝕を起こすからといったものであった。しかし、近年このラクトースでは、試験管の中で乳歯と細菌を入れ最適な条件で培養するといったような実験室的な環境ではう蝕が発生するものの、臨床的にはほぼ発生することがないことが確認された。統計的には、母乳で育った子供にはう蝕の発生が多いという結果があるが、これは母乳そのものによるものではなく、母乳の利点であるいつでも与えられる簡便さによって、その後の不規則な食事の時間など食習慣が決定されてしまうという理由によるものである。[55]
一方、おしゃぶりや哺乳瓶の使用によりう蝕罹患率が高くなるとする研究がある[56][57]。
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