Down syndrome |
本棚を組み立てる男児患者
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分類および外部参照情報 |
ICD-10 |
Q90 |
ICD-9-CM |
758.0 |
OMIM |
190685 |
DiseasesDB |
3898 |
MedlinePlus |
000997 |
eMedicine |
ped/615 |
Patient UK |
ダウン症候群 |
MeSH |
D004314 |
ダウン症候群(ダウンしょうこうぐん、英: Down syndrome)は、体細胞の21番染色体が1本余分に存在し、計3本(トリソミー症)となることで発症する、先天性疾患群。新生児に最も多い遺伝子疾患である[1]。多くは第1減数分裂時の不分離によって生じる他、第2減数分裂時に起こる。かつては蒙古症(もうこしょう)と呼ばれた。
ダウン症患者の染色体。22対の常染色体のうち21番染色体だけは3本組(トリソミー)になっており、これがダウン症候群を引き起こす原因。右下に見えるXとYは性染色体。
目次
- 1 歴史
- 2 臨床像
- 3 原因
- 4 検査
- 5 倫理的課題
- 5.1 ダウン症胎児の中絶率
- 5.2 ダウン症胎児の中絶に関する議論
- 6 治療
- 7 疫学
- 8 ダウン症候群を題材にした作品
- 9 関連項目
- 10 出典・脚注
- 11 外部リンク
歴史
1866年にイギリスの眼科医ジョン・ラングドン・ハイドン・ダウンが論文『白痴の民族学的分類に関する考察』(Observations on the Ethnic Classification of Idiots)でその存在を発表(学会発表は1862年)。最初は「目尻が上がっていてまぶたの肉が厚い、鼻が低い、頬がまるい、あごが未発達、体は小柄、髪の毛はウェーブではなくて直毛で薄い」という特徴を捉えて「Mongolism(蒙古人症)」または「mongolian idiocy(蒙古痴呆症)」と称され、発生時障害により人種的に劣ったアジア人のレベルで発育が止まったために生じると説明されていた。しかしダウンによるこの人種差別的な理論は、アジア人にもダウン症がみられることからすぐに破綻をきたした[2]。1959年、フランス人のジェローム・ルジューヌ(英語版)によって、21番染色体がトリソミーを形成していることが発見された。1961年に19名の著名な遺伝学者が、「Langdon-Down anomaly」, 「Down's syndrome anomaly」, 「congenital acromicria」, 又は 「trisomy 21 anomaly」 の用語を用いるべきとの声明を発出したことを契機に、蒙古症の語は次第に使われなくなった[3]。1965年頃には、モンゴル人民共和国の代表がWHOの事務局長に対して非公式に、病名としての「mongolism」が不快であるとして将来的に使用しないように要請している[4]。1965年、WHOは、発見者のダウン医師に因んで「Down syndrome(ダウン症候群)」を正式な名称とすることが決定した。2012年、3月21日を国際連合が世界ダウン症の日に認定[5]。21番染色体トリソミーにちなむ。
1961年から2011年までの医学論文では、使われた用語の数は次の結果のとおりだった(歴史について記述した論文を除く)。
- Down ダウン症候群 5289
- Trisomy 21 トリソミー21 1396
- mongolism 蒙古症 524
- Langdon Down ラングドン・ダウン症候群 25
- Congenital Acromicria 先天性先端矮小症 4
用語使用の変化を示した図からも、1961年頃はほぼ100%の使用率であった「mongolism」は、1980年代半ばには全く使われなくなったことが分かる。2010年時点では、「Down症候群」が約85%、「Trisomy 21」が約15%の使用率である[6]。
臨床像
