出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2012/04/02 08:36:12」(JST)
要介護認定(ようかいごにんてい)とは、日本の介護保険制度において、被保険者が介護を要する状態であることを保険者である市町村が認定するものである。健康保険は被保険者証を持参して医療機関で受診するだけで保険給付を受けられるのに対し、介護保険は被保険者証を持っているだけでは保険給付を受けることはできず、要介護認定を受けなければならない。
介護保険法では、日常生活において介護を必要とする状態を意味する要介護認定と、日常生活に見守りや支援を必要とする状態を意味する要支援認定の2種類の認定が別々に規定されている。このため、2種類の認定の総称としては「要介護認定等」「要介護認定(要支援認定)」などとするのが正確な表記である。しかし、法令や行政文書などを除いては、要介護認定と要支援認定の2種類の認定をまとめて「要介護認定」と呼ぶのが通常となっている。 (以下の解説においては、特に区別して表記する場合を除き、要介護認定と要支援認定の2つの総称の意味で要介護認定という表記を用いる。)
目次
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被保険者の介護を必要とする度合いとして、最も軽度の要支援1から最も重度の要介護5まで、7段階の介護度が設けられている。制度上は、要介護状態区分と要支援状態区分の総称として要介護状態区分等とするのが被保険者証の表記にも見られる正確な表現だが、一般には要介護度や介護度などと通称されている。
要介護度 | 基準時間 | 状態の維持・改善可能性 | 区分支給限度基準額 |
---|---|---|---|
非該当 | 25分未満 | (審査なし) | (給付なし) |
要支援1 | 25分以上32分未満 | (審査なし) | 4970単位/月 |
要支援2 | 32分以上50分未満 | 「認知機能低下」と「状態不安定」のいずれにも該当しない | 10400単位/月 |
要介護1 | 「認知機能低下」と「状態不安定」のいずれかまたは両方に該当する | 16580単位/月 | |
要介護2 | 50分以上70分未満 | (審査なし) | 19480単位/月 |
要介護3 | 70分以上90分未満 | (審査なし) | 26750単位/月 |
要介護4 | 90分以上110分未満 | (審査なし) | 30600単位/月 |
要介護5 | 110分以上 | (審査なし) | 35830単位/月 |
要介護状態については、介護保険法第7条第1項で次のように定義されている。
要介護状態には、要介護1から要介護5まで5つの要介護状態区分が設けられている。
要支援状態については、介護保険法第7条第2項で次のように定義されている。
要支援状態には、要支援1と要支援2の2つの要支援状態区分が設けられている。
次の場合は非該当となり、保険給付を受けることができない。
平成12年4月の介護保険法制定時は要支援状態に区分はなく、単に「要支援」とされていた。平成18年4月の制度改正で、それまでの要介護1について「状態の維持・改善可能性」の審査判定を追加で行って2つに分割することになり、「認知機能低下」と「状態不安定」のいずれにも該当しない場合は新設の要支援2とし、いずれかまたは両方に該当する場合は引き続き要介護1とすることになった。これにあわせて、それまでの「要支援」を「要支援1」とするようになった。
平成18年4月改正前 | 平成18年4月改正後 |
---|---|
要支援 | 要支援1 |
要介護1 | 要支援2 |
要介護1 | |
要介護2 | 要介護2 |
要介護3 | 要介護3 |
要介護4 | 要介護4 |
要介護5 | 要介護5 |
要介護認定を受けようとする被保険者は、申請書に被保険者証を添付して市町村に申請をする(介護保険法第27条第1項)。本来、申請は被保険者本人が行うものだが、要介護状態の被保険者本人が申請手続きをするのは現実的に困難であることが少なくないため、家族が申請手続きをすることが多い。家族がいない場合には、民生委員、医療機関のソーシャルワーカー、生活保護のケースワーカー、知人などが申請手続きをすることもある。また、介護サービスを利用している場合には、事業所が代行申請をするのが一般的になっている。要介護認定を受けることによる不利益は通常想定されないため、申請手続きをするのが被保険者本人ではなくても、委任状の提出を求める市町村は少数派である。
