出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/12/21 21:26:32」(JST)
この項目では、日本の制度について説明しています。総論については「公的扶助」をご覧ください。 |
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生活保護(せいかつほご、英語: Public Assistance[1])は、日本の生活保護法によって規定されている、経済的に困窮する国民に対して、国や自治体が、健康で文化的な最低限度の生活を保障するために、生活費を給付する公的扶助制度である。
日本国憲法第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」
生活保護法第1条「この法律は、日本国憲法第二十五条 に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」
生活保護法第一条にあるように、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする制度である[2]。
生活保護は次の原則に則って適用される。
審査の結果、生活保護費を受給できると認められた者を被保護者という。被保護者は生活保護法に基づき、次のような権利を得るとともに義務を負わなければならない。
医療扶助費 (50.4%) |
入院 (59.3%) |
精神科入院 | 12.3% |
その他入院 | 17.4% | ||
入院以外 | 20.3% | ||
生活扶助費 | 32.3% | ||
住宅補助費 | 13.9% | ||
その他 | 12.2% | ||
総額 | 2兆6,033億円 |
生活保護は次の8種類からなる[5]。これらの扶助は、要保護者の年齢、性別、健康状態等その個人または世帯の生活状況の相違を考慮して、1つあるいは2つ以上の扶助を行われる。
生活保護の基準は、厚生労働大臣が地域の生活様式や物価等を考慮して定める級地区分表によって、市町村単位で6段階に分けられている[12]。この級地区分表による生活保護基準の地域格差の平準化を(生活保護制度における)級地制度という。また、冬季加算の基準にのみ使用される5段階の区分がもうけられている。
8種類ある扶助を合計した金額が最低生活費であり、ここから収入を差し引いた額が実際の支給額となる。2013年8月から順次減額。以下の計算例は平成27年度(2015年度)を基準とする[13]。
児童手当、児童扶養手当等を別途受給した場合、収入として差し引かれて支給される。
東京都区部など (1級地-1) |
地方郡部など (3級地-2) |
|
---|---|---|
標準3人世帯(33歳、29歳、4歳) | 158,380円 | 129,910円 |
高齢者単身世帯(70歳以上) | 74,630円 | 60,310円 |
高齢者夫婦世帯(68歳、65歳) | 119,200円 | 96,330円 |
母子世帯(30歳、4歳、2歳) | 188,140円 | 158,170円 |
若年者単身世帯(19歳) | 79,970円 | 64,620円 |
実施主体は、原則として地方公共団体(都道府県知事、市長及び福祉事務所を管理する町村長)であり、これらの事務は第一号法定受託事務である(地方自治法第2条9)。
なお、福祉事務所を管理していない町村(ほとんどの町村)においては、その町村を包括する都道府県知事がこの事務を行う。また、都道府県知事、市町村長の下に福祉事務所長及び社会福祉主事が置かれ、知事・市町村長の事務の執行を補助し、民生委員は市町村長、福祉事務所長又は社会福祉主事の事務の執行に協力するものとされる。
生活保護を担当する現業員(ケースワーカー)は、市部では被保護世帯80世帯に1人、町村部では65世帯に1人を配置することを標準数として定めている(社会福祉法第16条)。
実施機関では原則として厚生労働省が示す実施要領に則り保護を実施しているが、厚生労働省は技術的助言として実施要領を示すだけであって個別の事例の判断は一切行わない(監査や再審査請求での裁決を除く)。そのため、法及び各種通達等において定めることができない事例については、法の趣旨と実施機関が管轄する地域の実情などを勘案して判断される。
都道府県・市町村は、生活保護を行うため、保護施設を設置することができる(第40条)。保護施設が設置できるのは、都道府県・市町村のほか、社会福祉法人と日本赤十字社だけである(第41条)。なお市町村が保護施設を設置する場合、都道府県知事への届出が必要である(第40条2)。
