出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/01/06 19:13:09」(JST)
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音響外傷(おんきょうがいしょう、または音響性外傷〈おんきょうせいがいしょう〉、Noise-induced hearing loss、Acoustic trauma)とは、強力な音波によって内耳の蝸牛が障害を受け難聴などが生じる聴覚機構の損傷を受けることである。なお、長期に渡って騒音に曝され続けると、騒音性難聴となるが、これも音響外傷の1種である。騒音性難聴というのは、慢性的な音響外傷とも説明されており、騒音が原因となって起こった音の聴取の可否に関する閾値の上昇(聴力の低下)が、たとえ一部の周波数であっても、正常聴力と比べて21dB以上上昇したまま回復しない状態のことを言う。音響外傷は、強い音が原因なので、そのような音を避けることが肝要となる。
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ヒトは、ある程度の強さの音までならば問題なく処理できるが、その限度よりも強い音が入って来ると、内耳などにダメージを受けてしまう。これが音響外傷である。そのようなことを引き起こす強力な音に曝された直後から、耳閉塞感や耳痛が起こり、その後、耳鳴りや聴力低下(難聴)が起きていることを自覚する。なお、聴力低下の度合いは、どのような音が原因となったかなどによって変わり、一定しない。場合によっては、特定の狭い周波数域だけ聞こえが悪くなっていることもある。さらに音源の方向によっては、片側の耳にだけ難聴が発生したりすることまである。また、耳は平衡覚や回転覚を感知する感覚器でもあるわけだが、強力な音に曝されることで、それらを感知する耳石器(卵形嚢斑と球形嚢斑の部分)もダメージを受ける場合がある。そうなるとめまいを感じたりもする。
日常的に強い音に曝されているのでなければ、これらの症状が出ても自己修復能力によって回復は見込める。このような音響外傷は、比較的予後良好とされるものの、完全には回復しないこともある。さらに、日常的に繰り返し強い音に曝されることで音響外傷を受け続けていると、ついには不可逆的な難聴となってしまう。こうした強い音に曝されることが原因で発生した難聴を、騒音性難聴と呼ぶ。この不可逆的な難聴が起こったことは、内耳のダメージが回復不能になったことを意味し、難聴の中でも、内耳性難聴(感音難聴の1種)を起こした状態である。したがって、その人の耳に届く音の強さが、その人の音の聴取の可否に関する閾値を超えた途端、それが強い音ではなくとも、大きな音が鳴っていると感じる現象、すなわち聴覚補充現象も見られる。
ちなみに、これらの症状は自ら望んで強い音を聴いた場合、自ら望まざるとも強い音に曝されてしまった場合、いずれ場合でも発生し得る。
大きな騒音などに長期間晒されているような環境で起きる場合があり、片方の耳のみ生じるケースが多い。ディスコやロックコンサートなどの大音響に晒されていると短時間でも起きる場合があり、ディスコ難聴やロック難聴とも呼ばれることがある。近年では携帯音楽プレーヤーによる症状も多数報告されている。これらは心身共に不調の場合に引き起こされやすいとされている。
爆発音などの急激な大音響によって引き起こされたものは急性音響外傷と呼ぶ。
音響外傷は、落雷、爆発、重量物の落下、機械の作動音、金管楽器のような強い音を出す楽器、電気的にアンプで増幅した楽器の音や歌声、大音量での音楽再生、データCDをオーディオCDプレイヤーで再生、などなど、様々な事象によって発生し得る、強いエネルギーを持った音が原因である。さらに、これらにより発生した強力な音(つまり騒音)に長期間さらされると、聴力が回復しなくなり、いわゆる騒音性難聴となる。この騒音性難聴と言うのは、騒音が原因の難聴という、言わば原因別の分類に従った呼び方だが、難聴の原因の部位による分類では、内耳性難聴と呼ばれるものだ。つまり、強い音によって内耳がダメージを受けることによって症状が出るのである。
なお、騒音性難聴はヒトだけに起こるものではなく、ラットなど他の動物にも発生する。2005年現在、なぜトルエンが毒性を発揮するのかよく判っていない[1]ため理由の説明はできないが、ラットでの実験において、騒音だけに暴露される場合よりも、騒音と同時にトルエンにも暴露されると、より聴力低下が起こりやすいことが判っている[2]。したがって、印刷工場など、トルエンと騒音が一緒に存在するような場所では、より被害が大きくなることが懸念されている。
1日や2日で自然回復する場合もあるが、症状が発生した場合は即座に、少なくとも1週間以内に耳鼻咽喉科や耳鼻科で診療を受けるのが望ましい。ステロイド剤、循環改善薬などの薬物療法や星状神経節ブロック療法などが行われる。しかし、蝸牛の有毛細胞は新陳代謝しないので、それらの破壊が重度の場合には耳鳴りなどの障害が一生残る可能性もあることには留意されたい。
音響外傷を負わないためには、強い音を避ける必要がある。つまり、うるさいと感じる場所には近寄らないことが、単純で根本的な予防法だということになる。しかし、それが難しい場合は、防音具の使用が有効である。防音具とは、外耳道に入ってくる音を遮断するための器具である。確かに、非常に強い音が発生している場合は、防音具を身に付けても、完全に音を遮断するのは難しい。しかし、それでもかなり音の侵入を防ぐことができるため、音響外傷の予防には効果が期待できる。なお、防音具には、耳栓やイヤーマフといった物がある。
また、たとえ連続的な騒音でなくとも、つまり、一回だけ強い音に曝された場合でも音響外傷となる場合もあるので、強い音が発生する可能性の高い場所に近寄らない、または、強い音の発生に備えて予め防音具を装着しておくということも1つの予防法だと言える。
ヘッドフォンなどで音楽を聴く場合は音量を上げすぎないことも予防になる。
ポピュラー音楽のライブなど、アンプを使って音を電気的に増幅するコンサートでは、終了後に耳が遠く感られることがあるが、これも音響外傷である。他の原因による音響外傷と同様に回復することもあるが、そのようなことを繰り返していると騒音性難聴となって二度と回復しない恐れがある。さらに、音楽の再生では、ヘッドフォンやイヤフォンから大音量で再生することも、騒音性難聴の原因となり得る。また、電気的に増幅していないオーケストラや吹奏楽などでも、トロンボーンの直前にいる奏者が騒音性難聴になるといったことも起きている。
このように、本来は音を楽しむはずの音楽で、音が聞こえにくくなってしまう状態である難聴が引き起こされているという問題が存在する。
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Henry Gray (1825-1861). Anatomy of the Human Body. 1918.
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