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アルコール依存症
Alcoholism |
分類及び外部参照情報 |
「アルコール王とその宰相」1820年。横に「貧困、悲惨、犯罪、死」とあり「宰相」は死神。
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ICD-10 |
F10.2 |
ICD-9 |
303 |
MedlinePlus |
alcoholism |
MeSH |
D000437 |
プロジェクト:病気/Portal:医学と医療 |
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アルコール依存症(アルコールいそんしょう、アルコールいぞんしょう、Alcoholism)とは、薬物依存症の一種で、飲酒などアルコール(特にエタノール)の摂取(以下「飲酒」とする)によって得られる精神的、肉体的な薬理作用に強く囚われ、自らの意思で飲酒行動をコントロールできなくなり、強迫的に飲酒行為を繰り返す精神疾患である。患者は、アルコールによって自らの身体を壊してしまうのを始め、家族に迷惑をかけたり、様々な事件や事故・問題を引き起こしたりして社会的・人間的信用を失ったりすることがある。WHOはアルコールにより毎年250万人の死をまねいているとしている[1]。
目次
- 1 概要
- 2 形成と特徴
- 3 症状
- 3.1 合併症
- 3.1.1 精神(神経)疾患
- 3.1.2 身体的疾患
- 4 女性とアルコール
- 5 治療
- 5.1 治療薬
- 5.2 多重の中毒
- 5.3 治療に向けての取り組み
- 6 予後
- 7 脚注
- 8 関連項目
- 9 外部リンク
概要
以前は慢性アルコール中毒、略してアル中と呼ばれていたこともある。かつては、このような状態になってしまうのは本人の意志が弱く、道徳観念や人間性が欠けているからだとの考え方で済まされて納得されてきていたが、最近では社会的な必要性からも医学のカバーする範囲がより拡大されていくことに伴って、医学的見地から精神疾患の一つとして治療を促す対象と考えられている。飲酒が自分の意志でコントロールできなくなる症状を精神的依存、震顫妄想などの退薬症状(離脱症状、リバウンドともいう)を身体的依存と言い、アルコール依存に限らず他の様々な薬物依存症も同じような特徴を持っているとされる。
日本の飲酒人口は6,000万人程度と言われているが、このうちアルコール依存症の患者は230万人程度であると言われている。飲酒者の26人に1人がアルコール依存症という計算になり、精神疾患の中でも罹患率が高く、各人の性格や意志にかかわらず誰でもかかる可能性がある病気であるとも言える。なお、この230万人という人数はWHOの算出方法により割り出されたものである。2003年の精神科病院における「アルコール使用による精神及び行動の障害」による入院患者数は2,751人であった[2]。
体格や女性ホルモンなどの要因から、男性よりも女性の方が少量の飲酒で依存症に陥ってしまう危険が高いとされる。
フランスやスウェーデンなど複数の先進国においては、企業がアルコール飲料をテレビCMによって販売促進することを法律によって禁止している。日本では2014年1月にアルコール健康障害対策基本法が成立し、対策計画を策定することが求めらることとなった。
形成と特徴
通常は飲酒行動を、主にアルコールによって得られる肉体的・精神的変容に求めることが多いが、初めのころは毎日飲むわけではなく、何かの機会に時々飲むだけという機会飲酒から始まる。しかし、何らかの原因で毎日飲む習慣性飲酒に移行することも多く、習慣性飲酒となると同じ量の飲酒では同じように酔うことができなくなり、次第に飲酒量が増えていくことになる(耐性の形成)。つまり、アルコール依存症になることはこの「習慣性飲酒」と深い関係があるということになる。もちろん、習慣性飲酒をする者すべてがアルコール依存症患者であるとは言えないが、何らかのきっかけがあればさらに飲酒量が増え、いつの間にか依存症に陥ってしまうという危険性は充分はらんでいると言える。