保護施設には次の5種類がある。
扶助費の負担率は国が4分の3、地方自治体が4分の1である(第75条)。
受給者数の増加に伴い、生活保護の支給総額は2001年(平成13年)度に2兆円、2009年(平成21年)度には3兆円を突破し[15]、2012年(平成24年)度の支給額は3兆8000億円を超える見通しとされている。
政府の社会保障改革に関する集中検討会議によれば、「他法による施策も複雑化しているため[16]、ケースワーカーの育成も進まず要保護者の調査及び被保護者の生活改善に向けた指導などに手が回らない状態である。男性が25歳から80歳まで生活保護を受け続けた場合、扶助費総額にあわせ、働いた場合の税金や社会保険料の国と地方の逸失額を合算すると最大で1億5千万円を超えることも明らかになっている」とされている[17]。
厚労省資料によれば、この生活扶助費の総支給額に占める割合は平成21年度実績ベースで全体の33.8%となっている[18]。また、生活保護の標準世帯生活扶助費基準額は平成10年をピークとしており、平成23年現在では対平成10年で月1,146円の減、0.7%の減額にとどまっていたうえ[19]、平成17年には高校就学費を、21年には小学から高校までの学習支援費を新設するなど[20]、有子世帯の総支給額は上昇している一方、国税庁平成23年民間給与実態統計調査結果によると、給与所得者の平均給与は平成9年をピークにして下がり続け、平成23年には平均年409万円で、対平成9年にして年58万3千円の減、12.5%の減となっているとされている[21]。
NHKの報道によれば、「平成22年度の生活保護費を国内世帯(生活保護世帯を含む)で割った場合、1取世帯が1年に負担する額はおよそ6万3千円と」されている[22]。
2005年、国(厚生労働省)と地方との間で「三位一体の改革」の一環として、生活保護費の国と地方自治体との負担率を変更しようとの議論が行われた。現制度では支給される保護費について国3/4、地方1/4の割合で負担しているが、これを国1/2、地方1/2に変更しようとするものであった。さらに住宅扶助の一般財源化(地方交付税交付金に含めて国が交付)、保護基準(最低生活費)を地方が独自に設定することができるようにしようとした。
厚生労働省の主張は、生活保護行政事務の実施水準が低いところは保護率が高い水準にあり、保護費の負担を地方に大きく負わせることで生活保護行政事務の実施水準を向上させざるを得ない状況にして、国と地方を合わせた保護費の総額を減らそうというものである。しかしながら地方六団体は、憲法第25条で国が最低生活の保障を責任を持っていること、最低生活を保障するという事務は地方自治体に裁量の幅がほとんど無いこと(幅を持たせるとすれば、最低生活費を下げるあるいは上げるということになる)、仮に現段階での地方の負担増に合わせて税源を移譲されたとしても今後保護世帯数が増加すればその分が総て地方の負担となること、等から猛反発した。福祉行政報告例第1表-第4表並びに第6表の生活保護関連統計の国への報告を停止する行動に出た自治体もあった。
保護率が高い地域を都道府県ごとにみると、北海道、青森県、東京都、大阪府、福岡県、沖縄県である。反対に保護率が最も低い県は富山県であり、次いで愛知県である(平成19年度のデータによる)。
生活保護に類似する制度として「外国人高齢者・障害者福祉給付金支給事業」などがあるが、北海道登別市の見解によれば、「国民年金制度上の理由により、国民年金に加入できなかった在日外国人高齢者・障害者の方々に給付金を支給するもので、給付金を支給することにより、地域で自立し、安定した生活を続けていくことを支援し、福祉の増進を図ることを目的としている」と示している[23]。
1946年(昭和21年)の旧生活保護法においては全ての在住者を対象としたが、1950年(昭和25年)の改訂で国籍条項が加わった。しかし、1954年(昭和29年)当時の厚生省が「人道的見地」から、生活に困窮者する永住外国人や日本人配偶者などの外国人においても、生活保護法を準用すると通知して以降、慣例的に日本国民と同じ条件で給付している[24]。
1990年(平成2年)10月25日に厚生省社会局保護課企画法令係長による口頭指示という形で対象となる外国人を永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者、特別永住者、認定難民に限定するようになった[25]。
2009年6月の国会では、生活保護法六条二項の保護を必要とする状態にある者(要保護者)に切迫した状況の不法残留外国人が含まれるかについて質問があり、不法滞在を助長するとの事由から外国人は六条二項の要保護者に含まれず、保護の対象は日本の国籍を有する者であるとした[26]。