なお、介護保険法第27条第1項ただし書きは、要介護認定申請に関する手続を代わって行わせることができる者として、指定居宅介護支援事業者や介護保険施設などを規定しているが、全国介護保険担当課長会議資料(平成11年9月17日開催)は、この規定は社会保険労務士法の特例であり、「報酬を得て、業として(つまり、反復・継続して)、要介護認定の申請代行又は代理を行いうるのは、社会保険労務士、指定居宅介護支援事業者及び介護保険施設に限定される」が、「報酬を受けないというのであれば、これら以外の者について、申請の代行又は代理を行うことは当然に可能である」としている。
解釈を導くに当たり相当の法的論理操作を要するが、介護保険法第33条の2第1項にある要支援者の区分変更申請の規定は、要支援1・要支援2の相互間の変更のみを求めるものでしかないため、この規定による申請は通常なされない(平成18年3月13日開催全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料)。要支援者が認定有効期間途中に重度の介護度への変更を求めて申請する場合は、介護保険法第27条第1項により新規の要介護認定申請をすることになる。これを前提に、介護保険法施行規則第35条第5項にみなし更新の規定が設けられている。これは、要支援認定と要介護認定があくまで別の認定であるという制度設計による。なお、実務上は「要支援者による新規の要介護認定申請」についても「区分変更」と通称されることがあるが、本当に「要支援者の区分変更申請」(介護保険法第33条の2第1項)をしてしまうと、意図したのとは異なる認定結果になることに注意を要する。
入院中で退院の見込みがなかったり、在宅でも当面はサービス利用の予定がない場合など、サービス利用の見込みがない状態での要介護認定申請について、申請をしないように指導する市町村がある。これは、申請件数を減らすことにより、サービス利用がある被保険者の要介護認定を迅速に行うことや事務費用の削減を目的としている。ただし、サービス利用が無くても要介護認定を受ける権利はなくならないので、行政指導はあくまで任意のものにすぎず、強制力のあるものではない(行政手続法第32条・第33条)。申請の意思が明らかであれば、申請書用紙を渡さなかったり、申請書を受け取らないというような行為は違法となる。
新規申請をした後に状態が悪化して区分変更申請をするとすれば、その時期は新規申請の結果通知の後というのが一般的な扱いである。しかし、先に行った申請の結果が決まるまで次の申請ができないというような明文の規定があるわけではない。厚生労働省が過去に示している資料「短期間に繰り返し行われる要介護認定への対処について」(全国介護保険担当課長会議資料(平成11年8月3日開催))でも、申請自体は有効であることが前提となっている。
要介護認定は申請日から有効になるので、申請日以前のサービス利用は、保険給付の対象とならない。ただし、介護保険法第42条は、「当該要介護認定の効力が生じた日前に、緊急その他やむを得ない理由により指定居宅サービスを受けた場合において、必要があると認めるとき」には、市町村が特例居宅介護サービス費を支給すると規定している。また、第42条の3で特例地域密着型介護サービス費、第49条で特例施設介護サービス費、第51条の4で特例特定入所者介護サービス費に同趣旨の規定がある。
要介護認定申請を受けた市町村は、被保険者宅(あるいは、入院・入所先)に調査員を派遣し、被保険者の心身の状況や置かれている環境などについて認定調査を行う(介護保険法第27条第2項)。
新規の要介護認定申請の場合、認定調査は保険者である市町村の職員が行う。ただし、被保険者が遠隔地に居所を有する時は、他市町村に認定調査を嘱託することができる(介護保険法第27条第2項)。また、都道府県知事が指定した指定市町村事務受託法人に委託することもできる(介護保険法第24条の2第1項第2号)。
