出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/11/06 01:04:10」(JST)
医療保険(いりょうほけん、Health Insurance)とは、医療機関の受診により発生した医療費について、その一部又は全部を保険者が給付する仕組みの保険である。
高額の医療費による貧困の予防や生活の安定などを目的としている。長期の入院や先端技術による治療などに伴う高額の医療費が、被保険者の直接負担となることを避けるために、被保険者の負担額の上限が定められたり、逆に保険金の支給額が膨らむことで保険者の財源が圧迫されることを防ぐため、被保険者の自己負担割合や自己負担金が定められていたり、予め保障範囲が制限されていたりすることが多い。
強制加入の公的医療保険と、任意加入の私的(プライベート)医療保険の2種類に分けられる。
公的医療保険は予め被保険者の範囲が行政によって定められている医療保障制度である。多くの先進国では公的な医療保険制度を用意しているが、対象者の範囲や財源方式については国により異なる[1]。公的医療保険でも引受人が政府機関とは限らず、民間企業が引き受ける国もある(オランダの医療、スイスの医療など)。
これに対して、私的医療保険は、任意加入であり、契約者の財産や所得に応じて、複数の保険会社が用意するメニューからプランを選ぶことが可能である。私的医療保険に期待される役割は、国ごとに大きく異なる。なお任意加入の医療保険では、自己の健康状態に不安がある人ほど保険加入のインセンティブを持つため、いわゆる逆選択により健康状態の不良な被保険者集団が形成されるおそれがある。特に手術給付金など、加入者が受診を選択できる保障でこの傾向が強い。また、保険金詐欺を目的に保険加入するといったモラルリスクの問題もある。
保険者 | 加入者数(万人) |
---|---|
国民健康保険 | 3,831 |
協会けんぽ | 3,502 |
健保組合・共済など | 3,869 |
後期高齢者医療制度 | 1,473 |
(参考) 民間医療保険[4] | 1,586万契約 |
日本では「国民皆保険」とされ、生活保護の受給者などの一部を除く日本国内に住所を有する全国民、および1年以上の在留資格がある日本の外国人は何らかの形で公的医療保険に加入するように定められている(≠強制保険)。
日本で最初の健康保険制度は、第一次世界大戦以後の1922年(大正11年)に初めて制定され、1927年(昭和2年)に施行された職域の被用者保険であった。元は鉱山労働などの危険な事業に就く労働者の組合から始まったこの制度は徐々にその対象を広げ、市町村などが運営する国民健康保険制度の整備により“国民皆保険”が達成されたのは1961年(昭和36年)である。
公費負担医療給付 | 2兆9792億円(7.4%) | ||
後期高齢者医療給付 | 13兆821億円 (32.7%) | ||
医療保険等給付 18兆8109億円 |
被用者保険 8兆8815億円 |
協会けんぽ | 4兆4926億円 (11.2%) |
健保組合 | 3兆3238億円 (8.3%) | ||
船員保険 | 189億円 (0.0%) | ||
共済組合 | 1兆461億円 (2.6%) | ||
国民健康保険 | 9兆5331億円 (24.0%) | ||
その他労災など | 2981億円 (0.7%) | ||
患者等負担 | 4兆9918億円 (12.5%) | ||
軽減特例措置 | 1970億円 (0.5%) | ||
総額 | 40兆610億円 |
すべての個人事業主、協会管掌健保の任意適用事業所とする認可を受けていない個人事業主の従業員、無職者(任意継続被保険者と後期高齢者医療確保法に該当する者及び生活保護をうけている者を除く)が加入する。
75歳以上の者と後期高齢者医療広域連合が認定した65歳以上の障害者を対象とする医療保険制度(ただし、生活保護受給者を除く)であり、2008年(平成20年)4月1日からスタートした。
保険者は各都道府県ごとの全市町村で構成される後期高齢者医療広域連合であり、財源は被保険者の払う保険料、健康組合等が拠出する後期高齢者交付金、国、都道府県、市町村の補助や負担金により担われる。
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交通事故の場合も労働災害等に該当しない限りは公的医療保険の対象になる(労災等の対象になる場合は、労災等の扱いが優先され、公的医療保険は適用されない)。この場合、加害者がある場合(下記参照)は市町村の国民公的医療保険課・国民公的医療保険組合・企業公的医療保険組合や全国公的医療保険協会などの保険者に第三者行為による傷病届を遅滞なく提出しなくてはならない。用紙は、各保険者窓口で用意されている。また、医療機関窓口では普通の公的医療保険と同様に本人負担金分をいったん支払わなければならない。
交通事故が自身のみの単独事故ではなく相手がある場合には、レセプト(診療報酬請求書)に「第三者行為」であることを記載しなければならない。この記載がないと、保険者は負担した医療費を交通事故の過失割合に応じて、加害者に請求することができない。
また、勝手に示談等を行ってしまうと公的医療保険からの給付を受けられなくなる場合があるため、事前に保険者へ連絡を行った方がいい。
外国では日本の公的医療保険は使えないが、外国でけがや病気になって現地の医療機関を受診した場合、国外で支払った医療費について、帰国してから加入している保険者に請求することのできる海外療養費という制度がある。ただし、手続きには診療内容明細書(診療の内容、病名・病状等が記載された医師の証明書)と領収明細書(内訳が記載された医療機関発行の領収書)、およびこれの和訳文が必要となる上、公的医療保険から支給される金額は日本での同様の病気やけがの医療費(標準額)と支給決定日の外国為替換算率を基準に算定されるため、外国でかかった医療費が高額な場合は公的医療保険から戻される割合が低いことがある。
また、救急車代(外国では基本的に救急車は有料)などは対象にならないことや、一時的に医療費を立替払いする必要が生じるため、海外旅行傷害保険を契約(クレジットカードによっては標準でセットされていることも多い)しておくと、医療費の請求を保険会社に回すことができ、主要国では現地での日本語によるサポートが受けられることが多い。海外旅行傷害保険から医療費が保険金の形で降りても、公的医療保険の海外療養費の支給額が減額されることはないとのこと[6]。
日本における民間医療保険は、あくまでも公的な公的医療保険の補完である。すなわち公的医療保険によって生じる自己負担額分の補填や、差額ベッド代や交通費などの雑費、さらには休職による収入減少分などを補うことが目的である。悪性疾患と診断をされた場合の、「お見舞い金」という名目のものもある。診断結果、傷害の程度、手術の種類、通院や入院の日数などに応じて、定められた給付額が支払われるというプランが多い。民間の保険会社により販売されるものであり、直接の公的助成はないものの、支払った保険料は一定の条件のもとで所得税計算上の控除額(生命保険料控除)に計上できる。
「第三分野保険」と分類されるこの分野は、主として米国への配慮から[要出典]、外資系保険会社の独占が維持されていた。国内の保険会社は、生命保険などに付随する特約という形でのみ販売が可能であった。結果、一例として特定疾病保険の代表であるがん保険分野では、1974年(昭和49年)に日本での営業を開始した米国のアメリカンファミリー生命保険(アフラック)1社による寡占状態となっていた。
2001年(平成13年)、米国との合意に基づいて第三分野保険分野が自由化が認められ、日本国内の生命保険会社・損害保険会社の本格参入が初めて可能となった。その後、多数の保険会社がこの市場に参入した。2006年(平成18年)11月、外資系を含む多くの保険会社で、医療保険を中心とした第三分野保険における保険金の不当不払いが大量に行われていたことが明るみに出た。
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