国内での永住権を持つ外国人が、日本人と同じように生活保護法の対象となるかどうかが争われた訴訟で、最高裁第二小法廷は2014年7月18日、「外国人は生活保護法の対象ではなく、受給権もない」とする判断を示している[27]。
各種の統計データや試算が出ているが、代表例としては、厚生労働省の被保護者調査が基本統計データとしてあげられる[28]。
従って、客観的に検証可能な公的な機関が作成した統計データ以外の統計、例えば、政治家の試算や審議会の試算による統計データについては、客観的な検証の必要性を残す場合もあるという観点から、当欄の記載にあたって「〜によると・・される」等との記載に統一している。
年次 | 被保護者総数 (1000人単位) |
人口1000人 あたり被保護者数 |
---|---|---|
1980 | 1,427 | 12.2 |
1982 | 1,457 | 12.3 |
1984 | 1,469 | 12.2 |
1986 | 1,348 | 11.1 |
1988 | 1,176 | 9.6 |
1990 | 1,015 | 8.2 |
1992 | 898 | 7.2 |
1994 | 885 | 7.1 |
1996 | 887 | 7.1 |
1998 | 947 | 7.5 |
2000 | 1,072 | 8.4 |
2002 | 1,243 | 9.8 |
2004 | 1,423 | 11.1 |
2006 | 1,514 | 11.8 |
2008 | 1,593 | 12.5 |
2010 | 1,952 | 15.2 |
2011 | 2,067 | 16.2 |
2012 | 2,136 | 16.7 |
2013 | 2,162 | 17.0 |
厚労省によれば、生活保護の受給者数は、第二次世界大戦後の混乱の中、月平均で204万6646人が受給していた1951年が、同年の調査開始から2011年まで60年間、統計史上最高であった。その後は高度経済成長に伴い減少傾向で推移していたが、1995年の88万2229人を底に増加に転じ、1999年に再び100万人を突破したとされている[29]。2011年3月には200万人を突破し、2012年7月には212万4669人と過去最多の受給者数を記録しているとされている[29]。
年次 | 総数 | 内訳 | 医療扶助単給 世帯(再掲) |
単身世帯 (再掲) |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
高齢者世帯 | 母子世帯 | 障害者世帯 | 傷病者世帯 | その他 | ||||
2000 | 750 | 341 | 63 | 76 | 214 | 55 | 85 | 551 |
2002 | 870 | 403 | 75 | 87 | 232 | 72 | 84 | 638 |
2004 | 997 | 466 | 87 | 102 | 247 | 94 | 79 | 731 |
2006 | 1,074 | 474 | 93 | 125 | 272 | 110 | 76 | 796 |
2008 | 1,146 | 524 | 93 | 138 | 269 | 122 | 72 | 863 |
2010 | 1,405 | 604 | 109 | 157 | 308 | 227 | 70 | 1,061 |
2011 | 1,492 | 636 | 113 | 169 | 319 | 254 | 69 | 1,130 |
2012 | 1,552 | 678 | 114 | 178 | 297 | 285 | 66 | 1,181 |
2013 | 1,584 | 720 | 112 | 182 | 282 | 288 | 65 | 1,215 |
厚労省統計では、世帯類型については以下のように分別され、上から順に優先適応される[28]。
これによれば、中でも高齢者世帯(65歳以上)は趨勢的に増加しており、1980年度(昭和55年度)には全体の30.2%であったが2011年(平成23年)には43.4%と半数近くを占めるようになっている[31]。年齢・性別人数の内訳を見ると、2000年と2011年全国調査を比較しても、最多層は50、60代単身男性で、次いで70代以上単身女性、2人以上世帯の40代女性となっている。受給者の7割が単身者となっているとされている[31]。
なお、不況による雇用環境の悪化で、失業による生活保護受給も増加中である[15]。稼働世帯を多く含む「その他の世帯」は、平成22年度は約22.7万世帯と10年前の平成12年度の約5.5万世帯から4倍強の増加となっている。特に対前年度伸び率は、平成21年度は41.5%、平成22年度は32.2%となっている[32]。