知的障害、先天性心疾患(50%[7])、低身長、肥満、筋力の弱さ、頸椎の不安定性、閉塞性睡眠時無呼吸(50-75%[7])、耳の感染症(50-75%[7])、眼科的問題(先天性白内障、眼振、斜視、屈折異常、60%ほど[7])、難聴(75%ほど[7])がある。新生児期に哺乳不良やフロッピーインファントのような症状を示し、特異的顔貌、翼状頚、良く伸展するやわらかい皮膚などから疑われることもある。青年期以降にはストレスから来るうつ症状・早期退行を示す者もいる。男性の場合モザイク型を除き全て不妊となる一方、女性の場合多くは妊娠が可能であるが、多くは自然流産となる。また、母親(または父親)がダウン症候群患者の場合、胎児のダウン症候群発症率は50%であるため、高確率で遺伝する。一般的に、肉体的成長の遅延、特徴的な顔つき、軽中度の知的障害に特徴づけられる[8]。ダウン症の青年の平均知能指数は50であり、これは8-9歳の精神年齢と等しいが、これにはばらつきがある[9]。40歳以降にアルツハイマー病が高確率でおきる[10]。しかし同時に高血圧や脳卒中、癌になる確率が通常と比べ極端に低い事でも知られている[要出典]。
- 外表奇形
-
- 顔の中心部があまり成長しないのに対して顔の外側は成長するため、吊り上った小さい目を特徴とする顔貌(特異的顔貌)を呈する[7]。他には舌がやや長い、手に猿線、耳介低位、翼状頚などが発生する。
- 合併奇形等
- ダウン症候群では高率に鎖肛、先天性心疾患、先天性食道閉鎖症、白血病、円錐角膜、斜視、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症などを伴う。
- 青年期の心理的問題
- 思春期から成人期にかけて、部屋に閉じこもる、寡黙になる、といった変化が急に現れることがあり、その多くは環境の変化や契機となる出来事への適応障害または心因反応と考えられている。しかしこの病態に対しての医学的な検討が充分為されていないため、その治療については確立した方法がまだない。
- 思春期以降、性欲が理性でコントロールできないため対応に難渋することがある[11]。カナダダウン症協会はダウン症者に性について理解させるための本を出版している[11]。
原因
21番染色体のトリソミーが原因である[7]。トリソミーとなった理由は3タイプに分けられ、生殖細胞の減数分裂時の失敗(染色体の不分離と転座)である。
- 標準型21トリソミー(95%): 21番染色体の不分離による[7]
- 遺伝性転座(3%): 21番染色体が他の染色体に付着。転座型の半分(全体の2%)は親が均衡型転座を保因する[7]。
- モザイク型(1-2%): 個体の中に正常核型の細胞と21トリソミー(21番目の染色体が3本ある核型)の細胞とが混在している[7]。
標準型は精子、卵子形成時の減数分裂における染色体不分離が原因である。転座型は親の片方が均衡転座保因者であり、適切な遺伝カウンセリングを受ける必要がある。モザイク型は受精後の卵分裂の過程での不分離に基づく。細胞の一部はトリソミーというように混在する。そのため、重度な障害は無い。染色体トリソミーは21番染色体以外にも起こるが、性染色体以外の常染色体には生命活動に必須の遺伝情報が含まれるため、トリソミーは死産となるか、出産できたとしても長くは生きられない[12]。しかし21番染色体のトリソミーだけは障害を残すものの致命的とならない場合がある。ただし、その21トリソミーでも、80%は流産や死産に終わり、出生出来るのは20%に過ぎない。
検査
妊娠11週頃に絨毛検査で確定的に診断できるが、日本では絨毛検査を実施している医療機関は少ない。妊娠15 - 16週頃に、母体血清マーカー検査や新型出生前診断(NIPT)により確率的に診断することが可能となり[13]、羊水検査で確定的に診断される。検査結果が出るまでに2 - 3週間を要する。「妊婦検診等でこういった出生前検査を勧められなかった」としても医療側の落ち度は無いとされる(裁判事例:京都地裁平成9年1月24日判決[14])。そのため妊婦は自ら医療側に進言(結婚している妊婦の場合夫婦の同意に基づく)しないと検査は実施されない。また検査の結果も、正式には「妊婦側が聞くことを希望して初めて通知出来る」とされている。イギリスでは国策として2004年以降は全妊婦に出生前診断を推進している[15]。
第一および第三半期スクリーニング[16]
スクリーニング |
在胎週数 |
判別率 |
疑陽性率 |
備考 |
複合テスト |
10–13.5週 |
82–87% |
5% |
超音波による頸椎部投光性検査に加え、β-hCGとPAPP-Aの血液検査 |
Quad screen |
15–20週 |
81% |
5% |