一見すると本人が自分の判断で好んで飲酒しているようにみえ、患者自身も好きで飲酒していると錯誤している場合が多い。そのため、患者にアルコール依存症のことを告げると「自分は違う」などと激しく拒絶をされることも多々あり、否認の病気とも言われている。しかし、依存が重度になると断酒によって肉体的・精神的に離脱症状(禁断症状)が出るため、楽しむためではなく離脱症状を避ける目的で飲酒を繰り返すことになる。このような状態に陥ってしまうと、もはや自分の意志だけで酒を断つことが極めて困難となる。
また、アルコール依存症の形成を助長するものとして、アルコール依存症になる人の周囲には、酒代になりうる小遣いを提供したり、過度の飲酒で生じる社会的な数々の不始末(他人に迷惑をかける、物品を壊す、等)に対して本人になり代わり謝罪したり、飲酒している本人の尻ぬぐいをする家族など(イネーブラー(enabler)と呼ばれる)が存在することが多い[3]。イネーブラーは飲酒している当人の反省を必要とさせず、延々と過度に飲酒することを可能にしてしまうとされる。逆に、一切のイネーブラーがいなくなったり、医師から死を宣告されたりしたことをきっかけに、本人が「底つき体験」(「どん底体験」ともターニング・ポイントとも呼んだりする[3]。“このままでは大変なことになる”という意識の発生)をし、それをきっかけにアルコール依存症から立ち直ることがある[3]。
さらに、アルコール依存症者の配偶者などには、アルコール依存症者に必要とされることを必要とする共依存(co-dependency)の状態に陥っている人もいる[3]。そのため、アルコール依存症者本人以外の家族も問題となっている可能性もあり、アルコール依存症者本人の治療だけでなく、その配偶者などに対しても正しいカウンセリングなどが必要となるケースもある[3]。
この他にも、アルコール依存症患者の症状及びその周囲を取り巻く社会への影響から、この病気は次のような特徴を持っている。
- 進行性疾患
- 自分が依存的に飲酒していると気付かずにそれを続けるとさらに飲酒量が増えて症状が悪化し、悪循環に陥る。
- 慢性疾患
- 一度依存に陥ると回復が極めて困難である。いわゆる「上手に酒を飲む」ということができなくなる。
- 人格変化を引き起こす疾患
- 依存に陥ったことを周囲のせいにしたりして攻撃的・他罰的・自己中心的な性格になる。あるいは逆に自分のせいにして自虐的になり、後悔・不安・孤独に苛まれるようになる。また、アルコールの入っていない状態であっても酔っているとき同じような言動をする「ドライドランク」と呼ばれる状態になることもしばしばある。
- 不治の疾患
- アルコール依存症になった者が元の機会飲酒者に戻ることはほとんど不可能であるとされている。たとえ身体的に回復し、数年にわたる断酒を続けていた者であっても、一口でも飲酒をすることによって再び元の強迫的飲酒状態に戻ってしまう可能性が非常に高い。そして、進行性の病気であるためにさらに症状は悪化していく。つまり、悪くなることはあっても、決して良くなることはない病気であり、寛解(かんかい)の状態で再発つまり再飲酒をどう防ぐかが治療の重要な点となる。
- 死に至る疾患
- 適切な対処をしなければ、内臓疾患あるいは極度の精神ストレスなどによる自殺・事故死など、何らかの形で死に至る。アルコール依存症者の予後10年の死亡率は30 - 40パーセントと非常に高く、節酒を試みた患者と通常に飲酒した患者とでは死亡率に差が見られず、断酒することによってのみ生存率が高まる[4]。
- 機能不全家族の形成要因
- 飲酒による問題行動により、その家族は常にストレスに苛まれることになる。家族は常に飲酒をやめさせることばかり考えるようになり、家族まで精神疾患を罹患してしまうケースも少なくない。家族との信頼関係の亀裂に始まり、別居や離婚へと発展して家族が崩壊する原因となったりする。
