出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/08/30 00:33:00」(JST)
糖尿病慢性期合併症とは糖尿病に罹患してから数年を経て発症する合併症である。糖尿病で血糖をコントロールする目的は殆どはこれらの予防である。これらの合併症は多彩であるが、糖尿病性神経障害・糖尿病性網膜症・糖尿病性腎症の微小血管障害によって生じるものを、糖尿病の「三大合併症(triopathy)」といわれる。これら3つの合併症を後述の血管障害、いわゆる大血管障害と対応させて、小血管障害という。
グルコースはそのアルデヒド基の反応性の高さからタンパク質を修飾する作用(糖化反応、メイラード反応参照)があり、グルコースによる修飾は主に細胞外のタンパク質に対して生じる。細胞内に入ったグルコースはすぐに解糖系により代謝されてしまう。インスリンによる血糖の制御ができず生体が高濃度のグルコースにさらされるとタンパク質修飾のために糖毒性が生じ、これが長く続くと糖尿病合併症とされる微小血管障害によって生じる糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症などを発症する[1]。
小血管障害は糖尿病発症の経過と比較することが重要である。神経障害は比較的早期から出現してくるが、網膜症は発症から5年ほどで出現してくる、発症10年で約50%で出現する。網膜症は腎症に先行することが多く、網膜症がなければ、腎機能障害は腎症によるものではなく、高血圧など別疾患によるものである可能性が高い。
比較的早期から出現し、小径の自律神経から感覚神経へと障害が進展する(ICD-10:E10.4、E11.4、等)。細胞毒としての 多発神経障害のほか、栄養血管の閉塞から多発単神経障害の形も同時に取る。自律神経障害としては胃腸障害(便秘/下痢)、発汗障害、 起立性低血圧、インポテンツ等。感覚神経障害としては末梢のしびれ、神経痛等である。多発単神経障害としては、一時的な黒内障もみられる。不思議なことに、末梢神経障害は糖尿病にかかっている時間の長さとは相関しない。自律神経障害は、相関する。胃腸障害は、現時点での血糖値に影響されるため、やはり相関しない。
糖尿病の患者でも分布が糖尿病性神経症らしくないしびれや痛みを訴えることがあるこの場合は特発性良性慢性しびれを合併していると考える。軽症であればアリナミンF®(ビタミンB1)50mg 1×やメチコバール(メコバラミン、ビタミンB12)1500μg 3×、ユベラN®(トコフェノール、ビタミンE)100mg 2×、ビタメジンカプセル®50mg 1×(複合ビタミン剤)などを使用する。また心因性の場合も多いため、抗不安薬も併用することもある。
糖尿病性神経症も血糖コントロールが改善すれば障害が可逆的なこともある。そのような軽症の場合はキネダック®150mg 3×(エパルレスタット)がよく用いられる。キネダックはアルドース還元酵素の阻害薬でありアルドース還元酵素を特異的に阻害し神経内のソルビトール蓄積を抑制する。神経が不可逆的阻害を受けていなければ有効とされている。糖尿病性神経症の疼痛やしびれに使用されることが多い。尿が赤くなるが、それは特に問題とならない。痛みが強くなってきた場合はキネダック®150mg 3×に加えてメキシチール®(メキシレチン)300mg 3×を併用する場合が多い。メキシチールはⅠb群の抗不整脈薬であり、不整脈を誘発することがあるので投与まえに心電図を検査することが望ましい。1か月をめどに使用し効果がなければ2週間で退薬する。また痛みが難治性となった場合はテグレトール®400mg 2×(カルバマゼピン)を使用することも多い。この痛みによってうつ状態となることも多く、抗うつ薬、抗不安薬が効果的な場合もある。トフラニール®30mg 3×(イミプラミン)は三環系抗うつ薬であり、セルシン6mg 3×(ジアゼパム)は抗不安薬である。セルシン®とテグレトール®の併用はしばしば行われる。しかし、日常生活に支障がでるほどの糖尿病性神経症では神経が不可逆的な変化を起こしておりこれらの薬物が効果的でない場合も多い。その場合、痛み、しびれは訴えないこともある。
有痛性糖尿病性神経障害に対して、アミトリプチリン、デュロキセチン、プレガバリンの3種の薬剤は、ランダム化比較試験において、同等の効果がみられたと報告された。[2]
アルコールや栄養障害のニューロパチーの合併を疑った場合はビタメジンカプセル(50)3C3×とメチコバール 1500μg 3×を併用することもある。
詳細は「糖尿病網膜症」を参照
糖尿病(性)網膜症(とうにょうびょう(せい)もうまくしょう)は、糖尿病による網膜症。(ICD-10:E10.3、E11.3、等) 白内障、緑内障をはじめとする眼科疾患の原因となるほか、硝子体出血、牽引性網膜剥離、虹彩血管新生などにより失明に至る。後天性失明では最多である。定期的な眼科受診、レーザー治療などで失明を予防することができる。基本的には慢性期の合併症だが、治療方針によっては血糖コントロールがついても網膜症によって失明してしまうことがあるため、糖尿病の治療前には眼科受診が望ましいといわれている。また網膜症が出現すると、腎症も出現しやすい。