母体の血清α-フェトプロテイン、非抱合型エストリオール、hCG、インヒビンAを測定 |
統合テスト |
15–20週 |
94–96% |
5% |
Quad screenに加えて PAPP-A、NTを検査 |
セルフリーDNA検査 |
10週目から[17] |
96-100%[18] |
0.3%[19] |
母体血液から採取した、胎児由来DNA(セルフリーDNA)を解析 |
倫理的課題
ダウン症胎児の中絶率
2002年の人工妊娠中絶率の文献レビューでは、イギリスとヨーロッパでダウン症候群と診断された妊婦のうち、91-93%が妊娠を中断した。[20]イギリスの国家ダウン症候群細胞遺伝学登録簿 (NDSCR)のデータによれば、登録が始まった1989年から2006年における、ダウン症候群の診断を受けた後に中絶を選んだ女性の割合は、継続的に約92%である[21][22]。アメリカでもダウン症胎児の中絶率調査が実施され、3つの研究では、それぞれ、95%、98%、87%となっている[20]。
ダウン症胎児の中絶に関する議論
医療倫理学者のロナルド・グリーンは、両親は自分の子孫に「遺伝的な害」が及ぶのを避ける義務があると主張している[23]。イギリスのジャーナリスト、ドミニク・ローソンは、ダウン症の娘が生まれた際、彼女に対する無償の愛と、彼女が存在することの喜びと同時に、妻が検査を受けていれば中絶できたという外部の声に怒りを表明した。これに対し、長い期間、ダウン症協会の支援者であったクレア・レイナーは、ローソンの、娘への態度を絶賛すると共に、ローソンが障害検査と発見時に中絶をすすめる医師や助産師を酷評することには賛成できず、障害検査と中絶を次のように擁護した。「辛い事実としては、障害を持った個人の面倒をみるということは、人力、哀れみ、エネルギー、そして有限の資源であるお金がとても掛かると言う事だ・・・。まだ親になっていない人は、自分に問いかけてみるべきだ。自分が他人(社会)にその重荷を背負わせる権利があるのか、もちろん、その重荷の自分の持分をすすんで引き受ける前提としてだが。」[24]。ダウン症と診断された胎児の高い中絶率を、倫理的に憂慮する医師や倫理学者もいる[25] 。ピューリッツァー賞を受賞した保守的な評論家で、息子の一人がダウン症候群であるジョージ・ウィルはそれを「中絶による優生学」と呼んでいる[26][27]。
治療
ダウン症候群は染色体異常であるため、実用化に至っている根本的な治療方法は無い。心疾患等の合併症に対しては外科的な対応も含めて治療が行われている。また、思春期以降の生活能力低下(“急激退行”)に対して、アルツハイマー治療薬「アリセプト」(ドネペジル塩酸塩:アセチルコリンエステラーゼ阻害剤)のダウン症候群に対する有効性の検証や、抗酸化剤や神経活動過剰抑制拮抗剤などの治験が行われている[28]。
ノンコーディングRNA技術の研究
ノンコーディングRNAを用いてダウン症の1本多い染色体の機能を停止させ、出生後にダウン症の治療を行おうとする基礎的研究が行われている[29]。性別を決める染色体で働いているノンコーディングRNAの「Xist」は、X染色体の不活性化という各細胞の不要なX染色体の活動を止めて問題を避ける仕組みを持っていることが分かっていた[29]。2016年7月に「Nature」に掲載されたマサチューセッツ大学の研究では、この原理を応用しダウン症患者のiPS細胞の21番染色体の1本にXist遺伝子を遺伝子の発現を誘導する薬と共に組み込んだところ、約3週間後に全10個の遺伝子が発現しなくなり、ゲノム全体の遺伝子発現量でも3本の21番染色体全体の発現量を平均で15-20%程度低下させ、トリソミーではない2本の21番染色体の総発現量とほぼ同程度にまで抑制できたした[29]。さらに、Xistがダウン症によって低下した細胞を増殖する機能を回復し、神経細胞に分化する機能も正常細胞並みに戻すことも確認された[29]。この方法の長所は、一度Xistを組み込んでしまえばあとは発現させるだけで100%に近い抑制効果が得られ、13番や18番の染色体異常等にも応用できうる点だとされる[29]。また培養細胞での基礎研究段階であるが臨床試験の開始が望まれている[29]。
疫学