ただし、実態として、長子が18歳以上となった場合や祖母などと同居している母子世帯では傷害・傷病がなければ生活保護の統計上において「その他世帯」となるが、2006年には母子加算総数約10万世帯に対して[33]、 統計の母子世帯は8万6千世帯と少なく[34]、差分は主に「その他」世帯となるため、事実上の母子家庭の存在も、勤労世帯である「その他世帯」増加の要因となっている。
総数 | 障害・傷病あり | 障害・ 傷病なし |
|||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
計 | 障害者数 | うち精神障害 | うち知的障害 | 身体障害 | 傷病者数 | うちアルコール 依存症 |
うち精神病 | うちその他 | |||
総数 | 2,123 | 885 | 361 | 130 | 33 | 197 | 525 | 10 | 137 | 377 | 1,238 |
~19歳 | 299 | 19 | 11 | 1 | 7 | 3 | 8 | 0 | 2 | 7 | 280 |
20~24 | 29 | 9 | 5 | 1 | 3 | 1 | 4 | 0 | 3 | 2 | 20 |
25~29 | 35 | 14 | 7 | 3 | 2 | 1 | 7 | 0 | 5 | 2 | 21 |
30~34 | 50 | 23 | 10 | 6 | 2 | 2 | 12 | 0 | 8 | 4 | 28 |
35~39 | 79 | 38 | 17 | 11 | 3 | 4 | 21 | 0 | 13 | 8 | 42 |
40~44 | 116 | 57 | 25 | 15 | 3 | 7 | 32 | 1 | 18 | 14 | 59 |
45~49 | 116 | 62 | 27 | 16 | 2 | 9 | 35 | 1 | 17 | 18 | 54 |
50~54 | 120 | 68 | 28 | 15 | 2 | 12 | 39 | 1 | 14 | 24 | 52 |
55~59 | 151 | 86 | 34 | 15 | 2 | 17 | 52 | 2 | 14 | 37 | 65 |
60~64 | 246 | 143 | 52 | 19 | 3 | 31 | 91 | 2 | 17 | 71 | 103 |
65~69 | 240 | 115 | 46 | 13 | 2 | 31 | 69 | 1 | 11 | 57 | 125 |
70~74 | 234 | 92 | 38 | 8 | 1 | 29 | 54 | 1 | 7 | 47 | 142 |
75~79 | 193 | 73 | 29 | 4 | 1 | 24 | 44 | 0 | 5 | 39 | 120 |
80歳~ | 215 | 86 | 31 | 3 | 1 | 27 | 55 | 0 | 5 | 50 | 129 |
平均年齢(歳) | 55 | 60 | 58 | 53 | 40 | 65 | 61 | 57 | 52 | 64 | 51 |
年齢 | 総数 | 0-14歳 | 15-34歳 | 35-54歳 | 55-59歳 | 60-64歳 | 65歳以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
精神・行動の障害 | 7.3% | 4.4% | 15.5% | 13.0% | 8.7% | 7.2% | 4.8% |
神経系の疾患 | 3.7% | 1.3% | 4.3% | 4.4% | 3.6% | 3.2% | 3.8% |
循環系の疾患 | 21.7% | 0.4% | 2.1% | 10.0% | 18.7% | 22.6% | 29.4% |
呼吸系の疾患 | 8.3% | 43.2% | 19.1% | 9.3% | 5.5% | 5.0% | 4.9% |
消化系の疾患 | 6.2% | 1.7% | 6.0% | 8.1% | 7.3% | 6.6% | 5.8% |
筋骨格系及び結合組織の疾患 | 12.1% | 1.9% | 6.6% | 13.3% | 14.8% | 14.1% | 12.3% |
その他 | 40.7% | 47.1% | 46.3% | 41.8% | 41.4% | 41.4% | 39.0% |
総数 | 100.0% | 100.0% | 100.0% | 100.0% | 100.0% | 100.0% | 100.0% |
