-プラジカンテル
出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2017/09/08 00:07:22」(JST)
肝吸虫 Clonorchis sinensis | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Clonorchis sinensis (Cobbold, 1875) Looss, 1907[1] |
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和名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
肝吸虫 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
chinese liver fluke |
肝吸虫(かんきゅうちゅう、学名:Clonorchis sinensis) は、ヒトを含む幅広い哺乳類を終宿主とし、肝臓内の胆管に寄生する吸虫の1種。古くは肝臓ジストマと呼ばれてきた。日本列島、朝鮮半島、中国、台湾と東アジア一帯に広く分布し、東南アジアではベトナムに分布するが、タイには似た生態で別属のタイ肝吸虫 Opisthorchis viverrini が分布して地域によってヒトに濃厚に感染しており、これと同属の猫肝吸虫 Opisthorchis felineus が、シベリアからヨーロッパにかけて分布し、ヒトにも感染する。
肝臓内の胆管に寄生している成虫は平たい柳の葉のような形をしており、体長10〜20mm、体幅3〜5mm。雌雄同体であるが、多くの吸虫で貯精嚢、前立腺、射精管、陰茎を収めている陰茎嚢は持たない。精巣は樹枝状に分枝し、分葉嚢状となるタイ肝吸虫などの Opisthorohis 属との識別点となる。口を取り囲み摂食を助ける口吸盤は体の前端腹面にあって直径0.4〜0.6mm。体を寄生部位に固定する腹吸盤は体の前半4分の1の腹面に位置し、口吸盤とほぼ同大。
卵はこの類の寄生虫のものとしては最も小型の部類で、長径27〜32μm、短経15〜17μm。とっくり型で口の部分に陣笠のような形の蓋があり、これの周囲の縁取り部分が横に突出している。これらの形の特徴から横川吸虫や異形吸虫の卵と区別できる。色彩は淡黄色で、産出された時点で既に内部でミラシジウム幼生まで発生が進んでいる。
第1中間宿主から第2中間宿主へ移行するときのセルカリア幼生は頭部に長い尾部が付属しており、頭部には2個の眼点が、尾部には鰭状のひだがあって活発に泳ぐ。第2中間宿主体内のメタセルカリア幼生は長径0.135〜0.145mmで、内部の幼虫は体を曲げて収まっており、体内には黄褐色の色素顆粒が、排泄嚢の中には大型の黒色の顆粒が満ちている。この幼虫の口吸盤と腹吸盤の大きさは50μmと60μmとほぼ同大で、両者に大きな差がある横川吸虫との識別点となる。
成虫は、寄生している胆管内で1日に約7,000個の卵を産む。卵は胆汁とともに十二指腸に流出する。最終的に糞便とともに外界に出た卵は、水中に流出しても孵化せず、湖沼や低湿地に生息する微小な巻貝の1種、マメタニシに摂食されてはじめて消化管内で孵化してミラシジウム幼生を生じる。ミラシジウムは第1中間宿主であるマメタニシの体内で変態してスポロシスト幼生となり、スポロシストが成長すると体内の多数の胚が発育して口と消化管を有するレジア幼生となり、これがスポロシストの体外に脱出する。レジアはマメタニシの体内で食物を摂取して成長すると、体内の胚が発育して多数のセルカリア幼生となり、これが成熟したものから順次レジアの体内を脱し、さらにマメタニシの体から水中に泳ぎだす。セルカリアは活発に遊泳して第2中間宿主となる淡水魚に達し、鱗の間から体内に侵入して主として筋肉内でメタセルカリア幼生となる。