- アダルトチルドレン(AC、Adult Children of Alcoholics アルコール依存症の親のもとで育ち、成人した人々)の語源となっているように、アルコール依存症者のいる家庭での家族に与える影響は多大なものであり、とくに親から子へアルコール依存などの嗜癖問題が世代間で伝播する現象がよく見られる。そのため、アルコール依存症は患者本人だけの問題ではなく、家族全体を巻き込み、特に機能不全家族の形成を助長する。
アルコール離脱
詳細は「:en:Alcohol withdrawal syndrome」を参照
バルビツール酸系やベンゾジアゼピン系といった催眠鎮静薬と同様に、アルコール依存からの離脱は適切な管理を伴わなければ、致命的となる可能性がある[5]。アルコールの主な作用は、GABAA受容体への刺激を増加させ、中枢神経の抑制を促すことである。アルコールの大量消費を繰り返すとこの受容体は感度が減少し、また数が減る。そのために薬物耐性と身体依存が起こる。アルコールを急速に断酒すると、中枢神経系はシナプス発火のコントロールを失う。これによって不安、致命的な発作、振戦、せん妄、幻覚、心不全などをまねく[6][7]。その他の中枢神経系では、主にドーパミン、NMDA、グルタミンが関係している[8]。
急性離脱症状は、1~3週間ほど続くことが多い。重篤ではない症状(不眠、不安、無快感症)は、遷延性離脱症候群として1年、またそれ以上の断酒により、徐々に改善されていく[9][10][11]。離脱症状は、体と中枢神経系がアルコール耐性とGABA機能について正常に向かって復元されるまで続く[12][13]。
症状
- 自分の意志で飲酒のコントロールが出来なくなる。
- アルコール依存症の人も、何とかして適量のアルコールで済ませておこうとか、あるいは今日は飲まずにいようかと考えていることが多い。しかし、一度飲み始めたら適量で終えるのは99パーセント不可能になると分かっていても、もしかしたら今日は運よく1パーセント適量で済ませられるかもしれないと思ったり、あるいはアルコールを飲まなかったときに得られるメリットは事前に体感できないためにメリットを想像する力が不足していると、アルコールによる快感の方を選択してしまう。また、例えメリットが確実に得られるという根拠が無く、得られる可能性が1パーセント程度にしか思えなかったとしても、長期的にはアルコールを飲まないことでメリットが得られるようになることは確実であるため、長期間生存する意思があれば本来は長期的なメリットの方を選択するべきであるが、アルコールによる誤った思考判断によってそのように考えること自体が出来なくなっていたり、そうでなくともアルコールによる誤った判断によってアルコールで確実に得られる目先の快感の方を選択してしまう。これを継続し続けることで現状が確実に悪化していき症状もさらに進行することになるとは思っていないため、誘惑に勝つ必要性を見出しきれずに、明確な禁酒の意志までは持つことが出来ず、確実に快感を得られるアルコールの方を選択して飲み始めてしまう。そして、一度飲み始めたら自分の意志では止まらなくなって酩酊するまで飲んでしまう。このような飲酒状態を「強迫的飲酒」という。少量のアルコールの摂取によっても脳が麻痺してしまい、一滴でも飲み始めたらその後の飲酒の制御がほぼ不可能になるようなアルコール耐性が弱い体質となった状態である。
- 目が覚めている間、常にアルコールに対する強い渇望感が生じる。
- 強迫的飲酒が進んでくると常にアルコールに酔った状態・体内にアルコールがある状態にならないと気がすまなくなったり、調子が出ないと思うようになったりして、目が覚めている間は飲んではいけない時(勤務中や医者から止められている時など)であろうとずっと飲酒を続けるという「連続飲酒発作」がしばしば起こることがある。会社員など、昼間に人目のつく場所で飲酒ができない場合、トイレなどで隠れて飲酒をする例がある。さらに症状が進むと身体的限界が来るまで常に「連続飲酒」を続けるようになり、体がアルコールを受け付けなくなるとしばらく断酒し、回復するとまた連続飲酒を続けるというパターンを繰り返す「山型飲酒サイクル」に移行することがある。ここまで症状が進むとかなりの重度である。