詳細は「糖尿病性腎症」を参照
糖尿病の患者で蛋白尿が指摘され、徐々に体がむくむネフローゼ症候群という病態になり腎不全となり、治療をしなければ死にいたる病気。2008年現在、日本において透析導入の原因の第一位である。糖尿病の治療を行い、予防できなければ、進行を遅らせたり、透析、腎移植を行う以外有効な治療法は確立していない。網膜症がなければ出現しにくいと考えられている。
下記の三つの合併症は「大血管合併症」といわれ、糖尿病の有名な合併症であるだけでなく、糖尿病がある場合のこれらの疾患は通常よりも重症で治療が効きづらいことがわかっている。[3]大血管合併症の中では心筋梗塞が最も多い。
糖尿病患者は、軽度の免疫不全状態となり、皮膚感染症(蜂窩織炎など)、尿路感染症(膀胱炎など)、カンジダ性食道炎、アスペルギルス症などをおこしやすく、また健康な人には感染しないような弱い菌やかび(真菌)による感染症にかかりやすい(AIDS、後天性免疫不全症候群ほどではない)。高血糖状態では白血球(具体的には好中球)の機能が低下することが原因と考えられている。
糖尿病患者は、傷が健康な人よりも治りにくい。これは特に、手術後に傷がくっつきにくいということに現れやすく、糖尿病患者は手術前に血糖値をよくするためだけに入院を要することがある。
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リンク元 | 「diabetes complication」「diabetic complication」「diabetes-related complication」「complications of diabetes mellitus」 |
関連記事 | 「糖尿病」「合併」「合併症」「症」「糖尿」 |
糖尿病との関係 | 疾患 | 臨床的特徴 |
糖尿病が直接病因に関与する疾患 | 糖尿病性手関節症(diabetic cheiroarthropathy) | コントロール不良の糖尿病に多い。原因不明の皮膚硬化が徐々に進行し、手指の屈曲拘縮を来し手全体に及び、強皮症と誤診される。手指を合わせることができない(Prayer徴候)。 |
シャルコー関節 | 頻度は低い(1%)が、長期糖尿病コントロール不良患者に多い。通常、足根中足関節などの中足部が多く、足底表面、前足部、中足部に潰瘍形成の合併を認めることがあり、骨髄炎との鑑別が困難な例あり。 | |
糖尿病性骨溶解(diabetic osteolysis) | 原因不明の足趾の末節骨や基節骨の骨吸収が起こリ、足痛の原因となる。X線ではickedcandy変形を呈し、骨髄炎との鑑別が困難。 | |
糖尿病性筋梗塞 | 外傷、感染、腫瘍がなく大腿部などに急激に増大する疼痛を伴う腫瘤を認める。生検は出血の危険があるため行わない。通常1~2カ月で自然寛解する | |
糖尿病性筋萎縮症(diabetic amyotrophy) | 糖尿病性末梢神経障害の一型。大腿前部の痛みで、時に脱力や萎縮が非対称性に起きる。CPKの上昇はなく、脳脊髄液で軽度蛋白上昇以外の有意な所見はない。神経伝導速度.筋電図では神経原性変化を認め、筋生検では炎症細胞浸潤を伴わない筋線経の萎縮あり。 | |
直接の関係は不明だが糖尿病患者に頻度が高い疾患 | 癒着性関節包炎(凍結肩または五十肩) | 糖尿病患者の10-33%にみられる。長期2型糖尿病を有する女性に多く、肩の痛みと可動域障害を呈する。約半数が両側性だが非利き手側で症状が強い。炎症反応やX線異常を認めず、数週~数カ月で自然寛解する。 |
複合性局所疼痛症候群1型(complex regional pain syndrome CRPS) | 四肢の疼痛、皮膚色変化、皮膚温の変化、浮腫、可動域制限などの症候を呈するまれな症候群。 | |
手掌屈筋鍵炎 | 糖尿病患者の5-33%に認められる。長期に罹患した女性に多く、利き手側の母指に頻度(75%)が高いが、どの指にもみられる。 | |
Dupuytren拘縮 | 手掌筋膜の短縮と肥厚(有痛性結節)を生じ、第4、5指の屈曲拘縮を呈する。1型糖尿病で長期に罹患した患者に多いが、血糖コントロールとの関係はない。 | |
手根管症候群 | 手根管症候群の全患者の最大15%に糖尿病を認める。 | |
広汎性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis DISH) | 2型糖尿病患者の約20%にみられ、50才以上の肥満患者に多い。頭部、腰部のこわばリ、関節の可動域制限を呈する。全身の腱付着部痛を呈することもある。 | |
その他 | 感染性関節炎や骨髄炎 | 血糖上昇による免疫力低下が感染症リスクを上昇させることによる |
正常 糖尿病型 空腹時血糖値 <110mg/dL ≧126mg/dL and or 75g OGTT2時間値 <140mg/dL ≧200mg/dL
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