肝吸虫のメタセルカリアが寄生し、第2中間宿主となる淡水魚はコイ科を中心にモツゴ、ホンモロコ、タモロコなど約80種。コイ科以外ではワカサギの報告もある。こうした魚をヒト、イヌ、ネコ、ネズミなどが生で摂食すると、メタセルカリアは小腸で被嚢を脱して幼虫となり、胆汁の流れを遡って胆管に入り、肝臓内の胆管枝に定着する。23〜26日かけて成虫となり、産卵を開始する。成虫の寿命は20年以上に達する。
マメタニシ
モツゴ、ホンモロコ、タモロコ、ゼゼラ、ヒガイ、ヤリタナゴ、バラタナゴ、カネヒラ、ウグイ、フナ、コイ
ヒト、イヌ、ネコ、ネズミ、ブタ
実験的には以下でも感染成立
イエウサギ、ラット、マウス、モルモット、ハムスター、ヌートリア
古くから知られた流行地として、岡山県南部、琵琶湖沿岸、八郎潟、利根川流域、吉野川流域などが知られている。他に宮城県、新潟県、埼玉県、長野県、富山県、濃尾平野、京都府南部、大阪府、和歌山県、兵庫県南部、広島県、山口県、香川県、徳島県、福岡県北部、福岡・熊本県境地帯などに流行地がある。
肝吸虫は、成虫が寄生する胆管枝に塞栓してしまうため、多数個体が寄生すると、胆汁の鬱滞と虫体の刺激によって胆管壁と周囲に慢性炎症をきたす。さらに肝組織の間質の増殖、肝細胞の変性、萎縮、壊死が進行し、肝硬変へと至る。そのため食欲不振、全身倦怠、下痢、腹部膨満、肝腫大をきたし、やがて腹水、浮腫、黄疸、貧血を起こすようになる。ただし、少数個体のみの寄生では無症状に近い。
胆管の拡張、肥厚が起こるため、逆行性膵胆管造影、CT、エコーなどで診断すると、肝内胆管の拡張像、異常が認められる。確実な診断には虫卵の確認が必要であるため、糞便検査(ホルマリン・エーテル法やAMSIII法などの沈澱集卵法を利用)や十二指腸ゾンデ検査が行われる。免疫学的診断法もかなり有効である。
モツゴやホンモロコ、タナゴ類のような小型のコイ科魚類を流行地で生食するのが最も危険である。フナやコイはモツゴやホンモロコなどに比べるとメタセルカリアの保虫率ははるかに低いが、刺身などにして生で食べる機会が多いため、用心しなければならない。
感染した場合、古くは塩酸エメチン、クロロキン、ジチアザニン、ヘキサクロロフォン、ヘトール、ビレボンなど副作用の強い薬を用いざるを得なかったが、1980年代以降プラジカンテルの登場によって1日の投与のみで根治が可能になった。
芸術家にして美食家の北大路魯山人の死因として広く知られている説として、「生煮えのタニシを好んで食べたため、肝吸虫の重い感染を受けて肝硬変を起こして死んだ」とするものがある。しかし肝吸虫の中間宿主となるマメタニシは食用となる真のタニシ類とは類縁が遠く、また小さくて食用にされることもない。当然のことながらマルタニシやオオタニシのような一般に食用とされるタニシに肝吸虫が寄生していることもない。さらに、マメタニシは第一中間宿主であるため、別にこれをヒトが生で食べたところで終宿主への感染能力を持つメタセルカリアを有しないので、感染源とはならない。したがって、魯山人の感染源は、コイやフナなどの淡水魚の刺身以外には考えにくい。とはいうものの、淡水産の水産物の表面には肝蛭のような他の寄生虫の感染態の幼生が付着している危険性はあるので、タニシを食べるときは十分火を通して食べるべきではある。
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国試過去問 | 「106E029」 |
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蠕虫類 | 病原体名 | 病名 | 感染経路 | 寄生部位 | 症状 | 診断 | 治療 | |