さらに、要介護認定の更新申請及び区分変更申請の認定調査に限っては、指定居宅介護支援事業者、介護保険施設、介護支援専門員(個人)などに委託することができる(介護保険法第28条第5項)。申請をした被保険者とサービス利用契約を結んでいる事業者は、その要介護認定の結果に利害関係のある立場だが、認定調査の委託先となることについて法令上の制限はなく、市町村の運用に任されている。以前は新規の要介護認定申請についても同様に委託できたが、2006年(平成18年)4月の介護保険法改正により、2008年(平成20年)4月以降は委託先が指定市町村事務受託法人に限定された。
市町村はこれらの規定の範囲内で認定調査を行っているが、市町村の正規職員による認定調査が多数を占める場合、市町村の非常勤職員による認定調査が多数を占める場合、更新申請及び区分変更申請の大多数を委託している場合、新規申請を含めほとんどの認定調査を指定市町村事務受託法人で実施している場合など、対応はまちまちである。
委託料は市町村と委託先の契約によって決められるため市町村によって異なるが、一件につき2,500円から5,000円程度である(調査対象の被保険者が在宅か施設入所かによって異なることもある)。認定調査の実施から調査票の完成までに要する時間からすると安価な水準であることが多く、認定調査の委託を受けない事業者もある。
調査内容は、心身の状況、置かれている環境、その他厚生省令で定める事項となっており、2000年(平成12年)4月の介護保険制度施行時には85項目であったが、2003年(平成15年)4月の改正では79項目と変化している。現在は2006年(平成18年)4月の改正による82項目を調査している。
認定調査において、定められた調査項目では被保険者の状態を十分表せない場合、特記事項として調査員が文章で状態を記録する。
要介護認定申請中に申請者が死亡しても、生前に認定調査が実施され、医師の診察を受けていれば、審査判定に必要な資料は整うため問題とはならない。しかし、がんなど終末期に状態が急変しやすい疾病の場合、要介護認定申請をした被保険者が、認定調査の実施前に死亡することがある。サービスの暫定利用があると、保険給付にかかわるため、申請から死亡までの要介護認定の取扱いが問題となる。要介護認定ができなかったものとして保険給付をしない取扱いとする市町村もあるが、法令上明確に示されている取扱いではない。市町村側の都合で認定調査の実施までに時間を要する場合もあり、すべて保険給付が受けられないことにするのが適切かどうかは、疑義が生じる。
要介護認定申請を受けた市町村は、申請をした被保険者の主治医に対し、疾病や負傷の状況などについて記載した主治医意見書の提出を求める(介護保険法第27条第3項)。多くの場合、申請書に記載された主治医に宛てて、市町村から主治医意見書の提出依頼が郵送されるが、申請をしようとする被保険者に主治医意見書用紙をあらかじめ配布し、被保険者が主治医に用紙を渡し、記入済みの主治医意見書を添付して市町村に申請書を提出する形式を採る市町村もある。
介護保険法第27条第3項ただし書きは、「当該被保険者に係る主治の医師がないときその他当該意見を求めることが困難なときは、市町村は、当該被保険者に対して、その指定する医師又は当該職員で医師であるものの診断を受けるべきことを命ずることができる」と規定しているが、被保険者への命令の形式となっているため、この規定が直接適用されることはあまりない。「医者に掛かったことがない」というような被保険者が申請しようとするとき、市町村は被保険者に医療機関を紹介して、受診を促すことが多い。
市町村は、認定調査の結果と医師意見書の内容をコンピュータに入力し、全国一律の基準により介護にかかる時間(要介護認定等基準時間)を一次判定結果として算出する。
市町村は、一次判定結果が記載されたシートをコンピュータから印刷し、認定調査票の特記事項と主治医意見書と合わせたものを介護認定審査会資料としては介護認定審査会に提示する。なお、介護認定審査会資料には申請した被保険者の氏名などは通常記載しない。
要介護認定等基準時間は、次に掲げる行為に要する1日当たりの時間として、厚生労働大臣の定める方法により推計される時間とされている(要介護認定等に係る介護認定審査会による審査及び判定の基準等に関する省令(平成十一年四月三十日厚生省令第五十八号)第3条)。単位は分。