- 飲酒で様々なトラブルを起こし後で激しく後悔するも、それを忘れようとまた飲酒を続ける。
- 飲酒量が極端に増えると、やがて自分の体を壊したり(内臓疾患など)、社会的・経済的問題を引き起こしたり、家族とのトラブルを起こしたりするようになる。それでさらにストレスを感じたり、激しく後悔したりするものの、その精神的苦痛を和らげようとさらに飲酒を繰り返す。このように自分にとっての損失が強くなっているにもかかわらず飲酒し続ける行動を「罰への抵抗」と呼ぶ。
- 離脱症状(退薬・禁断症状)が出る。
- アルコール摂取を中断した際、様々な症状が生じる。軽いものであれば、頭痛、不眠、イライラ感、発汗、手指や全身の震え(振戦)、眩暈、吐き気などがあるが、重度になってくると「誰かに狙われている」といった妄想や振戦せん妄、痙攣発作(アルコール誘発性てんかん)なども起こるようになる。幻覚(幻視・幻聴)も頻繁に起こる症状で、小さな虫のようなものが見えたり、いるはずのない人が見えたり、耳鳴りや人の声が聞こえたりと症状は患者によって様々であるが、幻覚を全く経験しない人も多くいる。
- 患者にとってこれらは苦痛であるため、それから逃れるために飲酒をすることになる。
- また、急性期の離脱症状を過ぎた後でも、怒りっぽくなったり、抑うつ状態になるなどの情動性の不安定な遷延性退薬徴候とよばれる状態が数か月続く場合がある。
- 耐性の増大。
- 同じ酩酊を感じるのに要する飲酒量が増大する。または、同じ飲酒量での酩酊感が減弱する。
合併症
アルコール依存症の患者は、心身に多くの疾患を抱える危険性を持っている。逆に、他の精神疾患がアルコール依存症を誘発することが分かっている。
精神(神経)疾患
- うつ病
- アルコール依存症によって引き起こされる場合もあるが、逆にうつ病によってアルコール依存症に陥ることもある。
- 不安障害
- パニック障害、社交不安障害など。
- 双極性感情障害(躁鬱病)
- 双極性感情障害の患者が自己治療的に飲酒を続けた結果、アルコール依存症に陥る場合がある。
- 統合失調症
- 統合失調症の患者が自己治療的に飲酒を続けた結果、アルコール依存症に陥る場合がある。
- ウェルニッケ‐コルサコフ症候群
- サイアミン(ビタミンB1)の欠乏によって発症する疾患で、急性症状をウェルニッケ脳症(アルコール性脳症)、慢性状態をコルサコフ症候群という。ウェルニッケ脳症は可逆的で数週間以内に自然に消失することがあるが、コルサコフ症候群に進展すれば80パーセントが回復しないが、生命の危険は少ない。意識障害、外眼筋麻痺、記憶力障害、小脳失調、失見当識(場所や時間が分からなくなる)の症状がでる。コルサコフ症候群では記憶障害の結果として、記憶の不確かな部分を作話で補おうとすることが知られる。サイアミン投与が有効である。
- アルコール幻覚症
- 被害的内容の幻聴を主とする幻覚が、飲酒中止時や大量飲酒時に急性・亜急性に出現する。飲酒を中止することで、数週間以内に消失することが多い。幻覚により殺人に至るケースも起きている[14]。
- アルコール性妄想状態
- アルコール依存症でみられ、了解可能な嫉妬妄想が主。断酒によって次第に消失する。
- ニコチン酸欠乏脳症(ペラグラ)
- ニコチン酸(ナイアシン)の欠乏によって発症する。幻覚・妄想やせん妄の症状がでる。
- 小脳変性症
- 文字通り小脳がアルコールの影響で変性することで発症する。歩行障害など下肢の失調が起こる。
- アルコール性痴呆
- アルコール自体が痴呆の原因となりうるのかは今のところ不明。ただし、臨床的にはアルコール摂取が背景になっていると見られる痴呆が確かに存在する。画像検査では、脳室系の拡大と大脳皮質の萎縮が見られる。
- アルコール性多発神経炎(末梢神経炎)