線虫類 | Ancylostoma duodenale | ズビニ鉤虫 | 鈎虫症/十二指腸虫症 | F型幼虫経口感染、経皮 | 空腸上部 | 皮膚炎、若菜病、貧血 | 飽和食塩水浮遊法、遠心沈降法 | pyrantel pamoate、鉄剤 |
Necator americanus | アメリカ鉤虫 | |||||||
Strongyloides stercoralis | 糞線虫 | 糞線虫症 | F型幼虫経皮感染 | 小腸上部 | Loffler症候群 | 糞便塗沫、普通寒天平板培養による R型、F型幼虫の検出 |
thiabendazole, ivermectin | |
Enterobius vermicularis | 蟯虫 | 蟯虫症 | 虫卵経口感染 | 盲腸~大腸 | 夜間の掻痒、不眠、情緒不安定 | 肛囲検査法「柿の種」 | pyrantel pamoate | |
Ascaris lumbricoides | 回虫 | 回虫症 | 虫卵経口感染 | 小腸孵化→門脈→ 肺発育→食道嚥下→小腸 |
Loffler症候群。急性腹痛 | 糞便虫の虫卵の証明 | pyrantel pamoate | |
Toxocara canis | イヌ回虫 | 幼虫移行症 | 生後1-2ヶ月の感染犬の 糞から経口感染 |
なし | 幼虫移行症→失明 | 免疫診断 | 治療法無し? | |
Wuchereria bancrofti | バンクロフト糸状虫 | フィラリア症/糸状虫症 | アカイエカ | リンパ系 | 急性期:リンパ肝炎、リンパ腺炎を伴う熱発作(filarial fever) 慢性期:乳糜尿、リンパ管瘤、陰嚢水腫、象皮病 |
急性期:夜間のmicrofilariaの検出 慢性期:特有の症状を考慮 |
diethylcarbamazine & ivermectin | |
Brugia malayi | マレー糸状虫 | |||||||
Dirofilaria immitis | イヌ糸状虫 | アカイエカ | なし | 幼虫移行症→肺血管閉塞→胸部X線画像銭形陰影 | ||||
Gnathostoma spinigerum | 有棘顎口虫 | 顎口虫症 | ドジョウ、雷魚、ヘビの生食 | 消化管壁貫通→皮下移動による腫瘤や線状皮膚炎 | 移動性腫瘤、皮膚爬行疹 雷魚やドジョウの生殖の問診 免疫血清診断 |
なし | ||
Gnathostoma hispidum | 剛棘顎口虫 | |||||||
Gnathostoma doloresi | ドロレス顎口虫 | |||||||
Gnathostoma nipponicum | 日本顎口虫 | |||||||
Anisakis simplex, larva | アニキサス幼虫 | アニサキス症 (1)胃アニサキス症、 (2)腸アニサキス症、 (3)異所性アニサキス症 |
経口感染 終宿主:クジラ、イルカ。 中間宿主:オキアミ。 待機宿主:サバ、ニシン、アジ、タラなど |
胃や腸 | (1)急激な上腹部痛"胃けいれん" (2)腹痛、急性虫垂炎、イレウス様。劇症型と緩和型がある (3)腹腔内の炎症性肉芽腫 |
胃内視鏡検査 | 内視鏡による虫体摘出 | |
Pseudoterranova decipiens | ||||||||
Trichinella spiralis | 旋毛虫 | 旋毛虫症 | 経口感染 豚肉、クマ肉の生食 |
(1)成虫侵襲期:下痢、腹痛 (2)幼虫筋肉移行期:顔面浮腫、心筋障害など (3)幼虫被嚢期:全身浮腫、衰弱 |
急性期:ステロイド 殺虫:mebendazole | |||
鞭虫症 | 盲腸 | 慢性下痢、腹痛、異食症、貧血 | セロファン重層塗沫法、 ホルマリンエーテル法 |
mebendazole | ||||
Spirurin nematode larva | 旋尾線虫 | 旋尾線虫幼虫 | ホタルイカの生食 | なし | 皮膚爬行疹、イレウス様症状 | 予防:-30℃24時間。 生食には-30℃4日間以上 |