要介護認定等基準時間は、一分間タイムスタディ・データを元にした樹形モデルにより推計される。「一次判定ロジック」ともいう。樹形モデルの作成には、統計処理ソフトS-PLUSの樹形モデル作成機能が使われた。
この樹形モデルによる基準時間の算出は、手作業でも可能だが、煩雑で時間がかかるため、厚生労働省がソフトウェア(一般的に「認定ソフト」または「一次判定ソフト」などと呼ばれている。)を市町村へ無償で配布している。このソフトウェアに認定調査の結果を入力すれば、対象者の基準時間を算出できるようになっている。
ソフトウェアに組み込まれている樹形モデルは、「要介護認定等基準時間の推計の方法」(平成12年厚生省告示第91号)により公表されているが、厚生労働省が市町村へ配布しているソフトウェア自体は一般には配布されていない。このため、厚生労働省が市町村に配布しているソフトウェアと同様の機能を有するソフトが個人により作成され、インターネット上で公開されている。
介護支援専門員などの中には、インターネット上で公開されている個人作成のソフトウェアを利用し、審査判定結果を予測するなど業務に活用する者もいる。
一般的な感覚としては、心身の状態が悪化すれば介護の手間の増加につながると考えるのが自然だが、樹形モデルでは、ある認定調査項目を状態が悪い方へ変更した場合に基準時間が短くなる(介護の手間が少なくなると評価される)ことがある。樹形モデルで起こるこの現象は逆転現象と通称され、一次判定ソフトの妥当性をめぐる議論でしばしば取り上げられる。
逆転現象全てを否定的に捉えて一次判定ソフトに信頼性がないとするような主張もあるが、逆転現象が起こるのは心身の状態が悪化しても介護の手間の増加につながらないケースが樹形モデルに反映されているためで、厚生労働省が作成した介護認定審査会委員テキストにおいても「状態像が悪いほど、介助量が増加するだろうともいえません」との記載がある。
例えば、歩行ができて認知症の周辺症状が激しい人が、骨折して歩行できなくなったとすれば、必ずしも介護の手間の増加にはつながらないと考えられる。また、一口ずつ時間をかけて食事を口に運ぶ介護でかろうじて経口摂取をしていた人が、経口摂取できなくなり胃ろうになったという場合も、必ずしも介護の手間の増加にはつながらないと考えられる。
一方で、樹形モデルの中には、状態の悪化が介護の手間の減少につながるとは考え難い逆転現象も存在しており、すべてが合理的に説明できるわけではないため、1分間タイムスタディのデータの信頼性とも関連した議論がなされることがある。
一分間タイムスタディ・データは、全国の介護保険施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設)に入所(入院)している高齢者について、48時間にわたり、1分刻みで、どのような介護サービスがどのくらいの時間にわたって行われたかを調査した結果である。平成21年4月以降に使用されている一次判定ソフトは、介護保険施設60施設で、3519人に対して行った一分間タイムスタディ・データにより作成されている。[1]
一分間タイムスタディ・データをめぐっては、次のような議論がある。
こうした議論は、制度開始当初や一次判定ソフト改訂の際に繰り返されているが、厚生労働省は一分間タイムスタディ・データ自体をこれまで公表していないため、厚生労働省以外の者による検証が行われたことはない。
介護認定審査会資料、特記事項と主治医意見書は、被保険者名、調査員名、主治医意見書作成者名等が覆い隠され個人が特定されない状態で、介護認定審査会において介護の必要度(要介護度)及び認定有効期間が判定される。これを二次判定という。
二次判定は、一次判定結果を原案として行われ、介護認定審査会資料に一次判定での統計的推計では反映されていない要素があると認められる場合には、一次判定結果を重度または軽度に変更することができる。
二次判定において、感染症に感染していて、医療施設でないと管理が難しいという場合など、例外的にサービスの指定ができる。 また、サービス提供上の留意事項については、認定審査会として意見を付すことができることになっている。
介護認定審査会は、要介護認定の審査判定を行うため、市町村の附属機関として設置されている。
市町村が共同で介護認定審査会を設置することも可能であり、地方部では小規模な市町村を中心に共同設置の例がある。また、広域連合を設置し、介護認定審査会に加え、認定調査の実施も共同で実施している例もある。