- アルコールが原因の栄養障害(ビタミンB群とニコチン酸の欠乏)により発症する。四肢の異常感覚や痛み、感覚鈍麻や疼痛、手足の筋肉の脱力、転びやすい、走りにくいなどの症状。コルサコフ症候群に合併すれば「アルコール性多発神経炎性精神病」と呼ばれる。
身体的疾患
身体的疾患はアルコールにより引き起こされているものなので、酒を断つことにより回復するケースもある。しかし数日単位での回復は無理で、数か月から長い場合では数年ほど回復に期間がかかることが多い。また、脳や身体に不可逆的にダメージを受けある程度以上は治癒しないケースもある。
- アルコール性脂肪肝
- 肝臓に脂肪が蓄積され、放置すると肝硬変、肝臓癌へと進む危険を持つ。自覚症状はほとんどない。
- アルコール性肝炎
- 肝臓が炎症を起こし、肝細胞が破壊される病気。全身の倦怠感、上腹部の痛み、黄疸、腹水等の症状が出る。
- アルコール性肝硬変
- 肝細胞の破壊が広範に起こり細胞が繊維化される病気。肝炎と類似の症状がでる。日本国内の患者数は4.5万人いると言われる。
- アルコール性胃炎
- 胃粘膜の炎症である。慢性化して、胃潰瘍に発展する場合もある。胃痛、胸やけ、吐血等の症状。
- アルコール性膵炎
- 膵臓の炎症で、慢性膵炎の約半数がアルコール性のものと言われている。腹部や背中の痛み、発熱等の症状。急性膵炎や慢性膵炎の急性増悪では、落命することもある。
- 食道静脈瘤
- 肝硬変の副次的な症状として現れる。本来肝臓に流れるべき血流が、食道の静脈に流れることにより、瘤状の膨らみができる。万一破裂すると大量出血で命に関わることがある。
- アルコール性心筋症
- アルコールの影響で心筋がびまん性に萎縮して線維化が進行、心収縮力が弱まり血液を送り出す機能が低下する。
- マロリー・ワイス症候群
- 飲酒の後に繰り返し嘔吐するため、出血を起こす。
女性とアルコール
女性は、男性に比べ一般的に体が小さいこと、体内の水分率が男性より低いこと、女性ホルモンはアルコール代謝を阻害する要因となることなどから、同じ量のアルコールを摂取しても男性の2倍悪影響が出ると言われている。アルコール依存症患者は、飲酒歴が長期に渡っているのが特徴であるが、女性の場合短期の飲酒歴でかつ飲酒量が比較的少量でも急速にアルコール依存症となってしまう危険がある。ギリシャ語で“酒に酔わない”というところから、アルコール依存症になった女性をアメシストと呼ぶこともある。
一説によると、習慣飲酒からアルコール依存症への進行の期間は男性で約10年、女性では約6年であるとも言われている。
治療
アルコール依存症の治療でまず肝心なことは「本人の認識」である。多くのケースでは依存を認めてしまうと飲酒ができなくなるため、患者は自分がアルコール依存症であることを認めたがらない。何よりもまず、本人に疾患の自覚と治療の意志を持たせることが大切であり、回復への第一歩となる[3]。
アルコール依存症の人の過剰な飲酒は、意志が弱いから・道徳感が低いからと言われたり、不幸な心理的・社会的問題が原因であると考えられがちだが実際はそうではなく、多くの場合この病気の結果であることが多い。つまり、アルコールによって病的な変化が身体や精神に生じ、そのために過剰な飲酒行動が起こるということである。このことをまず本人や周囲の者が理解し、認めることが、この病気から回復する上での欠かせない第一歩となる。
ただ、一度アルコール依存症になってしまうと治療は難しく、根本的な治療法といえるものは現在のところ断酒しかない。しかし本人の意志だけでは解決することが難しいため、周囲の理解や協力が求められる。重度の場合は入院治療が必要な場合もある。但しそれでも完治することはない不治の疾患であり、断酒をして何年、十何年と長期間経過した後でも、たった一口酒を飲んだだけで、遅かれ早かれまた以前の状態に逆戻りしてしまう[3]。そのため、治療によって回復した場合であっても、アルコール依存症者が一生涯断酒を続けることは大変な困難を要する。
