出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/07/11 14:51:26」(JST)
製剤(せいざい)とは、医薬品や農薬などの有効成分に賦形剤などを加えて、使用するのに適当な形に製したもの、またはその工程をいう。使用方法、有効成分の吸収や安定性などを考慮してデザインされる。
本稿では特に断らない限りは医薬品の製剤について述べる。
目次
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薬剤が生体に作用する場合その薬剤濃度に応じて薬理作用を発現するが、有効に作用するには一定時間の期間にその薬剤濃度が上限値および下限値の間で維持される必要がある。上限値は薬剤の副作用と関連して設定される濃度であり、下限値はin vitro実験で実際に作用が確認することで決定される。生体に投与された化学物質は生体の吸収、分布、代謝、排泄により移動してゆくので、ある目的の臓器や組織における薬剤濃度も刻一刻と変化する。
医薬品であれ農薬であれ薬剤を実際に利用する際は、薬剤の物理的形状や化学的性質を修飾して薬剤が生体内で十分に効果を発現する技術的な工夫が必要となる。その様な技術のことを製剤と呼び、その方法の探究および理論体系を構築する学問が薬剤学である。
一般に薬品には生体内濃度と薬効作用との関係において、低用量側の無効域と高用量側の危険域という閾値が存在する。濃度が無効域を超えなければ全く薬効は発現しないし、危険域を超えれば副作用が発現し、薬剤が害を及ぼすことになる。製剤の第一の目的は生体に投与した場合に、生体内濃度が無効域と危険域にはさまれた安全域に薬剤濃度を一定時間以上持続させることにある。
また、薬効成分によっては物理的あるいは化学的環境変化で薬効が失われるものもあるため、薬剤の安定性を目的とした技術も製剤の要素の一つである。前者の具体例としてはPPTラミネート包装による遮光や防湿であったり、後者の例としては腸溶製剤や。薬剤の吸収、分布、代謝、排泄など体内動態を制御する製剤設計であるドラッグデリバリーシステムであったりする。したがって製剤が関与する領域は薬剤の形状だけにとどまらず包装や物流環境まで関係することになる。
したがって、医薬品は薬効成分の原末をそのまま医療に使うことはなく、以上の目的を達成するために様々な添加物が加えられり、特別な形状に加工されたり目的に適合した形態に調製されてから使用される。つまり、そのための技術全般が製剤である。製剤学的な加工が全て目に見える形に反映されるわけではないので、一見似たような剤形であっても種々の工夫が施されており、同一成分であってもまったく同一な効果を示すわけではない。それゆえ医薬品開発において製剤は重要な位置の一つを占める。
つまり製剤技術も特許や企業秘密により保護されるため、端的にいうなれば先発医薬品とジェネリック医薬品の違いは製剤技術の質的な違いであるともいえる。
製剤に関する最古の記録は前3000年ころから前2400年の古代メソポタミアのシュメール文明の楔形文字板の生薬に関する記録で、散、液、浸、煎、塗布、坐剤、軟膏、硬膏、巴布、罨法、浣腸、ローション、燻蒸などの存在が知られていた。前1500年ころの古代エジプト文明のエーベルス・パピルスの生薬ではそれらに加えて香料、化粧、吸入剤、かぎ薬、うがい薬、丸薬、トローチなどの種別が記されている[1]。
近代になり薬効成分が化学合成ないしは天然物から精製された医薬品が主になると、錠剤、注射剤、カプセル剤、インプラントなどの剤形が加わることになる。
すなわち19世紀に入るとフランスのプラバ(Charles Gabriel Pravaz)が注射器を発明し、1853年イギリスのウッド(Alexander Wood)が皮下注射(皮下投与)で医療用に実用化した。静脈注射などの注射剤が広範囲に利用されるのは消毒・滅菌法が確立される1980年代以降である[2]。
20世紀以降の医薬品では錠剤、カプセル剤、注射剤が主流であり、他の剤形は特定の薬剤学的効果を目的に利用される。
具体的な薬剤の形体は各国の公定書である薬局方で規定されている。以下に日本国第十五改正日本薬局方に収載されている製剤を示す。
医薬品には、数mgというきわめて微小な量で効果を発揮するものも多く、また服用しすぎると副作用が生じるものも多数存在する。しかし、訓練を受けていない使用者が、1回ごとに薬品の粉末を数mgずつ正確に量り取って服用することは現実的に不可能である。したがって、市販の薬剤は有効成分以外に無害な添加剤(カルメロースカルシウムなど)を加え、1回あたりの服用量に調節した粒状にして流通していることが多い。
また、製剤することによって、薬の色や形など、外観を自由に変えることができ、一般人でも一目で薬の種類を見分けることができるようになる。これは、薬の誤飲を防ぐという意味できわめて重要な働きである。
薬剤には独特の味や臭いを持つものも少なくない。そのような場合、甘味料を加えたり、糖衣でコーティングしたりすることで、子供であっても服用しやすくすることができる。
現代の医薬品開発は、まず試験管の中で(in vitro)細胞レベルで研究が行われる。この段階で何らかの薬効がみられるものだけが実際に生物実験に供されるが、細胞レベルでは効果を示す薬剤であっても、生体内では有効に働かないことが多い。これは、生体内で吸収、分布、代謝、排泄のいずれかの一つ以上の生理作用のため、組織や臓器での薬剤濃度および経時変化(記事 生物学的利用能を参照のこと)が薬理作用を発現するのに十分ではなくなることに起因する。
このように、経口投与では肝臓で代謝を受けて効果を発揮できないものは、注射剤や坐剤などにして投与することで吸収、分布の要素を変えることで速やかに、また効果的に作用させることができる。また、胃酸で分解してしまう薬剤であれば、腸でのみ溶解するカプセルに封入することで経口剤として使用することもできる。
薬剤は、一度に大量に投与すると、大部分は排泄されてしまう上、場合によっては副作用を引き起こす。したがって、頭痛薬のようにできるだけ効果が持続することが期待される薬剤は、有効成分が時間をかけて徐々に放出するように製剤する必要がある。有効成分をしみこませた貼り薬を使って、皮膚から少しずつ薬剤を投与するのも長時間ゆっくりと投与するのに有効な手法である。
反対に、胃薬などは飲んですぐに薬効が出ることが望ましい。このような場合は胃ですぐに溶解・分散するように製剤したり、あるいは予め液体で流通させるという手法がとられる。
場合によっては複数の有効成分を組み合わせ、一つの製剤とするものもある。
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