要介護認定申請は全件を介護認定審査会で審査判定するため、ほとんどの市町村では5名程度の合議体を複数設置することで件数を処理している。
介護認定審査会の委員は、保健・医療・福祉の学識経験者を市町村長が任命する。任期は2年間で再任も可能。審査会の委員は、非常勤特別職の公務員であり、市町村規定の報酬が支払われ、守秘義務が課せられている。
委員に任命されているのは、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、保健師、介護支援専門員、精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの資格を持つ者がほとんどで、医師会や歯科医師会などこれらの資格の職能団体に推薦を求め、それに基づき任命していることが多い。
厚生労働省老健局長通知(平成21年9月30日老発0930第6号)では「各分野の均衡に配慮した構成」が求められており、「委員のうち保健、医療又は福祉のいずれかの分野の学識経験を有する委員を欠くときは会議を開催しないことが望ましい」ともされている。しかし、介護保険制度発足時には、福祉系資格の職能団体が現在より未発達で、有資格者の人数も少なかったため、医療系の委員が中心となった。各市町村が公開している委員名簿によれば、現在でも福祉系の委員数が限られているところは多く、合議体数よりも少ないこともある。
合議体の長は医師となることが多いが、制度上医師に限定されているわけではない。医療機関に勤務する医師にとって、介護分野の現状把握は難しい場合も多く、福祉系やリハビリ系の委員が合議体の長を務めることもある。
要介護認定の有効期間は、次の範囲内で介護認定審査会が申請ごとに定める。
新規申請および区分変更申請では、申請日が有効期間開始日となる。したがって、申請してから結果通知までの間に利用したサービスについても、結果次第で保険給付の対象となり、このような利用は暫定利用と呼ばれている。なお、申請日が各月2日~31日の時は、翌月を1ヶ月目として数え、有効期間の満了日は月末に統一される。
更新申請では、申請日や結果通知日に関わらず、更新前の有効期間満了日の翌日が更新後の有効期間開始日となる。このため、結果通知が遅延しても、認定の空白期間が生じることはない。
介護認定審査会が行う二次判定において、被保険者の状態が安定しないと認められる場合は標準より短い期間とすることができ、被保険者の状態が安定していると認められる場合には標準より長い期間を指定することができる。ただし、申請数の増加を抑制して事務負担を軽減するため、なるべく長い有効期間とするように運用している市町村も多い。
認定有効期間の途中でも、被保険者は介護度を変更する申請を随時することができる。一方、サービスを提供する事業者は期間途中に介護度を変更する申請をすることができないため、期間中の状態の変化により介護度と実際の心身の状態が一致しなくなっても、そのままの介護度でサービスが継続されることがある。
認定有効期間は、設定可能な範囲の上限を広げる制度改正が繰り返し行われており、直近では2011年4月に改正されている。
市町村は、介護認定審査会から審査判定結果の通知を受けると、それに基づき要介護認定をして、申請した被保険者に結果を通知する(介護保険法第27条第7項等)。市町村は介護認定審査会の審査判定結果に基づき認定すると法律上規定されているため、審査判定資料に事実誤認があったとか審査判定の手順に明らかな瑕疵があったというような場合は別として、市町村は介護認定審査会の審査判定結果のとおりに認定することになり、裁量は存在しない。
要介護認定申請の結果通知は行政手続法上の「申請に対する処分」に該当するため、申請拒否処分をする場合は、市町村には理由付記の義務がある(行政手続法第8条)。「非該当」の結果通知や区分変更申請の却下は明らかに申請拒否処分に当たり、要介護認定がされる場合であっても、申請した被保険者にとって不利益な介護度である場合は、申請拒否処分に該当しうる。しかし、ほとんどの市町村は結果通知の理由欄にあらかじめ用意した定型文しか記載しておらず、理由の提示に不備があると解される余地がある。
