出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/01/23 20:39:37」(JST)
老化(ろうか、英: ageing、aging)とは、生物学的には時間の経過とともに生物の個体に起こる変化。その中でも特に生物が死に至るまでの間に起こる機能低下やその過程を指す。
澱粉の老化は澱粉を参照のこと。
老化は、死を想起させたり、成熟との区別が恣意的であることから、加齢(かれい)、エイジングと言い換えられる場合もある。
学術分野では発生、成熟、老化などを含めた生物の時間変化すべてを含む言葉として「老化」を用いる。例えば、樹木の葉が加齢と共に黄色くなってやがて落ちるのも、同じく樹木が発芽してからの生長するに従って、挿し木時の発根や成長程度が悪くなるのも、動物が生まれてから時間が経つに従って、活動性が低くなりやがて死に至るのも「老化」、と表現されるが、その起こっている事象は全く別であると考えられており、混同すべきではない。
例えばヒト(哺乳類)の老化では加齢とともに胸腺の萎縮の他、様々な変化、機能低下が見られる。老年疾患・老人病には、骨粗鬆症、認知症、動脈硬化性疾患などがある。多くの動物ではいくら環境条件などを整えてもこのような生理機能の低下が起き(老化し)誕生以来一定期間以内に死に至る寿命が存在する。
ヒトでは肥満も痩せすぎも寿命短縮のリスク要因となる。喫煙、糖尿病、高血圧などは老化を促進する。スポーツ習慣や適量の飲酒は老化を遅らせる[1]。
動物個体の老化の原因ははっきりとは解明されていないが、以下のような複数の要因が考えられている。ただし、よく誤解されるが、下記は動物のしかも一部の種にだけ成立する。例えば動物でも海綿動物や扁形動物の体細胞、あるいは植物や菌などの細胞ではテロメラーゼは高い活性を示し、ガン化しない通常の細胞でも「不死」である。また、光合成を行う緑色植物の細胞は動物細胞よりも遙かに大きな活性酸素ストレスにさらされるが、動物における老化のような現象は認められない。
それぞれの細胞には、分裂できる限界がはじめから設定されており、その回数を迎えて分裂ができなくなることにより老化が発生するという説。分裂できる限界数は、種によってまちまちであるが、概ねその種の寿命と比例している[2]ことから現在有力な説のひとつである。テロメアは細胞分裂の度に短くなる[3]ことから、このプログラム説の機構を行う部分であるとされる。
この説における解決法としては現在、テロメラーゼが有力である。がん細胞においては、テロメラーゼが高活性化することにより細胞が不死化する[4]ことから、幹細胞のテロメラーゼの活性をコントロールすることで不老不死の実現が可能なのではないかと考えられている。
細胞分裂の際に少しずつ発生する突然変異が、徐々に蓄積されていき、最終的に破綻するのではないかという説。ウェルナー症候群をはじめとする早老症ではヘリカーゼというDNA修復に関与すると推測される遺伝子に異常があった[5]ことから考えられた。
DNA分子の損傷は1日1細胞あたり最大50万回程度発生することが知られており、DNA修復速度の細胞の加齢に伴う低下や、環境要因のよるDNA分子の損傷増大によりDNA修復がDNA損傷の発生に追いつかなくなると、
のいずれかの運命をたどることになる。人体においては、ほとんどの細胞が細胞老化の状態に達するが、修復できないDNAの損傷が蓄積した細胞ではアポトーシスが起こる。この場合、アポトーシスは体内の細胞がDNAの損傷により癌化し、体全体が生命の危険にさらされるのを防ぐための「切り札」として機能している。
この説における解決法としては、前述のDNA修復遺伝子を活性化させるなどして、修復速度が突然変異の蓄積速度を上回る状態にすることが考えられる。
代謝に伴い発生する活性酸素により身体がダメージを受け、老化が発生するという説。代謝率の高い(つまり活性酸素の発生量の多い)生物ほど寿命が短くなる傾向にある[6]ことから考えられた。また、この活性酸素がテロメアの短縮に影響しているという説もある[7]。
この説における解決法としては、ビタミンCなどの抗酸化作用の強い食品を摂取することや、活性酸素を減少させるスーパーオキシドディスムターゼという遺伝子を導入するなどがある。
また、低カロリーの摂食は多くの動物の平均寿命と最長寿命を延ばすと言われている。この効果は酸化ストレスの減少が関与している可能性があるとしている[8]。
しかし、2005年7月、東京大学食品工学研究室の染谷慎一をはじめとする東京大学・ウィスコンシン大学・フロリダ大学の共同研究チームは活性酸素は老化に関与していないとする研究結果を発表した。
栄養の不足は、細胞中でのDNA修復の増加した状態を引き起こし、休眠状態を維持し、新陳代謝を減少させ、ゲノムの不安定性を減少させて、寿命の延長を示すといわれている。
1971年から1980年のデータで糖尿病患者と日本人一般の平均寿命を比べると男性で約10年、女性では約15年の寿命の短縮が認められた[9][10]。このメカニズムとして高血糖が生体のタンパク質を非酵素的に糖化反応を発生させ、タンパク質本来の機能を損うことによって障害が発生する。この糖化による影響は、コラーゲンや水晶体蛋白クリスタリンなど寿命の長いタンパク質ほど大きな影響を受ける。例えば白内障は老化によって引き起こされるが、血糖が高い状況ではこの老化現象がより高度に進行することになる[9]。同様のメカニズムにより動脈硬化も進行する。また、糖化反応により生じたフリーラジカル等により酸化ストレスも増大させる[11]。
老が急速に進行する病気(早老症)としてウェルナー症候群、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群が知られている。
老化については、生物学・医学と社会科学で多角的に研究されている。培養細胞を用いた研究から細胞レベルでの老化(細胞老化)が知られている。生体組織から取り出した細胞を in vitro で培養すると、細胞分裂の回数に制限あり、その一つの原因は染色体末端のテロメア構造が短くなったためであるとされる。がん細胞や幹細胞ではテロメアを伸長する酵素テロメラーゼの働きにより、細胞分裂の回数の制限がなくなると考えられている。不老化したわけではない。
大阪大学などのチームは老化原因のたんぱく質「C1q」を発見した。生後2年のマウスは、生後2カ月のマウスの5倍以上となり、たんぱく質「LRP5」「LRP6」を切断、老化を促進させた。「C1q」の生産を阻害されたマウスは、心不全、動脈硬化、糖尿病が改善した[12]。
植物の場合、新しい葉に比べて、古い葉は光合成の能力が劣るなど、同一個体の中でも、部位により老化の程度に差が見られる。
樹木を挿し木する場合、利用する枝の採取位置により、発根やその後の成長に違いがでる。根元から遠い位置の枝よりも、根元付近から発生した蘖(ひこばえ)や胴吹き(どうぶき)を利用すると成長が優れることが多い。その原因として、根元から発生した枝に比べて、遠い位置の枝は、細胞分裂を繰り返した結果、より老化が進んでいる等の説がある。
また、植物は窒素肥料を多く与えることで開花や着果が遅れる、幼木と同様の樹形や葉形になるなど、若返りという現象が確認されている。
エチレンは植物における老化ホルモンとされることがある。エチレンを与える事で果物の成熟を促進したり、反対にエチレンの働きを抑えることで切花などの寿命を伸ばすことが出来ることがある。
これらはひとまとめにして老化と称されるが、それぞれ個々に別々の現象である。また、これらは個体の死にはつながらず,動物でいう老化とは異なる現象であると考えられている。
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