所得が生活保護支給基準以下となっているひとのうち、実際に生活保護制度を利用している人の割合のことを一般的に「捕捉率」というが、実質的には制度の利用率だと言えるため、捕捉率(利用率)と以下表すこととする。
この捕捉率(利用率)は、統計によると、ドイツでは64.6%、イギリスでは47-90%、フランスでは91.6%なのに対し、日本は15.3-18%となっている[37]。ただし行政機関では「捕捉率」という言葉は使用せず、統計資料で生活保護受給率と表記し[38]、厚生労働省においても、上記調査結果は被保護世帯数の割合(保護世帯比)であるとして「生活保護は申請に基づいた制度であることから、調査から得られた「保護世帯比」が、申請の意思がありながら生活保護の受給から漏れている要保護世帯(いわゆる漏給)の割合を表すものではない」としている[39]。
厚生労働省の国民基礎調査を用いた推計では、2007年の時点で世帯所得が生活保護基準に満たない世帯は597万世帯(全世帯の12.4%)であるのに対し、実際に生活保護を受けている世帯は108万世帯(全世帯の2.2%)である。世帯類型別では、世帯所得が生活保護基準に満たない世帯は高齢者世帯が141万世帯、母子世帯が46万世帯、その他の世帯が410万世帯であるのに対し、実際に生活保護を受けている世帯は高齢者世帯が49万世帯、母子世帯が9万世帯、その他の世帯が50万世帯である。一方、同時に公表された全国消費実態調査を用いた集計では、世帯所得が生活保護基準に満たない世帯は231または311万世帯であるとし、低所得世帯数に対する被保護世帯数の割合(保護世帯比)は、フロー所得のみの場合で23.8%または29.6%、資産を考慮した場合で75.8%または87.4%と推定されるとしている[40]。
日本の生活保護の不正受給率は0.5%以下であり、世界最低水準である[41]。2005年の生活保護予算1兆9230億円に対し、不正受給は71億9000万円であった[42]。
世界的な機関による分析の例としては(1)がある。なお、厚生労働省の審議会の分析として(2)もある。
上例で見たように、世界的にみて極端に捕捉率(利用率)が低い日本の生活保護制度であるが、日本では、「捕捉率(利用率)がこれ以上高まったら財政的に問題が出るという」立場の論者から、いくつかの分析が示されている。
片山さつきの試算によれば、「2011年の国と地方を合わせた税収は79兆円で[47]、そのうち約5%が生活保護費に回っているとしている[7][48]。
また、学習院大学経済学部経済学科鈴木亘教授によれば、「確かに生活保護を受けてもいい低所得者はたくさんいるので、もっと生活保護を増やすべきという主張は理解できないわけではない。しかし、実施体制が崩壊しかかっている。低所得者をすべて受け入れると、単純計算でも年間10兆円が必要で、消費税にすれば3%を超える。制度を維持していくには、支える側、つまり納税者の理解が得られなければ無理である。今の状況ではとても理解が得られるとは言えない」としており、受給期限の設定や自立支援プログラムの強制などの導入を提唱しつつ、現状の生活保護制度の在り方について危機感を示している[49]。
これと同じく、「捕捉率(利用率)がこれ以上高まったら財政的に問題が出る」という立場の団体・研究機関の分析や意見の例として以下のものがある。
総合開発研究機構の2008年段階の試算レポートによると、就職氷河期の人々について、働き方の変化(非正規の増加と、家事・通学をしていない無業者の増加)によって生じる潜在的な生活保護受給者は77.4万人、それが具体化した場合に必要な追加的な予算額累計約17.7-19.3兆円となる結果が導き出され、これが現実となれば社会的にも深刻な影響を与える規模であることが予想されている[50]。
相対的貧困率が小さいスウェーデンでも1990年代の経済危機により失業者が増加し社会保障受給者が増え、社会省が1999年から2004年までに社会扶助受給者数を半減する目標を設定するまでになった[51]。同国では社会保障に占める生活保護など社会扶助の割合は4%と極めて小さく、また2008年のうち少なくとも1か月受給したことのある世帯は、全世帯の6.1%であり、平均受給期間は6.1か月で、1世帯当たりの月平均受給額は8万6千円となっている[52]。
生活保護の打ち切り理由のトップは、「失踪」である(2012年時点)[53]。また、生活保護を受けている人の自殺率は、一般の人の2倍となっており、20代だと6倍となっている(2012年時点)[54]。
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