要介護認定申請の結果に不服がある時は、各都道府県に設置された介護保険審査会に審査請求をすることができる(行政不服審査法第5条第2号、介護保険法第183条)。介護保険審査会は、提出された書面や聞き取りによって市町村が行った審査判定の妥当性を審査し、審査請求に対する裁決をする。審査請求から裁決までには3か月~1年程度を要するのが通常である。
希望するサービスを利用できない認定結果になるなど、認定結果を不服と感じる申請者は少なくないが、裁決までに要する期間が長いため、実際に審査請求がなされることは稀である。実務上は、認定期間の途中に介護度を変更する申請をして再度審査判定を行うことにより不服に対処することが多い。
なお、審査請求は稀であるが、このことは審査請求で認容の裁決がされにくいということを意味するものではない。要介護認定は、認定調査の結果を主要な資料として審査判定を行うが、調査員は初対面の調査対象者について概ね1時間前後で70~80項目を調査するという場合が少なくないため、情報の聞き取り漏れが生じることがある。また、心身の状態や日常生活の状況は一人ひとり様々であり、調査項目の選択基準に当てはめたときに複数の解釈ができることがある。調査結果に修正すべき点が見つかれば、一次判定結果もそれを反映したものに修正となり、審査請求の認容につながる。
審査請求前置主義が採られており、審査請求に対する裁決を経てなお不服があるときに限り、取消訴訟(処分の取消しの訴え)を提起することができる(行政事件訴訟法第8条第1項ただし書き、介護保険法第196条)。もっとも、行政事件訴訟法第8条第2項第1号は、審査請求前置であっても審査請求があった日から3か月を経過して裁決がなければ、裁決を経ずに処分の取消しの訴えを提起できるとしているので、裁決までに通常要する期間からすると、多くの場合は裁決の前に提訴可能となる。提訴の際は、平成17年施行の改正行政事件訴訟法で新設された義務付け訴訟を併合することが想定される。
要介護認定申請に対する結果の通知は、申請のあった日から30日以内にしなければならず、これを延期することができるのは特別な理由がある場合とされている(介護保険法第27条第11項)。
しかし、結果通知までに30日以上を要することが常態化している市町村が少なくない。その理由として、次のようなことがある。
なお、一部の市町村では、申請者自らがあらかじめ医療機関に主治医意見書の作成を依頼し、入手した主治医意見書を添付して要介護認定申請を行うこととしている。このようにすると、申請のあった日から30日以内に結果を通知できる割合が形式上は高くなる。
申請から30日以内に結果通知がされず延期通知もないとき、また、延期通知の処理見込期間が経過しても結果通知がされないときは、申請した被保険者は、申請が却下されたものとみなすことができる(介護保険法第27条第12項)。この規定により、申請をした被保険者は審査請求をすることができる。
秋田市で、2010年8月から2011年1月までの間、495人の申請について、介護認定審査会を開催せずに結果を通知していた。秋田市の担当職員2人は、架空の審査会を開催したことにして、勝手に要介護度を認定していた。うち100人以上については、一次判定の結果を変更していた。申請者が増えて事務処理や審査会の開催が間に合わなかったのが原因とされる。[2]
厚生労働省は平成19年2月19日開催の全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議において「要介護認定の適正な運営について」と題する資料を示し、これ以降、「要介護認定適正化事業」を実施するなど要介護認定の「適正化」に取り組んだ。
課長会議資料で示されたのは、二次判定(介護認定審査会)での介護度の軽度変更率・重度変更率を都道府県ごとに集計したもので、全国平均で重度変更超過となっていること(軽度変更7.4%・重度変更20.1%)、都道府県により変更率に大きな違いがあること(宮城県で軽度変更3.3%・重度変更31.0%となっているのに対し、鳥取県で軽度変更17.2%・重度変更14.3%)が明らかとなった。また、一次判定が「非該当」及び「要支援1」の場合に重度変更率が高いことも指摘された。
