出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2017/07/22 00:30:50」(JST)
咽頭弓 | |
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咽頭胚のスキーム。第1咽頭弓(顎骨弓)、第2咽頭弓(舌骨弓)、第3咽頭弓が確認できる。
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ヒトの26日胚。咽頭の底部(背側から観察)。
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英語 | pharyngeal arch |
咽頭弓(いんとうきゅう, pharyngeal arch)。内臓弓(ないぞうきゅう, visceral arch)とも呼ばれる。広義には鰓弓(さいきゅう, branchial arch)とも呼ばれるが、鰓に分化することを前提に定義された"鰓弓"という言葉に対して、少なくとも現生の動物で第1咽頭弓が鰓へと発生する動物はいないため、第1咽頭弓や第2咽頭弓を鰓弓と同義とせず、第3咽頭弓を第1鰓弓とすることもあるので注意が必要。また鰓弓という名称は魚の成体の鰓骨格に対しても用いられることがあるので、これとの混同にも注意すべきである。
脊椎動物の発生において咽頭部に生じる、支柱状に突出した形態物であり、頭部や頸部における非常に多様な構造へと分化する。脊椎動物に特徴的な頭部構造の形成では、その大部分を咽頭弓の発生が担っていると言っても過言ではない。外側は外胚葉上皮、内側は内胚葉上皮に覆われており、内部は神経堤細胞と中胚葉の間葉が満たしている。頭部神経堤細胞が背側から腹側へと遊走するのに伴って各々の弓が伸長する。
脊椎動物の胚発生において神経管が完成するに伴い、背側より神経堤細胞が遊走し始める。腹側へと移動する頭部神経堤細胞は分節的に複数のストリームに分かれ、頭部中胚葉を同時に引き込んで、将来の咽頭にあたる領域において複数の独立した咽頭弓を形成する。発生が進むと各咽頭弓は伸長し、最終的には腹側で左右1対ずつの弓が合一して籠状の咽頭を形成する。
各咽頭弓の間にはスリットが残るが、これを咽頭裂と呼び、将来の鰓裂になる。陸上生活を行う多くの四肢動物では各弓の間は当然スリットとしては残らず、咽頭の内外で溝状の構造として残る。外胚葉上皮が溝状にくぼんだ構造は特に咽頭溝と呼ばれる。ちなみに各咽頭弓の間で、咽頭内胚葉上皮が体の外側へ向かって嚢状に膨出した構造を咽頭嚢と呼び、各咽頭嚢もまたそれぞれ特徴的な構造物へと発生する。
咽頭弓のうち、第1咽頭弓は顎骨弓とも呼ばれ、顎口類では顎をつくっている。
咽頭弓とその代表的な派生物の発生様式の多くは、基本的なボディプランとして脊椎動物の各系統で保存的である。なので系統に沿ってその進化的な機序を追うことができるが、無論あらゆる派生物が系統間で同様の構造として認識されるわけではない(例えば、サメで上顎を構成する口蓋方形軟骨は、哺乳類の場合槌骨や砧骨に変形している。顎口類にて第1咽頭弓は顎の構造をつくるが、そもそも顎を持たない円口類では全く別の構造をつくる。などなど)。ここではヒトの咽頭弓について構造を列挙するが、全ての脊椎動物がこれと全く同様の発生をするわけではないのに留意。
ヒトの場合、咽頭弓は全部で6つあるが、第5咽頭弓は往々にしてほぼ欠如しているか痕跡的であり、軟骨などの構造物も発生しない。従って、ここでは1, 2, 3, 4,6番目のみ記述する。
咽頭弓 | 筋 | 骨格 | 神経 | その他 |
第1咽頭弓 ("顎骨弓") | 咀嚼筋, 顎舌骨筋, 顎二腹筋前腹, 鼓膜張筋, 口蓋帆張筋 | 上顎骨, 下顎骨 {皮骨(硬骨)}, 槌骨, 砧骨, メッケル軟骨 (軟骨) | 三叉神経上顎枝(V2),下顎枝(V3) | |
第2咽頭弓 ("舌骨弓") | 表情筋, 鐙骨筋, 茎突舌骨筋, 顎二腹筋後腹, | 鐙骨, 茎状突起, 舌骨小角, 舌骨体上部, ライヘルト軟骨 | 顔面神経 (VII) | |
第3咽頭弓 | 茎突咽頭筋 | 舌骨大角, 舌骨体下部 | 舌咽神経 (IX) | 胸腺, 副甲状腺 |
第4咽頭弓 | 輪状甲状筋, 口蓋帆挙筋, 咽頭収縮筋, 喉頭内在筋 | 甲状軟骨, 喉頭蓋軟骨 | 迷走神経(X)の上喉頭神経枝 | 副甲状腺 |
第6咽頭弓 | 輪状甲状筋以外の食道の横紋筋 | 輪状軟骨, 披裂軟骨, 小角軟骨 | 迷走神経(X)の下喉頭神経枝 |
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関連記事 | 「咽頭」 |
# | 鰓弓 | 神経 | 筋 | 骨格 | 動脈* |
1 | 顎弓(上顎隆起、下顎隆起) | CN V 三叉神経: 上顎枝、下顎枝(第一鰓弓の筋を支配) |
咀嚼筋(側頭筋、咬筋、内側翼突筋・外側翼突筋)、顎舌骨筋、顎二腹筋前腹、口蓋帆張筋と鼓膜張筋 | 上顎突起(顎前骨、上顎骨、頬骨、側頭骨の一部)、メッケル軟骨(下顎骨、キヌタ骨、ツチ骨、前ツチ骨靱帯、蝶下顎靱帯) | 消失し一部残存(顎動脈) |
2 | 舌骨弓 | CN VII 顔面神経 |
顔面表情筋(頬筋、耳介筋、前頭筋、広頚筋、口輪筋および眼輪筋)、顎二腹筋後腹、茎突舌骨筋、アブミ骨筋 | アブミ骨、茎状突起、茎突舌骨靱帯、舌骨小角と舌骨体の上部 | 消失し一部残存(舌骨動脈、アブミ骨動脈) |
3 | CN IX 舌咽神経 |
茎突咽頭筋 | 舌骨大角と舌骨体の下部 | 総頚動脈、内頚動脈の基部。外頚動脈が出芽 | |
4 | CN X 迷走神経 |
輪状甲状筋、口蓋帆挙筋 | 喉頭軟骨(甲状軟骨、輪状軟骨、披裂軟骨、小角軟骨、および楔状軟骨 | 大動脈弓の一部 | |
5 | 上喉頭神経(第四鰓弓支配神経) | 咽頭収縮筋 | 消失 | ||
6 | 反回神経(下喉頭神経)(第六鰓弓支配神経) | 喉頭内の筋 | 動脈管と肺動脈の基部 |
Henry Gray (1825-1861). Anatomy of the Human Body. 1918.
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