なお、現在では、精神科において断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)等自助グループへの参加を奨励すると共に、ノックビン、シアナマイド経口薬などの抗酒剤の使用により、アルコール摂取を禁止し治療を進める病院が多い。
治療薬
抗酒剤とは別に、飲酒欲求そのものを抑制する薬剤物質としてのアカンプロサート(商品名:レグテクト)が2013年から日本でも使用され始めた。
- 脳内の伝達物質(飲酒欲求にスイッチを入れる物質)であるグルタミン酸によって引き起こされる脳内の過剰な欲求を緩和する。即ち、アカンプロサートが、神経細胞の受容体(スイッチによる命令を受け入れる部署)を封鎖して、伝達物質グルタミン酸分子の受容体への付着を防止することで欲求命令の伝達を防ぐ。アルコール依存症者の脳にはこのグルタミン酸が特に多量に見られる(原因は不明)。全ての患者に効能が認められるわけではないが、アルコール依存症者の治療にアカンプロサートが投薬され、一定の成果を挙げている。服用に際しては自助グループや精神療法との併用が効果的で望ましい。
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- アカンプロサート開発史
- 1984年:フランスのメラム社が癲癇及びアルコール依存症の治療薬として開発
- 1987年:同社、フランスにて同薬剤の仮認可を取得
- 1989年:同社、同薬剤をフランス薬剤市場にその後ヨーロッパ規模での認可に向けてフランスのリファ社(メルク社の孫会社)がアカンプロサートの所有権を取得
- 1995年:ドイツにて「キャンプラル」として認可
- 1996年:リファ社、アカンプロサート含有薬剤「キャンプラル」をドイツ市場に
- 2004年:7月、アメリカにてアルコール依存症患者の断酒継続の為に、「キャンプラル」が認可され、治療が始まった。
- 2013年:3月、日本で「レグテクト」が認可され、治療が始まった。
- 副作用
- 下痢、鼓腸(放屁)、嘔吐、痒み、発疹:依存性は認められない
- バクロフェン -- 海外で有効性が報告されている。日本ではアルコール依存症を適応として持たない。
- ゾニサミド -- 抗てんかん薬、パーキンソン病治療薬。海外で有効性が報告されている。日本ではアルコール依存症を適応として持たない。
悪化させる恐れがある薬
ベンゾジアゼピンは、急性アルコール離脱の管理に有用な一方、長期的に使用した場合はアルコール依存症を悪化させる。アルコール依存症に対して慢性的にベンゾジアゼピン系を処方した場合、服用していないケースよりもアルコール断絶を達成できる確率は低い。しかし、この種類の薬は、一般的に不眠や不安の管理のために、アルコール依存症者に処方されている[15]。ベンゾジアゼピンまたは鎮静催眠薬が回復過程で投与された患者は、鎮静催眠薬を処方された後に再発する確率が高く、4倍以上であった。ベンゾジアゼピンの長期的服用者は急激な断薬をすべきではない。それは重度の不安とパニックが生じる可能性があり、アルコール乱用の再発の危険因子であると知られている。6~12か月の減薬が、離脱の強度を減少させ、最も成功しやすいことが判明している[16][17]。
多重の中毒
アルコール依存はその他の向精神薬中毒治療が必要なことがある。患者に最も多く共通した依存はベンゾジアゼピン依存症であり、研究では10~20パーセントのアルコール依存患者がベンゾジアゼピン乱用を併発していた。ベンゾジアゼピン系はアルコールへの欲求を増加させ、量を増やす[18]。ベンゾジアゼピン依存はベンゾジアゼピン離脱症候群やその他の健康問題を避けるために注意深く減薬を行う必要がある。
その他の鎮静催眠薬への依存、ゾルピデムやゾピクロン、オピエートや違法薬物などもアルコール依存症では一般的である。
アルコールは鎮静催眠薬であり、バルビツール酸、ベンゾジアゼピン、非ベンゾジアゼピン系など他の鎮静催眠剤と交差耐性がある。催眠鎮静薬からの離脱は医学的に重症であり、慎重な管理なしでは精神病または発作の危険性がある。