摘出 | |
吸虫類 | Shistosoma japonicum | 日本住血吸虫 | 日本住血吸虫症 | 糞便虫の虫卵→ミラシジウム→ ミヤイリガイ体内でセルカリア→ 人畜の皮膚より浸入→循環系→ 門脈に寄生 |
門脈 | (1)潜伏期:侵入部の掻痒性皮膚炎。肺移行期:咳、発熱 (2)急性期:虫卵の門脈系寄生、産卵。住血吸虫性赤痢。 (3)慢性期:虫卵の肝、脳などの塞栓。肝硬変。脾腫、腹水 |
糞便虫の虫卵の検出。 直腸粘膜層掻爬法、 肝穿刺による組織内虫卵の検出。 補助診断として免疫血清学的検査。 |
praziquantel |
Paragonimus westermani | ウェステルマン肺吸虫 | 肺吸虫症/肺ジストマ症 | 経口感染 淡水産のカニ、イノシシ肉の生食 |
肺 | 痰、咳、胸痛、時に喀血 | 痰や便の虫卵検査、 胸部写真、 断層写真で明らかな虫嚢。 免疫学血清検査 |
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Paragonimus miyazakii | 宮崎肺吸虫 | 肺 | 気胸、胸水貯留、膿胸、好酸球増加 | praziquantel | ||||
Clonorchis sinensis | 肝吸虫 | 肝吸虫症/肝ジストマ症 | 経口感染 虫卵→(マメタニシ:セルカリア)→ セルカリア→(魚:メタセルカリア)→ 摂取→(ヒト:成虫)→虫卵 |
胆管 | 胆汁流出障害による肝障害→肝硬変 | 糞便、胆汁(十二指腸ゾンデ法)。 肝吸虫卵の検出。CT像。エコー検査。 |
praziquantel | |
横川吸虫症 | 淡水魚(アユ、フナ、ウグイ、シラウオ)の生食 | 小腸粘膜 | 下痢、腹痛 | 糞便虫の虫卵 | praziquantel | |||
条虫類 | Taeniarhynchus saginatus | 無鉤条虫 | 腸管条虫症 | 経口感染。中間宿主:ウシ | 小腸 | 無症状。下痢。 広節裂頭条虫感染では悪性貧血。 |
糞便虫の虫卵と体節により診断 | praziquantel。 有鉤条虫の場合はガストログラフィン。 有鉤条虫の駆虫の際、 虫体を破壊しない →虫体の融解による嚢虫症 |
Taenia solium | 有鉤条虫 | 経口感染。中間宿主:ブタ | ||||||
Diphyllobothrium latum | 広節裂頭条虫 | 経口感染。中間宿主:サケ、マス | ||||||
日本海裂頭条虫 | 経口感染。中間宿主:サケ | |||||||
腸管外条虫症 | ||||||||
有鉤嚢虫症 | 有鉤条虫の虫卵の経口摂取 | 皮下、筋肉内 脳、脊髄、眼球 |
皮下、筋肉内:小指頭大の無症状腫瘤 脳、脊髄、眼球:Jacksonてんかん。痙性麻痺など |
皮下の虫嚢 | 外科的摘出。 成虫寄生がなければ、praziquantel, albendazole + ステロイド | |||
Echinococcus granulosus | 単包虫 | 包虫症/ エキノコックス症 (単包虫症) |
終宿主:イヌ、キツネなど。 中間宿主:ヒト、ブタ、野ネズミなど。 終宿主の糞便虫の虫卵を中間宿主が接種して発症 |
肝、肺、まれに脳、腎、筋肉 | 肝寄生:肝部疼痛、満腹、時に黄疸、下肢浮腫 肺寄生:胸部圧迫感、胸痛、咳、血痰、時に喀血 |
肝や肺の嚢胞形成から疑う。 早期に診断に皮内反応→ CT、エコー→ 生検。免疫血清学的診断法 |
外科的切除。 albendazoleの長期投与 | |
Echinococcus multilocularis | 多包虫 | 包虫症/ エキノコックス症 (多包虫症) |
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