遺伝子疾患及び染色体異常の中では最も発生頻度が高い。日本での患者数はおよそ5万人[30]。イギリスがおよそ5万人、アメリカがおよそ34万人年間6000人の出生がダウン症であった[1]。日本人は全障害児におけるダウン症の割合が他国に比べて低く、その代わりに自閉症出現率が高めであるとされる。母親の出産年齢が高いほど発生頻度は増加し[13]、25歳未満で1/2000、35歳で1/300、40歳で1/100となる[31][32][33]。アメリカにおける統計では、20 - 24歳の母親による出産ではおよそ1/1562なのに対し、35 - 39歳でおよそ1/214、45歳以上の場合はおよそ1/19となっている[34]。イギリスでは2000年の年間約600人の出生数が2006年には15%増え746人となった。
このような考察には、第二子、第三子, ... と出産するケースの考慮に欠けている。第一子出生時の発生率が 1/1000 として、それがほとんど変化しないとしても、第二子、第三子, ... と出産するに従って、発生率が 1/500, 1/333, 1/250, ... となる。つまり遺伝子の変容を考慮しなくても、出産数が増えるだけで、発生率も増加する。障がい者に対する差別や偏見、支援制度の不足があると、それ以降の出産が阻害される恐れがあるため、そうした問題を解消することが合理的な少子化対策となる。[要出典]
ダウン症候群を題材にした作品
- 障害を知ろう!みんなちがって、みんないい〈3〉ダウン症の友だち(金の星社、土橋圭子 文)ISBN 4-323-06563-9
- ユンタのゆっくり成長記 ダウン症児を育てています。(双葉社 コミック、たちばなかおる 著) ISBN 978-4575304954
- のんちゃんの手のひら(コミック、金子節子 作)
- いっぽいっぽ―ダウン症の娘と共に(エッセイ、幸田啓子 著)ISBN 489240201X
- 八日目(映画、ジャコ・ヴァン・ドルマル 監督)- 1996年カンヌ国際映画祭でダニエル・オートゥイユとパスカル・デュケンヌが主演男優賞をダブル受賞
- たったひとつのたからもの(写真作品・テレビドラマ)
- コーキーとともに(テレビドラマ)
- 小さな書家 金澤翔子の世界(DVD、2005年)- ダウン症候群の書家金澤翔子を描いたドキュメンタリー
- メモリー・キーパーの娘(小説・テレビドラマ)
- チョコレートドーナツ(映画、2012)
関連項目
- 日本ダウン症協会
- エドワーズ症候群 - 18トリソミー
- パトウ症候群 - 13トリソミー
- 高齢出産
- 出生前検査
- 新型出生前診断
出典・脚注
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- ^ On the diagnostic term "Down's disease" Norman Howard-Jones, Medical History / Volume 23 / Issue 01 / January 1979, pp 102-104
- ^ 「国連による3月21日『世界ダウン症の日認定を祝って』」 (PDF) 財団法人日本ダウン症協会
- ^ Evolution of the use of the terms “mongolism”, “Down's syndrome”, “trisomy 21”, and “Langdon Down's syndrome” in publication titles listed in PubMed (1961–2010) M Luisa Rodríguez-Hernández, Eladio Montoya, Volume 378, No. 9789, p402, 30 July 2011, The Lancet
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外部リンク
- 日本ダウン症協会 (JDS)
- 日本ダウン症ネットワーク (JDSN)
- 全米ダウン症協会(NDSS)
- Down Syndrome - 米国CDC
- NPO法人アクセプションズ - ダウン症がある子を持つ親が集まって立ち上げた団体
- 日本大百科全書(ニッポニカ)『ダウン症候群』 - コトバンク
典拠管理 |
- LCCN: sh85039232
- GND: 4012849-0
- BnF: cb11940791r (data)
- NDL: 00567829
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