治療に向けての取り組み
既に触れたようにアルコール依存症の治療法は現在のところ断酒(断酒によって社会性を再獲得する)以外にない[3]。しかし、依存性薬物であるアルコールを断つことは並大抵の努力ではなく、一生涯これを続けることは想像以上の困難または精神的苦痛を伴う。このため、断酒をサポートする様々な試みがなされている。
- 断酒会
- アルコール依存症患者とその家族によって作られた自助グループ。会費制で、組織化されており、外部に対してもオープンな姿勢を取っている日本独自の団体。断酒を続けることを互いにサポートし合い、酒害をはじめ、アルコール依存に対する正しい理解・知識を広く啓蒙する活動を行っている。
- AA(アルコホーリクス・アノニマス)
- アルコール依存症患者の自助グループ。断酒会の原型である。1930年代にアメリカ合衆国で始まり、世界180か国以上に拡がっている。基本テキストである通称ビッグブックは、70か国以上に翻訳されている。アルコール依存からの回復のために「ミーティング」と呼ばれるグループワークや、「12ステップ」という回復のプログラムを用いる。プライバシーを守るため、また、個人よりも原理を優先させるために、フルネームは名乗らない。よって断酒会とは異なり、名簿や会費もなく組織化もされない。アルコール依存症者のみが参加できるクローズド・ミーティングと、家族や医療関係者など外部の人も参加できるオープン・ミーティングがある。さらには女性だけのミーティングや若者だけのミーティングもある。
- 抗酒剤
- アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(アセトアルデヒド脱水素酵素)の働きを阻害する薬品で、服用すると飲酒時に血中のアセトアルデヒド濃度が高まるため、不快感で多量の飲酒ができなくなる。つまり少量の飲酒で悪酔いさせる薬であり、飲酒欲求そのものを抑える薬ではない[3]。シアナミドとジスルフィラム(商品名は「シアナマイド」と「ノックビン」)の2種が日本では認可されている。この薬を飲んで大量飲酒をすると命にかかわる危険があるため、医師の指導の下、本人への充分な説明と断酒の決意を行った上での服用が必須である[3]。アルコール依存者に知られぬよう密かに投与するようなことは厳禁である[3]。
- 相談
- 地元の都道府県の精神保健福祉センターや最寄りの保健所ではアルコール依存症に関する無料相談を受けており、専門の病院を紹介することもある。
- 断酒の三本柱
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- HALTの法則(飲酒欲求を生じる要因)
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- H:ハングリー(hungry、お腹を減らさない)
- A:アングリー(angry、怒らない)
- L:ロンリー(lonely、独りにならない)
- T:タイアード(tired、疲れない)
予後
2002年に国立アルコール乱用・依存症研究所は、アルコール依存症の会合に参加する4,422人のグループに対して調査を行った。結果、1年後には一部の人々は低リスクの飲酒を行っていると著者は判断したが、いまだ25.5パーセントのグループは治療を受けていた。詳細は25パーセントはいまだはいまだ依存のまま、27.3パーセントはいくつか症状が残っており部分寛解、11.8パーセントは症状が現れることなく飲酒を続けている(飲酒は再発可能性を増加させる)、35.9パーセント完全回復、17.7パーセントは低リスク飲酒者、18.2パーセントは断酒[19]。
脚注
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- ^ アルコール依存症の治療と回復―慈友クリニックの実践 世良 守行, 米沢 宏, 新貝 憲利
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