ただし、厚生労働省は各市町村の事務について直接指示することはできず、また各市町村も介護認定審査会の審査判定に直接介入することはできない。このため、厚生労働省は、地方自治法上の「技術的助言」であることを前提にしつつ、「認定適正化専門員」(厚生労働省職員及び事業委託先の三菱UFJリサーチ&コンサルティング社員)を介護認定審査会の会議に同席させ、個別案件には介入しないものの、会議後に審査判定について指摘をする形とした。
介護保険の財源には国の負担分があり、都道府県間・市町村間で認定にバラつきがあるとすれば公平性を欠く。また、一次判定での統計的推計で反映されていない要素を調整するのが二次判定であるならば、軽度変更率と重度変更率は同じになるはずだが、実際には重度変更超過となっていた。こうした点の「適正化」を厚生労働省は意図したが、それは要介護認定の軽度化につながるものでもあった。前年の平成18年4月にスタートした新予防給付で訪問介護及び通所介護が包括報酬化され事実上給付抑制になったこととも重ねて、社会保障費抑制のための恣意的なものだとする批判的な受け止め方も生じた。
認定調査は原則として初対面1回限り1時間程度で行われるため、日常生活の状況について充分に把握できないまま調査票が作成され、それを元に審査判定が行われる可能性を含んでいる。市町村によっては、調査対象者を担当する居宅介護支援事業所に認定調査を委託する場合があり、担当ケアマネジャーは調査対象者の情報を元々把握しているため、そうすれば日常生活の状況を捉えきれないという恐れは少なくなる。しかし、居宅介護支援事業所は介護度が重くなった方が収入増につながるという点で利害関係者であるため、原則として委託しないこととしている市町村もある。
介護保険法第9条第2号は、40歳以上65歳未満の者の被保険者資格(第2号被保険者)について、「四十歳以上六十五歳未満の医療保険加入者」と規定している。日本ではすべての国民が何らかの医療保険(健康保険)に加入することになっているが、生活保護受給者は例外(国民健康保険法第6条第9号)で、国民健康保険から脱退して医療費の全額が医療扶助として生活保護から支払われる仕組みになっている。このため、生活保護受給者は介護保険の第2号被保険者にはならず、介護が必要な場合には、介護保険と同等の給付を生活保護から介護扶助10割として受給する。
この際は、全額が生活保護となり、介護保険の給付ではなくなるが、介護保険と同様に要介護認定が行われるため、「みなし2号」などと通称される。ただし、通常は介護保険法の給付が障害者自立支援法よりも優先するのに対して、生活保護法と障害者自立支援法の関係になるため、障害者自立支援法の給付が優先することになる。
なお、就労しているが収入が少ないために生活保護を受給している場合には、生活保護受給者であっても医療保険に加入しているため、通常の第2号被保険者となり、介護保険から9割、生活保護(介護扶助)から1割の支給となる。
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C
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直接生活介助 | 入浴、排せつ、食事等の介護 |
間接生活介助 | 洗濯、掃除等の家事援助等 |
問題行動関連行為 | 徘徊に対する探索、不潔な行為に対する後始末等 |
機能訓練関連行為 | 歩行訓練、日常生活訓練等の機能訓練 |
医療関連行為 | 輸液の管理、じょくそうの処置等の診療の補助 |
要支援 | 上記5分野の要介護認定等基準時間が 25分以上 32分未満 またはこれに相当する状態 |
要介護1 | 上記5分野の要介護認定等基準時間が 32分以上 50分未満 またはこれに相当する状態 |
要介護2 | 上記5分野の要介護認定等基準時間が 50分以上 70分未満 またはこれに相当する状態 |
要介護3 | 上記5分野の要介護認定等基準時間が 70分以上 90分未満 またはこれに相当する状態 |
要介護4 | 上記5分野の要介護認定等基準時間が 90分以上110分未満 またはこれに相当する状態 |
要介護5 | 上記5分野の要介護認定等基準時間が110分以上 またはこれに相当する状態 |
要支援 | 関節疾患(19.4%) | 高齢による衰弱(15.2%) |
要介護 | 脳血管疾患(24.1%) | 認知症(20.5%) |
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